前回カレッジフットボールにおいて予算・収入が増えたことをお話ししましたが、それだけが今のカレッジフットボール界を「国民的スポーツ」に育て上げたわけではありません。ビジネスとしてのカレッジフットボールが大成することは、それだけカレッジフットボールが世間の目に触れることになり、そのポピュラリティーは上がります。しかしやはりいつの時代もカレッジフットボールを支えているのは選手、そしてコーチたちです。
選手・コーチあってこそのカレッジフットボール
カレッジフットボールとNFLの決定的な違いは(選手のレベルを除いて)、カレッジフットボールではいかにスター選手が現れたとしてもその選手がチームで活躍できるのは大抵3、4年の間のみであるということです。特にNFLへの早期ドラフトを決意する選手が年々増える中、チームのトップ選手が4年間を成就するケースはだんだん珍しくなってきました。ですから世間を賑わす選手が突如として出てきては消えていく。そしてまた別の選手が限られた時間の間ヒーローとなるのです。
一方で選手と違って長いこと腰を下ろしてチームを形成していく人たちがいます。それがコーチ陣であります。
アラバマ大でそのカリスマ性を発揮し、ここ何年もチームをタイトルを狙えるレベルに育て上げているニック・セイバン(Nick Saban)監督。昨年はプレーオフ準優勝で歴史的敗退(31対0)を喫してしまいましたが、それでもオハイオ州立大で結果を出し続けるアーバン・マイヤー(Urban Meyer)。彼らは選手が入れ替わったとしても常に上を狙えるだけのチームを世に送り出し続けています。それは彼らコーチの手腕の賜物であります。
また彼らのような常勝コーチだけでなく新興勢力も力をつけてきています。例えばクレムソン大のダボ・スウィニー(Dabo Swinney)監督。彼は自身のポジティブな性格で選手を引きつけ、彼らの能力を伸ばしてあげるのに秀でています。また自分の思ったことを包み欠かさず口に出し、時にそれが誤解されることがあったとしても、自分を偽ることをしません。そう言った意味では上にあげたコーチたちとは違ったキャラクターの持ち主と言えます。
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ミシガン大のジム・ハーボー(Jim Harbaugh)監督もいいキャラクターの持ち主です。就任初年度となった2015年度からミシガン大を全米の檜舞台へと復活させ、2016年度は途中までプレーオフ進出に最も近いチームとしてミシガン大を率いていました。それだけでなくハーボー監督はオフシーズンでも話題提供に事欠きません。敏腕コーチでありながら奇抜であるという彼のキャラクターは今のカレッジフットボールでは稀有の存在。まだ何もタイトルを獲得してはいませんが、ハーボー監督がミシガン大にやってきたことは、例えライバルチームのヘッドコーチたちを逆撫でしているとしても(笑)、カレッジフットボール界には必要不可欠な存在となりました。
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そのほかでは、80年代に流行ったマレットヘアー(襟足を伸ばしたヘアースタイル)を惜しげも無く披露するオクラホマ州立大のマイク・ガンディ(Mike Gundy)監督。常に辛口で笑わないワシントン州立大のマイク・リーチ(Mike Leach)監督。昨年その独特なモチベーション方法でウエスタンミシガン大をシンデレラチームに育て上げたミネソタ大の新コーチ、P.J.フレック(P.J.Fleck)監督。
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そして今一番注目を浴びている若きコーチとしてテキサス大のトム・ハーマン(Tom Herman)監督が挙げられます。マイヤー監督の弟子だったハーマン監督はオハイオ州立大を出てたった2年後に名門テキサス大の監督に就任しチームの再建を任されました。
こういったコーチたちを挙げればキリがありませんが、彼らは腕が経つだけでなくそれぞれのキャラクターにも注目が集まる人物たちなのです。彼らが今のカレッジフットボール界を盛り上げていると言っても過言ではありません(彼らがそれを狙って振る舞っていなかったとしても)。
プレーオフ導入
そして2014年度から導入されたプレーオフ制度もカレッジフットボール界にスパイスを与えてくれています。現行のフォーマットではCFP(College Football Playoff)ランキング上位4チームが出場できることになっていますが、2014年度からこれまで行われた準決勝戦全6試合のうち2014年度のオハイオ州立大vsアラバマ大戦以外は残念ながら盛り上がりに欠ける結果となっています。それでも長きに渡りその必要性が叫ばれていたプレーオフが導入されたことは大きな進歩といえると思います。
