2019年度シーズン振り返って・・・

2019年度シーズン振り返って・・・

昨年8月末より約4ヶ月半に渡り激闘が続いた2019年度のカレッジフットボール。その中でもNCAA1部のフットボールボウルサブディビジョン(FBS)に所属する130チームの頂点に立ったのはサウスイースタンカンファレンス(SEC)のルイジアナ州立大でした。

もちろん各チームともカンファレンスタイトルやナショナルタイトルを目指してこの3ヶ月半(プレシーズンを入れればそれ以上)汗を流してきたわけですが、これだけの期間があればシーズン中に様々なドラマが起きるもの。そこで2019年度シーズンを締めくくるにあたりこれから数回に渡りシーズンを振り返る記事をあげたいと思います。

今回は筆者的に印象に残った今季のカレッジフットボール界の出来事を書き残したいと思います。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

トランスファーポータル

トランスファーポータル」とい言葉がカレッジフットボール界に蔓延りだしたのはつい最近のことです。しかし今ではこの言葉を聞かない週は無いのではないかというくらいよく耳にするようになりました。

トランスファーポータルとはその名の通り転校生のためのポータルサービスなのですが、トランスファー(転校)したい選手たちがここに登録すると全国の大学のコーチたちがその選手にコンタクトを取れるようになるのです。それにより選手たちは自分が他のチームでどのような評価を受け、自分に転校する価値があるのかを見定めることが出来ます。

ポータルに登録したからと言って転校しなければならないということではありません。もちろんその行為によってその選手にそういった意思が少なからずあることは明らかになってしまいますが、吟味した結果結局元の鞘に戻るということも起きています。が、大抵の場合ポータルに名を連ねる選手は所属するチームに不満を持っていたりする場合が多いので登録すること事態が大きな決断であり、その結果新天地を求めて転校していくというケースが増え続けています。

現に2019年度のハイズマントロフィー授賞式に招待された4選手のうち実に3選手が転校生でした。受賞したルイジアナ州立大のジョー・バロウ(Joe Burrow)は元オハイオ州立大オクラホマ大ジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts)は元アラバマ大、オハイオ州立大のジャスティン・フィールズ(Justin Fields)は元ジョージア大と新天地で結果を出してチームの躍進に転校生が一役も二役も勝っているのです。

経験のある選手で学位を取った後に試合出場資格がまだ残っている選手や、チーム内での先発ポジション争いが熾烈なために出場機会を求める選手などは、そのポジションが手薄な他のチームにとっては格好の即戦力となるわけです。もちろん転校生の存在は今に始まったことではありませんが、ここまでトランスファーポータルを利用してチームを鞍替えする傾向は過去にはありませんでした。

それもこれもチームへの忠誠心よりも自分が上(つまりプロ)に行くという個人の野心を優先する近年のトレンドが反映されています。一昔前よりも選手たちのプロ選手志向は格段に上がっています。自分だってプロでやれる素質を持っている、でも試合に出れなければそれをアピールすることはできない、だから新天地で出場チャンスを求める。この思考構造が蔓延っているというわけです

良いか悪いかは別として今後もこのトランスファーポータルを利用した選手の「フリーエージェント化」は続いていくことでしょう。


名門校・期待されたチームたちの低迷

プレシーズンのランキングというのは一概に信用できるものではありません。前年度終了時から春季トレーニングを経てプレシーズンキャンプに至るまでチームの実戦力などは図りすることなどできるはずがなく、しかしそこに存在する情報を元にメディアは机上の空論でシーズン前のトップチームたちにランクを付けなければならないからです。

ですから当然ランクが上だったのにいざシーズンが始まってみたらその評価が過大評価だったという残念なチームも現れるわけです。

2019年度の場合で言えば開幕前の時点で10位だったテキサス大、12位のテキサスA&M大、13位のワシントン大、18位のミシガン州立大、22位のシラキュース大、24位のネブラスカ大、そして25位のスタンフォード大などは全てシーズン早々にランク場外へ転がり落ちていきました。

また名門フロリダ州立大のスランプは目を覆いたくなるような酷さでした。昨季2年目のウィリー・タガート(Willie Taggart)監督指揮下のチームは出入りの激しいシーズンで9週目にはマイアミ大に負けて黒星が先行すると大学はまだ2年目のタガート監督に早くも見切りをつけるという荒行。結局ボウルゲームでアリゾナ州立大に負けて2年連続負け越しという結果に

SMU、ミネソタ大の快進撃

そのように期待に応えられないチームはどの年でも現れるものですが、それと同じように予想外の活躍をする「シンデレラチーム」というのも現れるのがカレッジフットボールの面白いところ。

今年は特に古豪であるサザンメソディスト大(SMU)とミネソタ大の快進撃には目を見張るものがありました。

サザンメソディスト大といえばかつて1970年代に猛威を奮ったチームですが、同時期にNCAAの規則違反を犯して長いカレッジフットボールの歴史の中でも後にも先にも例を見ないほどの重い罰則、1年間の対外試合禁止処分に処されました。俗に言う「デスペナルティー」です。

