箱根駅伝を観て・・・【2020年版】

アメリカでは年末年始というのはあまり特別な感じがなくて唯一休みになるのは1月1日なんですね。ですから仕事は12月31日までありますし、年明けの仕事始めも1月2日なんてのは普通なんです。もうアメリカに住んで20年以上経つのですが、何年たってもこのお正月感のなさというのは日本人だからかしっくり来ません。やっぱり大晦日とか三ヶ日とかゆるりと過ごすのがいいですよね。

今年も箱根駅伝を観戦

ところで日本のお正月には恒例行事がたくさんありますが、その中に箱根駅伝がありますよね。1月2日に往路、3日に復路を東京箱根間で襷をつなぎながら走るまさにお正月の風物詩です。私はここ何年も日本でお正月を過ごしていませんが、近年この箱根駅伝にハマり過去のレースなどを見るのが好きになりました。

今年はYoutubeでライブストリームしているチャンネルを見つけて観戦を試みましたが、流石に海賊版だけあってYoutube/グーグルの目が光っており、見つけて観戦してもしばらくすると著作権侵害で動画が見られなくなってしまいました(当然ですが)。

(そういえばカレッジフットボールのストリーム動画も違法ではありますが今シーズンYoutube上で見れる時期がありましたが、そういったチャンネルは軒並みシャットダウンを食らっていましたね。)

結局今年の箱根駅伝も終了後に上がっていた動画で観戦しました。参加大学が大学の名誉をかけて襷をつないでゴールを目指す・・・。この姿を見て昨年私はこんな記事を書きました。

そして今年は駅伝がらみでこんなツイートを見つけたのですが・・・。

言わずと知れた日本を代表するランナー、大迫傑選手のツイートです。マラソンの日本記録保持者である大迫選手はかつて早稲田大学で箱根駅伝を経験し2011年に18年ぶりのチーム優勝に貢献。そのトップアスリートのつぶやきが目に入りました。

これを見て私はすぐにアメリカの大学スポーツ事情、特にカレッジフットボールの状況が頭に思い浮かんだのです。


収入源

日本を代表するスポーツイベントである箱根駅伝は学生スポーツでありそれはつまりアマチュアスポーツであることを意味すると思います。そういう面では高校サッカー高校野球なども同じですね。これらのアマチュアスポーツはテレビで大々的に放映され、サッカーや野球ならスタジアムで観戦するためにはチケットを購入する必要があります。またおそらくスタジアムやレース会場付近にはイベント関連のグッズが売られたりしているんだと予想できます。

また箱根駅伝にしてみればレース会場となる街道を一定期間封鎖。そのための交通整理人員、中継所での係員、相当数に登ると思われる報道陣、選手たちを先導する白バイ隊員・・・。このような人たちがみなボランティアでやっているのか、報酬を得てやっているのか、その点は分かりませんが、相当なサポートを受けなければこのような規模の駅伝が開催可能なはずがありません。

そしてTV放送ですが元旦から多くの日本人が視聴することを考えれば当然CMなどでそれ相応の報酬が得られると思います。

さらに二次的に箱根駅伝を利用する人たちもいるでしょう。その最たるものは必ずTVに映るというところで行われる宣伝行為。これは何かしらの利益を得ようとするために箱根駅伝を利用しているということです。

それもこれもアマチュア選手である駅伝選手たちが厳しいトレーニングを経てこの箱根駅伝に賭けるというレースという名のコンテンツがあれば可能なわけです。

これはアメリカの大学スポーツでも同じです。特にフットボールとバスケットボールには相当なビジネスが絡んでいます。

TV放映権、チケット売上、グッズ売上、その他諸々の収入源から得られる利益は莫大です。しかしその利益をアマチュア選手である学生アスリートは得ることは出来ません。

それに関して文句をいう選手がいないとは言えませんが、往々にしてそれを理解した上で全米のトップを目指して日々トレーニングに明け暮れているんだと思います。好きなアメフトをしたい、試合に勝ちたいと。

しかしやはりこのコンテンツを届けるためにはそれ相応のサポート体制が必要なわけでその規模はプロも顔負けのものです。ナショナルタイトルゲームともなれば大学スポーツとは言え日本のどのプロスポーツよりも上回ると言っても過言ではないくらいの壮大さでこのイベントは開催されるのです。


選手が受け取れる「リターン」

私は日本での大学アスリートがどのような待遇を受けているのか分かりません。が、トップアスリートであるならばおそらくスポーツ推薦制度のようなものがあると予想できます。

アメリカには一定の学力を持ったエリート選手がスポーツ奨学金(スカラシップ)を受け取るというシステムは昔から存在します。

大学にもよると思いますが、「フリーライド」という言葉もあるようにスカラシップ選手は授業料が免除されその他に教科書代なども浮くというシステムがあります。アメリカの大学の学費は年々上がっています。ですから大学で教育をただで受けさせてもらえるというのは将来プロでやれる可能性が低い選手にしてみれば大きな利益となりえるのです。

つまりアメリカの大学でスカラシップを貰える選手たちは試合に出場することの対価としての利益は無くとも少なからず奨学金という形の「リターン」を受け取ることができるわけです。

これまではアマチュア選手たちがプレーする上で奨学金を受け取れることはとても意味のあることでした。しかし時は流れNFLだけでなくカレッジフットボールも商業的な規模が拡大し、アマチュアアスリートたちの試合を媒介としてとんでもない額の利益が生まれてきており、またカレッジ界の名将と言われる監督たちは100万ドル(1ドル100円計算で約1億円)の報酬を手に入れるのは当たり前。2020年1月の時点でカレッジフットボール界での最高報酬額を受け取っているのはクレムソン大ダボ・スウィニー(Dabo Swinney)監督で実に900万ドル以上(約9億円)の年収を手に入れているのです。

コーチがこんなに桁違いのお給料をもらっているのに選手が何も受け取れないのは不公平だということで、学生アスリートもお金を稼げるようにするべきだという意見が年々増えてきていました。そして昨年カリフォルニア州でアマチュアアスリートでも自身のNIL(Name, Image, Likeliness)を元に報酬を手に入れることを可能にする州法に知事がサイン。これが大きな物議を醸しました。

アメリカでも学生アスリートが奨学金以外のリターンを受けるべきだという風潮はあるわけです。ただこれは「Play to get paid(プレーすることで報酬を得る)」とは異なるものですが。


「リターン」を求めるのは悪か?

