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Coaching Carousel【ブライアン・ケリーの場合】

Coaching Carousel【ブライアン・ケリーの場合】

前回の記事ではオクラホマ大リンカーン・ライリー(Lincoln Riley)監督がレギュラーシーズン最終戦の翌日にサザンカリフォルニア大の新監督に就任することになったというカレッジフットボール界を震撼させたニュースをお伝えしました。

そして更にこのカレッジフットボール界を揺るがすとも言われるライリー監督のサザンカリフォルニア大入りのニュースを完全に消化し切っていないのに再び大盛りなコーチ交代のニュースが入ってきたのです。

ケリー監督がノートルダム大からLSUへ


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先日からにわかにルイジアナ州立大(LSU)の新監督候補にライリー監督の名前が挙げられていました。LSUは2019年度シーズンに当時史上最強とも謳われたチームを擁してナショナルタイトルを獲得。そのチームを率いたのがエド・オルジェロン(Ed Orgeron)監督でした。しかし全米制覇からたった2年目の今年、LSUは負けが先行する展開となりシーズン中盤に大学側は来季以降オルジェロン監督の続投はないと発表。つまり今シーズン限りでオルジェロン監督解雇が決まっていたのです。

チームを12年ぶりの全米チャンピオンに仕立てた人物を2年で解雇するからには、新監督には確実に毎年タイトルレースで争えるようなチームを育て上げられることが求められます。その大役に白羽の矢がたったのがライリー監督だったわけです。

しかし先週末のオクラホマ大vsオクラホマ州立大の「ベッドラムシリーズ」ではオクラホマ大は敗退。その結果オクラホマ大のCFP出場への希望は海のもずくとなってしまったのですが、その試合後の会見でライリー監督はLSU新監督就任の噂のことを聞かれると、その噂を断固として否定。ライリー監督のLSU移籍はないのだと誰もが思いました。

が、結局彼はLSUではなくサザンカリフォルニア大の新監督に就任。後々話を聞くとたしかにLSUはライリー監督に接触していたようですが、結果的に彼はサザンカリフォルニア大とLSUを天秤にかけサザンカリフォルニア大行きを選んだのです。

LSUの体育局長であるスコット・ウッドワード氏はこれまでゆく先々で様々なスポーツ部に大物監督をつれてくる剛腕で知られていました。特に彼がテキサスA&M大で体育局長を務めていた時には当時フロリダ州立大監督だったジンボ・フィッシャー(Jimbo Fisher)監督を10年契約で総額7500万ドル(1ドル100円計算で約75億円)という(当時では)破格条件でヘッドハントしたことは有名です。

そんなウッドワード氏でしたからLSUの新監督には大物を連れてくると注目されていたところライリー監督に振られてしまったわけです。しかし、いよいよLSUの新監督が誰になるのかまったく見当がつかなくなってきたその直後にドラマは急展開を迎えたのです。

それがノートルダム大ブライアン・ケリー(Brian Kelly)監督がLSUに電撃移籍するというニュースです。

2012年のBCS(ボウルチャンピオンシップシリーズ)タイトルゲーム、並びに2018年と2020年のCFP(カレッジフットボールプレーオフ)進出を果たし、今年歴史あるノートルダム大で最多勝利数監督になったケリー監督はたしかに実力証明済みの大物監督でした。しかしまさかケリー監督がアメリカでも有数の名門校であるノートルダム大を去るなんてことは誰も想像しなかったのです。

一方で必ず大物を釣って帰ってくるとしたウッドワード氏はその約束を守り、LSUに名のしれた著名コーチゲットに成功したわけです


タイミング


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ルイジアナ州立大の監督に就任が決まった後の会見でケリー監督はこの話は天から急に降ってきた話だったと話しています。スタンフォード大との最終戦をカリフォルニア州で終え帰宅し、リクルーティングに出かけている矢先に前述のLSU体育局長であるウッドワード氏からコンタクトがあり、ズームでのミーティングの後に家族と話し合ってこのオファーを受けることにしたのだと。

本当にそのときに初めて聞いた話だったのかは知る由もありません。ただライリー監督のときと同じようにノートルダム大の関係者はこの話は寝耳に水だったようで、アシスタントコーチらでさえ知らなかったそうで、あるコーチはリクルートしている高校生の家を訪問して勧誘した後に家を出たところでケリー監督のニュースを聞き恥をかいたと話した程です。

