第11週目となる今週末、すべてのファンの目はサウスイースタンカンファレンス(SEC)西地区同士のライバル対決であり、地区争いだけでなくナショナルタイトル争いにも大いに影響を与えることとなるルイジアナ州立大(CFP2位)とアラバマ大(同3位)のビッグゲームに向けられます。今回はこの「プレーオフ準々決勝」ともいえるこのメガマッチに当サイトも大いに注目したいと思います。
タガヴァイロアは出場できるのか?
アラバマ大QBトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagavailoa)はカレッジフットボーラー最高の栄誉であるハイズマントロフィーレースで受賞候補に挙げられる今季トップレベルの選手。しかし彼は3週間前のテネシー大戦で右足首を負傷。これが通常の捻挫ではない重度のもの(High Ankle Sprain)で、普通なら完治までにかなりに日数を要しますが、近年新たに開発された新手術をテネシー大戦直後に受け翌週のアーカンソー大戦を欠場。バイウィークを挟み術後約3週間というのが現状です。
テネシー大戦で負傷したタガヴァイロア
この手術は昨年度ジョージア大戦で受けた同じ怪我(左足首)を治すために行われた技術と同じもの。この時は4週間後のCFP準決勝戦であるオレンジボウル出場に間に合い、カイラー・マレー(Kyler Murray、現アリゾナカーディナルス)率いるオクラホマ大を見事退けました。この時のタガヴァイロアは手術による影響をほぼ見せずこの手術が成功したことを物語っていました。
昨年左足の手術に使われた新技術。同じものが今回の右足の手術にも使われました。
しかし今回はその時とは違い回復期間は短めです。今週練習に復帰しているタガヴァイロアはバックアップのマック・ジョーンズ(Mac Jones)とスナップを分け合って練習しているようですが、どこまで回復しているのかはわかりません。試合に出るだけなら大いに可能でしょうが、ルイジアナ州立大のディフェンスの猛追を受けた時にこの足首で果たしてそれを回避するだけの機動力があるのかどうか・・・。
アラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督も回復具合は上々だが、未来あるタガヴァイロアを不完全のままフィールドに送り出し万に一つ彼の未来(NFL)を左右するような怪我を再び起こすようなことはあってはならない、とタガヴァイロア起用には慎重な姿勢を示しており、実際にプレーするかどうかは試合当日までわからないというのが実際のところ。おおよその周囲の見解は彼は出場するというものですが。
彼はサウスポーですから投げるときの踏み込みに力がかかるのは左足であるため、投げるという動作に関しては問題がないように思えますが、やはり重要なのはポケットが崩れ走ることを余儀なくされた時にどれだけ足首が持つのかどうか、ということに尽きます。もし彼が出場するとなればルイジアナ州立大ディフェンスがいつも以上のブリッツをかけてくることが予想されますから、彼が出場するかどうかで双方の戦略も大きく変わってくるはず。それだけアラバマ大にとって彼の存在が大きいということです。
参考記事サウスポーQB絶滅の危機?バロウvsアラバマ大パスディフェンス
今季クレムソン大QBトレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)や既出のタガヴァイロアがハイズマントロフィーレースで開幕前から名前があげられる中、ここまでその株を急上昇させて最有力候補にまで躍り出るようになったのがルイジアナ州立大QBジョー・バロウ(Joe Burrow)です。
今季飛ぶ鳥を落とす勢いのジョー・バロウ
LSUは元来ラン重視オフェンスを敷いてきましたが、スプレッドオフェンスが近年のトレンドとなる中彼らのオフェンスは時代遅れとなり、それが前監督レス・マイルズ(Les Miles、現カンザス大)監督解雇につながりました。それを引き継いだエド・オルジェロン(Ed Orgeron)現監督はオフェンスのオーバーホールを敢行。チームもトップ5にランクされるようなチームに様変わりしましたが、これまで欠如していたのは絶対的なパサーとしての力を持ったQBの存在でした。
