2023年の全米チャンピオンを決めるためのプレーオフ「カレッジフットボールプレーオフ(CFP)」。第1試合目がローズボウルでの第1シードのミシガン大と第4シードのアラバマ大との対戦ですが、第2試合目は第2シードのワシントン大と第3シードのテキサス大との間で行われるシュガーボウルです。
📌 場所:ルイジアナ州ニューオーリンズ市
⏰ 日時:1月1日米東部時間午後8時45分(日本時間1月2日午前10時45分)
ここまでの歩み
ワシントン大
Pac-12カンファレンス所属のワシントン大は2018年にリーグタイトルを獲って以来無冠が続いていました。特に2019年度シーズン後にクリス・ピーターセン(Chris Petersen)監督が引退してから迷走。彼の後を継いだジミー・レイク(Jimmy Lake)監督はたったの2年でクビになってしまいました。
そのレイク監督解雇後にチームの再建を任されたのがケイレン・デボアー(Kalen DeBoer)監督。彼は2019年にインディアナ大のオフェンシブコーディネーターに就任した後に2020年から2年間フレズノ州立大で監督を務めます。2年目に9勝3敗と大きく勝ち越すとその腕を見込まれて2022年からワシントン大の監督に就任。1年目にいきなり11勝2敗で全米8位でシーズンを終えたことで今季のワシントン大の株は開幕前から上がりまくっていました。
デボアー監督がワシントン大にきてすぐに行ったのは、インディアナ大でOCをしていた時にチームに在籍していたQBマイケル・ペニックス・Jr(Michael Penix Jr)を勧誘することでした。ペニックス・Jrはインディアナ大時代の2020年度シーズンに6勝2敗(新型コロナウイルスのパンデミックの影響での短縮シーズン)と大活躍。デボアー監督にとってすでに顔見知りだった ペニックス・Jrをワシントン大へ呼び寄せることができたのは大きな収穫でした。
そのペニックス・Jrは2022年度シーズンにNCAA(全米大学体育協会)のFBS(フットボールボウルサブディビジョン)で全米トップのパスヤード4641ヤードを叩き出してその名を全米中に轟かせます。その彼の活躍もあってチームは11勝も挙げたのですから、当然彼が最後のカレッジキャリアとして2023年もワシントン大に戻ってくるとなれば、俄然彼らへの期待度は高まるというものです。
実際今季開幕後4試合で平均得点約50点、ペニックス・Jrのスタッツも3試合連続400ヤード越えを含めて1600ヤード以上を投げる離れ技をやってのけます。そして迎えた6戦目のオレゴン大戦では予想通りの撃ち合いを演じますが、ギリギリのところでワシントン大が勝利して無敗を守り、いよいよランキングではトップ5にまで食い込んできます。
ただこのオレゴン大戦で彼は肋骨を痛めたという噂があり、これ以降パスのスタッツは開幕時ほどの勢いを無くします。それに比例するようにワシントン大は後半戦で接戦が続きますが、シーズンを通して台頭してきたRBディロン・ジョンソン(Dillon Johnson)やWRローム・オドゥンゼ(Rome Odunze)らの活躍もあり、白星を重ね続けついにレギュラーシーズンを無敗で乗り切ることに成功。これはチーム史上2度目の偉業です。
そして迎えたPac-12カンファレンス優勝決定戦では、前述のオレゴン大とのリマッチ。当然オレゴン大はリベンジに燃え、そしてワシントン大も2016年度以来のCFP進出を掛けて激闘を繰り広げます。結果勝ったのはまたしてもワシントン大。2018年度以来のPac-12タイトルを手にしたばかりか、1991年以来の完全無敗でレギュラーシーズンを終了。まさにヒストリックなシーズンとなったのでした。
彼らにとってはCFP出場はこれで2度目。最後にナショナルタイトルを獲得したのが1991年のことですから、実に32年ぶりの栄冠をかけてこの大舞台に挑みます。
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テキサス大
カレッジフットボール界で知らないものはいないというほどのブランド力を誇るテキサス大。広いテキサス州には多数のFBSチームが存在しますが、そのテキサス州の旗艦大学としてその名を縦にしてきました。
しかしBig 12カンファレンスタイトルは2009年以来、そして全米制覇は2005年以来遠ざかっており、特に2013年にマック・ブラウン(Mack Brown、現ノースカロライナ大HC)監督を解雇してからというもの迷走を続けているのが実情でした。
その名門復活を託されたのがスティーヴ・サーキジアン(Steve Sarkisian)監督。彼はかつてワシントン大とサザンカリフォルニア大で監督を務めるも、サザンカリフォルニア大では自身がアル中に陥ってしまい2015年度シーズン途中に監督の職を解かれてしまいます。
