アラバマ大 (14勝1敗) |
7 10 7 7 | 31 |
クレムソン大 (14勝1敗) |
0 7 7 21 | 35 |
全米1位のアラバマ大と2位のクレムソン大の間で行われた2016年度のナショナルタイトルゲーム。試合は予想を裏切らない素晴らしいものになりました。
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アラバマ大は前半RBボ・スカーボロー(Bo Scarbrough)を主軸にしたランゲームでテンポをつかみます。スカーボローは前半に2つのランTDを奪いアラバマ大にしては珍しく前半からガッチリと流れを自分の元に掴み取った感じがしました。なぜならアラバマ大は特に強豪チームと対戦する際、スロースタートになる傾向があったからです。
そしてアラバマ大ディフェンスも序盤からクレムソン大の主力選手たちに容赦ないタックルを浴びせ続けます。QBデショーン・ワトソン(Deshaun Watson)、WRマイク・ウィリアムス(Mike Williams)、RBウェイン・ガルマン(Wayne Gallman)らはアラバマ大のジョナサン・アレン(Jonathan Allen)、ティム・ウィリアムス(Tim Williams)、ルーベン・フォスター(Reuben Foster)、ライアン・アンダーソン(Ryan Anderson)らからのプレッシャーにあい、自分たちのペースになかなか持ち込めず苦戦していました。
それでもアラバマ大がスカーボローを軸とするランアタックに終始するとクレムソン大ディフェンスも落ち着きを取り戻し、その後はKアダム・グリフィス(Adam Griffith)のFGのみに抑え、大量追加点を許しませんでした。一方でオフェンスは攻め込んではアラバマ大ディフェンスに押し戻されるのを繰り返していましたが、第2Qにワトソンからのショートパスを受け取ったWRディオン・ケイン(Deon Cain)がフィールドを一気に駆け抜け43ヤード前進しアラバマ大陣内へ突入。この日最初のビッグプレーとなったこのプレーがクレムソン大オフェンスのガス抜きとなり、ここからTEジョーダン・レゲット(Jordan Leggett)への26ヤードパスを経て、ワトソンが8ヤードランTDを決めました。ワトソンからケインのロングプレーを起点に初得点となったこのシーンが今考えると試合がクレムソン大に傾くきっかけとなったのではないかと感じます。
アラバマ大オフェンスは約1週間前にチームのオフェンシブコーディネーターに就任したばかりのスティーブ・サーキジアン(Steve Sarkisian)氏が指揮をとりましたが、彼が好むランゲーム主体の攻撃は出だしこそ効果を発揮したものの、だんだん単調になっていったような気がします。1年生のスターQBジャレン・ハーツ(Jalen Hurts)はこの大舞台では本領発揮できないと「決めつけられていた」ように非常に保守的なプレーに終始。パスプレーも大半が短めのスウィングパスでクレムソン大LB、およびDBにチャンレンジしていく姿はあまり見られませんでした。これは後々彼らの首を締める事になっていったような気がします。
後半に入るとQBワトソン、WRウィリアムスは落ち着きを取り戻し、また伏兵のWRハンター・レンフロー(Hunter Renflow)が活躍。レンフローは2つのTDを含む10キャッチで92ヤードを獲得。他にもTEレゲット、WRウィリアムス、WRケインと共に90ヤード越えレシーバーを4人も出ました。これからも分かるように特に後半はクレムソン大がパスアタックで成功を見い出し、無敵を誇るアラバマ大ディフェンスも徐々に削られていったのでした。要所でワトソンにサックを見舞うことすれ、フィールドを走らされれば彼らのスタミナも切れるのです。それに輪をかけてオフェンスが攻撃権を維持できない時間が長く続き、結果的にディフェスがフィールドに止まる時間が長くなったというわけです。
そして致命傷となったのは第3Qに頼みの綱のRBスカーボローが足の怪我で戦線離脱。結局彼はこの後試合に復帰することはなかったのですが、彼を失ったアラバマ大はさらに武器を失うことになります。RBダミアン・ハリス(Damien Harris)、RBジョシュア・ジェコブス(Joshua Jacobs)らも能力のあるRBですが(ハリスは1000ヤードラッシャー)、スカーボローの欠場は精神的にもアラバマ大オフェンスを苦しめたはずです。
