陸軍士官学校 vs 海軍士官学校
カレッジフットボール界は各カンファレンス優勝決定戦を終え、カレッジフットボールプレーオフ(CFP)進出を果たした4校も決まり、ボウルゲームが始まる来週まで一段落・・・。と思っているあなた!今週末にも見逃せない試合が1試合だけ用意されていますよ!
それが伝統の陸軍士官学校vs海軍士官学校「アーミーvsネイビー」戦です。
その名の通り将来陸軍士官や海軍士官になる候補生たちが通う学校。通常の大学とはちょっと違いますが、陸士・海士の他に空士(空軍士官学校/エアフォース)にはそれぞれスポーツ部が存在し当然アメフトチームも運営されています。
士官学校とは?
海軍士官学校はアメリカンアスレティックカンファレンス所属、空軍士官学校はマウンテンウエストカンファレンス所属で、陸軍士官学校だけは現在どこにも属さない独立校(無所属)となっています(来年からアメリカン所属に)。この3つの士官学校(サービスアカデミー)間では総当たり戦が行われ、勝ったチームには総司令官杯(Commandar-in-Chief Trophy)が授与されることになっています。
今年は空軍士官学校が海軍士官学校を倒しましたが、陸軍士官学校が空軍士官学校をアップセットしたので、もし今回の試合で陸軍士官学校が勝てば彼らが総司令官杯をゲット。海軍士官学校が勝てば3チームでのシェアとなります。
しかしその3つの士官学校間の対戦でも陸士と海士の一戦は別物。永遠のライバル関係ということで他のライバリーと同じようにレギュラーシーズンの最後に試合が行われますが、ここ最近は他の大学のカンファレンス優勝決定戦が終わった翌週に行われる傾向にあり、その週の唯一の試合ということで特別感が更に増しているのです。
トリプルオプション
この両校の特徴といえばなんといってもどちらも「トリプルオプション」使いであるということ。現在のフットボールといえばパスがガンガン飛び交うオフェンスが主流であり、QBの出来次第で試合が決まってしまうというのが常識と化しています。そんな中で士官学校(空士も含め)は未だにランヘビーのオプションフットボールを使用している数少ないチーム。その地上戦でガチンコ勝負が見れるのですが、スタイルから言ってハイスコアの点の取り合いになることがなく、そういった点取合戦を期待する方にとって見ると見ていられない試合なのかもしれません。
(ただ今年から陸軍士官学校はパスを織り交ぜたオフェンスに方向転換しています)
しかし決められたアサインメントを正確にこなし、精密に計算されたプレーを完璧なタイミングでこなさなければ成功しないトリプルオプションをマスターしている彼らの試合を見るのは至高の喜び。陸軍士官学校は5勝6敗、海軍士官学校は4勝7敗と今季の戦績はそれぞれ満足できるものではありませんが、それでもトリプルオプション同士のぶつかり合いはその他のチーム同士の試合とは全く異なる試合展開となり、是非見ていただきたいマッチアップです。
士官学校が未だにオプションフットボールを起用する背景には彼ら選手たちが士官候補生であること、将来軍人になることが挙げられると思います。個を優先するのではなく団体を優先すべきである軍隊というカルチャーがオプションフットボールに通ずるものがあることから長い間好んでこのオフェンスが使われているんだと思います。あとはランヘビーなスタイルであることからタフネスが求められ、それもまた士官学校の方針とマッチするという理由も挙げられるでしょう。
また士官学校は本当のエリートしか入ることを許されませんし、将来軍人になりたいと思っている選手をリクルートしなければいけないという面でフットボール選手としての能力の高い人物を連れてくるのは簡単ではありません。その限られたリソースの中で戦っていくには反復練習で精度を高めることができるオプションフットボールは使用価値があるのです。
オプション使いの士官学校のスタッツは大抵ランに偏っています。たとえば今季のこれまでのランオンオフェンスを見ると全米2位が空軍士官学校で1試合平均275.8ヤード、7位が陸軍士官学校で208ヤード。海軍士官学校は200ヤードで全米13位。全米1位はリバティー大で302.9ヤード、プレーオフ進出チームではテキサス大が189.1ヤードで23位となっていますが、FBS(フットボールボウルサブディビジョン)に130チームが所属していることを考えると士官学校がラン重視のオフェンスであることが浮かび上がってきます。
