2020年度の全米王者を決めるカレッジフットボールプレーオフ(CFP)ナショナルチャンピオンシップゲームが1月11日(日本時間1月12日)にいよいよ行われます。今年の決勝進出チームは全米1位のアラバマ大と同3位のオハイオ州立大。今回でCFPタイトルゲーム出場最多となる5度目の登場となるアラバマ大は2017年度以来のナショナルタイトル、オハイオ州立大にとっては2014年の全米制覇を狙います。
試合開催まで1週間ほどありますが、これから数回に渡りこの試合の見どころをお伝えしていきたいと思います。日本時間で開催日時が火曜日の朝10時半過ぎとなりますから観れる方はなかなかいらっしゃらないかと思いますが、少しでもこの試合を楽しむための情報をお伝えできればいいなと思います。
今回は両チームがここまでどのようにしてたどり着いてきたかを見ていきたいと思います。
アラバマ大(12勝0敗)
今季開幕時3位から発進したアラバマ大は所属するSEC(サウスイースタンカンファレンス)の方針で4週目からの参戦。今年は新型コロナウイルスの影響で試合数が減らされ、なおかつスケジュールの方もすべてカンファレンス戦のみとなりました。
今年は昨年までアラバマ大オフェンスを支えた、チーム史上最高のQBと名高かったトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagavailoa、現マイアミドルフィンズ)、WRジェリー・ジュディ(Jerry Jeudy、現デンバーブロンコス)、WRヘンリー・ラグス(Henry Ruggs III、現ラスベガスレイダース)といった超カレッジ級のスキルプレーヤーがチームを去り、特にタガヴァイロアの抜けた穴を埋めるのは超難題だと思われていました。
そんな中迎えた開幕戦のミズーリ大との試合でタガヴァイロアの後継者であるマック・ジョーンズ(Mac Jones)が249ヤードに2TD、RBナジー・ハリス(Najee Harris)が98ヤードに3TD、WRジェイレン・ワドル(Jaylen Waddle)が134ヤードに2TDと活躍して38対19と快勝。前年度の勢いが衰えていないところを見せました。
2戦目には早くもランカーであるテキサスA&M大との対戦。当時13位のテキサスA&M大相手にジョーンズのパスアタックが爆発。435ヤードに4TDというキャリアハイの数字を叩き出し、2年生WRジョン・メッチー(John Metchie III)が181ヤードに2TD、ワドルも142ヤードに1TDを記録するなどオフェンスパワーはとどまることを知らず、52対24で見事勝利を収めました。
この頃には開幕当時2位だったオハイオ州立大がランクから外れ(当時はまだBig Tenが開幕するか分かっていなかったため)アラバマ大は2位に躍り出ていました。その彼らは第3戦目にはミシシッピ大と対決。このチームはかつてアラバマ大のオフェンシブコーディネーターを務めたレーン・キフィン(Lane Kiffin)監督が指揮を執り有る意味手の内を知られている相手。そんなミシシッピ大と点取合戦を演じたアラバマ大はノーガードの打ち合いを演じるも63対48で勝利を収めました。
この試合ではジョーンズが417ヤードに2TD、ハリスが203ヤードに5TD、デヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)が164ヤードに1TDとオフェンスの駒がそれぞれ威力を発揮。この頃から確実にアラバマ大のオフェンス力は全米でも抜きん出ている強さを持っていることが知れ渡りました。ただ、ディフェンス陣は過去最強を極めたユニットと比べると物足りなさは否めず、ここが後々足を引きずるのではないかという一抹の不安も。
そして4戦目にはカレッジフットボール界序盤の大一番となった全米3位のジョージア大との対決。この試合では前半今季初めてリードを奪われる展開となるも、後半ワドル、ハリス、スミスの3人のTDが決まりさらにはディフェンスがジョージア大を無得点に抑え終わってみれば41対24と快勝。開幕4試合の厳しいスケジュールを4連勝で乗り切ったのです。
