プレシーズンキャンプの内部事情

いよいよ全米各地でプレシーズンキャンプが解禁となりました。シーズン開幕まであと4週間あまり。選手並びにコーチたちはこれから様々な思いを胸にチームと共に貴重な時間を過ごしていくわけです。

そこで今回はプレシーズンキャンプとは一体どんなものなのかを実際に現場で目にしたことのある者の目線で少しご紹介したいと思います。

サマーワークアウト

プレシーズンキャンプは7月最後の週から8月最初の週の間に開始されます。しかし選手たちはその多くが夏の間もキャンパスにとどまりトレーニングを積んでいます。「サマーワークアウト」と呼ばれるこのトレーニングは主に筋トレ及びコンディショニングが主体です。NCAAのルールでポジションコーチが選手たちをコーチングすることは許されていません。ですからフットボール関連のトレーニングは3、4年生のベテラン選手主体でのボランティア練習が行われます。ここでそれらのベテラン選手のリーダーシップ力が養われるわけです。

QBとWRにとってはこの夏の自主練は非常に重要です。この間に多くのルートを試し、パスのタイミングなどを合わせていきます。それにより相互の自信と信頼を深めていくのです。

コンディショニングを上げそれを怪我しない程度に維持して行くのも非常に大事なことです。スカラシップ(スポーツ奨学金)選手は大体「自主的」という名の必須事項として長い夏を汗を流しながら過ごしていくことになります。

キャンプイン

キャンプイン前には大抵1週間ほどの休みがあり、夏の間キャンパスに滞在していた選手も一旦実家に帰りつかの間の休暇を楽しみます。そしてチームのリポート日にいよいよ皆戻ってきます。もっともチームに所属する選手全員がプレシーズンキャンプに参加できるわけではありません。参加できる人数は限られており(105名前後)、スカラシップを貰わないウォークオン選手たちにとってはキャンプに招待されるかされないかは大きなポイントになります。

キャンプ中は大抵参加選手全員が同じ寮内で寝泊まりします。ですから選手たちはこの先3週間分の身の回りのものを持ち込むことになります。気合いの入った選手たちなら自分専用のテレビやステレオ、はたまた小型冷蔵庫を持ち込む選手も見たことがあります。キャンプとは言っても24時間ずっとフットボールのことをやっているわけではないので、その他の時間をいかに有効に使うかを考えているわけですね。こういった点は新入生よりも既にキャンプを経験したことのある上級生たちの方が上手くやっているようです。

ついたその日か次の日には「フィジカル(Pre-participation Physical Exam)と呼ばれる健康診断を受けなければなりません。ここでドクターから「待った」がかかればキャンプに参加することはできません。更に自分のギア(ヘルメットやショルダーパッドなど)のフィッティング、コンプライアンスなどのミーティングをこなしフットボール以外の雑務を早い段階に終わらせます。これでフットボールに全身全霊を注げるわけです。

チームによって異なるかもしれませんが、実際の練習が始まる前にフィットネステストを行うチームもあるでしょう。何を課すかはそれぞれのチームで違ってくるとは思いますが、40ヤードダッシュ、コーンドリル、幅跳び、垂直跳びなどに加え、ベンチプレスやスクワットなどの「テスト」が考えられます。これは今後のトレーニングの目標に使われるかもしれませんし、もしくは選手たちが夏の間にどれだけの努力をしてきたかを試すものとして使われるかもしれません。実際「テスト」にパスできなかった選手にはプレシーズンキャンプの間「エクストラワークアウト」という名の「罰ゲーム」が課せられているのを見たこともあります。

適応期間

アメリカはどでかい国です。北はカナダの国境から南は常夏のマイアミまで・・・。しかし夏はどこであれやっぱり暑いのです。そんな中選手たちは練習しなければならないわけですから、楽ではありません。いかに夏の間トレーニングを積んできたと言ってもそれはフットボールギアを装着しない状態で行ってきたこと。真夏にいきなりヘルメットとショルダーパッドなどフル装備でフィールドに立っていたらそれこそ熱中症でぶっ倒れてしまいます。

そこでNCAAはプレシーズンキャンプの最初の5日ほどを「Acclimatization period(適応期間)」に定めています。この間徐々にギアをつける練習を組み、暑さに馴らせるというのが狙いです。だから最初の練習はヘルメットのみとか、ヘルメットと簡易ショルダーパッドのみとかの練習しか許されません。そこから5日間かけてフルギアの練習へと馴らせていくのです。

2部練習の禁止

今年からNCAAはキャンプでの二部練習(午前と午後で一日二回練習があること)、通称「ツーアデー(Two-a-day)」を撤廃しました。この主な目的はフルコンタクトの練習(ぶつかり合いが許される練習)の絶対的な数を減らし、選手の体への負担を軽減するというものです。元をたどればこれはここ近年とりだたされている「脳震とう(Concussion)」を予防するための処置と言えます。

