変わりゆくカレッジトラディション

変わりゆくカレッジトラディション

ミネソタ州ミネアポリスで起こった警官による黒人男性暴行致死事件から約1ヶ月。すでに世界はコロナウイルスによるパンデミックで人々の生活に大きな影響を受けていたところに起きたこの事件は、アメリカだけでなく世界中で黒人差別反対・社会的不公正の是正を訴える社会運動へと急速に発展していきました。

特に長きに渡り虐げられてきた黒人たちの命も大切だという「Black Lives Matter(BLM)」というスローガンは白人と黒人というアメリカに巣食う差別構造を改めて浮き彫りにしました。

遡ればアメリカ大陸発見からヨーロッパ人の入植に始まり、大農園経営のためにアフリカ大陸から奴隷として黒人を連れてきたことからこの悪しき歴史は始まったわけですが、南北戦争そして公民権運動を経て黒人たちの社会的地位は格段に上がったという事実があったとしても、根底に根強く残る社会構造としての人種差別の温床と潜在的にある白人至上主義、そして本当の意味で相手を理解していないという無知さによって黒人差別というのは残念ながら未だにこの国にはびこっていると言わざるを得ません。

有名人・一般人に関わらず今回の抗議行動には本当に多くの人が立ち上がり、「今度こそ本当にこの悪しき構造をぶち壊そう」という風潮が確かに存在します。そしてそれはアメリカの大学スポーツでも顕著であり、例えば黒人差別的言動を起こしたとして内部告発されたアイオワ大のベテランストレングスコーチ、クリス・ドイル(Chris Doyle)氏が大学と袂を分かつにまで至ったり、オクラホマ州立大ではハイズマントロフィー候補のRBチュバ・ハバード(Chuba Hubbard)が監督であるマイク・ガンディ(Mike Gundy)氏へ襟元を正すように楯突いたり、現役の学生アスリートたちが抗議行動へ積極的に参加したりと、この風潮を枯らさないために果敢な行動に出ています。

そしてその動きは特に南部に多く見られているのも興味深いところです。それがかつて奴隷制度によって生活が保たれていた旧アメリカ連合国(Confederate States of America)および南北戦争時の南軍の土壌であることは一目瞭然です。そしてその名残を残す様々な文化や伝統にも今メスが入り始めています。

NCAAがミシシッピ州へ喝

黒人差別が奴隷制度に端を発していることは周知の事実ですが、それがかつて良しとされ、その制度を守るために南北戦争を戦った旧南軍(旧アメリカ連合国)に関するものは全て悪という考え方が今回のBML運動を経て更に強固になっていますが、カレッジスポーツではその元締めとも言えるNCAAも強気な行動に出ています。

というのも未だに州旗に南軍旗をあしらっているミシシッピ州においていかなるNCAAのチャンピオンシップゲームを不開催にすると通達したのです。

かつて南部には南軍の名残からその州旗の一部に南軍旗(Confederate Flag)を残している州が多数ありましたが、2003年にジョージア州が南軍旗のシンボルを取り除いてからというもの、アメリカで唯一そのような旗を州旗として掲げてきたのがミシシッピ州だったのです。

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ミシシッピ州の州旗。左上のクロスが南軍旗

これまではNCAAのトーナメント(バスケや野球など)においてミシシッピ州出身チームがシード権を獲得していた場合は開催できるという特例がありましたが、今回の声明ではいかなるチャンピオンシップゲームもミシシッピ州で現在の旗が掲揚され続ける限り開催を禁止することが明言されています。

深南部(ディープサウス)と呼ばれるアメリカ南部でも最南地方に所在するミシシッピ州にはミシシッピ大ミシシッピ州立大サザンミシシッピ大がキャンパスを構えていますが、その中でも特にミシシッピ大はかつての名残が色濃く残っている大学。例えば長きに渡り彼らのマスコットは「コーネル・レベル」でしたが、これは南部軍人を指す言葉として用いられることもあります。しかしミシシッピ大の場合、このコーネル・レベルのモデルとなった人物が奴隷を所有していたという事実もあるようです。

現在彼らの愛称である「レベルズ」はそのままですが、マスコットとしての「コーネル・レベル」は2011年に「レベル・ブラックベアー」になり、さらに2018年には全く新しい斬新な「ランドシャーク(丘のサメ)」に変わりました。

