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コーチ・プライムの挑戦

コーチ・プライムの挑戦

もっと早くお届けしたかった話題なのですが・・・。

新型コロナウイルスの影響で昨秋はNCAAの中でも最上位サブディビジョンである1部のフットボールボウルサブディビジョン(FBS)と一握りのフットボールチャンピオンシップサブディビジョン(FCS)チームしかシーズン開催が叶いませんでした。

参考記事NCAAとディビジョン

しかしそのFCSはこの春に開幕を延期しており実はすでに先週からシーズンがスタートしています。

春のFCSフットボール開催

当サイトは主にFBSを中心に情報をお届けしており、同じカレッジフットボールでもFCS、さらには2部、3部までは手が回っておりません。流石にワンオペ状態でそこまでの余裕がなく・・・。

今季のFCSの春のレギュラーシーズンは9試合、通常24チームで行われるトーナメントは16チームに減少されて4月18日から5月15日の間に行われる予定。ただもし新型コロナの影響でFBSで見られたように延期を余儀なくされる試合が続出した場合にはスケジュールの調整も大いに有り得るでしょう。

FCSフットボールは通常はFBSフットボールに隠れてあまり表立って報道されることはありませんが、幸か不幸か新型コロナの影響でFBSとのスケジュールがズレたためにFCSフットボールの露出が増えるという棚ぼた式な効果を得ています。

そんな中、今年のFCSフットボールにおいて最大の話題はジャクソン州立大の新監督にあのディオン・サンダース(Deion Sanders)氏が就任したことでしょう。


コーチ・プライム、参上!

かつて1980年代にフロリダ州立大でCBとして活躍し、NFL入り後はアトランタファルコンズ、サンフランシスコ49ers、ダラスカウボーイズ、ワシントンレッドスキンズ(現ワシントンフットボールチーム)、ボルティモアレイヴンズでプレーし栄華を極めたカリスマ選手だったサンダース氏。

「プライムタイム」や「ネオン・ディオン」というニックネームを引っさげてフィールド内外で話題を振りまき続けた同氏は引退後もメディアに引っ張りだこで、NFLのスタジオコメンテーターを務める傍らミュージシャンとしての顔も持ち、フットボール選手という枠組みを超えたポップカルチャー的存在になっていました。

そんな折、サンダース氏が監督としてジャクソン州立大(ミシシッピ州)にやってくるという噂がにわかに立ち、指導経験がほぼない同氏が本気でカレッジレベルでのコーチ業に足を踏み入れるか周囲は疑心暗鬼になっていましたが、それが遂に現実のものになったのです。

サンダース監督の影響は絶大で12月に行われた「アーリーサイニングピリオド」では数々の有能リクルートがジャクソン州立大進学を決め、その中にはフロリダ大に進学予定だった4つ星選手のジャヴォンテ・ガードナー(Javonte Gardner)やジョージア大に進学予定だった同じく4つ星のデジャン・ワレン(DeJahn Warren)も含まれ、またトランスファー選手(転校生)もテネシー大ミズーリ大サザンカリフォルニア大フロリダ州立大など多くのFBSチームから招き入れることに成功。

その結果、アーリーサイニングピリオド終了時にはかなりの良質なリクルートクラスが完成したのです。

さらに2月の第1水曜日に行われた「ナショナルサイニングデー」でも戦力を増やし、結局サンダース監督最初のリクルーティングが終わってみればFCS出身大学としては初めて「247sports.com」のリクルーティングランキングでトップ」100位以内に食い込むという偉業を成し遂げました。

参考記事2021年ナショナルサイニングデー終わって・・・


なぜジャクソン州立大なのか?


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このように開幕前からサンダース監督の影響力の大きさをまざまざと垣間見たわけですが、そもそもなぜ今になって現場で監督を務めようと思ったのでしょうか?