第3Q終了間際にここまで沈黙を守っていたアラバマ大TE O.J.ハワード(O.J. Howard)の68ヤードTDパスが決まりアラバマ大が点差を広げますが、この時までにすでにモメンタム(試合の流れ)はクレムソン大側に傾いていました。このスコアリングドライブの直後にクレムソン大はたったの2分弱でTDを奪い返し点差を3点まで縮めてきます。
その後それぞれ3ドライブずつ無得点の攻撃を繰り返しますが、第4Q残り5分を切ったところでついにクレムソン大が逆転TDを獲得します。このドライブではワトソンのパスとランが冴え渡り、特に彼のTD直前のプレーでTDこそ奪えませんでしたが15ヤードの鬼神の如し突進は2006年のローズボウルでのテキサス大QBヴィンス・ヤング(Vince Young)の決勝TDのプレーを見ているようでした。
この状況で追いかける立場となったアラバマ大にはもう一度リードを取り戻す余力など残っていないと思われましたが、自陣41ヤードでの4thダウンコンバージョン成功、そしてWRアーダリウス・スチュワート(ArDarius Stwart)からTEハワードへのリバースフェイクパス成功とピンポイントでプレーを決め、最後はこの日最初で最後となるQBハーツのスクランブルからの30ヤードランTDで残り2分で再び逆転に成功。スタンドのアラバマ大ファンの歓喜は最高潮に達します。
しかし残り2分という時間はQBワトソンらクレムソン大が再逆転するには十分すぎる時間だったのです。
このような限られた時間しか残されていない場合を想定して練習では通常「2分間ドリル(2-minute Drill)」というシチュエーションドリルをするものです。これは今回のこのような場面で使用される為にほぼプリプログラムされているのですが、この「2分間ドリル」を防御しなければならないディフェンスは大抵後手に回され攻め込まれるのが常です。特にワトソンのレーザーシャープなプレー(このドライブだけで6回中5回のパスが成功)、そしてスタミナの切れたアラバマ大ディフェンスとのマッチアップならば尚更です。
そして鉄壁の統制で知られるニック・セイバン(Nick Saban)監督の率いるチームとしては珍しくこの土壇場で相手と小競り合いを起こしてアンスポーツマンシップの反則と取られ残り20秒でアラバマ大陣内9ヤードまでクレムソン大は攻め込みます。さらにDBアンソニー・アヴェレット(Anthony Averett)がWRウィリアムスへパスインターフェアレンスの反則を犯し、ついにボールは2ヤードラインへ。
試合残り時間は6秒。一番内側のスロットに構えたWRレンフローの右隣にWRアータヴィス・スコット(Artavis Scott)。レンフローをカバーするのはDBトニー・ブラウン(Tony Brown)。DBマーロン・ハンフリー(Marlon Humphrey)はスコットをカバーします。ボールがワトソンにスナップされるとワトソンは右へロールアウト。それと同時にスコットは左インサイドへ向かい、彼をカバーしているハンフリーもスコットを追います。同時に右へルートをとるレンフローを追うブラウンも右へ続きますが、向かってくるスコットとハンフリーに邪魔され一瞬レンフローのカバーが遅れてしまいます。そしてそのせいでワイドオープンになったレンフローをワトソンは見逃さず、残り時間1秒でクレムソン大が土壇場の逆転を決めたのです。複雑なプレーではありませんが、ここぞというところで完璧なプレーコーリングだったと言えます。
https://youtu.be/V0ARYY84T-M
こうしてクレムソン大は悲願となる1981年以来チーム2度目のナショナルチャンピオンに輝いたのでした。
チーム記録 | ||
16 | 1stダウン | 31 |
2/15 | 3rdダウンコンバージョン | 7/18 |
511 | トータルヤード | 376 |
420 | パスヤード | 155 |
14/32 | パス成功数/投球数 | 36/57 |
