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サンディエゴ州立大のスーパーパンター【記事紹介】

サンディエゴ州立大のスーパーパンター【記事紹介】

米大手スポーツメディアであるESPNにサンディエゴ州立大のパンター、マット・アライザ(Matt Araiza)の興味深い記事が載っていたので翻訳・意訳してご紹介したいと思います。

元記事Why college football’s must-see attraction is a punter from San Diego State


もしあなたが相手のフィールドゴールをブロックするために相手キッカーめがけて突進するラインバッカーだと想像してください。ボールがスナップされて一目散にキッカーを目指しますが、あと一歩というところでキックは放たれてフィールドゴールは成功。あなたはキッカーには届かずその代わりにホルダーにぶつかりそうになります。しかしそうはさせまいとあなたの目の前にやってきて怒鳴りながらホルダーを守ろうとするキッカーがいたとしたら・・・。

またもしあなたがパントリターナーだったとしましょう。相手のパントは敵陣10ヤードライン。計算すればあなたは自陣35ヤードラインでそのパントを待ち受けます。何故なら普通70ヤードも飛んでくるパントなどありえないからです。しかしスナップされたボールをそのパンターが蹴り放つと着地地点を予想するあなたはボールを置いながら少しずつ後退りします。そしてそのボールは自陣20ヤード以内に落下したった1つのパントで形勢逆転となってしまう・・・。

もしくはこんな状況はどうでしょうか。あなたはワークアウトに向かうためにウェイトルームへ赴きスクワットの準備をしています。しかしあなたよりも先にスクワットをしているのがこのキッカーでありしかもあなたがこれから挑戦しようとしていた重さと同じウェイトでトレーニングしているのを見かけたとしたら・・・。

あなたはきっと「このキッカーは只者ではない」と確信することでしょう。

それがこのサンディエゴ州立大のキッカー、マット・アライザ。普通ではないキッカーなのです。

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今季世間を賑わすサンディエゴ州立大のマット・アライザ

とんでもない飛距離を持つパント、正確なフィールドゴール、相手にリターンさせないキックオフ、それらはどれも彼の十徳ナイフのような左足から繰り広げられる荒業。そして彼のキックに対する思考はゴルフスイングであったりサッカーのキックであったり数学の方程式であったりします。そして彼の情熱は現役チームメイトや卒業生、コーチらも一目置くもの。それがキッカーであるにもかかわらずアライザがチームで最も負けず嫌いの選手たる所以であり、相手をタックルすることにも意を介さず、トラッシュトークもお手の物、そして自分だけでなくチームメートであるスペシャリストたちがしっかりとリスペクトされるためにはなんだってするという意気込みを持っている選手なのです。

今シーズンサンディエゴ州立大は守備力を売りにしてここまで8勝1敗という素晴らしい戦績を残してきましたが、そんな中でアライザのパンティングは攻撃陣にとってはかけがえのない武器として大きな話題となっています。彼はここまで50ヤード超のフィールドゴールを何度も成功させてきましたし、キックオフではタッチバックとなる確立が83%でこれは全米トップ10の数字。さらには80ヤード超えのパントを今季2度も記録し、70ヤード超えは6度、そしてNCAA新記録となる15度の60ヤード超えパントを樹立。1試合平均のトータルパントヤードは363ヤードで1回のパンとの平均距離は52ヤードとどちらの数字も今季全米ナンバーワンのものです。

このままのペースでいけば1シーズンにおける最多パントヤードのNCAA記録を更新することは間違いなく、おそらく同じことが1パントの平均距離記録にも言えます。アライザの目を疑うようなパントの数々はすでにソーシャルメディアでバズりまくっています。

「自分のパントのビデオがバズりまくっているのは自分でも本当に驚いています。キックすることでこんなにも自分に注目が集まるなんて思いもしていませんでした。でももし多くの人が元来描いているキッカー像やパンター像を自分が変えることが出来ているのだとしたら、それは本当に嬉しいことです。」とはアライザ本人談。

