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NCAA、岐路に立つ

NCAA、岐路に立つ

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ベースボール・マガジン社 (編集)

このオフシーズンは、新型コロナのパンデミックの影響を受けた昨シーズンから立ち直り通常運転を目指す流れになってきたこととか、プレーオフが4チーム制から12チーム制へ拡大される動きが出てきたこととか、7月から選手がNIL(Name/Image/Likeliness、大まかに言って肖像権)を用いて金銭を受け取ることが可能になる動きが出てきたこととか、多くの変化がカレッジフットボール界を巻き込んでいきました。

参考記事CFPが4チームから12チームへ?

そこに来て今週に入りNCAA(全米大学体育協会)、及び彼らが長年掲げてきたアマチュアリズムを根底から覆しかねない出来事が起きたのです。

NCAAとアマチュアリズム

そもそもNCAAとな何のか?詳しくはこちらのページにも載せていますが、彼らは大学スポーツの管理運営、およびルールの制定などを一手に引き受ける組織です。1915年に発足したこの団体は早い段階から大学アスリートはアマチュア選手であり、彼らは大学スポーツを通して金銭的な利益を得ることを禁止することに注力してきました。

またその管理の目は個人だけでなく大学単位にもおよび、ルール違反を冒した大学に制裁を加えるだけでなく、大学スポーツ界で生まれる利益もコントロールしようとしたのです。

そんな折、強権を振りかざしてきたNCAAに1984年に裁判所からブローを喰らわされます。

当時NCAAは各大学にそれぞれがTVで放映できる試合の数を制限していました。というのも、もしTVで放映される試合が増えていけば、実際にスタジアムに足を運ぶファンが減り結果チケットの売上が減るとNCAAは危惧したからです。しかしTVで放映できる試合を増やして放映権で利益を得たい大学からすればこれはフェアではないという意見が出たのです。

そこでオクラホマ大ジョージア大はこの件に関してNCAAを提訴。結果的にNCAAは予想に反してこの裁判で負けてしまうのです。それ以降TVで放映されるカレッジゲームが激増し、スポーツ自体のポピュラリティーも上がっていきます。

100年前から比べれば現在学生アスリートたちはスポーツ奨学金(スカラシップ)やちょっとした必要経費をもらえたりと待遇は良くなっているとは言えますが、前述のNCAAの敗訴によってカレッジフットボールはエンターテイメント産業として急成長し、各大学のドル箱スターとなっていきます。NCAAも敗訴したものの引き続き個人、大学、カンファレンスに監視の目を光らせてきました。その骨太たるものがアマチュアリズムであり、彼らはこれを最後の砦とばかりに目の前にちらつけ続けてきました。

一方でアマチュアである学生アスリートを餌に金儲けをするという構図はどんどん肥大化し、大学、カンファレンス、NCAA、その他もろもろの大人たちが試合を通して莫大な利益を得る中、選手たちはアマチュアというフィルターにかけられて何の見返りもないまま何年も体を削るという不可思議なシステムが出来上がっていったのです。

そこで起きた訴訟が2013年のNIL関連の裁判です(オバノン訴訟)。訴えたのは元アスリート(UCLAのバスケ選手、エド・ボハノン)、訴えられたのはNCAA並びに「NCAAフットボール」や「マーチマッドネス」というビデオゲームフランチャイズを制作し続けてきたエレクトロニック・アーツ(EA)でした。

「NCAAフットボール」では容姿が実際に存在する選手に瓜二つの架空の選手が登場するのですが、明らかにこれは肖像権の侵害でありこれを元手に利益を得たEAスポーツそしてそれを許したNCAAを訴えました。そしてこれは提訴側の勝利となりEAスポーツは総額6000万ドル(1ドル100円計算で約60億円)の賠償金を元学生アスリートに支払ったのです。