大迫選手やその元ネタとなった為末大氏のツイートへの返信を見てみると様々な意見が多いですが、よく見られるのは「駅伝に出れるということ自体が名誉なことでリターンなど望むべきではない」というようなトーンの意見。

しかしここで大事なのは選手がリターンを受け取るべきかどうかということではなく別のところにあるような気がします。それは箱根駅伝が開催されることによって起きる経済効果、そして得た利益が何処に流れているか、ということなんだと思います。

アメリカの大学フットボールの場合ならばこのような情報は完全に開示されます。そして往々にしてその金の流れは決まっていたりします。

例えばカレッジフットボール界でも有数の強豪チームが集うSEC(サウスイースタンカンファレンス)ですが、彼らは独自のネットワークであるSECネットワークを持っています。これによりアメフトだけでなくその他のすべてのスポーツをストリーミングで観戦できるようになりますが、これらのコンテンツを楽しむにはお金を払わなければなりません。そしてそのお金はSECへ入ることになります。

またSEC優勝決定戦はニュートラルサイトであるアトランタのメルセデスベンツスタジアムで行われますが、ここでのチケットの売上、TV放映料などはカンファレンス側に流れることになります。

そして肝心なのがここです。SECが得た利益は結果的にSECに所属する全チームに平等に分配されるのです。例えば2018年度ですがSECの総利益は実に6億2700万ドル(約627億円)となりましたが、この額を13当分(SECは14チーム所属ですが、この年はミシシッピ大が謹慎処分中で分配金を受け取ることが出来ませんでした)である約4300万ドル(約43億円)をそれぞれのチームが手にすることが出来たのです。

つまりナショナルタイトルゲームに進むことが出来たアラバマ大と2勝10敗しかできなかったアーカンソー大が同じ額の配当金を受け取ったということです。

またカレッジフットボールプレーオフ(CFP)によって生み出される利益もしっかりと還元される仕組みになっています。NCAA1部でも上位カンファレンス群と言われるFBS(フットボールボウルサブディビジョン)に所属する10のカンファレンスはそれぞれ30万ドル(約3000万円)が配分され、「ニューイヤーズ6」ボウルにチームを送り出すことが出来たカンファレンスには6600万ドル(約66億円)を平等に分配されますし、準決勝戦に出場できたチームを送り出したカンファレンスにはそれぞれ600万ドル(約6億円)が配当されるという仕組みが明確に示されています。

参考記事(外部リンク)CFP REVENUE DISTRIBUTION POLICIES

受け取ったこの巨額のお金をどう使うかはそれぞれの大学次第です。それをキャンパス内の施設のアップグレードに使ったり、スタジアムの補修工事費に当てたり、フットボール部のロッカールームを新しくしたりとフットボール部の活躍のお陰で大学も恩恵をうけることができるという仕組みが存在するわけです。

だから確かに大学アメフト選手もプレーすることの対価を受け取ることは出来ませんが、勝とうが負けようが参加することで間接的にその恩恵を得ることはできるというわけです。

私が知りたいのは日本のアマチュアスポーツにこのようなシステムが存在するのかということです。前にも述べたように私は日本の大学スポーツの仕組みを知らないのでなんとも言えないのですが、駅伝主催者である関東学生陸上競技連盟が受け取った利益を参加チームに還元するようなシステムがあるのか。もしそうであれば、例えばチームの学生寮をアップグレードするとか、トラックの補修費用に当てるとか、もっと頻繁に遠征に行けるようになるとか、ギアの在庫が増えるとか、そのような形の「リターン」があっても良さそうです。そしてそれが上に挙げたように参加チームに平等に分配されるなら素晴らしいことですが、大迫選手のツイッターを見る限りそのようなことは起きてないのかなと感じてしまいます。

そしてもっと不思議なのは、箱根駅伝で得られた利益はどのくらいなのか、そしてその利益は一体何処に流れているのか、ということがわからないということです。

箱根駅伝に限らず観客が見込めるスポーツイベントがあり、それを管理運営していくための術としてビジネスを立ち上げるということはあっていいこととだと思います。最初にも述べたようにこの大規模なイベントを運営するにはそれ相当の金銭的負担があるはずです。しかしそれによって黒字になっているのか赤字になっているのかもわからず、黒字になっていたとしたら必要経費を差し引いた分の純利益が何処に流れているのかもわからない。それは問題じゃないのか、と。

お金が絡むとがめついとかあまりいい印象を与えないのが日本の風潮のような気がします。が、今後のスポーツの発展のために情報開示、そして参加チームが恩恵を受けられるシステムの確立が必要なのではないかと感じてしまいました。そしてリターンと言ってもそれは単にお金のことだけではなく、大学陸上部そしてもっと言えば大学全体が享受できるものと考えてもいいんだと思います。

もちろんアメリカの大学スポーツすべてがうまくいっている訳ではありませんが、今回箱根駅伝を観戦しさらに大迫選手のツイートを見て、箱根駅伝のこととアメリカのカレッジフットボールを照らし合わせてふとこんなことを思ったのでした。

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