221 | ランヤード | 91 |
34 | ラン回数 | 42 |
9/82 | ペナルティー (回数/YD) | 3/35 |
0 | ターンオーバー | 2 |
25:16 | ボール支配時間 | 34:44 |
チーム記録を見るとアラバマ大のランオフェンス以外は全てにおいてクレムソン大が優っていることがわかります。ファーストダウンの数はクレムソン大が約2倍。アラバマ大がボールを動かすのに非常に苦労していたことがわかります。3rdダウンコンバージョンで彼らが2回しか成功していないというのも驚きです。これは1st及び2ndダウンでファーストダウンまで長い距離を残してしまったからに他ありません。
アラバマ大のシーズン平均パスディフェンスは184ヤードですが、今回ワトソンに420ヤードも投げられてしまいました。これは昨年とほぼ同じです(405)。アラバマ大は155ヤードとなっていますが、これはQBハーツからTEハワードへの一本のロングパス(68ヤード)、及びWRスチュワートからはワードへのトリックパス(24ヤード)で半分以上を占めていることを忘れてはなりません。つまりパスアタックは無いに等しかったわけです。
アラバマ大がラン主体で攻撃を組み立てていたにもかかわらずボール支配時間が10分もクレムソン大に劣っているのも驚きです。それだけアラバマ大が攻撃権を維持できなかたということです。
そして最も注目したいのはペナルティーの数。前述の通りアラバマ大のセイバン監督は厳しい統制で知られており、このように多くの反則を犯すことは滅多にありません。特にラストドライブ中に犯したアンスポーツマンシップのペナルティーは15ヤードもクレムソン大に与えてしまったことになり、結果自分で自分の首を締めたことになります。
パス記録
YDS | TD | INT | QBR | |
ワトソン | 420 | 3 | 0 | 67.1 |
ハーツ | 131 | 1 | 0 | 25.9 |
ラン記録
YDS | AVG | TD | |
ガルマン | 46 | 2.6 | 1 |
ワトソン | 43 | 2.0 | 1 |
スカーボロー | 93 | 5.8 | 2 |
ハーツ | 63 | 6.3 | 1 |
レシーブ記録
REC | YDS | AVG | TD | |
レゲット | 7 | 95 | 13.6 | 0 |
ウィリアムス | 8 | 94 | 11.8 | 1 |
ケイン | 5 | 94 | 18.8 | 0 |
レンフロー | 10 | 92 | 9.2 | 2 |
ハワード | 4 | 106 | 26.5 | 1 |
リドリー | 5 | 36 | 7.2 | 0 |
スチュワート | 2 | 12 | 6.0 | 0 |
個人記録を見てもクレムソン大がアラバマ大のパスディフェンスを完全に攻略したことが露わになってきます。ウィリアムス、ケイン、レゲットという長身ターゲットは常にアラバマ大DB陣とのマッチアップを誘発し、小柄でスピーディーなレンフローがスラントやショートヤードルートでアラバマ大パスディフェンスの穴を突き、唯一の「ひび割れ」とも言えたアラバマ大パスディフェンスに対しアタックをし続け、結果的にこの「ひび割れ」から瓦礫が崩れ落ちるように相手ディフェンスを翻弄したのでした。
アラバマ大はとにかくパスオフェンスがリズムに乗れず、そのせいで攻撃が単調になり、後半はオフェンス的に思うようにボールを前に動かすことが出来ませんでした。スカーボローの欠場(後に足の骨の骨折と判明)は確かに痛手でしたが、RBハリスは1000ヤードラッシャーであり、十分戦力にはなったはずです。
準決勝戦のワシントン大戦でもアラバマ大パスオフェンスは57ヤードと低調でしたが、この時はトータルのパス回数が14ということで明らかにランを重視した作戦だったわけです。実際この試合では50回もランプレーが使われました。そしてスカーボローが180ヤードも足で稼いだことがアラバマ大の勝利に繋がったわけです。