この流れだと愛称としての「レベルズ」も改名を強いられることは十分に考えられそうです。

参考記事ミシシッピ大の新マスコット


クレムソン大、カルフーン氏と決別

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先日アップした「BLMとカレッジフットボール」の記事でもご紹介しましたが、元クレムソン大デアンドレ・ホプキンス(DeAndre Hopkins、現アリゾナカーディナルス)は大学創始に影響力があったものの、黒人奴隷制度を推奨したことでも知られているジョン・C・カルフーン(John C.Calhoun)氏の名を冠するクレムソン大のカリキュラムを改名せよと抗議。そしてそれに同じく元クレムソン大QBデショーン・ワトソン(Deshaun Watson、現ヒューストンテキサンズ)もホプキンスに同調。

すると大学側は彼らの要求に答える形でカルフーン氏の名を排除し、プログラムは「Clemson University Honors College」に改名されました。カルフーン氏が元アメリカ副大統領であり、クレムソン大が彼の私有地を貰い受けてキャンパスを設立したこともあり、彼とクレムソン大とのつながりは切っても切れないものとされてきましたが、今回の大規模なBLM運動の力に押されてこのような決断を下すに至ったのです。

サウスカロライナ大でも・・・

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クレムソン大と同じくサウスカロライナ州にキャンパスを置くサウスカロライナ大でも同じような動きが見られています。

同大OBのアルション・ジェフリー(Alshon Jeffery、現フィラデルフィアイーグルス)とマーカス・ラティモア(Marcus Lattimore)らはキャンパス内にあるレクリエーション施設の名前を改名するように声を上げています。

というのもこの施設名の元になっている人物、ストローム・サーモンド(Strom Thurmond)氏というのは1956年から2003年まで米国上院議員を務めた州内の重鎮であるとともに、人種差別を推し進めた人物としても知られているからです。人種差別に反対する公民権運動が盛んだった頃、それに反対するために民主党から共和党へ鞍替えしてしまったほどの堅物だったのです。

15000人分の署名を目指していたこのサイトではすでに16000人以上の署名が集まっており、大学側はまだこの件に関して正式なコメントを出していないものの、今後も署名が集まり続ければ改名に向けた動きが起きるかもしれません。

フロリダ大のゲーターベイト

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同じく南部のフロリダ州にあるフロリダ大でも彼らのトラディションに大鉈を振るう決定を下しています。

というのもフロリダ大のホームスタジアムではおなじみのチャント(掛け声)である「ゲーターベイト(Gator Bait)」の使用を禁止するという大学からのお達しがあったのです。

なぜかというと、かつて奴隷制度時代アリゲーター(ワニ、フロリダ大のマスコット)を捕獲する際にその餌(ベイト)として黒人の赤ちゃんが使われていたという古い風習があり、このゲーターベイトはそれを連想させるというからだとか。

大学はこのフレーズ自体に人種差別の意味があるという証拠はないと認めていますが、やはり歴史的に見て黒人差別を思い浮かべてしまうようなチャントを継続させるわけにはいかないという見解のものの決断だったのでしょう。

どちらかというとこれは大炎上となる前に消火しておこうという行動なのかも知れません。実際にかつてこの「ゲーターベイト」という言葉を初めて使った同校OBのローレンス・ライト(Lawrence Wright)氏は「このチャントは人種差別とは全く関係ない。作った私自身が黒人なのだから」としてこのチャント禁止を撤回するよう訴えています。

おそらく生粋のフロリダ大ファンとしては受け入れがたい決断でしょうし、フロリダ大の試合をスタジアムで拝んだことがある筆者としてもこのチャントがなくなってしまうのはかなり寂しいことではありますが、現在の流れからすると仕方がないことなのでしょう。

フロリダ州立大のスタジアム名

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またフロリダ大のライバルでもあるフロリダ州立大でも動きが。

彼らのホームスタジアム、ドーク・キャンベル・スタジアムは1950年にオープンしましたが、その名前は当時の大学長であるドーク・S・キャンベル氏にちなんで付けられました。キャンベル氏は元々フロリダ女子カレッジ(Florida College of Women)だった学校を1947年にフロリダ州立大に変えた立役者でした。

