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2020年度シーズン開幕への道⑤

2020年度シーズン開幕への道⑤

8月も目前だというのに相変わらず開幕するのかしないのか分からないという、もどかしさすら感じずには得ないカレッジフットボール界。いつもならこの時期はシーズンのプレビュー記事で世間は溢れていますし、当サイトでもそのためのリサーチなどを行う頃なのですが、如何せん今シーズン開幕が危ぶまれているという現状でそのことを書くことに意味があるのかという感じで足踏みさせられているというのが実際のところでしょう。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

報告され続ける感染例

1週間ぐらい前に書いた記事の時とほぼなんら状況は変わっていませんが、自主トレ中のミシガン州立大ラトガース大(共にBig Tenカンファレンス)で複数の感染者が出て両チームとも自主トレを中止する決定を下しました。それに先駆けて自主トレを中止していたオハイオ州立大は再開したようですが、トレド大ジェイソン・キャンドル(Jason Candle)監督も陽性反応を示したということでカレッジフットボール界でも各地でコロナ感染のニュースが出されています。

すでに当サイトでもご紹介したように、FCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン、旧NCAA1部AA)のアイビーリーグペイトリオットリーグミッドイースタンアスレティックカンファレンスは秋シーズンを中止とする決断を下していますし、サウスウエスタンアスレティックカンファレンス(SWAC)も先日同様の決定を下しました。またフットボール部は存在しないもののメトロアトランティックアスレティックカンファレンス(ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州を跨ぐカンファレンス)も秋シーズンをキャンセル。このカンファレンスに所属するもフットボール部だけはBig Southカンファレンスに参戦しているモンマス大(ニュージャージー州)は当初開幕に向けて動いていましたが、つい先日彼らもフットボール部の秋の活動を自粛する決定を下しました。

選手だけでも100人を超える大所帯のアメフト部においてコロナ感染を予防するというのは簡単なことではありません。上に紹介したミシガン州立大やラトガース大だけでなくこれまで多くのチーム内で感染が広がって自主トレが中止に追い込まれてきました。大抵の場合こういったチームはスカラシップ(スポーツ奨学金)選手のみが参加することを考えると、この自主トレは全部員に満たない状態での活動ということになります。それでも部内感染が起きているところを見ると、プレシーズンキャンプが始まりより多くの選手たちがキャンパスに戻ってきて3週間の間密な状態でトレーニングを積むことになれば、部内感染の報告は更に増えていくことは容易に想像できます。


マーリンズに見るプロスポーツの感染ケース

日本でも報道されているかと思われますが、MLBマイアミマーリンズにおいてチーム内感染が報告されチームがシャットダウンされてしまうという事態に陥りました。これで当事者だけでなく対戦相手も試合がなくなるという状況となり、1チームの感染ケースがリーグの状況に影響を及ぼすというこれまでの危惧を絵に書いたような状況が実際のスポーツチームで起こっているのです。

しかも野球は極めてコンタクトが少なく、ロースター数もアメフトと比べればかなり少数であるにも関わらずこのような自体に陥っているのですから、アメフトの世界では更に厳しい状況が待っていると言わざるを得ません。

NFLも今の所静観を装っていますが開幕する方向で動いているものと思われます。始まっても最後まで走り切ることが出来るのかは誰にも分かりませんが、カレッジよりもシーズンが長く、遠征試合も多い彼らにはカレッジフットボールとはまた違った問題があることでしょう。

しかしカレッジフットボールもまたNFLとは違った問題を抱えています。

NFLは当然プロスポーツですから彼らは職業選手であるわけで、極端に言ってしまえば彼らはアメフトをプレーすることだけに集中できる環境にいると言えます。ロースター数もカレッジより少ないですし、家からトレーニング施設を言ったり来たりするだけならば、干渉する人物たちをある程度制御下に置くことが出来ます。

しかしカレッジアスリートたちはスポーツをするだけではなく、キャンパス内で授業を受けたり他の多くの一般学生たちと生活していかなければいけないという状況に置かれます。触れ合う人間の数が多ければ多いほどコロナウイルスに感染する確率は当然増えていくわけで、これをすべて制御下に置くことはまず不可能です。

しかもここで言う学生たちというのは18歳から22歳までの若者たちを指すわけで、厳戒態勢だからといって彼らすべてが授業以外で部屋に自粛しているとは考えづらいです。不特定多数の人間とコンタクトを取るという状況は更に増えていくことでしょう。

多くの識者たちが述べているように、今後我々はこのコロナウイルスと共に生きていかなければならなくなります。だからどうやって共存していくのかという道を模索しなければならないでしょうし、ウイルスにビビりすぎて閉じこもってばかりいるのも精神衛生上あまり良くはありません。

しかし効き目のあるワクチンがまだ世に出回っていないという状況である現在、如何に公衆衛生の行動パターンを厳格にしたとしても人が集まれば感染の確率が上がるのは至極当然な現象なのです。

各カンファレンスのスタンス

NCAAは秋スポーツ開催について先週に何らかの発表がされると噂されていましたが、それは時期相応だという声に押されてその発表を先送りにしました。しかし時期相応といってももう7月も末。もう時間は残されていないのが実際のところなのです。

すでに秋シーズン開催が不透明であることを述べているNCAAプレジデントであるマーク・エマート(Mark Emmert)氏は依然として「開幕は怪しい」と今シーズンのスポーツ開催に弱腰となっています。マイアミマーリンズの状況を受けて「彼らのようなスポーツチームで感染が広がるとなれば、同じことがカレッジで起きても何ら不思議ではない」と、カレッジスポーツでの感染報告は避けられないと感じているようです。