大人たちが大学アスリートから搾取するこの悪しき構図はカレッジフットボール界がビジネスとして巨万の富を築けば築くほど露呈されていくことになります。チケットの売上、試合の放映権、グッズの売上、その他諸々を元手に莫大な利益を生むようになった一大エンターテイメント産業であるカレッジフットボール。いくらアマチュアリズムという傘に身を隠したとしても、甘い汁を吸い続けているのが大人たちであることは明白です。

昨年から続くコロナ禍で言えば、未知なる状況でシーズンを開幕させることに賛否が別れました。NCAAは「選手たちがシーズンを迎えたいと望むから我々も全力でそれをサポートします」という大義名分を打ち立てていました。

しかしながら、大学はオールリモート授業となり他の部活動は延期を余儀なくされ、それ以外でも通常の大学生活を送れないという状況にあるにも関わらず、NCAAならびに他のカンファレンスらがカレッジフットボールの開幕を強行した裏には、非常にあくどい大人たちの思惑が交差していたのです。

確かに選手たちはできることなら試合をしたかったに違いありません。しかしそれをするために彼らは毎日PCR検査で鼻に検査棒を突っ込まれ、その結果をドキドキしながら待ち、また感染防止のために徹底した消毒行為を強いられ、毎日の生活と言えば寮とトレーニング施設の往復のみという極限状態を半年近く続けていたのです。その中には新型コロナウイルスに感染してしまった選手もいました。おそらく身内の誰かをコロナでなくしてしまった選手もいた事でしょう。

そんな多くの犠牲を払いながらもシーズンを乗り越えたのです。当然彼らは勝利のために戦ったわけですが、その彼らが源となって生み出された利益を彼らに還元できないという現在の状況は、その利益の額が膨れ上がれば上がるほど理不尽さを浮かび上がらせます。

このようにNCAAの砦とも言えるアマチュアリズムは詭弁であることは明らかでしたが、NCAAとしてはこれを守らなければその存在意義を根底から覆される可能性を秘めており、なんとしてもこの最後の壁は崩されまいと防波堤を築き続けてきました。

そんな中で大学アスリートが何かしらの対価を得るシステムを模索する動きが活発化します。


NILによる収入を承認する動き

そこに風穴を開けたのがカリフォルニア州知事のギャヴィン・ニューサム氏。2019年に彼は「Fair Pay to Play Act(SB206)」という州法に署名をしたのです。このSB206というのは要するに学生アスリートが自分の名前や肖像権を元に金銭的利益を得ても良いとする法律。完全にこれまでのNCAAの指針と真逆の内容ですが、この法律がカリフォルニア州で可決され2023年から同州内だけではありますが施行される運びになったのです。

もちろん黙っていなかったのはNCAA。彼らは当初もしこの法律が実際に施行されてカリフォルニア州の学生アスリートだけがNILを元にお金を稼げるようになったらそれらの大学をNCAAから除名する可能性もあると強気に出たのです。

NCAAのこの反応は予想内の範囲でしたが、予想外だったのはカリフォルニア州に追随する他の州が次々と名乗りを挙げてきたことでした。これにより厳しくなったのはNCAA。もし他の州が肩を組んで法律をバックボーンにNCAAに迫ってきたとしたらNCAAは全ての州を排除することも出来ませんから、究極の選択を迫られることになることは必死でした。

このバトルは長期戦となると思われていましたが、NCAAはこの時代の波には逆らえないと悟ったのか、SB206が可決されてから1ヶ月ほどで彼らも条件付きで学生アスリートがNILを元手に利益を得ることを認めても良いという方向転換を表明したのです。

NCAAの声明によると、学生アスリートがTVやラジオのコマーシャルの出演や直筆サイン入りのグッズ、ソーシャルメディア等で報酬を受け取ることが出来る可能性が増えました。依然としてお金のためにプレーするという「Pay to Play」のコンセプトは認められていませんが、学生アスリートにすればこれが本当に現実のものになれば可能性は無限大に広がっていきそうです。

