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テキサス大、動く

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ベースボール・マガジン社 (編集)

テキサス大、ハーマン監督を解雇

先日アラモボウルコロラド大に勝利して7勝3敗ながら白星で今季の全行程を終えたテキサス大。しかし年が明けた1月3日、大学側はここまで4年間チームを指揮してきたトム・ハーマン(Tom Herman)監督を解雇しました。

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アラモボウルでのハーマン監督

ハーマン監督はコーチ道に足を踏み入れた早い段階からオフェンシブコーディネーターを経験し2012年からオハイオ州立大に招聘され2014年のナショナルタイトル獲りに大きく貢献。その功績を買われて2015年には自身初の監督職となるヒューストン大のHCに就任。

ヒューストン大での初年度には13勝1敗でAAC(アメリカンアスレティックカンファレンス)のタイトルをいきなり取得すると翌年も9勝3敗とまずまずの成績を残し次世代を担う監督界隈では最も注目株の人材とされました。そして2017年には遂に大御所のテキサス大から白羽の矢が立ちます。

マック・ブラウン(Mack Brown、現ノースカロライナ大)監督と袂を分かった2014年以来負け越し続きのテキサス大はその名門再建をハーマン監督に託したわけですが、2年目の2018年にシュガーボウルジョージア大を倒して10勝目を上げていよいよ強いテキサス大が帰ってきたかと思われましたが、昨年は8勝5敗と並の成績に甘んじ今年も前述の通り7勝3敗に留まりました。

フットボール王国のテキサス州においてその旗艦大学であるテキサス大は常にナショナルタイトルを狙えるチームを世に送ることを要望され、また土地柄テキサス大体育局には大金を寄付する代わりに強い発言力を持つドナーやブースターが多数存在するといいます。その様な連中は一刻も早くテキサス大が今のアラバマ大やクレムソン大、オハイオ州立大の様な超エリートレベルに復活することを望んでおり、しかも彼らの辞書には辛抱強く待つという言葉は存在しません。

確かにライバルであるオクラホマ大に1勝3敗と差をつけられてきたという事実とBig 12カンファレンスタイトルを1度も取れなかったという事実は大きいですが、一方で4年間全て勝ち越ししかもボウルゲームは4連勝ということで前任のチャーリー・ストロング(Charlie Strong)氏時代に比べれば格段にチームのレベルは上がっていると言えます。

しかしそれでもハーマン監督が解雇されたところに短気なテキサス大らしさを感じずに入られません。選手とハーマン監督の反りが合わないという一部のうわさ話も聞かれますが、リクルーティングを経てチームを育てるのは時間がかかるというものです。ただ一方で年収500万ドル(1ドル100円計算で約5億円)という大金を支払っているその対価としてタイトルの1つや2つはほしいと思うのは経営側からすれば至極当然な要求だとは思います。

ということでハーマン監督はテキサス大のスタンダードを満たすことが出来ずにチームを去ることになりました。テキサス大での通算戦績は32勝18敗。また契約途中での解雇となりハーマン監督にはテキサス大から計1500万ドル(約15億円)の違約金(バイアウト費)が支払われることになります。さらに彼のアシスタントコーチにも合計1000万ドル(約10億円)のバイアウト費が用意されているということで、ハーマン体制から脱するだけで巨額のお金が流出することになります。


テキサス大、即日新監督を発表

当然これほどの大金を手放すからにはハーマン監督よりも腕の立つ人物がすでに決まっていると見てまず間違いなかったのですが、ハーマン監督が解雇された同日中にテキサス大は新監督にアラバマ大のオフェンシブコーディネーターであるスティーブ・サーキジアン(Steve Sarkisian)氏が就任することが明らかになりました。

サーキジアン氏といえばコーチングキャリアの初期にサザンカリフォルニア大ピート・キャロル(Pete Carroll、現シアトルシーホークス監督)氏のもとでQBコーチやOCを務めコーチとしての株を上げた人物。

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USC時代のサーキジアン氏(右)とキャロル氏(左)

サザンカリフォルニア大での手腕が認められて2009年には同じPac-12カンファレンス所属のワシントン大の監督に就任。そこでは際立った戦績を残すことは出来なかったものの、2014年にサザンカリフォルニア大で空きができると監督として凱旋。1年目を9勝4敗としてまずまずの滑り出しを見せましたが、2015年には5試合目を終わった時点でシーズン中にも関わらず解雇されてしまいます。

