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NILの現状にセイバン監督は・・・

NILの現状にセイバン監督は・・・

選手の肖像権などを介して学生アスリートがアマチュアリズムを維持しながらお金稼ぎができるという「NIL(Name/Image/Likeness)」という制度が導入されて約2年。最初は学生たちの金銭面の補助や、彼らのクリエイティブ活動の一環として導入が検討されていたものでした。

しかし、蓋を開けてみればNILという笠に身を隠した悪どい大人たちが、NILディールという体で巨額のマネーを選手にちらつかせることで彼らを自分の推しチームに囲うという道具に使われてしまっています。

当然、導入当時の目的通りに有効に使っている学生アスリートはたくさんいると思われますが、トップリクルートと言われる、チームの命運を握っているような選手の勧誘、もしくはチームの主力選手を元鞘に留めるため、もしくはそういった選手をトランスファー経由で引き抜く「餌」としてNILディールが使われていることは明らかです。

そんな中、アラバマ大ニック・セイバン(Nick Saban)監督は、学生アスリートたちがNILで収入を得ること自体には賛成しているようですが、NILとそれを取り巻く環境が呼び起こす未来には警鐘を鳴らしているようです。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

「もし現在のカレッジフットボール界に不均衡があるというならば、それは今後さらに顕著になっていくことでしょう。」

セイバン監督は、現在のNILの野放し状況はすでに「プレーする対価としてお金を支払う」という、いわゆる「Pay for Play」の状況にすでにあるといっています。

「Pay for Play」の際たるモデルはプロスポーツであり、彼らはプレーすることで収入を得て生活している、つまりスポーツ選手であることが職業である、言い換えれば彼らは「労働者(Employee)」ということになります。

当然カレッジアスリートは大学生であり、労働者ではありません。プレーすることで対価を得ていないからです。NILが導入された後もNCAA(全米大学体育協会)は学生アスリートたちが「Pay for Play」モデルで収入を得ることを禁じています。それはアマチュアリズムという最後の砦を守るためでもあります。

しかし、現実は大学がそういうNILディールをお膳立てできなくても、「コレクティブ(Collective)」と呼ばれる外部で第三者の集まりが、NILディールを仲介して選手たちにウン千万円相当の支払いを行なっているのが現状です。そしてそのディールの内容といえば、その巨額の支払いに値する内容でないのがほとんど。つまり、支払える額はNILの内容を度外視し、コレクティブが好きな額だけ学生アスリートに支払えるというわけです。

セイバン監督も「NILは学生が収入を得ることができるというツールとしては非常に良いものであるが、それが実際にPay for Play的な使われ方をすれば、我々は今後これまで経験したことのない世界へと突き進んでいくでしょう。」と危惧しています。

「これが我々の望む未来なのか?」

2009年にアラバマ大で初のナショナルタイトルを獲得したセイバン監督は、2011年と2012年にもナショナルタイトルを連覇してダイナスティ(王朝)の始まりを謳歌していました。当時のアラバマ大はランを基調にしたオフェンスと強力なディフェンスで相手を倒していくスタイルで他チームを圧倒していたのです。

しかしちょうどこの頃、SEC(サウスイースタンカンファレンス)でもスプレッドオフェンスを操るチームが出てきており、2012年には当時1年生QBだったジョニー・マンゼル(Johnny Manziel)率いるテキサスA&M大がこのオフェンスを用いて当時1位だったアラバマ大をアラバマ大のホームで倒すという大金星を奪っていました。

SECは元々フィジカルフットボールを前面に打ち出したフットボールで知られていました。確かに途中フロリダ大スティーヴ・スパリアー(Steve Spurrier)監督が「ファン・アンド・ガン(Fun n Gun)」と呼ばれた、ショットガンフォーメーションからのパスオフェンスで鳴らしたこともありましたが、基本的にSECではランで押すのが美徳とされていたのです。

そこに来て2010年代に入りSECにもスプレッドオフェンスの波が訪れてきたのですが、これに素早く危機感を持っていたのがセイバン監督でした。ガチガチのフィジカルフットボールよりもスペースを広げたパスによる飛び道具をつかったオフェンスが界隈を蹂躙するのではないかと感じたのです。

実際彼はこのスプレッドオフェンスの台頭を肌で感じ、「こんなフットボールが我々が求めていたフットボールの形なのか?」と疑問を投げかけたのですが、これは時代の波を理解できない時代遅れの思考だとして当時は批判されたものでした。

