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2020年度シーズン開幕への道⑥

2020年度シーズン開幕への道⑥

ご無沙汰しております。だいぶ前回の記事から時間が空いてしまいました。

ここ2週間半、今季のカレッジフットボールが開幕するのかどうか固唾を呑んで見守ってきましたが、先週1週間はまるでジェットコースターに乗っているかのような絶叫感満載の1週間でした

いわゆる「パワー5」と呼ばれる上位カンファレンス群がほぼカンファレンス戦のみの変則スケジュールを発表。形を変えながらもシーズン開幕へ向けて前進したかに見えていましたがそこから事態は急変。現在カレッジフットボール界は今までにない混沌を迎えているのです。

それではここまでの経緯を順を追って振り返ってみましょう。

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ベースボール・マガジン社 (編集)


下部リーグが続々とシーズン開幕を断念

アメリカ全土で未だコロナウイルスが蔓延している中、2020年度シーズンへ向けて開幕が危ぶまれる日々が続いていました。そんな中NCAA(全米大学体育協会)の1部リーグの中でも下部ディビジョンとされるFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)に所属するアイビーリーグが早々に秋季スポーツ開催の中止を決定。それに続くようにペイトリオットリーグミッドイースタンアスレティックカンファレンス(MEAC)などが秋スポーツ開催を断念する決断を下していました。

それでもFCSとは様々な面で構成が異なる上位ディビジョンのFBS(フットボールボウルサブディビジョン)では開催に向けて慎重に事が動き出していました。キャンパスでの自主トレーニングが6月から解禁となりましたが、そんな中各地でクラスター感染が発生。オハイオ州立大、カンザス州立大、アリゾナ大、テキサス工科大、ミシガン州立大、ヒューストン大らは開始していた自主トレを一時中断せざるを得ない状況になっていました。

コロナ禍のワクチンや特効薬がない中、ウイルスに対する防御策は今の所ソーシャルディスタンスを守る、手を洗う、マスクをする、という基本的な公衆衛生行動に依存しなければなりません。各チームの施設でもこれを徹底して部内感染を防ぐための最善の注意を払ってきているはずですが、それでも感染は起きてしまいました。いかにコロナウイルスの感染が簡単に起きてしまうかを目の当たりにしたのです。


変則スケジュール

そしてコロナウイルスによる危機を回避できないことが明確になった7月下旬、各カンファレンスはスケジュールを変更して主にカンファレンス戦のみでシーズンを乗り切る方向に舵を切りました。開幕日に多少の隔たりはあるものの、それぞれカンファレンスは8試合から12試合までの短縮スケジュールを組み、またカンファレンス戦に絞ることでコロナ対策が異なる他カンファレンスチームとの接触を可能な限り制限する作戦に出たわけです。

このカンファレンス戦のみという試みは理にかなっているものの、ノンカンファレンス戦に頼らざるを得ない下部リーグのチームやどのカンファレンスにも属していな無所属(独立校)チームたちにしてみれば致命傷と言ってもいい動きでした。

当時分かっていたカンファレンスの変則スケジュールは以下のようなものです。

ACC
計11試合(10試合のリーグ戦+1試合の交流戦)
Big 12
計10試合(9試合のリーグ戦+1試合の交流戦)
Big Ten
計10試合(リーグ戦のみ)
Pac-12
計10試合(リーグ戦のみ)
SEC
計10試合(リーグ戦のみ)
AAC
最大12試合(8試合のリーグ戦+オプションで4試合までの交流戦)
C-USA
最大12試合(8試合のリーグ戦+オプションで4試合までの交流戦)
MWC
最大10試合(8試合のリーグ戦+オプションで2試合までの交流戦)
Sun Belt
最大12試合(8試合のリーグ戦+オプションで4試合までの交流戦)

この時点でミッドアメリカンカンファレンス(MAC)のみがFBSカンファレンスとしてスケジュールの変更を発表していませんでしたが、ご覧の通り9つのカンファレンスのスケジュールを見ると統一性がありそうでなかったりとかなりのブレを見ることが出来ます。

