トリプルオプションの行く末【後編】

トリプルオプションの行く末【後編】

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前回までの記事で何度も言うようにトリプルオプションオフェンスは現状稀有な存在として生き残っている状態であり、今後トップチームがトリプルオプションへと回帰することはまず起こらないでしょう。

ジョージアサザン大のトリプルオプション

現在トリプルオプションをメインで使用するチームは主に士官学校であることは前回もお話しました。2013年にリッチ・エラーソン(Rich Ellerson)を解雇した陸軍士官学校はトリプルオプションを主軸に置く前提でジェフ・モンケン(Jeff Monken)監督をジョージアサザン大から引き抜きました。ジョージアサザン大でのモンケン監督はトリプルオプションを用いてFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)のセミファイナルに3度進出し、2013年には強豪・フロリダ大を倒しました。このフロリダ大戦ではなんとジョージアサザン大はただの1度もパスを成功させることなく相手から大金星を奪ったのです。

陸軍士官学校の体育局長であるブー・クーリガン(Boo Coorigan)氏は2013年シーズン後に新監督探しをする上でトリプルオプション使いの指導者を探していましたが、当時を振り返り「その過程は決して簡単なものではありませんでした。すでにトリプルオプションを使える監督は限られた数ほどしかいなかったからです。」と回想しています。

実はジョージアサザン大もトリプルオプションの流派を継ぐ大学です。1940年から40年間廃部状態だったチームが1980年に復活して以来一途にトリプルオプションを取り入れてきました(2007年から2009年の3年間を除く)。その始まりはアーバン大パット・ダイ(Pat Dye)監督の元でオプションを学んだティム・ストーワーズ(Tim Stowers)監督。そしてすでに前回までの記事で紹介してきたジョージア工科大元監督のポール・ジョンソン(Paul Johnson)氏はストーワーズ監督の下でOCとしてトリプルオプションに磨きをかけた人物でもありました。

また2020年までジョージアサザン大のOCを務めたボブ・デベス(Bob DeBesse)は2010年にOCを務めていたサムヒューストン州立大(FCS)にてショットガンフォーメーションを基本にしたトリプルオプションを開発。そしてそれを共に作り上げたウィリー・フリッツ(Willie Fritz)氏はそのオフェンスを引っさげて2014年から2年間ジョージアサザン大の監督に就任。2014年にはサンベルトベルトカンファレンス優勝を果たし勝敗数も17勝7敗と結果を残しました。現在はトゥレーン大で監督を務めています。


トリプルオプションへの逆風

現在高校アメフトでは約14000チームある高校のうち約1000チームほどが未だに古き良きトリプルオプションオフェンスを採用しているそうです。それは練習時間が限られ、スキルポジション(QB、WR)のレベルが高くなく、プレーブックを熟知する余裕がないチームとしては反復練習でアサインメントの精度を高めるだけである程度の結果を残せるトリプルオプションオフェンスはある程度の需要があるのです。

しかし大学レベルともなれば選手たちが自分にあったオフェンスを用いるチームに進学することをある程度選べるわけで、パスが飛び交う華やかなオフェンスがトレンドである現在のアメフト情勢においてその要素を半ば消し去ってしまうトリプルオプションオフェンスを維持するのは正直難しいのです。

そして更にトリプルオプションに逆風となるのはNCAAの定めた改正ルールです。2018年に改められたルールによるとカットブロック(相手ディフェンダーの腰より下へのブロック)はスクリメージラインから5ヤードを超えると禁止されることになってしまいました。

カットブロックはトリプルオプションにおいてなくてはならないテクニックであり、ボールを前進させる上で1列目2列目のディフェンダーを相殺するために必須の武器であります。またダウンフィールドでWRがDBを相殺するのにも有益なテクニックでした。

しかしながら2018年のルール改正により基本的にスクリメージライン付近で、しかもOL以外は正面以外のカットブロックが禁止されたのです。カットブロックは相手の膝を壊す可能性を秘めていることから「ダーティーブロック」とも呼ばれ、NCAAはこの怪我を抑止するためにカットブロックに関するルールを改正したのです。

多くの指導者がカットブロック自体を全廃したいと願う中、陸軍士官学校のモンケン監督はこの流れを「トリプルオフェンスを過去のものに追いやりたいという陰謀だ」と話しています。

トリプルオプションの未来

今後新たにトリプルオプションのチームが現れる可能性はあるのか・・・。

それは全くないとは言えないのではないかと思います。これまでの記事でもご紹介した通り士官学校らいまだ僅かに生き残るトリプルオプションベースのチームはそれなりの成績を残していますし、陸軍士官学校に至ってはあのオクラホマ大やミシガン大をトリプルオプションであわやアップセットという試合にまで持ち込んだ過去もあるほどです。