興味深いのはライリー監督とケリー監督のエージェントは同一人物であったということ。おそらくライリー監督とウッドワード氏はこのエージェントを介して水面下で交渉していたことでしょう。そしてこのエージェントがこの交渉の話を少しでもケリー監督に話していたとしたら・・・たとえば「もしライリー監督との話がまとまらなかったらケリー監督にオファーしたらどうだ?」というような話をウッドワード氏とエージェントが秘密裏に行っていたとしても不思議ではありません。

しかしライリー監督のときと大きく違うのは、ノートルダム大は可能性は高くないとはいえ未だに立派なプレーオフ進出候補チームであるということです。ジョージア大を除く上位校が2つでも負けることがあればノートルダム大が最終ランキングで上位4位入りして2年連続のプレーオフ進出を成し遂げることは至って起こり得るシナリオなわけです。

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しかしそれを蹴って、というかその希望を胸にしている選手たちを置き去りにしてLSUへと去っていってしまうケリー監督には相当な批判の声がノートルダム大内外の関係者から起こっています。

例えばかつてQBとして活躍し現在FOXスポーツのカレッジフットボールコメンテーターとして活躍しているブレディ・クウィン(Brady Quinn)氏はケリー監督の行動を「Classless(節操がない)」と糾弾しました。

おそらくですが、ケリー監督はウッドワード氏との話の中でもしノートルダム大がプレーオフに進出した際には最後までチームを指揮させてもらえないかと頼んだのではないでしょうか。過去には昨年アラバマ大でオフェンシブコーディネーターだったスティーヴ・サーキジアン(Steve Sarkisian)氏がテキサス大の新監督就任が決まった後もアラバマ大に残って二足のわらじを履きながらチームの全米制覇に貢献したというケースはあります。ただサーキジアン氏はOCだったわけでケリー監督とは少し状況が違うことは確かです。

察するにリクルーティングにおいて最重要日である「早期サイニングピリオド」が2週間に迫る中、ウッドワード氏にしてみればぶっちゃけノートルダム大がどうなろうと知ったことはないことで、一刻も早くケリー監督をバトンルージュ(LSUの所在地)に連れてきて残り少ない時間でリクルーティングをまとめてもらいたかったために、ケリー監督にノートルダム大との兼任を許さなかったのではないでしょうか?

早期サイニングピリオドとは、高校生リクルートたちが進学先を正式なものにするために書類に署名出来る期間のことを言います。これまでは2月の第1水曜日のナショナルサイニングデーだけがそのような期間として設けられていましたが、既に進学先を決めてしまっている高校生はこの早期サイニングピリオドで面倒なリクルーティングのプロセスを終わらせることが出来るようになりました)


なぜルイジアナ州立大?


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カレッジフットボールに精通している方ならばカレッジフットボール界においてノートルダム大という存在がいかに特別なものかご存知なことでしょう。

これまで11度のナショナルタイトルを獲得し7人のハイズマントロフィー受賞者を輩出してきた超名門。映画「ルディ」でも有名なこのカレッジフットボールの聖地ですが、とはいえ最後に全米制覇を達成したのは1988年のこと。以来コンスタントにタイトルレースに登場することはありませんでしたが、そんな時2010年に就任したのがケリー監督でした。

以来11年間で負け越しシーズンは2016年のたった一度。2017年度以来は5年連続二桁勝利数を挙げ、リクルーティングでも上向きでまさにケリー監督のもとでノートルダム大は完全に全米トップレベルに定着したのです。また歴史あるノートルダム大において前述の通りケリー監督は今シーズンに伝説の監督であるヌート・ロックニー(Knute Rockne)氏が保持していた同校最多勝利数を更新。まさにこのノートルダム大フットボール部を代表する名コーチとなったのです。

しかし今回のLSU移籍はこれらの名誉をドブに捨てるようなものです。

そもそもライリー監督の場合にも言えますが、かつて監督が名門チームから名門チームに移籍するような例は殆どありませんでした。大抵は小さな大学からコーチングを初め、徐々に実績を挙げて中堅大学のヘッドコーチになり、そこで名を挙げれば上に紹介したような名門校で監督になる可能性が出るわけで、そこに行き着いたならば引退するか解雇されるまで監督を続けるのが常でした。

オクラホマ大にしろノートルダム大しろこれまでならば監督の最終目的地(Destination)だったわけです。しかし今回は2人も名門から名門へと鞍替えをした・・・。これはかなり驚きです。

ケリー監督は就任後に行われたインタビュー(ポール・ファインバウム氏と:ファインバウム氏はSECを中心にカレッジフットボールに精通したベテラン記者)ではケリー氏は「ノートルダム大がどうとかは全く関係ありません。ノートルダム大での時間は素晴らしいのものでしたし、選手たちには本当に愛着があります。しかしLSUでのこのチャンスは見逃せなかったのです。」と話していました。