例えば選手が地元スーパーの広告塔になるとか、ユーチューバーになるとか、個人でクリニック(キャンプ)を開催するとか、自分のブランドを立ち上げるとか、自作の曲を売るとか・・・。自分の名前、画像、映像、それに似たもの(イラストなど)を媒体にお金を稼ぐことが出来るようになるのです。

ただ禁止されるものもあり、例えば大学およびチームの斡旋による案件、チームのロゴやジャージ、施設を使用する案件、アルコールやタバコ関連の案件、靴や服の案件などが挙げられています。

このようにしてこれまでNCAAが頑なに阻止してきた学生アスリートの金儲けがついに解禁となり始め、早いところではこの7月からそれが可能になる法律が可決された州(ジョージア州など)も現れたのです。

アルストン訴訟での敗訴

ここまで長きに渡り頑固だったNCAAがNILによる学生の収入を認可するという歩み寄りでかなり前向きな改革が進められてきたように感じます。NCAAが180度方向転換に舵を切った背景には、強気に反発して大事になり彼らの強権が失われるよりは、多少譲渡することで彼らが手綱を握り続けるためでした。あくまでも自分たちが容認したんだとスタンスを保ちたかったんですね。

しかしここに来て彼らの砦であるアマチュアリズムを根底から覆しかねない「事件」が起こります。アルストン訴訟での敗訴です。

アルストン訴訟とは、元ウエストバージニア大フットボール選手だったショーン・アルストン(Shawn Alston)氏がNCAAを相手に起こしていた訴訟です。

これまでNCAAは前述の通り学生アスリートが手にできる利益をコントロールしてきました。それは大学生として教育を受ける上で手にできる金銭的・物理的利益においても同じであり、例えば卒業後に教育を続けるための奨学金や、インターンシップで生まれる収入、コンピューターなどの出費などにも制限がかけられてきました。これがアメリカで定める反トラスト法(Antitrust law、独占禁止法のようなもの)に違反しているとアルストン氏は訴えたのです。

そして6月21日、合衆国最高裁判所は全会一致で提訴側を支持。これによりNCAAは教育に関する金品や物品を学生アスリートが受け取ることを規制できなくなったのです。

その中でもブレット・カヴァナー(Brett Kavanaugh)最高裁判事の言葉はNCAAを強烈に批判するものでした。

「今日、アメリカのどこを探しても被雇用者に公平な賃金を払わないことで動いているビジネスが逃れる道など存在しない。反トラスト法が存在する限り大学スポーツも当然その範疇にある。大学スポーツは無害であるという主張では現実を隠すことは出来ません。NCAAのビジネスモデルはアメリカのどのビジネスの分野と見比べてみても不法だと言わざるを得ないのです。」

「例えば、『お客はみな低賃金のシェフが作る料理を好んで食べる』というよくわからないセオリーを元にシェフたちの賃金を安くすることは許されませんし、『法律への愛』という理由だけで法律事務所が弁護士を安く雇用することも許されません。『市民の味方であるジャーナリズムという伝統』を守るという名目で新聞社はリポーターの賃金を下げることも許されない。『ハリウッドにおけるアマチュアの精神』を盾に映画会社が撮影クルーに正当な対価を支払わないことも許されないのです。」

「固定賃金労働はそれ以上でもそれ以下でもありません。そして固定賃金は反トラスト法の温床でもあります。なぜならそれは被雇用者が正当な賃金を受け取ることができる公正な市場を崩壊させる可能性があるからです。」

「現行のNCAAのビジネスモデルは、何千何億ドルという利益を生み出す源となっている学生アスリートを無賃で雇っているのと同義です。この莫大な利益により学生アスリート以外の関係者が大いに潤っている。大学の学長たち、体育局長たち、監督たち、各カンファレンスのコミッショナーたち、そしてNCAAのお偉方らは億超えの収入を得ていますし、多くの大学はその収入を元手にきらびやかな最新の施設を建設し続けています。」