当然アライザがこれほどまでに注目されたのは一夜限りの出来事ではありませんが、ほんの1ヶ月ほど前に彼はある種のスランプに陥っていました。自分のキックの何かを変えなければ先発出場することができなくなるのではないかと悩んでいたのです。

アライザの高校時代のチームメイトで3年間彼のためにホルダーを務めたタイラー・ホルコムはこう話しました。「マットには才能そしてそれを開花させることが出来るためのパワーがあることはわかっていました。そして彼はそれ以上に努力を惜しまなかった。でもまさか全米ナンバーワンのパンターにまで成長するなど想像もできませんでした。」

サンディエゴ州立大のキャンパスから25マイルほど離れたところにあるノースカウンティー公園で当時5歳だったアライザ少年は初めてキックを覚えたのですが、その頃からキックに重要なのはパワーではなく技術であったり、動体視力であったり、反復練習であったりすることを感じ取っていました。そして成長してからは彼の父親でメキシコ生まれのリコさんが色々な角度からワンタッチでボールを蹴り返すようなサッカーのドリルを何度も何度も息子に叩き込みます。そしてアライザが48ヤードものロングフィールドゴールを決められるようになるまでそう時間はかからなかったのです。

「昔から自分のロングキックに驚く人々をたくさん見てきました。当時から自分のキックの距離はまわりの同じ年齢のキッカーと比べると1〜2歳分上をいっていたような気がします」とアライザは回想しました。

とはいえ幼少の頃からボールを蹴ることには秀でていたものの、アメフトはスポーツとしてプレーするには危なすぎると自分自身でも感じていたアライザ。実際子供の頃はプロのサッカー選手になりたいと思っていたそうですが、高校に進学した際には遊びの一環としてアメフトのボールを蹴っていたといいその時に初めてアメフトを少しやってみるかと考え始めていたとか。その頃にはフットボールをやることを進める父親、半ば諦めがちに応援する母親、そして周囲のチームメイトらによって「アメフトでキッカーになりたいサッカー選手がいるらしい」という情報がアメフト部のコーチらの耳に入るようになります。

そしてアライザがキッカーとして稀有な才能の持ち主であることにコーチたちが気づくまでにそう時間はかかりませんでした。キッカーなのに他の選手の誰よりも大きくて強い14歳だったアライザはすでに40ヤードのフィールドゴールを決めるほどになっていたのです。自分でもキック力があることはわかってはいましたが、それがどれほどまでのものなのかはアメフト部でフットボールを蹴るようになってから確信に変わりました。

高校のコーチだったトリスタン・マッコイ氏はその当時を振り返り、「マットは大振りして蹴るわけではなかったのですが、それでもボールは彼の足からまるで爆発していくかのごとく蹴り飛ばされていったのを覚えています。とにかく無理をしている感が全く無く流れるようなキックだったんです。」とアライザの当時のポテンシャルの高さを指摘しています。

サンディエゴ州立大のスペシャルチームコーチであるダグ・ディーキン(Doug Deakin)氏は高校生時のアライザのプレーをフィルムで目にします。当時まだコーチではなく一介のスタッフだったディーキン氏はアライザのキックに惚れ込み、後にアライザをサンディエゴ州立大に勧誘しスカラシップ(スポーツ奨学金)をオファーして入部させることに成功します。しかしそのディーキン氏でさえも実際に大学の練習にてアライザのキックを目の当たりにするまで彼のポテンシャルの高さを計りきれずにいました。1年生時にすでに軽々と60ヤード超えのパントをやってのけるアライザがボールを蹴る際に奏でる次元を超えた「音」に今でもディーキン氏は度肝を抜かれています。

「ボールを蹴る時の音は他のどのパンターのものよりもぜんぜん違うんです。そしてインパクトした瞬間にボールは急上昇していくのです。」とはディーキン氏。

高校時代のコーチであるマッコイ氏、そしてサンディエゴ州立大のブレディ・ホーク(Brady Hoke)監督はそれぞれアライザの存在がチームに与えたインパクトの強さを口にしています。特にアライザのパント力があれば相手チームの攻撃開始地点を奥まで押し込めるため、攻撃のアプローチの仕方にすぐさま影響を及ぼしたと言います。