それは彼のアルコール依存症が関係していたといわれ、この噂はワシントン大時代にも聞かれたことだったのですが、解雇された年には酩酊状態でチームの練習に現れたりしたことで体育局長(AD)の怒りを買いクビを切られてしまったのです。

才能があるにも関わらず私生活のせいで大きなチャンスを逸してしまったサーキジアン氏。そんな彼に手を差し伸べたのがアラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督。セイバン監督はサーキジアン氏の才能を寝かしておくにはもったいないとチームのオフェンシブアナリストとして起用。2016年シーズンをアラバマ大の裏方として過ごしました。

が、当時アラバマ大でOCを務めていたレーン・キフィン(Lane Kiffin、現ミシシッピ大監督)がフロリダアトランティック大の監督に就任。アラバマ大はCFPナショナルタイトルに出場を決めた大事な次期でOCと他チームの新監督という二足のわらじを履いていたキフィン氏をセイバン監督はタイトルゲーム1週間前にお役御免にしてしまいます。

関連記事アラバマ大OCキフィン氏がタイトルゲームを目前に退団へ

そこで急遽タイトルゲームのOCに任命されたのがサーキジアン氏。この難しいタイミングで手綱を渡された同氏は短期間でオフェンスプランを立てましたが、惜しくもクレムソン大に敗れてタイトルを逸しました。

参考記事2016年度ナショナルチャンピオンシップゲーム

ちなみに2015年にサザンカリフォルニア大に就任したのはその前任コーチであったキフィン氏が解雇されたためにポジションが空いていたからであり、今回もアラバマ大でキフィン氏が去った後にその穴をサーキジアン氏が埋めるというのはなんとも因果なめぐり合わせだと思わせました。ただ二人はサザンカリフォルニア大で同時期に仕事をしていたこともあり良き親友関係だということです。

その後サーキジアン氏はアトランタファルコンズのサプライズ人事として同チームのオフェンシブコーディネーターに就任。しかし就任2年間でファルコンズのオフェンスは低迷。NFLでのキャリアは2年しか持ちませんでした。

そして2018年度シーズン後に当時アラバマ大のOCだったマイク・ロックスリー(Mike Locksey)氏がメリーランド大の新監督に就任するためにチームを去った後釜にOCとして就任したのがサーキジアン氏でした。2019年度シーズンはQBトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagavailoa、現マイアミドルフィンズ)、WRジェリー・ジュディ(Jerry Jeudy、現デンバーブロンコス)、ヘンリー・ラグス(Henry Ruggs III)らを擁して全米でもトップレベルのオフェンスを牽引しました。

その3人が抜けた2020年度シーズン。アラバマ大のオフェンスは大幅に戦力ダウンするものと思われましたが、QBマック・ジョーンズ(Mac Jones)、RBナジー・ハリス(Najee Harris)、WRデヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)、WRジェイレン・ワドル(Jaylen Waddle)らの能力を最大限に活かすオフェンスをサーキジアン氏が演出。昨年を上回るオフェンスを世に送り出したのです。

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セイバン監督(左)とサーキジアン氏(右)

ジョーンズ、スミスはハイズマントロフィーファイナリスト、ハリスもトロフィー投票順位で5位につけており、歴史的な戦力を揃えたチームを育てたサーキジアン氏。特にワドルが怪我で戦線を離れた後でも得点力は衰えず、スミスは1月5日に発表されるハイズマントロフィー授賞式にて約20年ぶりのWRとしての受賞が期待されています。

参考記事ハイズマントロフィーは誰の手に

そんなアラバマ大は先日CFP準決勝戦のローズボウルノートルダム大を31対14で下しナショナルタイトルゲーム進出を決めました。1月11日に行われるこの大舞台ではオハイオ州立大と対戦し2017年度以来の全米優勝を狙いますが、このオフェンスを指揮するサーキジアン氏は今季すでに他のチームでも監督候補に名前が上がっていました。