そしてランでゴリ押しするオフェンスであることからボール所有時間(ポゼッションタイム)も自然に増えていきますが、その証拠に空軍士官学校は平均33分で全米2位タイ、陸軍士官学校は32分で全米11位タイ、海軍士官学校は平均31分で全米19位タイ、ということで、ポゼッションゲームに持ち込めるという大きな利点を持ち合わせています。
おそらくこの試合でも走り合いになると思われ、ポゼッション数も極端に少なくなることが予想されます。2021年の同じマッチアップでは1つのクォーターでのお互いの平均ドライブ数は3回でした。
ただ今年は両チームとも普段よりも少しパスを織り交ぜてきている気がします。それは時代の流れに追随するためなのかもしれませんが、それでも他チームと比べるとパス回数は極端に少ないです。
昨年のマッチアップでは陸軍士官学校が12回のパスで2回成功(28ヤード)、海軍士官学校は4回のパスで1回成功(25ヤード)という数字が残っています。
今季はどちらもここまで5勝6敗。予想は陸軍士官学校に分があると思われますが、トリプルオプションの弱点はターンオーバーが起きやすいこと。特にピッチを失敗するシーンはよく見られますから、海軍士官学校としてはターンオーバーを起点に何とかライバルを出し抜きたいところ。
開催地
昨年はフィラデルフィアイーグルスの本拠地、リンカーンファイナンシャルフィールドで行われましたが今年はニューイングランドペイトリオッツの本拠地であるジレットスタジアムが開催地。スタジアムには陸海両士官学校生が制服を揃えて纏いスタンドを覆い尽くします。この光景はどの試合にもない独特なものです。
また現職大統領が観戦することでも知られいますが、今の所ジョー・バイデン大統領が観戦に訪れるという正式な発表はありません。警備の面で直前まで分からないのかもしれませんが。
スペシャルユニフォーム
またこの試合では両チームともスペシャルデザインのユニフォームを用意。
The Rock of the Marne.https://t.co/E23tIbFswP#GoArmy x #ROTM pic.twitter.com/XsLd28PTvd
— Army Football (@ArmyWP_Football) November 21, 2023
陸軍士官学校は「3rd Infantry Division(第3歩兵師団 )」をモチーフ。
第3歩兵師団は2003年に行われた「Operation Iraqi Freedom(イラクの自由作戦)」を支援。この作戦の20周年目を記念にしてオリジナルのユニフォームが作られました。
Semper Deep#GoNavy | #RollGoats | #SilentService pic.twitter.com/2xChHFrwUy
— Navy Football (@NavyFB) November 20, 2023
海軍士官学校は「Silent Service(沈黙の艦隊)」とも呼ばれる潜水艦隊をモチーフ。
誰にも見つかることを許されない潜水艦隊を模してシンプルなエンジのユニフォーム。そして各潜水艦に実際に見られるようなナンバリングをユニフォームの番号に見立てています。またフッパンにも同じようなナンバリングが施されています。
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1890年が初顔合わせとなったこのライバリー、これまでの通算対戦成績は62勝54敗7分けで海軍士官学校がリード。2002年から2015年まで海軍士官学校は14連勝しましたが、それ以降は陸軍士官学校が5勝2敗とリード。昨年は陸軍士官学校が20対17で競り勝ちましたから今年は海軍士官学校にとってはリベンジとなります。
「America’s Game」とも言われる伝統の一戦。観る機会があれば是非観戦していただきたいマッチアップです。