【関連記事】NCAAの新ルール

近年脳震とうが脳や体に及ぼす長期的な副作用の実態が明らかになりつつあり、アメリカではこの怪我は非常にデリケートなトピックになっています。特に選手同士がタックルし合うフットボールというスポーツでは避けて通れない怪我なのです。

【参考トピック】脳震とう

脳に及ぼす危険なポテンシャルが明らかになってきた以上、この問題を放っておくわけにはいかず、これまでNFLやカレッジ、さらには他のスポーツ団体が脳震とうを防ぐための議論を続けてきました。フットボールに関して言えば多くの脳震とうが試合ではなく練習中に起きていることがわかっています。今回2部練習が廃止されたのもこの試みの一つと考えていいと思います。

私が初めて某FBSチームに本格的に帯同した1998年当時はまだ「三部練(Three-a-day)」なるものも存在していました。これは朝、昼、そして夕方前と一日3回も練習をするというシステム。さすがに三部練の日はヘトヘトで、当時3週間のキャンプが2ヶ月ぐらいに感じたのをまだ覚えています。それから考えると一日一回しか練習がない現状は夢のように感じます。

が、コーチたちからしてみれば貴重な練習時間を奪われたことになり、今後はそれぞれが少ない練習でも多くのものを生み出せるような工夫を凝らしていくことでしょう。

コンタクト練習

またこれも練習での選手への負担を減らす作戦の一環ですが、チームはフルコンタクト、つまり「ぶつかり稽古」を毎日行ってはいけないとルールがあります。コンタクト練習を行った次の練習は必ずノンコンタクトの練習でなければならないルールなのです。

ただ「ぶつかり合わないでどうやってフットボールの練習をするんだ?!」と疑問を感じる方も多いでしょう。ここでいう「コンタクト」とは相手にタックルを食らわしなおかつフィールドに叩きつけるようなことを言います。ですからノンコンタクトの練習時には例えばディフェンダーがオフェンス選手をカバーしたりタックルしたりする状況であれば、初期のコンタクトはあるもののそれは100%のスピードであってはなりませんし、そのタックルを最後までフィニッシュしてはいけないということです。

これでは練習にならないのではないか?と思うかもしれません。しかしこれに関して個人的に感じることは、強いチームになればなるほどこれは問題にならないということです。というのもそれらのチームに属している選手はそれなりのテクニックをすでに持ち合わせていますし、むしろプレシーズンキャンプの目的はテクニックの向上よりも、いかに実践的に戦術を行使できるかという面に重きを置かれるものです。ですからあえて相手に(しかも元をただせばチームメートに)フルタックルを食らわせて怪我させる必要はないわけです。

スクリメージ(紅白戦)

これもそれぞれのチームで様子が異なるとは思いますが、ある程度キャンプが進行すると途中で実戦形式のスクリメージ(紅白戦)が行われるものです。これにはちゃんとレフリーたちを呼び、オフェンスとディフェンスに分かれてゲーム形式でそれまでの選手たちの成長を秤にかけます。これは限りなくゲームに近い形式で行われたり、すでにプレーが前もって決まっているものを何度か試させるという、形式もあったりします。

また一部のFCSでは実際に他のチームとスクリメージを行うこともあります。

シーズン開幕へ

選手たちにしてみれば、先発が十分に確約されているような選手でない限りはこのキャンプは最後の先発ポジション獲得への最後のアピールでもあります。キャンプ中にコーチを唸らせるようなプレーを見せることができれば前年度に先発でなかった選手にもチャンスが回ってくるでしょう。

そんな中でもやはり一番注目を浴びるのは先発QBの争いです。監督の意向にもよりますが、開幕前に先発QBを指名したり、キャンプ中に指名したり、はたまたキャンプが終わり開幕戦が行われる寸前に発表されたりと形は様々。QBがチームの命運を全て握っているとは言いませんが、やはり誰が先発QBになるかは重要な決断となります。それが時として先発QBを争う選手たちに亀裂を起こしたりするドラマが生まれることもないこともありません。そこは監督がどうチームを管理運営していくかという手腕にかかっています。

キャンプで行える練習の日数には限りがあります。約3週間のキャンプが終わると選手たちはそれまで住んでいた寮から出て別の寮に入寮したり、自分のアパートに引っ越したりします。その頃には学校の方も始まる時期で、選手たちは「学生アスリート」として開幕に備えながら秋学期の学業の準備にも追われるわけです。

プレシーズンキャンプはシーズン開幕へ向けた最終調整の機会でもあり、決められた厳しいスケジュールの中で忍耐力をつけたり、開幕時の先発メンバーを決める大事なプロセスです。そして何より重要なのはチームメートとの絆を深められるということです。フットボールはチームスポーツです。100人以上の大所帯であるチームでみんながみんなを知っているとは限りません。プレシーズンに四六時中一緒にいることでディフェンスオフェンス関係なくチームとしての感覚を養うのも重要だと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか?実際のキャンプはまだ始まったばかり。これからどんどん本格的な練習に突入していくことでしょうが、あまり語られないキャンプの内部事情をちょっとでもこの記事を通して伝えることができたら嬉しいです。