彼の知名度からすれば今までの暮らしをしてればお金に困ることもありませんし、スケジュールにがんじがらめになる必要もありません。しかしフットボールの監督ともなればタスクは増えますし、スケジュールが自由に使えることもなくなります。そこにあえて飛び込んできたサンダース監督の真意とは何なのでしょうか。

今年の1月、FCSシーズン開幕を目前としてサンダース監督は気心知れた旧友、カート・メネフィー(Curt Menefee)氏とマイケル・ストレイハン(Michael Strahan)氏とのインタビューでそのことに触れています。

ジャクソン州立大はいわゆる「HBCU」です。「HBCU」とは「Historically Black University & College」の略であり、これは「主に黒人学生を教育の対象に受け入れてきた大学」という意味です。これらの大学はかつて黒人学生の教育を受ける門戸が狭かったことを改善するために設立された大学であり、特に南部に集中して存在しています。ジャクソン州立大もそのうちの1つということです。

昨年はミネソタ州ミネアポリス市で発生した白人警官の黒人市民への傷害致死事件から端を発した「BLM運動」が全米ないし全世界へ飛び火しました。その中で黒人への人種差別反対や社会的不公平の是正を訴える声が高まり、その啓蒙運動は今までにない盛り上がりを見せました。

参考記事Black Lives Matter

その一方で未だアメリカに根付く白人主義や黒人差別の温床が改めて浮き彫りになり、国内では様々な形で対話が繰り広げられたのです。

そのタイミングで黒人でありインフルエンサーでもあるサンダース監督がHBCUであるジャクソン州立大を監督として率いることになったことは偶然ではないということです。このインタビューでもサンダース氏は黒人の青年たちにフットボール選手としてだけでなく一人の人間としてどうあるべきか、特に黒人としての生き方の指南、そしてどのようなチャンスをものにして大人になっていくべきかを現場で説きたいと話しています。

「システミックレイシズム」(Systemic Racism)という言葉があります。これはソサエティーとしての構造的な人種差別ということになります。当然この仕組みは複雑であり単純に解決は出来ませんが、白人が黒人への差別を改めるという取り組み以外に、これからの若い黒人学生たちがより良い教育を受けることによって社会へ出ていけるような構造を構築する必要もあると考えられています。

サンダース監督の目的はまさにここにあると思われ、学生フットボーラーたちと触れ合うことで彼らに黒人としての生き方を植え付けようとしているのだと思います。黒人だからといってチャンスがないわけではない、チャンスを物にできれば誰にでも成功する可能性が生まれる、それを自らの体験とカリスマ性を交えて伝授しようとしているのではないでしょうか。

当然だれでもサンダース監督のような華やかな人生を送れるわけではありませんが、彼のようなインフルエンサーによって目覚める学生もこれから生まれてくるでしょう。そして当然やるからには全米でも随一のチームに育て上げたいと願っていることでしょうから、今後のジャクソン州立大にはサンダース監督を慕って多くの人材が集まってくることは大いに考えられます。


デビュー戦

ジャクソン州立大のサンダース体制を記念するデビュー戦は2月21日。相手はNCAAとは別の団体であるNAIA(National Association of Intercollegiate Athletics)に所属するエドワードウォーターカレッジ(この大学もHBUC)。普段なら注目も浴びないマッチアップですが、さすがにサンダース監督の初戦ということでメディアの熱視線を集めました。

しかもこの試合にはサンダース監督がダラスカウボーイズ時代にチームメートだったトロイ・エイクマン(Troy Aikman、元UCLA)氏が激励のためにわざわざ試合会場まで足を運ぶというサプライズも。

試合の方はジャクソン州立大が53対0と完封勝利。サンダース監督の初戦を華々しく白星で飾りました。

ただ良い話だけではなく、試合後明らかになったのは何者かがサンダース監督のオフィスが荒らされて金品が盗まれるという事件も。結局最終的にはすべてサンダース監督の元に戻ってきたそうですが、そんな事件もサンダース監督ならでは、ということなのでしょうか(苦笑)。

いずれにしても最高の形でシーズン開幕したサンダース監督率いるジャクソン州立大。今後も彼らの動向に目が離せません。

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