特に今年は年間最優秀アシスタント賞であるブロイルズ賞をサーキジアン氏は受賞しましたから、彼の株はうなぎのぼりだったわけです。

最近ではアラバマ大のライバルであるアーバン大の空きポジションにサーキジアン氏が候補として名を連ねていましたから、遅かれ早かれ彼に監督としてのオファーが届きアラバマ大を離れる日が来るのは必然とされていました。ですからテキサス大のような大御所からオファーが来たことは不思議ではありませんでしたし、このチャンスをみすみす逃す手はないのは当然のことです。

アラバマ大は前述の通りナショナルタイトルゲームが残っていますが、サーキジアン氏はこの試合が終わるまでアラバマ大に残りOCとして有終の美を飾るために最後の大仕事に打ち込みます。ただおそらくテキサス大の監督としてリクルーティングやコーチの組閣作業などを並行して行うことになるでしょうから、果たしてサーキジアン氏がどれだけオハイオ州立大戦に向けて全力を出せるのかは気になるところです。

サーキジアン氏は名門を再建できるのか?


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さて、サーキジアン氏のオフェンスの才がとてつもなく高いことは上に紹介したとおりおわかり頂けたと思います。現在のカレッジフットボールのトレンドがよりオフェンス寄りになっており、「優れたオフェンスは優れたディフェンスを凌駕する」と言われるようになって数年経ちますが、このトレンドに乗るとするとテキサス大がサーキジアン氏に再建を託したことに理解を示すことは出来ます。

ただ同じことはハーマン監督が就任したときにも言えたことで、着任当時ハーマン監督も同じようにオフェンスの鬼才と言われていた人物。その彼もテキサス大では解雇となってしまいました。いわずもがなサーキジアン新監督にも想像を絶するテキサス大監督という重圧がのしかかるわけです。

そして先程も少し触れましたが、テキサス大の監督を務めるということはテキサス大体育局、もっと言えば大学全体においても相当な権力を与えられるということになります。テキサス大とテキサス大ロングホーンズフットボール部はほぼ同意といっても過言ではないからです。

そういうと聞こえはいいですが、一方でそのような立場にある人間は政治家としてもビジネスマンとしても優れていなければなりません。特にテキサス大周辺に巣食う裕福なブースターたちの機嫌をとらなければならなかったり、後援者たちとのコネクションづくりもこなすポリティカルな面でも優れていなければならないのです。

名門ゆえプレッシャーは他のチームの比ではありません。しかも1年目から結果を残せなければ途端に批判の声が上がるような環境。理不尽とも言えるこの状況こそがテキサス大たる所以なのですが、その尋常でないハードルの高さゆえこの大学の監督というポジションは誰でもこなせるという程度のレベルではありません。

フルタイムの監督から5年間のブランクが有るサーキジアン氏。しかもかつてプレッシャーに負けてアルコールに走ってしまったという過去も持っており、テキサス大での大役を担えるのかどうかと心配する声も聞かれます。プレーコーラーとしての腕は証明済みですが、監督になるということはそれだけでは済まされないからです。

となれば信頼の置けるコーディネーターを組閣することが最重要課題となるでしょうし、また体育局長としてサーキジアン氏を起用することに決めた(ブースターらからの要望があったにせよ)クリス・デル・コンテ氏がコーチング以外の重責を肩代わりしてあげるような配慮も必要なのかもしれません。

何にせよサザンカリフォルニア大の監督の座を追われたサーキジアン氏にとってはまたとないセカンドチャスとなる今回のテキサス大での大仕事。ハードルの高さはサザンカリフォルニア大のそれと同じかそれ以上となりますが、果たして生まれ変わったサーキジアン氏が監督としてどの様な復活劇を見せるのか注目です。

ちなみに今回のサーキジアン氏だけでなく前述のキフィン氏やロックスリー氏にしろ、彼らは皆一度監督を経験して失敗したコーチ達。その彼らがセカンドチャンスとして他チームのHC就任にこぎつけた過程にはもれなくアラバマ大のセイバン監督の救済の手があります。

彼らだけでなく最近では元テネシー大監督のブッチ・ジョーンズ(Butch Jones)氏がアラバマ大スタッフを経てアーカンソー州立大の新監督に就任しましたし、現オレゴン大のマリオ・クリストーバル(Mario Cristobal)監督も同じ口。また現在アナリストとして元アリゾナ大のマイク・ストゥープス(Mike Stoops)氏やテキサス大でハーマン監督の前任者であったチャーリー・ストロング氏がアラバマ大に在籍しています