そんな折昨年オハイオ州立大からの転校生であるバロウを獲得したLSUは彼に一筋に光を見出します。そして今シーズンNFLニューオーリンズセインツでオフェンシブアシスタントを務めていたジョー・ブレディ(Joe Brady)氏をパスゲームコーディネーターとして迎え入れるとバロウの才能が開花。今季はLSUに今までなかったパスアタックで相手ディフェンスを崩すという新たな一面が加わり、彼らのオフェンスは全米2位(1試合平均377ヤード)のパスオフェンスを擁するほどになりました。
しかもバロウは体格がありながらもそれなりに走力も持ち合わせており、それを駆使してポケットが崩れた際にも機動力でピンチをチャンスに変えられる力を保持しています。完全な機動系のQBではありませんが、過去にアラバマ大はクレムソン大のデショーン・ワトソン(DeShaun Watson、現ヒューストンテキサンズ)やテキサスA&M大のジョニー・マンゼル(Johnny Manziel)など走りに脅威を持つQBに弱いという面を持っており、この点からもバロウの能力はアラバマ大ディフェンスにとって大きく立ちはだかる壁となりそうです。
アラバマ大WR陣vsルイジアナ州立大バックフィールド
アラバマ大のWR陣には昨年最優秀レシーバーに贈られるビレンティニコフ賞を獲得したジェリー・ジュディ(Jerry Juedy)の他にもデヴォンタ・スミス(DeVonta Smith)、ヘンリー・ラグス(Henry Ruggs III)、ジェイレン・ワドル(Jaylen Waddle)といった非常に能力の高いWR選手を揃え、そのレベルは全米でも随一のものとされています。実際にパスオフェンスもルイジアナ州立大の2位には及ばないものの、5位(1試合平均338ヤード)とかなりの実力を誇っているのです。
その彼らが対峙することになるルイジアナ州立大のバックフィールドですが、このユニットもまた今季全米でトップレベルだと言われています。Sグラント・デルピット(Grant Delpit)、CBクリスチャン・フルトン(Kristian Fulton)、CBデレク・スティングリー(Derek Stingley)、Sジャコビー・スティーヴンス(JaCoby Stevens)らを擁し「DBU(ディフェンシブバック・ユニバーシティ)」という異名すら持つこの面々は相手チームの脅威となってきました。
LSUのデルピットはNFLドラフトでも1巡候補と名高い選手
アラバマ大のQBが誰になるのかまだわかりませんが、もしタガヴァイロアの復帰が間に合ったとしてもこのDB陣を相手にするのは楽ではありません。そしてもし彼の出場が叶わずバックアップのジョーンズを起用せざるを得ない状況になれば、先々週のアーカンソー大で大学デビューを果たしたばかりの彼にはこのDB陣は荷が重すぎるということになりかねません。
ジョーンズはアーカンソー大戦でデビュー戦とは思えない効果的なプレーを連発しましたが、所詮相手はアーカンソー大。LSUのディフェンスとは比べ物になりません。アラバマ大がいかに素晴らしいレシーバーを多く有していたとしても彼らにパスするQBが居なければ宝の持ち腐れとなるわけで、もしジョーンズが出場しなければならない事態となればアラバマ大は苦しくなると言わざるを得ません。
気になるのはデルピットとスティングリーが怪我を負って100パーセントではないこと。当然この一大イベントに彼らが出場することは確実でしょうが、どれだけ怪我の影響があるのかにも注目したいです。
アラバマ大ランゲームvsルイジアナ州立大ランゲーム
アラバマ大はちょうど3年ほど前からそれまでのランヘビーオフェンスからスプレッドオフェンスを取り入れる変則のオフェンスを用いるようになりました。それはリクルーティングを経て獲得してきたスキルプレーヤー達の能力を最大限に活かすための進化とも言え、特にタガヴァイロアという優れたパサーを手に入れてからのオフェンスの様変わりは顕著です。
セイバン監督がアラバマ大の監督に就任してからと言うもの、彼らはマーク・イングラム(Mark Ingram、現ボルティモアレイヴンズ)、トレント・リチャードソン(Trent Richardson)、デリック・ヘンリー(Derrick Henry、現テネシータイタンズ)、ジョシュ・ジェイコブス(Josh Jones、現オークランドレイダース)など屈強のRBを擁してきました。
