少し前の話になりますが・・・。
このサイトでは主にNCAAの中でも1部、さらに言えばその中でも上位リーグとされるFBS(フットボールボウルサブディビジョン)の動向をお伝えしていますが、NCAAは1部の下に2部、さらに3部までを抱える大所帯です。フットボール部だけで言えば全部で600チーム以上がNCAAに所属していることになり、流石にすべてを筆者一人でカバーすることは不可能ですから最もスポットライトを浴びるFBSを中心に情報を発信しています。
参考記事NCAAとディビジョンしかし2部や3部でも同じように切磋琢磨してフットボールに勤しむ選手やチームはあるわけですが、その中でも3部に所属するグリネルカレッジ(Grinnell College、アイオワ州)のお話。
遡ること10月1日。9月28日の時点で3試合を消化し0勝3敗と厳しい立ち上がりを見せていたグリネルカレッジでしたが、ここまでで全選手38人のうち11人が怪我で出場不可能となり、その結果残り7試合を残して今シーズンのすべての試合をキャンセルするという驚きの決断をしたのです。
FBSのチームともなれば部員数が100人を超えるのは普通ですから、グリネルカレッジが最初から40人にも満たない部員数でシーズンを迎えていることに驚きを隠せませんが、それにもかかわらず試合に出れなくなった選手が11人も出るとなると、それぞれのポジションにバックアップ選手がいるかいないか、というレベルにまで落ちてしまいます。
ですからこれ以上危険を犯してシーズンを送ることは不可能だということでシーズンをキャンセルしたということなのですが・・・。
実はこの話には裏があり、シーズンをキャンセルしたのは大学側の決定ではなく選手たちの意思によるものだったというのです。
チームの4年生LBであるリック・ジョンソンは新聞社の取材の中でこう述べています。
「今シーズンのスケジュールをキャンセルしたのは体育局の決断ではなく私達自身が決めたことです。それは我々のミの安全を確保することと、大学側からもっとサポートを得るための抗議行動でもあります。」
アイオワ州の小さな大学であるグリネルカレッジにはコーチの数も不足し、施設は劣悪、リクルーティングも上手くいかずで、それは大学側の選手たちへのサポートが行き届いていないからだとジョンソンは話しています。
彼によると、コーチたちからは新入生となるリクルートを全国各地から募っていると聞かされている一方、大学側がそのような学生を簡単に入学させない背景があり、また大学側からは同校に来たがるリクルートの数が極端に少ないと聞かされており、一体どちらを信じていいのかわからないというのが現状だそうです。
ジョンソンは続けます。
「原因は大学挙げてのサポート体制の欠如なのです。大学はフットボール部に投資しようとはしません。我々もこの大学にとってフットボール部が最重要課題ではないことぐらいは分かっています。それはいいのです。我が部が最優先されなくてもいいし、この大学がアメフト部で知られるような学校でなくてもかまわないのです。ただ大学側は私達が他のチームと戦えるだけの環境を用意してくれていないということなのです。」
グリネルカレッジのフットボール部が様々な方面で不足状態なのは今に始まったことではなく、アクティブロースターも常に40人から50人という程度でギリギリの状態。過去40年間で見ると部員が40人を切った年が7度もあったということです。
グリネルカレッジの在校生数は1700人程度ですが、近年この大学への入学の競争率が伸び、去年は450人の枠に8000人もの応募者があったということです。学生アスリートもこの450人の中に含まれており、学力でも上位に居なければリクルートされても入学できないという状況に陥ってしまうわけです。
このレベルでフットボールをプレーするということはとにかくアメフトが大好きだから、という理由がその大半でしょう。でなければ厳しい練習や怪我へのリスクを負いながら大学のチームメートやその友達、親兄弟ぐらいしか興味を持たない状況でプレーをし続けようとは思わないはずです。にも関わらずそのプレーチャンスを自ら手放す決断をしたということはそれだけ選手たちが追い詰められていた証拠でしょう。
このチームにはジョンソンを含めて4年生が5人いるそうですが、当然彼らは自身最後となるフットボールキャリアを全うすることができなくなったわけです。それを考えると彼らの心中を察してしまいます。
大学の体育局長は来年の2020年度シーズンにはチームを復活させると話していますが、果たしてここまでして選手たちがチーム内の厳しい状況を訴えたことにより今後いい方向に転がってくれるでしょうか・・・。