どんな経歴であれ才能があれば起用を惜しまないセイバン監督の懐の深さもありますが、それと同時にアラバマ大でセイバン監督の下でコーチとして再生する「リハビリ」を受けて新天地へ旅立っていくというこの構図が興味深いです。

セイバン監督の帝王学を直に学んで自身のキャリアの糧にしていく・・・。コーチングの道を歩く人ならばいずれは自分でチームを率いたいと思うことでしょうから、アシスタントコーチが去っていくというのは至極当たり前のことです。しかしアラバマ大ではこの頻度が他のチームよりも格段に高いのですが、それでもチームが常に高いレベルで戦える集団に育っているところにセイバン監督の凄さを見ることが出来ると思います。

アラバマ大での余波

とはいえサーキジアン氏ほどの逸材を失うのはアラバマ大にとっては大きな打撃であることは変わりありません。当然彼らの今の目的はCFPタイトルゲームでオハイオ州立大を下して全米制覇を成し遂げることですが、一方でサーキジアン氏が去った後に誰がOCを務めることになるのかというのはファンの間では気がかりなことでしょう。

先にも述べたとおりアラバマ大OCの顔ぶれは忙しく変わっています。以下はセイバン監督がアラバマ大に就任して以来のOCのリストです

メジャー・アップルホワイト(現サウスアラバマ大OC):2007
ジム・マクエルウェイン(現セントラルミシガン大HC):2008-2011
ドグ・ニュスマイアー(現ダラスカウボーイズQBコーチ):2012-2013
レーン・キフィン(現ミシシッピ大HC):2014-2016
ブライアン・デイボール(現バッファロービルズOC):2017
マイク・ロックスリー(現メリーランド大HC):2018
スティーブ・サーキジアン(テキサス大新HC):2019-2020

これだけのOCが入れ替わっているにもかかわらず常にトップを狙えるチーム作りが出来ていることに感動すら覚えますが、このトレンドを見ればセイバン監督が最適のOCを見つけてくる(もしくは現在のコーチ陣から誰かを昇格させる)ことでしょう。ひょっとしたらロックスリー氏やサーキジアン氏の前例のようにアナリストのストゥープス氏が格上げになるかもしれません。そういった意味ではセイバン監督はアナリストという割と新しいシステムを最大限に利用していると言えます。

しかしサーキジアン氏が去ることでおそらく一番の痛手となるのはリクルーティングです。

彼のこれまでの経歴から西海岸でのリクルーティングで威力を発揮していたサーキジアン氏。その彼がリクルートしている選手でまだ進学先を決めていない高校生たちにとってみれば、アラバマ大に進学が傾いていたところでサーキジアン氏がテキサス大に移ることを知って心変わりする選手も出ないとは限りません。

例えば、実際アラバマ大に口頭で進学することを決めている5つ星RBのカマー・ウィートン(Camar Wheaton)君はテキサス州出身。彼の出身地にあるテキサス大の新監督にサーキジアン氏が就任するとあればウィートン君がアラバマ大進学を蹴ってサーキジアン氏を追いかけてテキサス大入りする可能性だってあるわけです。

またチームを去り新天地で監督となるコーチが古巣で気の合う別のコーチを引き抜くというケースも少なくありません。例えばアラバマ大でいえばテキサス州におけるリクルーティングで相当な威力を発揮しているジェフ・バンクス(Jeff Banks)氏がサーキジアン氏によってテキサス大からヘッドハンティングされたとしたら、それはアラバマ大にとってテキサス州でのリクルーティングバトルを戦い抜く上で超痛手です。

サーキジアン氏の離脱は彼の後釜が誰になるかだけでなくこのようにリクルーティングにおいても連鎖反応を起こしかねないわけです。ここまで来るとちょっと深すぎかもしれませんが、アラバマ大がここまでセイバン監督下でダイナスティーを築けているのも、選手育成、コーチ育成、リクルーティングという3本柱においてセイバン監督が絶大なるシステムを作り上げたから。サーキジアン氏が去った後セイバン監督がどの様な手を使ってテコ入れを行うかにも注目したいです。

ただそれが数日後のナショナルタイトルゲームに支障をきたさないことだけを祈りたいです。

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