リクルーティングは名門ミシガン大にとってこれまでほぼ順風満帆だったと言えるでしょう。問題があったとすれば抱え込んだ有能リクルートたちをカレッジレベルで戦える選手に育て上げることが中々出来ないことかもしれません。
例えば2016年から2018年まで在籍したLBラシャーン・ゲリー(Rashan Gary、現グリーンベイパッカーズ)。彼は全米でも有数の強豪高校であるニュージャージー州のパラマスカソリック高校出身でしたが、当時から既に超高校級の選手として注目されており、3大リクルーティングネットワーク(247sports.com、ESPN.com、Rivals.com)全てから全米ナンバーワンリクルートと評価された稀有な才能の持ち主でした。
そんな彼をゲットするために全米中の大学が彼に触手を伸ばしますが、ここでとんでもない手を使って彼を抱き込もうとしたチームがありました。それがジム・ハーボー(Jim Harbaugh)監督率いるミシガン大でした。というのも彼らはゲリーの恩師とも言えるパラマスカソリック高校のクリス・パートリッジ(Chris Partridge)監督をなんとミシガン大スタッフに引き抜き、それを餌にゲリーをミシガン大へと勧誘したのです。その手法は批判を浴びはしましたが、それを禁止するルールもなく、結局ゲリーはミシガン大へ入部。ハーボー監督の手段を選ばない方法は功を奏したのです。
鳴り物入りでミシガン大入りしたゲリー
入部後1年生から試合に出場したゲリーはその才能の片鱗を見せましたが、3年生時には肩の怪我で思うような力を発揮できず、更に脳震とう(Concussion)を負ったその年のオハイオ州立大戦後に4年生シーズンをスキップして早期NFLドラフト入りすることを表明したのです。スーパースターとなることを期待されたゲリーではありましたが、結果的にそのポテンシャルを発揮できたのかは定かではありません。
2019年度のドラフトでは第1巡目第12番目にパッカーズにドラフトされましたが、その時の評価は往々にして「持っている才能を開花できていないレアな選手」というものでした。これは言い方を変えれば大学でその才能を開放することができなかった、ということでもあり、ミシガン大コーチ陣とすればあまり聞こえがいいとはいえません。
さらにミシガン大の最大のライバルであるオハイオ州立大からは同じドラフトでDLニック・ボーサ(Nick Bosa)が総合2番目にサンフランシスコ49ersに指名されました。彼は怪我で2018年度を棒に振ったにも関わらず、NFLスカウトたちからは「非常に高いテクニックを持ち、即戦力となり得る逸材」という評価を受けました。選手を育てたコーチならばやはりこういった評価のされ方を聞きたいものです。
関連記事オハイオ州立大DEボーサ、退部・退学へミシガン大はハーボー監督がやって来て以来明らかにチームに対する期待度やブランド力は格段に上がりました。それはリクルーティングでも証明されていますが、数多いる有能選手を次のレベルでプレーできるように育て上げることが中々出来ていないように思えます。
今年でミシガン第5季目を迎えるハーボー監督
2015年にハーボー監督が就任して以来これまでミシガン大は4年間で3度10勝シーズンを送りました。これは大変素晴らしい数字ではありますが、実際の所10勝止まりでは最大の目標であるナショナルタイトルを獲るために出場しなければならないカレッジフットボールプレーオフ(CFP)に駒を進めることは出来ません。さらに言えば前述のライバルであるオハイオ州立大とのハーボー監督の対戦成績はこれまで0勝4敗。ライバルチームに勝てないということだけで監督としての評価は落ちてしまうものですし、オハイオ州立大に勝てないということは所属するBig Tenカンファレンスの優勝決定戦にも出場できないということにもなり、正直ハーボー監督指揮下のミシガン大は過大評価され過ぎのアンダーアチーバーであると言わざるを得ません。
過去2年間のオフェンスは更にパンチ力がなく、3rdダウンでランを多用したハーボー監督でしたが、その結果1回のパス平均ヤード数は8ヤード以下となり、これは強豪と言われるチームの中ではかなり低いものです。唯一この戦略の恩恵を受けたのはRBカラン・ヒグドン(Karan Higdon、現ヒューストンテキサンズ)で、彼は昨年1000ヤード超えを達成。しかしその彼もNFLドラフトでは誰からも声をかけられることはありませんでした(UDFAでテキサンズへ入団)。
何かの起爆剤が絶対的に必要であることは明らかであり、ハーボー監督は今オフにアラバマ大で共同オフェンシブコーディネーター兼WRコーチを務めていたジョシュ・ガティス(Josh Gattis)氏を新OCとして招き入れました。