その後もアラバマ大はテネシー大(48対17)、ミシシッピ州立大(41対0)、ケンタッキー大(63対3)と圧倒的な力の差を見せつけて快勝を続けます。この間1位のクレムソン大がノートルダム大に敗れたため遂にアラバマ大が11週目にしてランキングで首位に。またこの頃になるとQBジョーンズがハイズマントロフィー候補の一員に数えられるようになります。
そして迎えたアーバン大との宿敵対決「アイロンボウル」。この試合にはニック・セイバン(Nick Saban)監督が新型コロナウイルスに感染し欠席を余儀なくされましたが、QBジョーンズの302ヤードに5T、WRスミスの171ヤードに2TDという通常通りのビッグナンバーでライバルを一蹴。連勝記録を8に伸ばします。
9戦目の相手はディフェンディングチャンピオンのルイジアナ州立大。去年はこの相手に敗れる悔しい思いをしましたが、戦力が大幅に落ちたルイジアナ州立大にアラバマ大オフェンスは容赦ない攻撃を仕掛け、特にWRスミスが231ヤードに3TDというモンスターゲーム。55対17と昨年の雪辱を晴らしました。
このルイジアナ州立大でのパフォーマンスでジョーンズに加えてスミスもハイズマントロフィーレースにおいて名を連ねるようになり、アラバマ大オフェンスの武器の多さに他のチームはただ指をくわえるしかありませんでした。
レギュラーシーズン最終戦のアーカンソー大との試合を52対3と難なく手中に収めいよいよアラバマ大は2年ぶりのSEC優勝決定戦に駒を進めます。対戦相手のフロリダ大はQBカイル・トラスク(Kyle Trask)、TEカイル・ピッツ(Kyle Pitts)ら攻撃力の高いオフェンスを持つチームでハイスコアな試合が予想されましたが、試合はその予想通りの点の取り合いに。
先のミシシッピ大戦を彷彿とさせる展開になりましたが、この日はRBハリスがランで2TDを含む178ヤード、レシーブで3TDを含む67ヤードと計5TDに絡む大活躍。またスミスもしっかりと184ヤード(2TD)を獲得して追いすがるフロリダ大を振り切って見事に2年ぶりのカンファレンスタイトルを獲得。そして第1シードで2年ぶりのCFP進出を果たしたのです。
またハイズマントロフィーのファイナリストとしてジョーンズとスミスが授賞式に招待され、ハリスも投票結果で5位という高順位を獲得。ハイズマントロフィーの上位5人中3人がアラバマ大の選手という事となり、彼らの強さの理由を浮き彫り視したのです。
そしてCFP準決勝戦となったローズボウルでは第4シードのノートルダム大と対戦。下馬評で断然有利という声が大多数だった中、その期待を裏切ることなくアラバマ大は序盤から飛ばし一時はノートルダム大を寄せ付けず31対14で快勝。31得点は今シーズン最小得点ではありますが、内容的にはノートルダム大をこの点差以上に圧倒。12勝0敗と無傷で頂上決戦進出を決めたのでした。
新型コロナの余波でカンファレンス戦オンリーのスケジュールとなったため、アラバマ大はレギュラーシーズンの戦績を11勝0敗としましたが、SECの歴史上初めてカンファレンス戦成績で11勝を挙げたチームになりました。猛者ひしめくこのカンファレンスで11勝を挙げたことからも彼らの強さが異次元であったことが伺えます。
オハイオ州立大(7勝0敗)
昨年CFP準決勝戦のフィエスタボウルでクレムソン大に惜敗して惜しくもナショナルチャンピオンシップゲーム出場を逃したオハイオ州立大。それ以来彼らはまたこの大舞台に帰ってくることを誓ってオフシーズンの厳しいトレーニングに明け暮れていました。
しかしそこに新型コロナウイルスのパンデミックが襲来。春のトレーニングは中止となり夏の自主トレも満足に行えないという状況が長く続きました。そこにきてBig Tenカンファレンスはコロナ禍を危惧し今秋のシーズン開幕を見送るという決断を8月上旬に発表して全米中を震撼させました。
ただこのBig Tenカンファレンスの決断にFBS(フットボールボウルサブディビジョン)すべてのカンファレンスが追随することはなく、10あるカンファレンスのうちBig Ten、Pac-12、MAC(ミッドアメリカン)、MWC(マウンテンウエスト)以外の6カンファレンスは秋開催を強行することでBig Tenらと袂を分かつことになりました。
こうして始まった2020年度のカレッジフットボール。予想通り毎週ウイルスの影響でキャンセル並びに 延期となるゲームは続出したものの予想外にもシーズンは滞りなく進んでいきます。それを見て黙っていなかったのが開催を見送ったカンファレンス、特にBig Tenカンファレンスのファン、選手の親、そして選手達自身でした。