その後アラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督にアナリストとして拾われ、さらにアトランタファルコンズのOCを務めたのちに2019年からアラバマ大に戻ってきてOCを任されます。その類まれなるプレーコーリングで2020年には全米タイトル獲得に大きく貢献。その腕を買われて彼はテキサス大に2021年にやってきました。
初年度となった2021年度は5勝7敗と負け越してしまいましたが、徐々にリクルーティングを経て戦力を固めると2022年度はオハイオ州立大からの元5つ星QB転校生、クウィン・ユワーズ(Quinn Ewers)を受け入れて8勝5敗と勝ち越し、再建計画は上向きとされ彼らも今シーズンを迎えるにあたり前評判は上場でした。
その証拠に開幕時のプレシーズンランキングでは11位発進。テキサス大は来年度からSEC(サウスイースタンカンファレンス)に移籍することが決まっており、Big 12カンファレンス所属チームとしては最後のシーズンとなるため、その最終年にタイトルをとって花道を飾りたいところでした。
そのテキサス大は第2戦目に強敵アラバマ大と対決。2022年度はテキサス大のホームで対戦し、この時はユワーズが怪我で途中退場した影響もあったのか、20対19という超僅差でテキサス大が惜敗。今回はアラバマ大のホームというやりづらい環境ではありましたが、その時のリベンジとしてタスカルーサに乗り込みました。そしてそのアラバマ大を34対24と敵地で10点差をつけて勝利。これで一気にテキサス大は4位まで順位を挙げますが、このアラバマ大戦での勝利が後に彼らのプレーオフ行きに大きな影響を及ぼすことになります。
その後順当に勝ち続けて最高で全米3位に上り詰めますが、6戦目のオクラホマ大とのライバリーゲームでまさかの黒星。ここで躓いてしまいます。さらにユワーズが肩の怪我で戦線を離脱するという不運にも見舞われますが、なんとか虎の子の1敗を守ってレギュラーシーズンを1敗で通過。見事にBig 12カンファレンスタイトルゲームへの進出を決めます。
そしてそのタイトルゲームではオクラホマ州立大と対戦しますが、これを49対21で一蹴。見事に12勝1敗で2009年以来となるBig 12カンファレンスのタイトルを手にすることができたのです。
このタイトルゲームの時点でテキサス大は全米7位。彼らがプレーオフに進出するには上位4位以内に入らなければなりませんでした。彼らよりも上にランクされていたのがジョージア大、ミシガン大、フロリダ州立大、ワシントン大、オレゴン大、オハイオ州立大の6チーム。そしてジョージア大とオレゴン大がカンファレンスタイトルゲームで敗れ、さらにタイトルゲームに進めなかったオハイオ州立大を除外して、すでにカンファレンスタイトルを手にしたミシガン大とワシントン大がプレーオフ進出当確とした状況で残された椅子は2つ。これをフロリダ州立大、テキサス大、そしてアラバマ大が争うことになりました。
ここで威力を発揮したのがテキサス大のアラバマ大戦での勝利。直接対決で勝ったテキサス大は何が起きてもアラバマ大から追い抜かれることはなくなり、このことでテキサス大は空いている2つの椅子のうちの1つに鎮座することができたのです。
テキサス大にとってはCFP初出場。2005年以来の全米制覇に向けて準備は万端です。
スタッツ比較
125.2 (#99) | ランオフェンス | 189.1 (#23) |
343.8 (#1) | パスオフェンス | 268.8 (#18) |
37.7 (#11) | スコアリングオフェンス | 36.2 (#16) |
469.1 (#12) | トータルオフェンス | 475.9 (#9) |
133.8 (#38) | ランディフェンス | 80.8 (#3) |
263.2 (#120) | パスディフェンス | 240.8 (#94) |
23.62 (#49) | スコアリングディフェンス | 15.54 (#13) |
396.9 (#91) | トータルディフェンス | 321.7 (#23) |
これ程までにスタッツを見て想像しがいがあるチームはなかなかいません(笑)。
テキサス大はパスディフェンスに弱いものの、攻守共にオールラウンドなチームという印象です。一方でワシントン大はパスオフェンスにめっぽう強いものの、ディフェンスはパスディフェンスを中心にかなり苦戦。
どちらもパスでやられやすいディフェンスを持っているということは、かなりの打ち合いになる・・・?