ノートルダム大でのケリー監督の腕っぷしは素晴らしいものです。歴史的に見て名門であることは周知の事実ですが、どのカンファレンスにも属さない独立校であること、学業のレベル的に高い大学であるゆえに選手をリクルートする際のハードルが高くなってしまうことなどからノートルダム大は長いこと全米の優勝争いから遠ざかっていました。そのチームを現在のようにプレーオフ候補チームにまで育て上げたケリー監督の手腕は本物です。

しかしそのケリー監督をしてもプレーオフではクレムソン大ならびにアラバマ大に完敗。上位には食い込めてもナショナルチャンピオンに手が届くにはまだ何か足りないとしたら・・・そしてそれがノートルダム大ではなくLSUに備わっているとしたら・・・。

悲願の全米制覇はノートルダム大では達成不可能であり、リソースがより揃っているLSUで狙うほうがより確率があると踏んでケリー監督がノートルダム大を去ったという見方が濃厚です。

ルイジアナ州立大は全米レベルで見てもブランド力、リソース、すべての面において5本の指に入る大学と言われています。それをバックボーンに過去最近3人の監督はすべて1度はナショナルタイトルを獲得しているのです。

  • ニック・セイバン(Nick Saban):2003年
  • レス・マイルズ(Les Miles):2007年
  • エド・オルジェロン(Ed Orgeron):2019年

この履歴を見ればケリー監督も「ここなら自分もナショナルチャンピオンになれる・・・」と思ったかも知れません。特にマイルズ氏やオルジェロン氏は起用当時全米で引く手数多な監督というわけではありませんでしたが、そんな彼らですら全米王座にたどり着けたのです。

ただLSUはSEC所属チームとしてアラバマ大、ジョージア大、フロリダ大、テキサスA&M大ら超強豪チームたちとしのぎを削らなければならなくなり、そう簡単にケリー監督が就任したからと言ってLSUがSECを席巻するとは限りませんが、少なくともノートルダム大に居るよりもプレーオフに出場した先に望む結果にたどり着けると思ったのかも知れません。そしてそれはおそらく正解だと思います。


ルイジアナ州立大への影響


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ルイジアナ州立大は深南部フットボールを代表する大御所であり、フットボール部はNFLニューオーリンズセインツと肩を並べるルイジアナ州の顔とも言える「フランチャイズ」でもあります。

その知名度からLSU進学を望むルイジアナ州内の逸材高校生は少なくありません。ルイジアナ州の旗艦大学として同州のリクルートを囲えるという事実は強力です。実際のところ過去を振り返ってもリクルーティングランキングではLSUは必ずトップ5無いし10以内に位置しており、選手の質はピカイチです。

2019年にオルジェロン監督が優勝したチームはルイジアナ州立大史上だけでなくカレッジフットボール史上においても最強チームの一つだと高い評価を受けていました。ハイズマントロフィー受賞QBジョー・バロウ(Joe Burrow、現シンシナティベンガルズ)だけでなくWRジャスティン・ジェファーソン(Justin Jefferson、現ミネソタヴァイキングス)、ジャマー・チェイス(Ja’Mar Chase、現シンシナティベンガルズ)ら多くのNFL級選手を擁し他を寄せ付けない強さでこのシーズンを駆け抜けていったのです。

ただこのシーズン後に主力がごっそりと抜けただけでなく、チームを支えたOC(パスコーディネーター)のジョー・ブレディ(Joe Brady)氏がカロライナパンサーズのOC就任し、DCのデイヴ・アランダ(Dave Aranda)氏もベイラー大監督に就任するためにチームを去りました。すると2020年度は新型コロナのパンデミックの影響があったとはいえ5勝5敗としディフェンディングチャンピオンとしては最悪の戦績を残してしまったのです。

元々コーディネーターとして名を馳せたコーチというわけではなかったオルジェロン監督にとって有能なコーディネーターを組閣することが最大の課題でした。2020年度にアランダ氏の後釜としてDCに選んだのがかつてLSUでDCを務めネブラスカ大でも監督を務めたことのあるボ・ペリーニ(Bo Pelini)氏でしたがこれが大誤算。またブレディ氏が抜けた穴を埋めることが出来ずに攻撃陣も沈黙。

そして今年は攻守コーディネーターを新たに入れ替えてシーズンに臨みましたが負けが先行する展開となって7戦目を終えた時点で大学側はオルジェロン監督に見切りをつけたのでした。