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これで彼らの勢いは大失速し、それ以来彼らが全米の表舞台にその名を轟かすことはありませんでした・・・昨年までは。

2019年度はソニー・ダイクス(Sonny Dykes)監督2年目でしたが、このチームは実に20人近くの転校生を迎え入れ、その中には「パワー5」の常勝チームから流れてきた選手も多く居ました。その最たる人物は元テキサス大先発QBシェーン・ビューシェル(Shane Buechele)。才能も経験もある彼の活躍もありなんとSMUは開幕以来破竹の8連勝。約40年ぶりにランクされ最高で15位にまで上昇。中盤までカレッジフットボール界を大いに沸かしてくれました。

またミネソタ大はカレッジフットボール創生期から存在し続けてきた老舗。ナショナルタイトルも合計7度獲得しており1960年代までは強豪校として名を馳せていたチーム。しかしカレッジフットボールの勢力図が変わると彼らは目立った活躍を残すことが出来ずいつしか100校以上あるFBSチームの中の1チームとしてその山に埋もれてしまいました。

しかし2019年度は3年目のP.J.フレック(P.J. Fleck)監督の元SMUと同じように連勝街道まっしぐら。開幕以来9連勝を飾り最高で全米8位にまで躍り出ます。結局夢のCFP進出並びにBig Tenタイトル獲得はなりませんでしたが、1904年以来の11勝を飾るなどして歴史に残るシーズンを送ったのです。

いつの時代もアンダードッグには頑張ってもらいたいと思うのが大衆の心理。カレッジフットボールファンとして彼らには十分楽しませてもらいました。

SB206

カレッジフットボールと直接関係しているかどうかは分かりませんが、2019年度シーズン中に起きた一大ニュースに「Fair Pay To Play Act(SB206)」というカリフォルニア州法の承認がありました。


カレッジフットボールに限らずアマチュアスポーツである大学スポーツにおいてそれをすべて統制している全米大学体育協会(NCAA)は選手たちがスポーツを通じてお金を稼ぐことを禁止しています。それこそがアマチュアリズムの根底にあるものだという信念があるからです。

しかしそれに異を唱えたカリフォルニア州知事ギャヴィン・ニューサム氏が学生アスリートでもお金を稼いでも良いとする州法に署名。これによりアマチュアである学生選手たちもプレーすることでお金を得ることが可能になる・・・かもしれないという期待が生まれたのです。

しかし当然黙っていないのはNCAA。この州法が施行されるのが2023年と少し先のことではありますが、これが通ればカリフォルニア州にいるアスリートたちが自分の肖像権(Name, Image, Likeliness/NIL)を元に商売ができるようになるということですが、そうなるとカリフォルニア州以外の選手たちにとっては不公平となってしまいます。当初はもしこの州法が施行されればそれに準じる大学をNCAAから締め出すとまで言い出した始末。

しかしその後NCAAが恐れていたことが起き始めます。というのもそのカリフォルニア州に追随する州が各地で現れたことです。カリフォルニアだけがSB206を施行する州であるならばNCAAのパワーも威力を発揮しますが、そのような州が増えれば増えるほど今度は逆にNCAAがマイノリティーと化してしまうのです。そうなればNCAAがその影響力を失う羽目になってしまいます。

ということでNCAAとカリフォルニア州、されにそれに追随する州との全面対決は避けられないと思われていました。が、なんと程なくしてNCAAが方向転換。NILを元手に選手たちがお金を稼げるようにシステムを改革すると明言したのです。

アマチュア選手として学業とスポーツの二足のわらじを履いている彼らですが、一方でその彼らと関わることでとんでもない額のお給料を貰う監督が続出したり、テレビの放映権で莫大な富を得るカンファレンスや大学が出るというある意味理不尽な状況が存在していました。今後この新たな試みが現実となるためには様々な方面でてこ入りが必要となってくるでしょう。しかし長いカレッジスポーツの歴史の中でこのことが容認されるということはルネッサンス並みの大改革なのです(大げさか?)

CFP進出レース

CFP進出レースは熾烈を極めました。第11週目に発表された第1回目のCFPランキングではオハイオ州立大ルイジアナ州立大アラバマ大ペンシルバニア大の4チームがトップ4を飾りましたが、その週には2位のルイジアナ州立大と3位のアラバマ大が激突。これをルイジアナ州立大が制してアラバマ大に土をつけます。また同じ週には4位のペンシルバニア州立大がミネソタ大に敗れトップ4チーム中2チームが早くもランクを落とすという事態に。

第13週目を迎える頃には無敗チームはルイジアナ州立大オハイオ州立大クレムソン大の3チームのみとなり、4つ目の椅子を8チームの1敗チームで争うという過酷なサバイバルレースに陥りました。

5位のアラバマ大はレギュラーシーズン最終戦でアーバン大に勝てばおそらく4つ目のチームとしてプレーオフ進出を決めていたでしょうが、まさかの敗戦で2敗目となりプレーオフレースから脱落。ペンシルバニア州立大もオハイオ州立大に敗れ2敗目を喫し、Pac-12カンファレンスタイトルゲームでオレゴン大に勝っていればかなりの確率でプレーオフ進出が決まっていたと思われたユタ大も転け、快進撃を続けてきたミネソタ大もあと少しというところでウィスコンシン大に痛い2敗目を喰らいました。

結局残ったのは無敗の3チーム、そしてBig 12カンファレンスタイトルゲームでベイラー大を退けて滑り込んだオクラホマ大の計4チーム。これらのチームで全米ナンバーワンを決めるプレーオフが行われたのです。

LSU!

