カレッジスポーツのターニングポイントへ - ANY GIVEN SATURDAY

カレッジスポーツのターニングポイントへ

カレッジスポーツのターニングポイントへ

アマチュアスポーツであるカレッジフットボールにおいて選手はプレーすることだったり第三者からの支援という形で金銭を受け取ることは禁じられてきました。アマチュアリズムを守ることを絶対とするNCAAはありとあらゆるルールを設けてこれを監視。そしてそれを破ったものにはかなり厳しい厳罰が与えられてきました。

しかしカレッジフットボールのビジネスとしての形態が肥大するに従い、選手たちがプレーすることでチームや大学に莫大な利益が流れ込むのに選手自身には対価が支払われないというのはおかしいという声をここ数年耳にすることが多くなってきました。確かに選手はスカラシップ(スポーツ奨学金)を貰えるという大きなプラス面を与えられてはいますが、数億円の年収を受け取る監督がゴロゴロいる中で選手たちにも何かしらの代償が支払われてもいいのではないかという意見です。

それに立ちはだかってきたのがNCAAでした。選手はあくまでアマチュアの大学生であり、プロ選手のように扱われるべきではないという主張は長いこと存在し続けてきたのです。

歴史的かつ画期的な動き

しかしそこに風穴を開けたのがカリフォルニア州知事のギャヴィン・ニューサム氏。彼は「Fair Pay to Play Act(SB206)」という州法に署名をしたのです。このSB206というのは要するに学生アスリートが自分の名前や肖像権を元に金銭的利益を得ても良いとする法律。完全にこれまでのNCAAの指針と真逆の内容ですが、この法律がカリフォルニア州で可決され2023年から同州内だけではありますが施行される運びになったのです。

もちろん黙っていなかったのはNCAA。彼らは当初もしこの法律が実際に施行されてカリフォルニア州の学生アスリートだけがNIL(Name, Image, Likeliness)を元にお金を稼げるようになったらそれらの大学をNCAAから除名する可能性もあると強気に出たのです。

NCAAのこの反応は予想内の範囲でしたが、予想外だったのはカリフォルニア州に追随する他の州が次々と名乗りを挙げてきたことでした。これにより厳しくなったのはNCAA。もし他の州が肩を組んで法律をバックボーンにNCAAに迫ってきたとしたらNCAAは全ての州を排除することも出来ませんから、究極の選択を迫られることになることは必死でした。

このNCAAとのバトルは長期戦となると思われていましたが、彼らがこの時代の波には逆らえないと悟ったのか、SB206が可決されてから1ヶ月ほどで彼らも条件付きで学生アスリートがNILを元手に利益を得ることを認めても良いという方向転換を表明したのです。

いかに外部からのプレッシャーがあったとはいえ、NCAAがこの案件で前向きになったというのは大変なことであり、おそらくこれが本当に現実のものとなったときにはカレッジフットボール史に大きな節目として刻まれることになるでしょう。


NCAAが公表したロードマップ

そしてコロナ禍がまだ世間を騒がしていた先月、いよいよNCAAは文書として学生アスリートがNILを用いて利益を得るための31ページにも及ぶロードマップを公表したのです。

NCAAのヴァル・エイカーマン氏は今回の文書発表に際しこのようなコメントを残しています。

「我々カレッジスポーツは常に変化する時代に適合していかなくてはならないと考えています。すでにアスリートでない学生たちの中でも自分の才能を生かして利益を得ている人はいますから、それを学生アスリートにも当てはめることが出来ると考えています。」

今回のNCAAの声明により学生アスリートがコマーシャルの出演や直筆サインいりのグッズ、ソーシャルメディア等で報酬を受け取ることが出来る可能性が増えました。依然としてお金のためにプレーするという「Pay to Play」のコンセプトは認められていませんが、学生アスリートにすればこれが本当に現実のものになれば可能性は無限大に広がっていきそうです。

例えば選手が地元スーパーの広告塔になるとか、ユーチューバーになるとか、個人でクリニックを開催するとか、自分のブランドを立ち上げるとか、自作の曲を売るとか・・・。自分の名前、画像、映像、それに似たもの(イラストなど)を媒体にお金を稼ぐことが出来るようになるのです。

ただ禁止されるものもあり、例えば大学およびチームの斡旋による案件、チームのロゴやジャージ、施設を使用する案件、アルコールやタバコ関連の案件、靴や服の案件などが挙げられています。

甘い話ばかりのような気もしますが、懸念がないわけでもありません。まずは今の所稼げる上限が決まっていないこと。こうなるとスター選手はその影響力から大金を手にすることが出来てもそうでない選手にはそのようなチャンスが巡ってこないとかいう点や、またこれをリクルーティングに利用されないかどうかという点もあります。だからこそ大学やチームが案件を斡旋することが禁じられているのですが、後援者が水面下で便宜を図るようなことがあっても全く不思議ではありません。


一体どれくらい貰えるようになるのか?

今回のNCAAの草案は早くても2021年度シーズンからの施行が目論まれていますが、現役の選手が一体どれくらい稼げるのか、気になりますよね?