しかしそれと同時にキャンベル氏は人種隔離政策容認派であり、当時大学内の新聞に人種隔離政策に反対するような記事を掲載することを禁止するというスタンスを取っていたほどの人物でした。

そんな背景もあり同校のOBであるケンドリック・スコット(Kendrick Scott)氏はスタジアムからキャンベル氏の名を排除するための署名運動を始めています。

現在の正式名称は「ボビー・バウデン・フィールド・アット・ドーク・キャンベル・スタジアム」となっていますが、インフィールドの名前が同校のレジェンド、ボビー・バウデン(Bobby Bowden)元監督からつけられたものです。スコット氏は今回この正式名を「チャーリー・ワード・フィールド・アット・ボビー・バウデン・スタジアム」に改名しようと提案しています。チャーリー・ワード(Charlie Ward)氏は同校で初めてハイズマントロフィーを獲得したスター選手。その彼の名をインフィールドの名前に組み込んでバウデン氏の名前をスタジアムの名前にしようというわけです。

過去70年間に渡りドーク・キャンベル・スタジアムとして親しまれてきたフロリダ州立大のホームスタジアムですが、この名前も今回の変革の波に飲まれてその姿を消すことになるかも知れません。

ジョージア大のバンドソング

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南北戦争に敗れるまで奴隷制度を合法化していたジョージア州の旗艦大学ともいえるジョージア大ではフットボールの試合終了時にマーチングバンドが「タラのテーマ(Tara’s Theme)」を演奏するのがトラディションとなっていました。

この「タラのテーマ」ですが、これは元々映画「風と共に去りぬ」で使用されていた曲。そしてこの「風と共に去りぬ(Gone with the Wind)」が黒人奴隷が登場する映画であることに関連しているため、この度ジョージア大マーチングバンドは今後一切この「タラのテーマ」を演奏しないことを決定したのです。

風と共に去りぬ(Gone With the Wind)

これに先駆けてアメリカの大手配信サービスであるHBOは「風と共に去りぬ」を一時的に配信中止にしており、これを受けたジョージア大の決断であったと推測されます。

バージニア大のロゴ

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南軍に所属していた州としては最北でもあるバージニア大でも過去の遺物に悩まされることに。

大学は今年4月に大学のロゴマークをマイナーチェンジ。しかしその新ロゴに思わぬ炎上の種が存在していたのです。

画像を見ていただければ分かると思いますが、グリップがあるのが4月に新たにリデザインされたもの。このセイバーはバージニア大のニックネーム「キャバリアーズ(騎士)」から来ているものですが、新ロゴのグリップの波打った部分が問題視されたのです。

といのもこの形がかつて大学に存在していた「サーペンタイン・ウォール(serpentine walls)」を連想させるからだということですが・・・。

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バージニア大キャンパスの「サーペンタイン・ウォール」

このサーペンタイン・ウォールとは当時キャンパスで働かされていた奴隷たちを公共の目から遠ざけるために建てられた壁のことで壁の向こう側での作業の音を聞かれないようにわざと波状に建てられたのだとか。

つまり新ロゴのセイバーのグリップは奴隷制に関連するサーペンタイン・ウォールを連想させるために批判の声が上がったというわけです。もうここまで来るとこじつけのような気もしますが・・・。

とはいえ、見る人にとって感じ方は十人十色な訳で現在のBLM運動の要でもある人種差別反対および全ての人間を容認するという観点から言えばこのセイバーのグリップもNGということです。

まとめ

今回挙げた例はほんの数例でしかなく、南部文化の名残がある地域の大学などでは更に同じような改革の波が押し寄せることでしょう。

アメリカに住んで25年になりますが、人種差別反対運動がここまで大規模になることはそうありません。そして今度こそなんとかしてこの悪しき構造をぶち壊そうと肌の色関係なく多くの人が立ち上がって声を上げています。

変化には痛みがつきもの・・・。社会構造や人々の深層心理を変えていくのは絶やすことではありませんし、その過程で多くの痛みが生まれていくことでしょう。それに比べればスタジアムの名前が変わったり、慣れ親しんだチャントを聞くことが出来なることに伴うファンたちの痛みなどはたかが知れているものというわけです。

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