そしてそれら内外からの圧力に屈する形でBig Tenカンファレンスは10月後半から遅れて参戦することに舵を切りました。そしてその決断にいたる大きな要因になったのはオハイオ州立大の存在だと言われています。
オハイオ州立大はすでに秋シーズン開幕に間に合わないと分かっていたにもかかわらずプレシーズンランキングで全米2位に位置し、開幕していれば確実にナショナルタイトル争いに絡めるという評価を得ていたチームでした。その様な力を持つチームを生殺しにするのは如何なものかという声もありましたが、それ以上にBig Tenカンファレンス全体として所属チームであるオハイオ州立大がナショナルタイトルゲームに進出できるとあればそれ相応の「見返り」が期待できるということで、彼らのために秋季開催に踏み切ったという見方が大きかったのです。
(「見返りと」は主に試合中継などから得られる収益のことです)
しかし選手たちにとってはシーズンが本当に始まるのかどうかわからないという不確定要素ばかりが揃った状態で夏からトレーニングを積んできたわけで、その精神状態を保ちながら10月末の開幕を迎えるのは相当な努力と忍耐が必要だったことでしょう。後発カンファレンスの選手たちらの努力には頭が下がります。
そうして迎えたBig Tenカンファレンスの開幕戦。すでに他のカンファレンスでは8週目を迎えており約2ヶ月遅れの参戦となりました。Big Tenカンファレンスは10月第4週からの開幕ということで各チーム8試合を8週間で行うという強行スケジュールを組みます。ここまでの他のカンファレンスの様子を見ればBig Tenカンファレンスでも遅かれ早かれキャンセルとなる試合が出てくることは目に見えていましたから、彼らのスケジュールでは延期開催が出来ないためまさに綱渡り状態だったのです。
オハイオ州立大は8週目からの参戦だというのにいきなり5位にランクされるという高い期待を背負っての開幕。その初戦の相手はネブラスカ大でしたが、ここで昨年のハイズマントロフィーファイナリストでもあるQBジャスティン・フィールズ(Justin Fields)の凄まじいパフォーマンスが炸裂します。
というのもなんと彼は実戦として初戦だったのにも関わらず21投中20投のパスを成功させるという離れ業を演じてみせたのです。試合にも52対17で完勝しこの遅い時期からの参戦ながらフィールズはいきなりハイズマントロフィーレースに殴り込みをかけてきます。
2戦目のペンシルバニア州立大との試合は開幕時に相手が8位だったこともあって大変な注目を浴びていましたが、ペンシルバニア州立大が開幕戦でインディアナ大に敗れてしまったことでランクを落としその注目度は下がってしまいました。しかしながら両チームは激しいバトルを繰り広げますが、この試合でもフィールズが再び活躍。318ヤードに4TDを奪ってこの大一番を手中に収めました。
3戦目のラトガース大にも49対27で勝利。この試合でフィールズは5つのTDを記録してハイズマントロフィーレースでも最有力候補の一人として数えられるようになります。そんな中、次戦のメリーランド大戦は相手チーム内で新型コロナ感染者が出たためにキャンセルに。
そして迎えた11月21日。開幕以来4連勝を飾っていたインディアナ大との対戦となりましたが、彼らは全米ランキングで9位にまで上昇しておりオハイオ州立大にとってはこの試合が今季最初の難関となると思われていました。そして蓋を開けてみれば想像以上にインディアナ大が手強いチームであることが明らかに。
前半こそ28対7でオハイオ州立大リードで折り返し楽勝ムードすら漂っていましたが、後半インディアナ大が猛攻。1TD差まで詰め寄られるもオハイオ州立大が42対35で何とかインディアナ大を退けました。
ただ試合には勝ったもののオハイオ州立大の弱みが露呈。フィールズはこの日3つのINTパスを犯しそれ以上にディフェンスが相手QBマイケル・ペニックス・Jr(Michael Penix Jr)に5TDを含む約500ヤードも投げられてしまい守備力に大きな不安を残すことになりました。