パス | M.ペニックス Jr 4218yd/65.9%/33TD/9INT | Q.ユワーズ 3161yd/70.7%/21TD/6INT |
ラン | D.ジョンソン 1113yd/14TD W.ニクソン 194yd/1TD | C.バクスター 595yd/4TD J.ブルー 339yd/2TD |
レシーブ | R.オドゥンゼ 1428yd/13TD J.ポルク 1000yd/8TD | X.ウォーシー 969yd/5TD A.ミッチェル 813yd/10TD |
ディフェンス | B.トライス (DL) 41TOT/5SACL E.ウロフォシオ (LB) 52TOT/2SACK D.ハンプトン (CB) 92TOT/2INT | T.スウェット (DL) 42TOT/2SACK J.フォード (LB) 91TOT/1SACK J.トンプソン (CB) 35TOT/3INT |
ワシントン大のスキルプレーヤー(ペニックス・Jr、ジョンソン、オドゥンゼ、ポルク)のスタッツはさすがオフェンス力に特化したチームだけあって数値が以上に高いです。特にWR陣に1000ヤーダーが2人もいるのは強み。ジョンソンも1000ヤードラッシャーですが、スタッツを見る限りではランオフェンスは彼のワンマンショー。彼が倒れてしまったらおしまいです。
一方のテキサス大ですが、リーディングラッシャーのジョナサン・ブルックス(Jonathon Brooks)がシーズン途中にACLを断裂して戦線離脱という痛手を負いましたが、C.J. バクスター(C.J. Baxter)がしっかりとその穴を埋めています。ゼヴィアー・ウォーシー(Xavier Worthy)とアドナイ・ミッチェル(Adonai Mitchell)のWRコンビもワシントン大の2人に負けじと劣らない逸材です。
過去の対決
1974年 | テキサス大35、ワシントン大21 |
1975年 | テキサス大28、ワシントン大10 |
1979年 | ワシントン大14、テキサス大7 |
2001年 | テキサス大47、ワシントン大43 |
2022年 | ワシントン大27、テキサス大20 |
合計 | テキサス大3勝、ワシントン大2勝 |
1979年代に3度の対戦があるもその後40年間の間に2度しか試合をしていない両校。しかし昨年アラモボウルで対戦しておりこの時はワシントン大が反撃するテキサス大を振り切って勝利しました。この時の出場選手が今年も残っていますが、両チームとも(特にテキサス大)戦力を高めていますから、この試合の結果は今回のシュガーボウルの判断材料にはならないかもしれません。
注目ポイント
とにかく注目は高い得点力を持つ両校のオフェンスのぶつかり合いです。
テキサス大オフェンスはシーズン終盤にかけてさらに調子を上げており、最後の2試合で平均得点数が53.0点、パスヤードが平均345ヤード、ランヤードが平均250ヤードと神がかっています。むしろこの勢いのまますぐにでも準決勝戦を戦いたかったに違いありません。このモメンタムをワシントン大戦まで維持できるかに注目です。
そんなオフェンス同士の戦いの中で気掛かりなのはディフェンス。特にワシントン大のディフェンスはお世辞にも鉄壁とは言えません。プレーオフに進出した4チームの中では得失点差は14.1点で4番目、失点数も23.6点で4番目という数字。
一方のテキサスディフェンスは失点数が15.5点でこれはBig 12カンファレンス内ならば1位、FBS全体でも13位ということで相手に得点を与えない強固なディフェンスを持っていることがわかります。
バランスのいいオフェンスを持つテキサス大とパスに特化したダイナミックなオフェンスを持つワシントン大という全くスタイルのことなったチーム同士の戦い。全く予想がつかないため逆にワクワクするマッチアップですよね。
あとは前述の通りテキサス大のサーキジアン監督はかつてワシントン大で指揮をとっていた過去があります。もう10年前にもなる話ではありますが、かつて自分が率いたチームと対戦するという心情も気になりますし、ある意味彼に出ていかれてしまったワシントン大ファンにしても何か思うところはあるかもしれません。もっとも彼らにしてみれば今年年間最優秀監督賞を受賞したデボアー監督の存在があるので私的な怨念じみた感情をサーキジアン監督には持ち合わせていないかもしれませんが。