アメリカの司法省(Department of Justice)は1月中旬、複数の州で起きているNCAA(全米大学体育協会)に対する裁判に介入してきました。
この裁判とは独占禁止法(Antitrust law)にNCAAが抵触しているという訴えなのですが、その内容とは、NCAAが最近改正したカレッジアスリートに対するトランスファー(転校)に関するものになります。
当初この訴えを起こしたのはオハイオ州、コロラド州、イリノイ州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州、テネシー州、バージニア州の7つの州でした。何に対して訴訟を起こしたのかというと、最近NCAAが改正した、学生アスリートが2度目にトランスファーするとそのトランスファー先では1年間試合に出れないという新たなルールに対してです。
歴史的にいうと長い間大学アスリートは特例がない限り転校先で1年間試合に出ることは許されていませんでした。しかしNCAAは2021年にトランスファー先ですぐに試合に出れるというルールに改正。これにより、トランスファーポータルと相まって転校する学生アスリートの数が激増するという状況を生み出しました。
ただ、転校先でも自分の思うように行かずにトランスファーを繰り返す学生も増え、これを防ぐためにNCAAは2度目以降は転校先ですぐに試合に出ることはできないというルールを新たに定めたのでした。
その新ルールに反旗を翻したのが上に挙げた複数の州だったのですが、その彼らの論点というのは、トランスファー後の出場機会を制限することは、そういった選手たちのNIL(Name/Image/Likeness、自身の肖像権などを使い収入を得るしくみ)のチャンスの芽を摘むことになる、それが独占禁止法に抵触する(シャーマン法)ということです。
オリジナルの訴訟は12月にウエストバージニア州で提出され、同州の連邦裁判所はこの訴えを受けてNCAAに暫定的差し止め命令を発令。つまりNCAAは正式に裁判の結果が出るまでこの新ルールを施行することができなくなったのです。
結局、NCAAはこの決断を受けて訴訟側と和解し、残りの今シーズンのスポーツおよび来季の秋のスポーツの選手は2度目以降でも転校先ですぐに試合に出ることが許されました。
ただ、米司法省はこの決定を来秋以降にも恒久的に実行されるように今回動いたということになります。さらにここにミネソタ州、ミシシッピ州、バージニア州、ワシントンDCの各州の検事総長も加わったのだとか。
「カレッジアスリートのために立ち上がった、各州の法執行機関や関係各所の皆さんを誇りに思います。NCAA1部の大学は単に試合に勝つだけに戦っているわけではなく、学生アスリートらをリクルートして大学に留めさせる努力を惜しみなくしています。学生アスリートは各々の学業的な目標、個人的な夢、そして将来進む道にフィットする大学を自由に選ぶことができるべきであり、貴重な大学生生活の1年間を無駄にすることで、彼らのゴールを奪うようなことがあってはならないのです。」とは、米司法省のジョナサン・カンター(Jonathan Kanter)氏の談。
現在NCAAは新しいコミッショナーであるチャーリー・ベイカー(Charlie Baker)氏の下で、前コミッショナーだったマーク・エマート(Mark Emmert)氏のずさんな運営のためにボロボロになってしまった状況を修復中ですが、この他にもNCAAが訴えられる案件は複数あり、ベイカー氏の頭痛はおさまらなそうです。