それは実際のプレーオフだけでなく、そのプレーオフに進出するためにどのチームも負けられないという状況を作ったことがシーズン後半戦の試合一つ一つに新たな重みを加えることにもなりました。どのチームがプレーオフ進出を果たすか?どの試合がプレーオフ進出のために重要な試合なのか?どのチームがプレーオフ候補チームの足元をすくうことが出来るか?ファンにとってはまたとない話のネタが増えたのです。
4チームのプレーオフは十分か(4チーム以上に増やすべきか)という議論は今後も交わされていくことでしょう。120校以上あるFBSにおいて優勝を狙えるだけのチームが4チームしかないというのは現実的ではありません。かと言ってチームを増やしてトーナメントを拡大すれば、さらに試合数が増えていくことを意味しますから、そう簡単に8チームプレーオフを導入はできないのが現状です。レギュラーシーズンの試合を減らせば良いのでは?と思うかもしれませんが、そこは様々な利権が絡んでくるため簡単にはいきません。
個人的には各カンファレンスの優勝チームは自動的に出場権を確保し(10チーム)、それ以外の上位6チームを含めた16チームのトーナメントが見てみたいです。もちろんそのためにはレギュラーシーズンの数を規制する必要があるとは思いますが。そう言った意味では16チームトーナメントは現実的ではないでしょうね。
上限のない「期待」というハードル
アラバマ大、サザンカリフォルニア大、オハイオ州立大、フロリダ州立大、ペンシルバニア州立大、オクラホマ大、ミシガン大の7チームは2016年度のファイナルランキング(AP=Associate Press)で10位内でフィニッシュし、前評判では(相当気の早い前評判ですが)彼らは2017年度のプレシーズンランキングでトップ10入りするものと噂されています。プレシーズンランキングに意味があるのかどうかという議論は置いておいて、ランク入りすればそれだけ期待度は高まります。それが高まれば高まるほどそれらのチームには壮絶なゴールが設けられることになります。それこそ「アラバマ大なら連覇して当たり前」というような。
上に挙げたような強豪チームには多くのファンが付いていますが、また逆にアンチもファンと同じかそれ以上いることも事実。「メイドインアメリカ」のチームとも言われるノートルダム大でさえアンチはたくさんいます。強過ぎると嫌われる、好かれ過ぎると嫌われる、こういう思考回路は世の定めなのです。
そんな様々なプレッシャーを背負って強豪チームはカレッジフットボール界の頂を目指します。前述のテキサス大のハーマン監督はおそらく1年目からナショナルタイトルを獲るように義務付けられるような期待を背負っているはずです。そしてそれが達成されなければとことん叩かれる・・・。アラバマ大は昨年2連覇を目指してシーズンを戦い抜き、予想通りにナショナルチャンピオンシップに進出。しかし惜しくもクレムソン大に破れ連覇はなりませんでした。ただアラバマ大ファンからすればたとえタイトルゲームに2年連続進出しても、結局連覇できなければ意味がない、と思っている人も少なくないでしょう。実際2年連続でここまで勝ち進めること自体がすごいことだというのに、です。それだけ強豪チームへのハードルが上がってしまっているのです。
進化していくカレッジフットボールの未来
そんなアラバマ大は来季の開幕戦でフロリダ州立大と相見えることが決まっています。おそらくプレシーズンランキングで1位と2位というまたとない対戦カードとなるでしょう。これが記憶に残る「世紀の一戦」となるかはわかりません。でもカレッジフットボールが盛り上がるためにはまたとないマッチアップに変わりありません。フットボールに飢えた我々カレッジフットボールファンにはまたとない形でシーズンが開幕するのです。
力と力のぶつかり合い。どちらもそれぞれの州で英雄的な扱いをされているチーム。そして飛び交う札束(笑)。
時が経っても変わらないのは、結果を予想できないフットボールというスポーツの核心ですが、新たに新設されたプレーオフシステムはそのシーズンの覇者を決定づけるものとしてだけでなく、これから新たな時代に突入していくカレッジフットボールの狼煙を上げるものとなりました。
ビジネスとしてのカレッジフットボールは上向きです。チケットセール、TV放映料、インターネットのストリーミング・・・。カンファレンス優勝決定戦がほぼ全カンファレンスで行われることでそこからも収入が見込まれることになりました。大学レベルでここまでお金が動くことは日本では想像すらつかないことでしょうね。その恩恵はもちろん所属するチームに還元されていくのですが、我々カレッジフットボールファンもそれに乗っかるようにしてこの素晴らしいスポーツにどっぷりと浸かることができるようになりました。そしてこれからさらに進化していくカレッジフットボールをワクワクしながら待ち焦がれるのです。