これまで当サイトでは頻繁に現在のNIL（Name/Image/Likeness）を取り巻くカオスをご紹介してきました。選手たちの肖像権を用いてお小遣いを稼げるとか、クリエイティブ活動の一環として収入を得るとか、そういった観点から始まったとされるNILの仕組みも、現在は選手たちをリクルーティング（勧誘）するための道具に成り下がっているという憂いの現状です。
しかし、そんな混沌としたNILで世間一般的には賛否が分かれる仕組みではありますが、カレッジフットボールファンの間でNILの影響による最大の恩恵といえば、アメリカの大手スポーツ系ビデオゲーム会社である「EAスポーツ」がカレッジフットボールファンのバイブル的存在である「NCAAフットボール」の復活が現実的なことになりつつあることです。
EAスポーツのNCAAフットボール
EAスポーツの「NCAAフットボール」といえば、NFLの「マッデン（Madden）」に並びアメフトゲームを代表するフランチャイズゲームでしたが、十年ほど前に起きた「ボハノン訴訟」により、当時NILという言葉すら存在していなかった中で、選手がお金を稼ぐことが禁止されているのに、その選手を元に作られてビデオゲームによる収入がNCAAに流れ込むのはおかしいのではないか、という理由でこの「NCAAフットボール」は2014年にリリースされた「NCAAフットボール13」を最後に製造が中止されていました。
そして時が流れて現在に至り、世間ではNILによって選手たちが収入を得ることが許されると、その選手たちを似させてデザインされたキャラクターが登場するこのビデオゲームの復活への声が高まっていました。
この場合、登場するキャラクターが実在の選手に似たもの（=Likeness）であるということから、登場する選手たちにインセンティブを支払うことで、このゲームが復活する可能性が出てきたのでした。
そしてついにEAスポーツは2024年度にこのレジェンダリーなカレッジフットボールゲームを復活させることを正式に表明したのです。
今の所EAスポーツは、このゲームに自分の分身として登場したいと思う選手を募り、オプトイン（参加）した選手にのみその対価を支払うというプランを立てています。NIL用に用意された軍資金は約500万ドル（1ドル100円計算で約5億円）で、単純計算だと一人当たり500ドル（約5万円）の支払いが見込まれているということです。
ただゲームのセールスの良し悪しによるロイヤリティ（印税）による支払いはないということで、受け取れるのは出演料のみということらしいのですが・・・。
CFBPAがボイコットを訴える
そんな中、カレッジフットボール選手会（College Football Players Association/CFBPA）の副代表である、元クレムソン大のジャスティン・ファルシネリ（Justin Falcinelli）氏は、EAスポーツから選手への支払いが安すぎるとして、現役選手たちにこのゲームに出演することをボイコットするよう呼びかけたのです。
「すべての現役選手たちはこのディールをボイコットすべきです。彼らにはオプトインするかどうかの選択権が与えられており、このディール下でオプトインするべきではないと考えます。」とあファルシネリ氏。
ファルシネリ氏がこのディールを知った際、すぐさまこの対価が低すぎると感じたそうで、実際に似たようなディール（EAスポーツのMadden経由）を結んでいるNFL選手に聞き取りを行ったところ、ある選手はこのMaddenに出演することで2万8000ドル（約280万円）を受け取ったと話したことを聞いてこのような発言をしたのだとか（平均だと1万7000ドルくらい）。
この状況を踏んでファルシネリ氏およびCFBPAは、カレッジフットボール選手たちは足元を見られていると判断して今回のような「ボイコットをしろ」と訴えかけているのです。
確かにNFL選手と比べると明らかにアンダーペイではありますが、NFL選手の数よりもカレッジ選手の数の方が圧倒的に多く、またマーケットバリューもNFLとカレッジでは大きな差がありますから、プロ選手とペイアウトの位を比べるのは安易だと言えそうです。
また、現役ないしOBの選手の中には、たとえ500ドルでもEAスポーツのNCAAフットボールのビデオゲームが復活してそれをプレーすることができるなら安いものだと言う声も聞こえており、カレッジアスリートの権利を守りたい大人の意見と現場の意見でも隔たりがあるようですね。