カレッジフットボールの肝はリクルーティングです。いかに5つ星ないし4つ星の高校生たちを多く勧誘できるかによってチームの戦力は変わってきます。アラバマ大やオハイオ州立大、ジョージア大らに優良リクルートがこぞって集まるのには当然理由があるわけで、そこに行けばカンファレンスタイトル並びにナショナルタイトル獲りも夢ではなく、それが将来NFL入りという最大の夢に続いていくとなれば能力の高い選手たちはそういった大御所に集まっていくものです。

またそれを促すために各大学ではとんでもないほどの資金を使ってフットボール部施設をアップグレードします。それを餌に狙ったリクルートたちを撃ち落とすわけです。追いつき追い越せと今では資金に潤沢な大学は日本では考えられないほどの立派で派手な施設を作り続けています。

そうやって富や名声がある大学に良い選手が集まり、そうでないチームにはそのおこぼれしか回ってこないという現状になってしばらく経ちますが、おそらくこのギャップはそう簡単に埋まりません。歴史的にみて強豪とは言えず資金もそこまでない大学がタイトル争いをするためにはそのような強豪校と同じ方法で立ち向かっても相手にならないのは明らかです。

そうやって選手、特にスキルポジションにおいてジリ貧なチームたちが戦っていくにはそれなりの変化球が必要となってくるとは思いませんか?そんな時、トリプルオプションという選択は意味のあるものではないかと個人的には思うのです。

これまでもお話しした通り、トリプルオプションは個々のスキルレベルというよりもチームとしての組織力がモノを言う戦術であり、それは付け焼き刃で付け焼き刃で身につくものではないとしても反復練習で精度は高まっていきます。そしてトリプルオプションと対戦することが極端に減った現状で完成されたこの戦術は相手にとってはやりづらいはず。そうなればスター選手が揃っていないチームでも勝機はあるとみます。

では現在のカレッジフットボール界でトリプルオプションを導入する価値がありそうなチームはどこでしょうか?

例えばBig 12カンファレンスカンザス大。カンザス大は長いことカンファレンスのお荷物チームと言われ、2007年に12勝1敗と言う奇跡の(笑)シーズンを送った以外は今のところ12年連続負け越し。昨年は2年目のレス・マイルズ(Les Miles)監督指揮下で0勝9敗となり、マイルズ監督自身はルイジアナ州立大時代のセクハラのスキャンダルでカンザス大を解雇されてしまいました。

負けることが当たり前になってしまったカンザス大に有能リクルートが集まってくるとは思えません。そこにどんなに最新の戦術を持った指導者が現れたとしてもそれを体現する選手のレベルが追いつかなければ同じカンファレンスのオクラホマ大、テキサス大、アイオワ州立大らに太刀打ちできるはずはないのです。

すでに12年連続で負け越しておりその間監督は4人も代わっています。詰まるところ何をやっても結果は同じであるとするならば、ここは既存の考えに縛られずあえてトリプルオプションに回帰すると言うてもありなのではないでしょうか?

そして同じことが他カンファレンスのチームにも言えます。例えばサウスイースタンカンファレンス(SEC)のヴァンダービルト大とか。彼らはカンザス大ほど酷くはありませんが、ここまで15年間でのべ11チームものナショナルチャンピオンを輩出しているこのカンファレンスでヴァンダービルト大が地区優勝するのですら現実的ではない中、ボウルゲーム出場を目指すのであればトリプルオプションという選択肢もあるのではないかと思ってしまいます。

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様々な逆境にも負けず、トリプルオプションは2021年現在もほそぼそながら生きながらえています。オフェンスが時を超えて進化していく中、オールドファッションのトリプルオプションがカレッジフットボールで増えていくことは正直ないでしょう。しかし、今後トリプルオプションを主戦力として使用するチームないしコーチが減っていったとしても、その機能価値からトリプルオプションのアイデアを借りて新たなプレーを生み出す新進気鋭のコーチは今後出てくるかもしれません。

トリプルオプションに需要はあるのか?少なくともそのファンである筆者はそんなオフェンスを使用するチームならばどんなチームでもその試合を観てみたいと思います。おそらく古参のアメフトファンや経験者の皆さんならこの気持ちがご理解いただけると思いますが、皆様はどう思われますか?

おまけ

フロリダ大オハイオ州立大監督で今年からジャクソンビルジャガーズの監督を務めるアーバン・マイヤー(Urban Meyer)監督がトリプルオプション(ウィッシュボーン)の攻略法を解説。当然全編英語ですが非常に詳しい説明。さすがです。

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