このインディアナ大戦に勝って4勝0敗としたオハイオ州立大はランキングを3位から4位に落としますが、次戦のイリノイ大戦がキャンセルに。というのも今度はオハイオ州立大部内でコロナ感染者が出てしまったからです。ライアン・デイ(Ryan Day)監督も検査で陽性と診断され自主隔離を余儀なくされました。
そのデイ監督を欠く中で迎えた翌週のミシガン州立大戦ではRBトレイ・サーモン(Trey Sermon)が112ヤードに1TDと今季初の100ヤード超えを記録すればエースWRクリス・オラヴェ(Chris Olave)が139ヤードに1TDと活躍。スコアの方も52対12と大勝してインディアナ大戦での不安を払拭してくれました。
ここまでで予定されていた7試合中キャンセルとなったのが2試合で5勝0敗というレコードを引っさげてレギュラーシーズン最終戦のミシガン大戦を迎えようとしていたオハイオ州立大。しかしそのミシガン大部内でも新型コロナウイルスが発生。なんとこの歴史的マッチアップが103年ぶりに開催されないという自体に陥ってしまいます。
そしてこのキャンセルが意味するものはライバリーゲームの不開催という事実だけではなく、オハイオ州立大が東地区代表としてBig Ten優勝決定戦に出場できなくなるということを意味していたのです。
というのもBig Tenカンファレンスは今季に限り地区優勝をしてタイトルゲームに進出するためには最低でも6試合を開催しなければならないというルールを制定していたからです。ミシガン大との試合が白紙になってしまったせいでオハイオ州立大は5試合開催にしか届かず、この「6試合ルール」に抵触してタイトルゲーム出場権を逸するという事態に陥りかねなかったのでした。
先にも述べましたがBig Tenカンファレンスが秋開催に踏み切ったのはオハイオ州立大をCFPに進出させるためでもありました(もちろんそれを公言していませんが)。しかしそのBig Tenが安易に定めてしまったルールでそのオハイオ州立大のチャンスを潰すという皮肉なシナリオが待っているとは誰が想像したでしょうか。
が、Big Tenカンファレンス所属大学は全会一致でこの「6試合ルール」の撤廃に合意。これにより5試合しか行えなかったオハイオ州立大にBig Ten優勝決定戦出場のチャンスが転がり込んできたというわけです。
そのタイトルゲームでは西地区代表のノースウエスタン大と対決。ディフェンス力に定評があったノースウエスタン大との試合ではフィールズが苦戦。WRオラヴェが新型コロナウイルスのために欠場した影響をモロに受け、パスTD無しの114ヤードに2INTと沈みました。しかし彼の不調の穴を十分すぎるほどに埋めた人物がいました。RBサーモンです。
彼はこの日驚異の331ヤードラン(2TD)を一人で稼ぎタフな相手ディフェンスを徐々に削り、最終的に彼のランアタックによって活路を開いたオハイオ州立大が見事に22対10で勝って4年連続となるBig Tenタイトルを手にすることが出来ました。
6勝0敗でBig Tenカンファレンス覇者という肩書を持ち見事CFPの第3シードチームとしてプレーオフに進出したオハイオ州立大はシュガーボウルにて因縁の相手であるクレムソン大と対決。下馬評ではクレムソン大有利と言われている中、蓋を開けてみればオハイオ州立大の圧勝。フィールズが今季最高のできとも言える385ヤードに6TD(1INT)という数字を残せばRBサーモンは193ヤードに1TD、WRオラヴェも132ヤードに2TDと役者がそれぞれ結果を残してリベンジを果たし、遂に念願のナショナルタイトルゲームへと駒を進めることとなったのです。
遅れて参戦してきたせいで試合数が他チームと比べると少なく、それによりこの舞台に立つ資格はないなどと非難されてきたオハイオ州立大でしたが、そんな外野の声に惑わされることなくこの大事な時期にチームのパフォーマンスをピーク状態に上げてきたところは選手並びにコーチ陣の強い気持ちの現れです。
12勝のアラバマ大とは5試合も隔たりがありますが、クレムソン大との試合を見る限りこのオハイオ州立大はそんな勝利数など無視してもお釣りが出るほどの強さを見せてくれました。両チームとも全く異なった歩みを経てこの大舞台までたどり着きました。しかしプレシーズンラキングでオハイオ州立大が2位、アラバマ大が3位だったことを考えると彼らは戦うべくして戦うことになった運命のチームだと言えるのかもしれません。