「(アライザのパント力があるおかげで)作戦を立てる際に先読みすることができるようになりました。でもそれよりもただ単純に彼のプレーを見れることが楽しくて仕方ないのです。」とはホーク監督。

高校時代、アライザの所属するチームを見に来ていた多くの観客は彼のプレーを見に来た訳ではありませんでしたが、試合が終わる頃には皆彼のキッカーとしての能力の高さに感心してスタジアムを去っていったものだとマッコイ氏は話しました。チーム内ではアライザがいつもキックオフをタッチバックにさせるため、キックオフカベレージの練習なんてする必要がないというジョークすら生まれたほど。

アライザがどのようにして今騒がれているような全米を代表するキッカーになったか・・・。それを紐解いていくと、読者が期待するような華やかなストーリーがある訳ではありません。

まず彼は大学でコンピューターサイエンスを学んでいますが、そのせいか彼は何でも数量的に考えると物事を理解しやすいというというちょっとした変わり者です。もしパーフェクトなキックをするための方程式を導き出せと言われたらおそらく彼はそれを編み出す術を見つけるでしょう。

例えば、「ボールがスナップされてから蹴るまでの時間は2.1秒以内じゃないといけないんです。スナップされてからボールがホルダーの手に渡るのが大体0.7秒ですから、自分にとって与えられた時間は1.3から1.4秒ほどだということになります。」と分析しているように、キックに関する全ての側面において執拗なまでにディテールにこだわっています。

元NFLキッカーで現在若きキッカーの指導を行なっているフィリプ・フィリポヴィック(Filip Filipovic)はアライザのキックをこう分析しています。

「彼のステップは非常に緩やかでリラックスしています。そしてパント時もキック時も腰(Hip)のロテーションをよく活かしています。腰のロテーションに関しては多過ぎればパワーは出るもののキックの精度が落ちてしまうという感じで諸刃の剣なのですが、彼の場合はキック時の足のクイックネス、そしてテクニックも安定しており全体的にバランスがいいフォームだと言えます。」

キッカーとしてのアプローチはキック力の強さではなくキッカーの身長並びに体重を考慮するべきだとアライザ自身は指摘しています。ですから彼はNFLのキッカーを研究する際には自分の身長と体重により近い選手を見つけ出して彼らのフィルムを見るのだそうです。

アライザを知る上でもう1つ知っておくべきことは、彼がゴルファーであるということです。すでにお話しした通り彼は全てを数量で理解しようとする人物ですが、一方でキックはある種の芸術だとも捉えています。彼は上達するためには新たなことに挑戦することを恐れず、自らを変える必要があるのならばそれを受け入れ、それが馴染んでくるまで調子が上がらないことも許容するという心構えを持っています。そして彼は自分にも限界があることを承知しています。

「ゴルフの例えで言ったら、バックスウィング時に自分の手がどこにあるのかを空間的に識別できなければいけないはずなんです。その能力があり、それに対応するだけの運動能力が備わっていれば、キックする際にスナップされたボールが完璧にプレースされていなかったとしてもそれなりのキックを繰り出すことができるのです。別にものすごいハードにスウィングする必要はなく、空間識別能力とそれなりの運動能力を持っていればあとは自分の足が勝手にボールをコンタクトしてくれるはずです。」

そしてアライザを知る上で最後に知っていて欲しいのは、彼はここまで紹介した通りキッカーとしての天性の能力を持っているのにもかかわらず努力を惜しまないということです。

例えば昨シーズン後、彼のフィールドゴールキックの調子は上がらなかったそうで、ひょっとしたら目指していたNFL選手の夢も叶わないのではないかと頭をよぎったほどだったのですが、しかしそこで彼は迷いませんでした。