「我々はこの状況に対処しているプロチームから学ばなければなりません。より有効なウイルス検査やウイルス感染の追跡方法などを彼らから知ることが出来るでしょう。大学スポーツの試合数を減らしてシーズンを短期間にすることにより、我々は適切な対処方法を確立するまでの時間を稼ぐことが出来るかもしれません。」とエマート氏は今シーズンの短期間化も示唆しています。

すでにBig TenカンファレンスPac-12カンファレンスはスケジュールをカンファレンス戦のみに絞る案を打ち出しました。他のカンファレンスもそれに追随すると見られていましたが、「パワー5」カンファレンスにおいて同様の処置を取る3つ目のカンファレンスと思われていたアトランティックコーストカンファレンス(ACC)は未だ公式には何も発表していませんし、サウスイースタンカンファレンス(SEC)も静観を保ったまま。

追記:ACCは10試合のカンファレンス戦に1試合のノンカンファレンス戦の計11試合からなる地区制度無しの特別スケジュールを発表。しかもノートルダム大も参戦。)

Big 12カンファレンスに至っては、例えばアイオワ州立大はライバルでありBig Ten所属のアイオワ大との対戦がなくなったことでその穴埋めとしてボール州立大との対戦を決めるなどノンカンファンレス戦(交流戦)を排除する動きを見せていません。またオクラホマ大は開幕戦を9月5日から8月29日に前倒しにする発表を行いました。NCAAがこれを許可したとはいえ、エマート氏も話していた「時間稼ぎ」というマインドセットとは真逆の行動です。

オクラホマ大はこのことについて「開幕戦を早めることでそれが及ぼす影響を予め学習することが出来、その後に続くシーズンに活かすことが出来る」と話しているようですが、逆に言うとこの開幕戦を斥候代わりもしくは「毒味」代わりに利用しようとしているともとれてしまいます。考えすぎかもしれませんが、そうなればこれは倫理的にどうなんだと疑問を持ってしまう自分もいたりします。

強権を振れない理由

シーズンが始まればチーム内感染は避けられないというのはおそらくどの大学内でも議論されていることでしょうし、それが選手やスタッフの安全確保の上で重要なファクターであることも分かっているでしょう。危険であることを分かっていて何の手立てもなく事を運ぼうとするほど大学の運営陣も無策だとは思えません。

しかしここに来て未だに決断に躊躇しているNCAAや他のカンファレンスの姿を見ると、やはりシーズンの延期や中止というこれまで類を見ないほどの大きな決断を下すほどの肝は座っていないと見るのが妥当でしょう。

それはやはり何度も言うようですが大学がアメフトチームから莫大な利益を得るからであり、それがなくなると多くの大学で莫大な損失が発生するからです。

FBS(フットボールボウルサブディビジョン、旧NCAAディビジョン1部A)フットボールだけに関して言えばNCAAがシーズン中止というような決断を強要出来ないという微妙な力関係も災いしているのでしょう。

NCAAは大学すべてのスポーツを管理する団体ですが、FBSフットボールとの関係は他のものと一線を画しています。それを最も如実に示しているのはFBSのナショナルチャンピオンはNCAAチャンピオンではないという点。これはNCAAの歴史を紐解くと理解できるのですが、NCAAの発足がフットボールの影響を受けていること、更にはそのカレッジフットボール界がシーズン後の商業的催しであるボウルゲームというシステムにどっぷりハマって来たことにも端を発します。

つまりポストシーズンのボウルゲームはNCAAの管理外のイベントであり、それを経て決定される「ナショナルチャンピオン」はNCAAが定めるものではない、という意味なのです。

参考記事ナショナルチャンピオン

ボウルゲームのトラディションを継承するためにNCAAはFBSフットボールをある意味「聖域化」し、他のフットボールカンファレンス、ないしは他の大学スポーツとの差別化を示してきました。そんな背景があるからNCAAは特にFBSフットボールの開催に関しては特に発言権が無いのです。NCAAは開催の是非を推奨することは出来ますが、実際の決定権は各大学が所属するカンファレンスに委ねられているのが現状です。

そしてそのカンファレンスですが、先にも紹介したようにBig TenとPac-12以外のカンファレンスはまだ何も具体的なスケジュールの修正案を開示していません。ただBig TenカンファレンスにしろPac-12カンファレンスにしろ開幕すること自体はまだ揺るがない意向なわけで、いずれは感染者を出すという危機を顧みずにシーズンを断行しようというところは変わりません。

この調子だと「おそらくやらないほうがいいのは分かっているけれど、ダメもとでとりあえず開幕してみよう、感染者が出てしまったらそれはその時次第だ」というようなカンファレンスや大学上層部の隠れた意図が見え隠れしているようです。

これは大学アメフトという一大ビジネスで甘い汁を吸い続けてきた大学やカンファレンス、そしてそれを欲する後援者たちや政治家までもを巻き込んでいるという壮大なる構図も浮かび上がってきます。それだけの莫大な利益を生むカレッジフットボールをそう簡単に中止にできないという複雑な利害関係です。

果たしてNCAAが秋スポーツの中止要請を発表するのか?そしてもしそうなった場合、各カンファレンスはどのような対応を起こすのか・・・?

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