参考記事鬼の居ぬ間に・・・ガティス氏は昨年アラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督のコーチ陣へ組閣されペンシルバニア州立大から移ってきました。そしてマイク・ロックスリー(Mike Locksley、現メリーランド大監督)氏とともにアラバマ大オフェンスを牽引。WRコーチとしてはジェリー・ジュディ(Jerry Jeudy)ら多くの才能あるWR選手を育て上げました。しかしロックスリー氏がメリーランド大監督に就任するためにアラバマ大を去ることになると、セイバン監督はガティス氏に単独OCを任せるのではなく、より経験豊富な人物を模索することを決めるとそのタイミングでハーボー監督はガティス氏に白羽の矢を立て、ガティス氏はミシガン大で単独OCを任されるということでアラバマ大を去ったのでした。
ミシガン大新OCガティス氏(ペンステート時代)
確かに王者アラバマ大のオフェンスをサポートしたということはレジメ(履歴書)映えしますが、全てのオフェンスを1人で回したことのないガティス氏を起用したハーボー監督の決断に全く批判がないわけではありませんでした。
しかしながら2011年から2018年までガティス氏が関与したチームでは5シーズンもトップ3レシーバーのシーズントータルヤードが2000ヤードを超えています。ミシガン大の歴史を振り返ると過去20年間でそのようなシーズンがあったのはたったの4度のみ。少なくともミシガン大のパスゲームには期待が持てそうです。
さて、2019年度シーズンですが、ミシガン大ディフェンスは相変わらず層の厚さもあり下馬評は高いです。オフェンスはRBクリス・イヴァンズ(Chris Evans)が学業面での問題のため今シーズンはプレーすることが出来ないということで、どうやらこのポジションは新入生であるザック・シャーボネット(Zach Charbonnet)に委ねられそうです。
QBは昨年に続きミシシッピ大からの転校生、シェイ・パターソン(Shea Patterson)が健在。元5つ星リクルートのパターソン、そして近年のミシガン大のリクルートの中では最大級のポテンシャルを持つと言われるWRドノヴァン・ピープルズ・ジョーンズ(Donovan Peoples-Jones)を擁するWR陣がガティス氏の手によってどのように昇華するのか・・・。彼の手腕に期待してみたいところです。
スケジュールを見るとシーズン中盤に昨年CFPに進出を果たしたノートルダム大との試合に注目が集まります。が、やはりどうしても目が行ってしまうのは最終戦となるオハイオ州立大との一戦。Big Tenカンファレンス東地区同士の戦いでもあり、この試合の勝者がカンファレンス優勝決定戦に駒を進める可能性が高いともなればなおさらこの試合は重要になってきます。
オハイオ州立大は御存知の通り昨年まで指揮を執ったアーバン・マイヤー(Urban Meyer)監督が引退し、ライアン・デイ(Ryan Day)新監督が後継者として任命されました。先にも紹介した通りマイヤー前監督はハーボー監督に4連勝しており、ハーボー監督にとってマイヤー前監督はまさに目の上のたんこぶ。そのマイヤー氏がいなくなったとあればいよいよミシガン大に憎きライバルに土をつけるチャンスが来たと見るのは何ら不思議ではありません。
関連記事新時代【オハイオ州立大プレビュー】またオハイオ州立大はQBドゥウェイン・ハスキンズ(Dwayne Haskins、現ワシントンレッドスキンズ)を失い、ジョージア大から有能といわれるジャスティン・フィールズ(Justin Fields)をその後釜に据えましたが、2年生で先発経験のないフィールズは未知数です。
そんなオハイオ州立大をホームに迎え撃つことができるミシガン大。そうなればいよいよ対戦成績7連敗という悪しき記録を止めることが出来るかもしれません。
全米屈指のライバリーと言われるミシガン大対オハイオ州立大戦
というよりも、ここでまたオハイオ州立大に敗れ、さらに10勝シーズンで足踏みしているようであれば、いかにミシガン大出身のカリスマHCハーボー監督でもファンから不要論が噴出しかねません。ミシガン大が彼を解雇することは無いでしょうが、これまでハーボー体制に一定の理解を示してきたファンたちのフラストレーションのぶつけ先がハーボー監督に向けられることになっても仕方のないことです。それだけファンは彼に期待をし、1997年以来のナショナルタイトルを夢見ているのですから。
つまり今年勝てなければ永遠に勝てない、ということです。果たして名門ミシガン大が宿敵を倒しカンファレンスを制してCFPの大舞台に進出する姿を見ることが出来るでしょうか?