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と言ってもこのワシントン大戦での上にあげた数字もいつものアラバマ大らしからぬ数字と言わざるを得ません。そのせいで前オフェンシブコーディネーターのレーン・キフィン(Lane Kiffin)氏はチームを離れたとも言われています。サーキジアン氏のプレーコーリングに問題があったのかと言えば、いち素人の目からはなんとも言えません。ただ、直前のOC交代劇が影響したという人や関係なかったという人もいる中、私はやはり多少の影響はあったのでは無いかと思ってしまいます。
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キフィン氏は相手ディフェンスの動向をフィールド上で分析するのに長けていると思います。チームが攻撃に手間取っている時には素早く相手ディフェンスの穴を見つけそこを突いてくるのがうまかった。サーキジアン氏はトリックプレーが成功したり1本のロングレンジパスが成功したりしましたが、非常に守りに入ったプレーに終始していたように見えました。確かにハーツはパサーとしてはまだ成長過程であり、ミッド・ロングレンジのパスを得意とするQBでは無いかもしれませんが、だからと言って彼の肩を有効に使わないということでは無いと思います。上手にセットアップしてあげればミッドフィールドの狭いエリアであってもパスを通すことはできるはずですし、実際これまで今季の大舞台でやってのけてきたのです。
しかし準決勝戦で少々動きが固く見えたせいで、「1年生だから大舞台で本領を発揮できないはずだ」とばかりに非常に保守的なプレーコーリングに偏っていたのかもしれません。クレムソン大のWR陣は全米でもトップレベルの駒が揃っています。しかしスチュワートにしろリドリーにしろハワードにしろ彼らの能力も十分そのレベルにあるのです。それを使ってあげられなかったのは、もちろんハートも多くのパスをミスしましたが、それと同時に試合の中で彼の状態を察し彼にあったプレーを選べるかどうか、も結果に大きく関わったのでは無いでしょうか。それはやはり1週間で構築できるものではなくシーズンを通して常に側で関わってきたキフィン氏が突如としていなくなったのは1年生のハーツにとって多少の影響があったとしてもおかしくはありません。
ただ、アラバマ大ディフェンスがクレムソン大オフェンスを結果的に止められなかったことは動かざる事実です。昨年もアラバマ大は試合には勝ったものの、ワトソンを止めることはできませんでした。去年試合を分けたのはディフェンスのターンオーバーとスペシャルチームのトリックプレー(オンサイドキック)でした。今年はファンブルを2つ誘発したものの、試合の結果を変えるような影響力はありませんでした。
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つまりアラバマ大はクレムソン大のワトソンにやられた、ということになります。アラバマ大ディフェンスは昨年ワトソンに手玉に取られたことに対してリベンジとこの試合に臨んだことでしょうが、クレムソン大コーチ陣の緻密な戦略と、ワトソンら昨年のメンバーのアラバマ大へのリベンジの気持ちが相手チームを凌駕したということでは無いでしょうか。
ワトソンはハイズマントロフィーを受賞することはかないませんでしたが、3年生である今季、来季はNFL入りが濃厚とされている中、念願の全米タイトルを手中に入れ、なんの悔いもなくクレムソン大でのカレッジキャリアを終えることになるでしょう。
一方アラバマ大は2連覇を逃し、セイバン監督にとって過去8年間で5つ目のナショナルタイトルを目前で失ったわけです。最強と謳われたこのアラバマ大ですら成し遂げられなかった2連覇ということがいかに難しいことか、ということでしょう。アラバマ大は多くの選手、特にディフェンスから失うことになります。来季またこの場所に戻ってくるにはディフェンス、特にフロントセブンの立て直しが必要となりそうです。それでも今季経験を積んだQBハーツはまた一回り大きくなって来季もアラバマ大ディフェンスを率いることでしょうから、彼らがチャートの上位に顔を連ねることには変わりなさそうです。
・・・さて、これで2016年度のカレッジフットボールシーズンが終わってしまいました。なんだか少しさみしくなりますね。