ただ、セイバン監督自身は2014年にスプレッドオフェンス、そしてRPO(ランパスオプション)オフェンスを操るレーン・キフィン(Lane Kiffin、現ミシシッピ大HC)氏をオフェンシブコーディネーターに招いて従来のオフェンスから舵を切り、2015年度のナショナルタイトル獲得に多いに貢献し、以来アラバマ大のオフェンスはパスに重きを置くオフェンスへと変化していきました。

話が少しそれましたが、かつて時代の変化に一石を投じて批判を受けたセイバン監督は、新たなNILという波を目前として、2012年に残して批判された自分のコメントを槍玉にあげてこんなふうに述べました。

「かつて私が述べたコメントに対して多くの批判を受けたことがあります。『こんなフットボールが我々が求めていたフットボールの形なのか?』と。そしてこのNILに関しても同じような気持ちになっているのが正直なところです。このままだと、ある偏った人たちが他の人たちよりもお金をばら撒くことを厭わないため、カレッジフットボール界は競技を行う上で平等ではなくなってしまうからです。」


広がる格差

お金を持っているコレクティブと(間接的に)繋がっている大学や、NILディールでお金が生まれやすい都市部にある大学では巨額なNILがポンポンと出てきますが、そうでない場所ではNILの規模にも限界があります。つまり、お金をたくさん持っている大学(ないしそれと間接的に繋がっているコレクティブ)がいい選手をNILで釣れて、そうでない大学との格差がどんどん開いていくというわけです。

プロリーグであるNFLではこのような問題は最小限に食い止めることができています。それは彼らにはサラリーキャップが存在するからです。選手を獲得するための資金力を統一にすることで、ある一部のチームだけが飛び抜けていい選手だけをかき集めることができることを防いでいるわけです。

もともとカレッジには選手をお金で買うというコンセプトはありませんが、現実的にはそれをこのNILが合法でできてしまっていて、しかしながらNILには総額の制限やらルールがないために、お金を持っているチームとそうでないチームに差が生まれてしまうのです。

例えばテネシー大の1年生QBニコ・イアマリアヴァ(Nico Iamaleava)は今後4年間で800万ドル(1ドル100円計算で約8億円!!!)というNILディールを取り付けた、なんて話もあり、一体何をする対価で800万ドルも支払ってくれるのかわかりませんが、NILにおいては上限のルールもなく、NILの内容も曖昧で、ディールの内容もその対価もコレクティブのさじ加減一つなのです。

こうなれば先にもいった通りお金に糸目がないチームだけがいい選手を「買う」ことができるようになり、そしてそういったチームは大抵名門とか強豪とか言われるチームに限られてきます。

2000年以降のカレッジフットボール界の頂点に立てたのは実に述べ12校。このお馴染みの大学だけがタイトルを争うという姿がすでに偏り過ぎているという批判があるところ、このNILの現状を鑑みるとこの不均衡さはさらに加速するとセイバン監督は危機感を強めています。

「この偏った世界を救うことができるのならば、学生アスリートたちを労働者と定義して労働組合をつくればいい。そうすればサラリーキャップ的な仕組みを導入できるだろうし、現在のような、州ごとや大学ごとでNILに関して異なったルールを扱わなくても良くなるだろう。」とはセイバン監督談。

連邦法の必要性

NILに関しては先のSEC春季ミーティングでも話題になり、各大学の監督が自分の意見を述べていましたが、結局どんな案を発表したとしても、コーチ本人にも、SEC自体にもNILを制御する術はありません。それは各州ごとにそれぞれがそれぞれの解釈のもとでNILを許してしまっているからです。

この現状を一網打尽にするには州法よりもさらに力の強い連邦法でNILを制御する必要があります。NILを中途半端に認めてしまったNCAAは、このカオスを見て連邦政府に助けを求めましたが、当時は時すでに遅し。政府はNCAAの尻拭いをする気は毛頭なかったということで、結局NCAAの後手後手の政策のせいで空前の混沌に見舞われ、そしてその張本人だったマーク・エマート(Mark Emmert)氏は引退を表明してしまいました。

新たなNCAAプレジデントであるチャーリー・ベーカー(Charlie Baker)氏にはこの現状を解決する策を捻出してもらうことが最大のタスクとなりそうですが、一方SECはコミッショナーであるグレッグ・サンキー(Greg Sanky)氏そしてアラバマ大のセイバン監督らは自らワシントンDCに赴いて議員たちとNILを連邦法でなんとかコントロールできないかという訴える行脚を行うことになっています。

カレッジフットボールの行末を占う上でも非常に重要なNILのリフォーム。果たしてこの現状が変わることはできるのでしょうか・・・。

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