オルジェロン監督の最大の失敗はコーディネーターの組閣失敗です。しかしもっと言えばもともとそこまでの敏腕監督というわけではなかったものの、2019年度に選手・コーチのケミストリーがバッチリ合ったという「偶然」感も否めず、そのせいでハードルが上がってしまったとも言えそうです。

そこに来てケリー監督は行く先々で結果を残してきた「ウィナー」です。

1991年にNCAA2部のグランドバレー州立大のHCに就任したケリー監督は2002年と2003年に全米制覇を成し遂げ118勝35敗2分けという素晴らしい記録を残すと2004年からNCAA1部のセントラルミシガン大監督に就任。中堅大学として鳴かず飛ばずだったセントラルミシガン大で3年目の2006年には9勝4敗という好成績を残して2007年からはシンシナティ大の監督を任されます。ここで3年連続二桁勝利を挙げて株を上げるとついに大御所ノートルダム大のヘッドコーチに起用されることになるのです。

これまでどのレベルの大学においても結果を残してきましたが、やはり特筆すべきはノートルダム大を再び全米の檜舞台に引き上げた手腕です。2016年に負け越した際には自分の力不足を認めてチーム育成のスタイルを大きく変えてその都度状況に適応する「エゴの無さ」も持ち合わせており、それが功を奏して以来5年連続二桁勝利を納め、2度もプレーオフ進出を果たしました。

元々ディフェンス畑出身のケリー監督ですから目からウロコが出るようなオフェンスを持っているわけではありません。しかしそこは有能なコーディネーターを招き育てることで補ってきました。その点がオルジェロン監督と決定的に違うところではないかと素人目からして思います。

これまでずっと米中東部を主戦場にしてきたケリー監督はルイジアナ州には足を踏み入れたことがないと明言しています。過激で熱血なファンが多いLSUで全くカラーの異なるケリー監督がどのようにチームを育てていくのかは非常に興味深いです。


一方ノートルダム大は・・・


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ケリー監督の辞任ならびにLSU移籍の話は選手やコーチにとっては予想だにしなかった出来事でした。彼らはこのニュースをソーシャルメディア等で知ることになり、ケリー監督はLSUの高官とルイジアナで会うためにバトンルージュ入りしたその地からチームにメッセージを送り、自分自身の口から報告できなかったことを詫ました。

そしてその翌日の早朝7時に全体ミーティングを開き事のいきさつを簡潔に説明。そして選手に別れを告げたのですが、その間わずか11分。選手たちは前日に監督がいなくなることを知らされわけもわからないうちに6時に起こされて7時にミーティングに来てみればケリー監督は11分そこらで出ていってしまった・・・。彼らの心中を慮るばかりです

ノートルダム大体育局長のジャック・スワーブリック氏もケリー監督が出ていってしまうことを知らなかったと言っていますが、一方で驚きはしないとも言っています。ノートルダム大はそのブランド力から頼れる新しい指揮官を任命できるとスワーブリック氏は断言しています。

先にも述べたように今週末の他のチームの結果いかんではプレーオフ出場の可能性を残しているノートルダム大。そんな中で監督がいなくなるというのは大変なストレスでしょう。そんな中同校の卒業生であり現在OCを務めるトミー・リース(Tommy Rees)氏はケリー監督に誘われてLSU入りするのではないかという噂が立ちましたが、リース氏自身はチームミーティングにてそれを否定し、「私はここに残る。ここに残って全米優勝を君たちと目指す」と話し選手たちを安心させました。

そしてケリー監督の後継者選びですが、ノートルダム大という学業に長けまたカトリック系の大学ということもあり、人材を選ぶ大学であることから現シンシナティ大のルーク・フィッケル(Luke Fickell)監督やアイオワ州立大マット・キャンベル(Matt Campbell)監督などの名前が上がっていますが、チーム内では現DCのマーカス・フリーマン(Marcus Freeman)氏を推す声が高まっているようです。

現役時代オハイオ州立大でプレーしたフリーマン氏は2017年から2020年までフィッケル監督のもとでDCを務めシンシナティ大が全米トップレベルに成長することに大きく貢献。その腕を買われて今季からノートルダム大にやってきました。

今年まだ1年目ながらケリー監督は「マーカスは将来いい監督になる」と太鼓判を押しました。まだ35歳と若く(リース氏に至ってはまだ29歳)監督経験はないものの、現在のカオスなチーム状況を救うためにはフリーマン氏のような選手から信頼される人物が舵を取ったほうがいいのかも知れません。報道では近日中に正式に発表とありますが果たしてどうなるでしょうか?

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