ただそんな中独立校であるノートルダム大が今季だけの特例としてACCに参戦するという歴史的な出来事も生まれました。カレッジフットボールが始まって以来独立性を貫いてきた彼らが特例とは言えカンファレンスに属するというのは歴史的に見ても特筆すべきことです。

#WeAreUnited

そんな中、Pac-12カンファレンスに所属する大学の複数の選手たちが、コロナウイルスという未知なる脅威があるにも関わらずシーズン開催を押し通そうとするカンファレンスに立ち上がります。

それは彼らが求める改革が行われなければ彼らは今季をボイコットするという行動でした。

「#WeAreUnited」のハッシュタグのもと集った彼らの要求は以下のものでした。

・コロナウイルスに対するより高い医療バックアップ
・フットボール部を含む全ての部活を廃部に追い込まないための処置
・人種差別をなくすためのイニシアチブ
・医療費の確保
・選手が報酬を受けられるシステムの構築(NIL)
・カンファレンスの収益が選手に配分されるシステムの構築
など

いかにもリベラルな大学が多く所属するPac-12カンファレンスの選手ら行動とも言えますが、これに賛同した選手は100人を越したと言われています。

ターニングポイント

通常ならば8月初頭からプレシーズンキャンプが華々しく開始されるところ、今年はNCAAが定めた6週間のスポーツ再開へのフェイズアプローチのため各チームがそれぞれのスケジュールに従って緩やかにチーム活動に勤しんでいました。

が、変化が起きたのは8月5日。

まず発表されたのは今年から独立校となったコネチカット大がフットボールを含むすべての秋季スポーツ活動を停止するというニュース。これはFBS所属チームとしては今季初の決断であり、コネチカット大がカレッジフットボール界でパワーハウスではないとしてもこの決定は驚きをもって伝えられました。

しかしさらにサプライズなニュースとして、NCAAの2部と3部がすべての秋季スポーツ開催を見送る決定を下したことです。

NCAAにはその規模によって1部から3部にチームを振り分けています。1部にはFBSやFCSといった名のある大学が所属していますが、2部や3部でもスケールが縮小されているとは言え1部と同じようにNCAAが管轄下に置く数々のスポーツが行われています。それら全てがコロナ禍の影響で開催中止に追い込まれたのです。これで何らかの連鎖反応が1部リーグにも及ぶのではないかと囁かれ始めました。

参考記事NCAAとディビジョン

そして8月8日、その影響はFBSレベルにも及ぶことになります。FBSでも中堅カンファレンス群と言われる「グループオブ5」に属するミッドアメリカンカンファレンスが今秋開幕を断念するという大きな決断を下したのです。

もともとMACはBig Tenカンファレンスと深いつながりを持っており、今季の彼らのノンカンファレンス戦のうち11試合がBig Tenチームとの対戦となっていました。そのBig Tenがカンファレンス外試合をキャンセルしたことでMACのスケジュールには大きな穴が空いてしまっていたのです。

「グループオブ5」カンファレンスとは言えFBSのメンバーであるMACが開幕を断念したことは、その他のFBSカンファレンスがどうこれに対応するのかという興味をそそるのに拍車をかけました。そしてそれに呼応するように2日後には同じく「グループオブ5」のマウンテンウエストカンファレンス(MWC)がシーズンをキャンセル。これで10チームあるFBSカンファレンスのうち2つがコロナ禍でのカレッジフットボール開催は困難という判断に基づいて白旗を挙げたのです。

ビッグバン

同じ時期に沸き起こっていた噂が「Big TenとPac-12がシーズンをキャンセルする方向で協議している」ということでした。この報道が出るとBig Ten所属チーム内でこれまで以上にコーチや選手たちが今季開催を強く要望する声を上げるようになり、挙句の果てにはドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領までが「フットボールが開催されなければそれは大惨事といえるだろう」とまで発言して今季開催をプッシュしていました。