御存知の通り今年のナショナルチャンピオンは15勝無敗の完全シーズンを成し遂げたルイジアナ州立大でした。とにかく今年のLSUは強かった。テキサス大、フロリダ大、アーバン大、アラバマ大、ジョージア大、オクラホマ大、そして決勝戦でのクレムソン大とトップ10チーム7校と対戦してすべて勝利を収めました。その原動力となったのはハイズマントロフィーを受賞したQBジョー・バロウ(Joe Burrow)。彼はオハイオ州立大で出番がなかったために転校してきた選手ですが、今年は誰もが認める完璧なQBに生まれ変わり強者どもを切り崩していきました。

しかし彼だけでなくWR、RBにプロ級の選手を擁し、コーチ陣には若手のホープであるジョー・ブレディ(Joe Brady)氏やDCデイヴ・アランダ(Dave Aranda)氏など今考えられる中で最高のアシスタントを従えたエド・オルジェロン(Ed Orgeron)監督のリーダーとしての質も光りました。

過去4年間決勝進出を果たしていたアラバマ大、そしてそのうち3度の対戦相手となったクレムソン大が開幕前から再び全米王座決定戦で相まみえることになると言われていました。しかし結果的にそのアラバマ大はプレーオフにすら進出できず、出場したクレムソン大もルイジアナ州立大に完敗。アラバマ大とクレムソン大が他を圧倒する図式に飽き飽きしていたファンとしては非常に新鮮な全米チャンプが誕生したといえるでしょう。

End of Era?

そのアラバマ大ですが、過去10年間で5度のナショナルタイトルを獲得しCFPには5年連続で出場を果たしてきたものの今年その連続記録が遂に途絶えました。

オフェンス的には他のどのチームとくらべても遜色ないタレントぞろいでした。QBトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)が怪我で戦線離脱したのは大打撃となりましたが、ジェリー・ジュディ(Jerry Jeudy)、ヘンリー・ラグス(Henry Ruggs)、デヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)、ジェイレン・ワドル(Jaylen Waddle)というWR陣は驚異的な威力を誇りOL陣もしっかりしていました。彼らがいつもと違ったのはディフェンス力。これまではスタッツでどのジャンルでもトップ3に君臨していたのが軒並み低下。特にランディフェンスの脆弱さは目に余るものでした。

では果たしてこれがこれまで彼らが築き上げてきた「ダイナスティー」の終焉を意味するのか・・・。それはまだ分かりませんが、少なくとも昔のように手のつけようがないチームではなくなったというのが正直な印象でしょうか。ただリクルーティングでも未だトップ3を維持していますし、タガヴァイロアやジュディ、ラグスが抜けるとは言え選手の層はまだ揃っています。11勝もしているのに「王国陥落」というのもとんでもない話ではありますが、アラバマ大に寄せられる期待度を考えると致し方ないのでしょうね。

プレーオフの拡張は?

悲願のプレーオフ制度が設けられてから早6年。それまではBCS(ボウルチャンピオンシップシリーズ)でのコンピューターランキングで選ばれた2チームの戦いで全米王者を決めていましたが、少なくともこのCFP制度ではトップ4チームが準決勝戦と決勝戦を経てチャンピオンを決めるという柔軟性を備えているといえます。

参考記事ボウルチャンピオンシップシリーズ

しかし人間とは与えられれば「もっと」を望むもの。トップ4チームだけでナショナルタイトルを決めるのは十分なのかどうかという議論は常に行われてきました。

例えば今年なら無敗チームが3つ、1敗チームが1つと数字の面ではトップ4たる4チームが生き残ったといえ結果的に上手く言ったといえそうですが、一方でオクラホマ大はルイジアナ州立大に準決勝戦なのに手も足も出ず大敗してしまったことを考えると、例えばこれがオレゴン大だったらどうだったろうか、とかシーズン中に激戦を繰り広げたアラバマ大との再戦だったらどうだったのだろうかという考えも浮かんでしまいます。

個人的にはFBSの下部組織であるFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)が行っているような16チームのプレーオフを希望したいですが、それだと試合数が絶対的に多くなってしまうのでそれが現実となることは無いでしょう。でなければ6チーム無いし8チームのプレーオフに拡張してみてもいいのではないか・・・と考えます。

しかしそれにはやはりレギュラーシーズン中の試合数を一つ削る必要があると思いますし、それもなかなか難しいのかな・・・と。

現地の声を聞いても今のところプレーオフ拡張の論調は多くないのでしばらくは4チームのプレーオフが継続されていくことでしょうね。

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