しかし今年のRBナジー・ハリス(Najee Harris)及びブライアン・ロビンソン(Brian Robinson Jr.)らは上に挙げたようなディフェンスのフロントセブンを踏みつけてヤードを稼ぐようなパワーパックではありません。むしろランパスオプション(Run-Pass Option)やスクリーンパスでの受け手としてスピードを活かした起用のされ方をしているように思えます。
一方のLSUのRBクライド・エドワーズ・ヘレイアー(Clyde Edwards-Helaire)は弾丸のように壁を突き破って走るタイプ。ちょっとやそっとのタックルでは倒れないパワーパックです。LSUオフェンスはバロウに注目が集まりぎみですが、エドワーズ・へレイアーの走りを見ていると、彼の走りがあるからこそバロウのパスが活きているんだと思い知らされます。
LSUの影の立役者、エドワーズ・へレイアー
タガヴァイロアの怪我の具合だとプレーアクションパスやショットガンばかりに頼ることは出来ないでしょうから、アラバマ大オフェンスとしてはRB陣の効果的なランアタックが必要となってきます。果たして彼らがLSUのディフェンス陣に立ち向かえるか疑問が残ります。
アラバマ大にとって朗報となるのは今週LSUの先発LBだったマイケル・ディヴィニティ(Michael Divinity)が一身上の都合でなんとチームを離脱してしまったということ。LSUのフロントセブンが多少手薄になれば当然アラバマ大RB陣にとってはヤードを稼ぎやすくなるでしょうが、当然LSUの選手層もリクルーティングのお陰で厚くなっているでしょうから、デヴィニティの抜けた穴がどれだけ大きいかは試合が始まってみないとわかりません。
総括
アラバマ大とルイジアナ州立大のライバル関係は遡れば1895年から始まった歴史あるもの。1964年からは毎年行われるようになり対戦成績はアラバマ大が53勝23敗5分けで大きくリードしています。81回目を迎える今回のマッチアップですが、過去最近8年間はすべてアラバマ大が勝利を収めておりルイジアナ州立大はいいところがありません。
最後にLSUが勝ったのは2011年度のレギュラーシーズン(9対6)。そのシーズンにはBCSナショナルタイトルゲームでこの両チームは再び対峙しアラバマ大が21対0と完封勝利を上げてナショナルタイトルを獲得しました。その時以来アラバマ大はLSUに負けなしというわけです。ルイジアナ州立大ファンは長年苦汁をなめさせられてきたわけですが、その連敗記録が今年とうとう打ち止めとなるか・・・。
2011年、OTの末にFGでアラバマ大を破ったLSU。これが対アラバマ大最後の白星に
それは大いに可能だと思います。LSUはバロウというハイズマントロフィー級QBを手に入れオフェンスはかなりアップグレードされました。そしてチームとしてもこれまでテキサス大、アーバン大、フロリダ大という強豪校を倒してきた実績があります(テキサス大は今季強豪といえるかわかりませんが・・・)。またアラバマ大ディフェンスはここまで王国を築いてきた屋台骨だったところ今年のそれはちょっとこれまでのディフェンスに比べて見劣りするのは否めません。LSUがアラバマ大から大量のポイントを奪えたとしても不思議ではないのです。
となればアラバマ大がこの点取合戦について来れるかがキーになります。そのためにもタガヴァイロアの復帰が重要になってくるわけで、しかも復帰しても完調でなければアラバマ大は苦しくなりそうです。アドバンテージとしてはこの試合がアラバマ大のホームであること。彼らは現在ホームゲーム31連勝中ということで地元でめっぽう強いのです。この大歓声をLSUは打ち消すことが出来るでしょうか。
この試合に勝ったほうがSEC西地区での覇権争いに王手をかけることになり、そうなればカンファレンスチャンピオンシップゲームで東地区王者(おそらく)のジョージア大と対決。これに勝てば十中八九CFP進出を果たすことになるでしょう。負けてしまったチームとしては当然プレーオフ進出は苦しくなりますが、この試合が僅差での敗戦でなおかつその1敗を守り、CFPランキング上位チームが脱落してくればこの試合の敗者にもプレーオフ進出の可能性が残されるかもしれません。
いずれにせよ全米2位と3位というこのメガマッチ。土曜日3時半ということは日本時間は日曜日の朝5時。ひょっとしたらYouTubeで生配信するチャンネルがあるかもしれませんから、これは早起きしてでも観る価値がありますよ!