この噂話が多くの人々をパニックボタンに急かすことになり、これまで割と粛々に開幕へと準備をしてきたこの業界が今までにない焦りを見せ始めたのです。

そして8月11日。その噂は現実のものとなります。多くのBig Ten所属チーム関係者らの脅しとも取れてしまいそうな声も虚しくカンファレンスは遂に2020年度シーズン開幕をひとまず「延期」とし、春開催に含みをもたせながら秋開催を断念する苦渋の決断を下したのです。そして東海岸から3時間の時差がある西海岸のPac-12カンファレンスも同日にBig Tenと同じく秋シーズン開幕に見切りをつけたのでした。

この発表前からもしBig Tenが今シーズンの開幕をキャンセルするするならば、カンファレンスを鞍替えしてでも今季プレーする方法を模索すると話していたのがオハイオ州立大ペンシルバニア州立大ミシガン大、そしてネブラスカ大でした。とくにネブラスカ大はBig Tenの発表があった直後にコーチだけでなく体育局長、理事、大学長らが相次いでこの決断に遺憾の意を表明。引き続き今季プレーすることを諦めないとする声明を発表していましたが、程なくして他チームと歩調を合わせるようにその計画を諦めました。

当然選手ならびにコーチ陣らはこの決断を快く受け入れるはずはありませんが、オハイオ州立大のスターQBでハイズマントロフィー候補と目されていたジャスティン・フィールズ(Justin Fields)はBig Tenカンファレンスにこの決断を思いとどまるよう直談判するペティションを立ち上げました。また多くの親御さんたちも今回のBig Tenの決断に反対する声を上げており、Big Tenカンファレンスのコミッショナーとしてまだ1期目を終えたばかりのケヴィン・ワレン(Kevin Warren)氏としては大変苦しい船出となっています。

開幕を目指す他のカンファレンスたち

一方、Big TenとPac-12と袂を分かつように今季開幕へ向けて猛進し続ける覚悟を決めたのがアトランティックコーストカンファレンス(ACC)、Big 12カンファレンスサウスイースタンカンファレンス(SEC)の3つの「パワー5」カンファレンス群。

特にACC所属のクレムソン大QBトレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)は来年のNFLドラフトで超目玉選手とされており、今季出場しない(=オプトアウト)のではないかと噂されていたところを自ら断固として今季もプレーすると宣言。そして今シーズンを無事に乗り切るためにNCAAらに選手へのより高いレベルの医療プロトコルを懇願するなどし、「#WeWantToPlay」(俺たちはプレーしたい)というスローガンを掲げてシーズン開幕を推進していました。

この中でも特筆すべきはSECで、この混沌とした中でも彼らのコミッショナーであるグレッグ・サンキー(Greg Sankey)氏は「今焦って決断する必要はない」と周囲にパニックらないように柔らかい物腰でリーダーシップを執っているのです。当然SECには全米でも指折りのチームがゴロゴロしており、開幕しないとなるとその反動がものすごいことになることは目に見えていますが、そんな難癖ある大学らを束ねるサンキー氏の安定さは際立っています。

その他にもアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)、カンファレンスUSAサンベルトカンファレンスら3つの「グループオブ5」カンファレンスも今の所今季開幕を目指しています。

そしてNCAAはいよいよFBSフットボール以外の全てのNCAA1部の秋スポーツ開催を中止するという決断を下しました。

(なぜFBSフットボールだけ特別扱いなのかはまた別の機会に記事を書きたいと思います)

ということで現在今季の開幕を諦めていないFBSカンファレンスが6つあるわけですが、共通して言えるのはどのカンファレンスも「今後のコロナ禍の状況によっては開幕することを再考することになるかもしれない」としているところです。現在コロナ感染はまだ制御されているとは言えません。今後の状況で新たな感染の波が訪れるかもしれませんが、大きな転機となる可能性があるのが秋学期が始まってキャンパスに生徒が帰ってくる時期です。地域によっては先週から秋の授業が始まっているところもありますから、そういった不特定多数の生徒が限られた場所(キャンパス)で暮らす生活が始まった時、果たして各大学がコロナ感染を予防ないし制御することが出来るのか?これによって残りの6カンファレンスの運命が決まると思われます。

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