「今オフはとにかく自分の人生の中でこれ以上ないというほど努力しました。」とアライザは振り返ります。

彼はただ単にキックの量を増やしたりキックする際のルティーンを変えたり増やしたりした訳ではなく、一回一回のキックに全てを入魂するスタイルに変えたのです。

「当時父親に『自分の人生で今一番キックすることが重要だから、これに全てを賭けたいんだ』とメッセージを送ったのを覚えています。そして今考えるとその心持ちがその後の成長に大きく繋がったんだと確信しています。」

この経験を通じて、アライザ自身はキックをロジカルに考えることが自然なアプローチだと分かっていながらも時には感情的になってもいいんだと考えるようになったんだそうです。

だからキッカーは落ち着くべきだと言われる中、アライザの燃えたぎる感情はキッカーとしての彼の一部なのです。チームメイトたちはアライザのキックが成功するかどうかよりも、彼が感情的になりすぎてアンスポーツマンライクの反則を取られてしまわないかどうかの方が心配だったり、キックをミスして感情的になってボールを投げたりしてフラッグをもらってしまわないかどうかの方が心配なんだとか。

マッコイ氏は高校時代にアライザが相手ラインバッカーと小競り合いになったことを思い出しますが、「彼の場合は感情的になっても収集がつかなくなるとか悪意があるとかそう言った類のものではありませんでした。試合に集中し勝ちたいと思うがために時としてそう言った行動に出てしまうんです。」とアライザのキッカーとしては珍しい気性の荒さを説明しています。

昔アライザはコーチに「試合中は他の選手と一緒になって気持ちを流されてはダメだ。いつだって冷静になって自分が蹴らなければならない場面に備えなければいけない。」と言われ続けたそうです。試合の行方を決めるような重圧の中でフィールドに送り込まれることを想定しなければならないからと。

しかし今シーズン彼はこのアプローチは自分には合わないと悟ったのです。試合にかける情熱と勝ちたいという闘争心は試合に波があればあるほど感情に呼応して、そのことがよりよいパフォーマンスを生み出すことに気づいたのだとか。「フィールドゴールを決めた後でも、パントしたあとでも、タックルした後でも自分の感情を隠さずに表に出すことにしたんです。それが自分を奮い立たせ良いプレーが出来るようになった理由だと思っています。」とはアライザ。

そしてそのことをコーチ陣も悟り始めました。練習ではいつも通りのルーティンを与えるだけでなく、なるべく練習でもプレッシャーのかかるシチュエーションを仮想して蹴らせることにしています。アライザの他にチームにはジョン・バロン(John Baron)がキッカーとして所属していますが、彼はアライザがやってくるまで大学のシーズン最多フィールドゴール数を保持していた選手。そしてパンターとしては所属するマウンテンウエストカンファレンスでオールカンファレンスに選ばれたこともあるブランドン・ヘイクレン(Brandon Heicklen)もいます。彼らと競争することで闘争心は煽られますし、また練習の最後にはアライザがフィールドゴールを決めないとチーム全体が罰として走らされるという課題を課しアライザにプレッシャー下でもキックを決められるようにする訓練を行なっています。

キッカーやパンターなどのスペシャリストは得てして他の選手たちと区別されることが多々ありますが、アライザは自分を含めたスペシャリストたちも他のポジション選手たちと同じチームの一員だという自負があり、それが自分たちにとって重要な意味を持っていると信じています。

もし誰かチーム内でスペシャリストたちのことを悪くいうような噂を聞けばその人物を探し出してその発言の撤回を求めますし、また逆に他の選手たちが罰で走らされるようなことがあれば当然彼も一緒に走ります。当然なことですがキッカーだからといって区別されるのを嫌うのです。

ホーク監督はかつてミシガン大で監督を務めたことがありますが、アライザを見ていると元ミシガン大のジェイ・フィーリー(Jay Feely)氏を思い出すと言います。フィーリー氏はキックした後にいつでもタックルする敵選手を探していたのだそうで、それがアライザとダブって見えるのだとか。キッカーだからと言ってタックルのようなバイオレントなプレーから避けるのはフットボール選手とは言えないという自負でしょう。前出のディーキン氏も「マットはこれまでのスペシャリストの固定観念を変えつつあります。」とアライザの今季の活躍に目を細めています。

(終わり)

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