例えば名門テキサス大の先発QBサム・エリンガー(Sam Ehlinger)の場合、SNSで約20万人のフォロワーを抱える彼にはこれだけで約100万ドル(1ドル100円計算で約1億円)を稼ぐだけのポテンシャルがあると言われています。これに地元TVのコマーシャルなどを比べれば年収はもっと挙がっていくことになります。他にもクレムソン大のQBトレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)やルイジアナ州立大WRラマー・チェイス(La’Marr Chase)らも相当な額をSNSだけで稼ぎ出せるという計算が出ています。

またちょっと過去の選手になりますが、サザンカリフォルニア大で2003年から2005年までプレーしその後ニューオーリンズセインツマイアミドルフィンズなどでプレーしたレジー・ブッシュ(Reggie Bush)氏がもし現役選手だったら400万から600万ドル(約4-6億円)を稼ぎ出すことが出来るという計算もあるぐらいです。

レジー・ブッシュ氏といえば・・・

Embed from Getty Images

当時のサザンカリフォルニア大は現シアトルシーホークス監督であるピート・キャロル(Pete Carroll)氏に率いられ最強軍団として君臨していました。2003年(AP)と2004年(BCS)に全米優勝を飾り、2005年には惜しくもテキサス大に敗れはしましたがナショナルタイトルゲームに進出。ブッシュ氏はこの年にハイズマントロフィーも獲得しています。

当時のUSCのカレッジフットボール界におけるインパクトは半端なく、その顔とも言うべき存在だったブッシュ氏がもしNILで利益を得ることが出来ていたとしたら、マーケット上の価値はとんでもないものになっていただろうという予測があったからこそ、先程述べたような4〜6億円なんていうとんでもない数字がはじき出されたわけです。

ただ当のブッシュ氏はこの学生アスリートがNILで稼げることになることに警鐘を鳴らしています。

「大学スポーツシステムに追いて若い学生アスリートに欠如しているのはガイダンスです。私には現役の時それがなかった。今彼ら学生アスリートがいよいよ現役中にお金を稼ぐことが出来るかも知れないという過渡期にありますが、これは今まで誰も経験したことのない事象です。もし正しい基礎づくりがなされなかったとしたら、(大金を手に入れることで)数人のアスリートの人生は崩壊しかねません。」

なぜこんなことをブッシュ氏がいうかと言えば、彼がUSCでスターダムを駆け上がっていた時、禁止されていた金銭の授与があったことが発覚するスキャンダルが発生。獲得したハイズマントロフィーは剥奪され、彼が金銭を受け取っていた期間にチームが挙げた14勝も抹消されてしまいました。2004年度のナショナルタイトルすら記録から消されてしまったのです。そしてその結果USCはブッシュ氏との関わりを2010年から10年間経たなければならなくなったのです。

ブッシュ氏はNFLでもそれなりの活躍を見せはしましたが、卒業後に発覚したとは言えこのときのスキャンダルが彼の株を落としてしまい、結局大学時代ほどの光を浴びることはありませんでした。そういった意味では金銭を受け取ってしまったことが彼の人生を多少なりとも狂わせたと言えるのかも知れません。もっともそれを理由に彼がお金を受け取っていた(厳密には彼の家族が受け取っていた)を正当化することはできませんが。

どちらにしてもしっかりとした骨組みがなければ19、20歳そこそこのアスリートが大金を手にしてしまえば悪影響を及ぼすことになることも容易に想像できます。

ちなみに大変タイムリーですがブッシュ氏とUSCとの絶縁状態がちょうど今年で10年を迎えたのですが、これを期にUSCはブッシュ氏との絶縁状態を解禁し彼が10年越しに母校のキャンパスに足を踏み入れることが許されることになりました。ハイズマントロフィーは剥奪(実際はブッシュ氏が返上した)されたままですが、ひょっとしたらこれを受けてトロフィーも同氏のもとに帰ってくるかも知れません。

どちらにしても名門のスター選手という付加価値があったとしても同じ学生アスリート内でNILを元に稼げる額が天と地の差となってしまった時、これが世間的にどう映るかも気になるところです。名門の看板を担っているのだからそれくらいは当然と見るか、完全なる不平等と見るか・・・。


あの伝説のゲームが復活か?

さて、カレッジフットボールファンとして大変気になるのはこのNIL解禁によってあの伝説のゲームが復活するかどうかということです。

それはアメリカでカレッジフットボールファンならプレーしたことが無いはずがないであろう「NCAA Football」フランチャイズです。

NFLの「マッデン(Madden)」シリーズと並び称されてきたこのNCAA Footballシリーズですが、2013年に発表されたNCAA Football 2014を最後に製造されていません。

というのもこの頃、ゲームに登場する選手たちが本当に存在する学生アスリートを元にデザインされていることに反発した人物が現れ肖像権侵害の訴訟問題になり、それにより製造元のEAスポーツ社が各チームとのライセンス契約を結べなくなったからでした。

しかし今回NILを元に選手たちにも対価を受け取ることが出来る流れが出来つつある中、EAスポーツが各選手に報酬を払うことでゲームを復活させることが出来るのではないかという期待がにわかに湧き上がっていたのです。

しかし・・・。

NCAAの規則上、学生アスリートが組合(ユニオン)の一員ではない故に交渉団体を組織できないため、ゲームやレプリカジャージなどグループライセンスが必要となる案件は今の仕組みでは成立しないため、今の所ゲームの復活は難しいのだそうです。

ただ将来的に何らかの方法でこれが改善されグループライセンスを管理することが出来るように慣れば、ビデオゲーム解禁もあり得るということだそうです。ファンとしては大変がっかりしてしまいましたが、これは気長に待つしかありませんね。

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