「しかしながら、その利益を生み出している学生たちはその見返りはほぼ皆無であり、しかも彼らの半分以上は低所得家族を持つ黒人学生であるという事実も忘れてはなりません。」

さらにカヴァナー判事はこの判決を受けてより突っ込んだ意見も提示しています。

「今回の判決はNCAAの定めた様々なルールに疑問を投げかけるきっかけとなるでしょう。学生アスリートが利益を手に入れることを今後もNCAA規制することができるか否かという重大な決断を迫られることになるはずです。」

そしてもし今後学生アスリートがプレーすることで対価を受け取ることができるようになるならば、競争バランスを保つためにサラリーキャップを設けるなどという新たなアイデアが必要になるだろう、とも述べています。

最後にカヴァナー判事は以下のように述べて判決の経緯を締めくくりました。

「タスカルーサ(アラバマ大の所在地)、サウスベンド(ノートルダム大の所在地)などで行われる試合に見られるような重要な伝統はアメリカの生活の大きな一部になりました。しかしだからといって、その裏で学生アスリートたちが搾取され続けることで巨額の富を生み出す仕組みを作ったNCAAを正当化することは出来ません。NCAAは超法規的組織でもなんでも無いのです。」

影響

今回のアルストン訴訟の判決はNCAAが教育に関する収入に口出しすることは出来ない、ということであり、これが今すぐ何かを変えてしまうということはないでしょう。現状で学生アスリートがプレーする代わりにお金を手に入れることができるわけでもありませんし、もともとそれに関して訴えが起こされたわけでもないのです。

しかし重要なのはアメリカの最高裁判所の判事9人が全会一致でNCAAにノーを突きつけたということ、そしてカヴァナー判事がこれまで誰もが分かっていながらNCAAという壁にはねつけられてきた事実を公然に口にしてNCAAを真っ向から批判したということです。

この判決により今後NCAAに賠償を求める裁判が多々起きることは大いに考えられますし、それによってNCAAの経営が立ち行かなくなるという可能性もあります。また実際にアスリートたちにプレーすることで賃金が支払われるような仕組みが誕生するかもしれません。そうなればNCAAが長きに守り通してきたアマチュアリズムの崩壊を意味し、NCAAの大改革ないし解体という道へ進む可能性も出てきます。

とはいえ、ルールの制定と制裁を行うような管理団体は必須なのでNCAAが今すぐなくなってしまうということはないでしょう。しかし先日紹介した12チーム制のプレーオフ誕生により試合数が増え、チケットやTV放映権で大人たちが甘い蜜を吸い、また大御所の監督たちは1000万ドル(1ドル100円計算で約10億)近い莫大なサラリーを手に入れるなど、カレッジフットボールを開催することで巨万の富が生まれているのに、それを根底から支えているアスリートたちに何の見返りもないのは間違っていると言われても仕方のないことです。

当然前述の通りNCAAもその批判は理解しており、比較的コントロールしやすいNILならば妥協して許可しようという流れを作ってきましたが、今回のアルストン訴訟での敗訴は今後の影響を考えるとNCAAの存続という面では深刻なボディーブローとなりそうです。

当然学生アスリートらにしてみればこの判決は大いに喜ばしいものであり、将来的なことを考えれば無限の可能性を秘めているブルーオーシャンが目前に広がる景色を近いうち目にできるかもしれません。

ただカヴァナー判事も触れていたように、もし選手がプレーの対価で金銭的利益を得られるならば、何かしらの制限は設けなければならないでしょう。そのためにNFLとNFLPA(選手会)が結んでいる包括的労働協約(Collective Bargaining Agreement)のようなものを設立する必要も出てくるかもしれません。

もしそうなればカレッジフットボール(及び大学スポーツ全般)はこれまでのものとは全く別のものに生まれ変わるでしょうね。当然スポーツ自体は変わりませんが、良きにしろ悪きにしろ今回の訴訟結果がパンドラの箱を開けてしまったのではないかと強く感じました。

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