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2020年度全米大学王座決定戦プレビュー⑤【コーチ対決】

2020年度全米大学王座決定戦プレビュー⑤【コーチ対決】

CFP(カレッジフットボールプレーオフ)ナショナルチャンピオンシップのプレビュー第5弾は両チームのヘッドコーチ並びにコーディネーターの紹介です。

参考記事

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ベースボール・マガジン社 (編集)

アラバマ大

ニック・セイバン監督


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ニック・セイバン(Nick Saban)監督が2007年にアラバマ大監督に就任して以来古豪は完全に復活。かつてレジェンドであるポール・「ベアー」・ブライアント(Paul Bear Bryant)監督が一時代を築いたのと同じようにセイバン監督は現在アラバマ大でダイナスティーを謳歌しています。

ダイナスティーと言えばフロリダ州立大ペンシルバニア州立大を思い浮かべます。当時ボビー・バウデン(Bobby Bowden)氏やジョー・パターノ(Joe Paterno)氏が長期政権を担っていましたが、バウデン氏はフロリダ州立大で33年、パターノ氏に至っては45年も同じチームで指揮を取りました。ただ現在のカレッジフットボール界において同一チームでここまで長期間監督を務めるのはほぼ不可能といえます。

現在まで同一チームの監督を務める最長記録を持つ現役監督はアイオワ大カーク・フェレンツ(Kirk Ferentz)監督で22年。現在65歳のフェレンツ監督がバウデン監督の記録に追いつくときには76歳になっていますし、パターノ氏の記録に並ぶときには88歳になっています。

近代のカレッジフットボールにおいてもダイナスティーのようなものはあるにはありました。例えば2000年代前半のサザンカリフォルニア大、2000年代後半のフロリダ大などがそれに当たると思われますが、サザンカリフォルニア大にしろフロリダ大にしろ一斉を風靡したのはせいぜい5、6年程度でした。

それは監督が一つの場所に留まらないという現状と、勢力が全国に散らばって同じチームが勝ち続けることが難しくなってきたからとも言えます。

そんな中でセイバン監督率いるアラバマ大は過去14年間で負け越しシーズンはゼロ。所属するサウスイースタンカンファレンスではタイトルを7つ。ナショナルタイトルは5つ。毎年優勝争いに顔を出しNFLにも多くの人材を送り出しています。それが2007年以来ずっと続いている(もっとも最初の2年は苦戦しましたが)ということがこれまでのダイナスティーと違うところです。

そのセイバン監督が今回CFPタイトルゲームに出場するのは5度目。CFPの前身であるBCSボウルチャンピオンシップシリーズ)の全米大学王座決定戦出場も入れれば計8回もタイトルゲームに進んでいることになります。こんな事を成し遂げているのは2000年以降ではアラバマ大が唯一のチームです。

今回オハイオ州立大に勝てばアラバマ大はセイバン体制として6度目の全米制覇となります。これでアラバマ大でのタイトル獲得数は前出のブライアント監督に並びますが、セイバン監督は2003年にルイジアナ州立大でナショナルタイトルを獲得しているため、通算記録だとこれで7つ目となりブライアン監督を超えてカレッジフットボール(FBS)史上最多となる全米王座獲得監督に躍り出るのです。

もともとディフェンス畑を歩いてきたセイバン監督は鉄壁のディフェンスとラン重視で試合の流れをコントロールするチームを擁してタイトルを量産してきました。しかしカレッジフットボール界においてスプレッドオフェンスなどのパス重視オフェンスが主流となるとセイバン監督はそれまでのスタイルを変えてよりパス重視なオフェンス作りを目指すことになります。

そうして出来上がったのが昨年までのトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa、現マイアミドルフィンズ)が率いるハイスコアリングオフェンス。そしてその流れは今年のマック・ジョーンズ(Mac Jones)やデヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)らが織りなすハイオクタンオフェンスに受け継がれています。それもこれも時代の流れを読んで自分のスタイルに囚われずにアジャストしていったセイバン監督の柔軟さが影響していると言えるでしょう。

またセイバン監督は規律を重んじる監督としても知られています。そういった指導法はときに選手との軋轢を生むこともありますが、セイバン監督は勝ち続けることでその重要さを選手たちに植え付けることに成功。選手らの人となりはまさにセイバン監督の影響を存分に受けていると言えます。

今年は新型コロナウイルスの影響で特に選手のボウルゲーム出場を見送るオプトアウトが目立ちました。流石にプレーオフに進出したチームの中からその様な選手は現れませんでしたが、「ニューイヤーズ6」ボウルという上位種のボウルゲームに出場したチームからも次期ドラフトに備えてオプトアウトする選手が続出しました。

そんなトレンドがある中、昨年CFP進出を初めて逃したアラバマ大は「NY6」ボウルでもないシトラスボウルに出場してミシガン大と対戦。この試合では後にドラフト1巡目に選出されたWRジェリー・ジュディ(Jerry Jeudy、現デンバーブロンコス)やヘンリー・ラグス・III(Henry Ruggs III )らが揃って出場。

彼らにとっては出場することで負傷する可能性が上がるため、ドラフトでの株を守るためにも出場する必要はなかったのです。そんな中でも彼らがボウルゲームでプレーした意味は大きく、個よりもチームの勝利のためにプレーしたいと選手に思わせるような指導をセイバン監督が行ってきた賜物なのだと思います。

ローズボウルのプリゲームのメディアインタビューでもそうでしたが、そういった場で相手選手を挑発するような発言をする選手はいませんし、常に優等生的なコメントで試合への準備を怠らない王者の風格がそれぞれの選手に漂っています。大舞台での場数の多さも影響しているのかもしれませんが、チームが一丸となっている様子は唯一無二な感じ。それもこれもセイバン監督の影響なのだと思います。

規律とぶれない一貫性、しかし必要とあれば時代に合わせることの出来る柔軟な頭脳。アラバマ大の強さはいわゆる「XO」(戦略)によるところももちろん大きいですが、チームが同じ方向を皆向いているという点も見逃せないと思います。

スティーヴ・サーキジアン(OC)


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アラバマ大がよりパスを重視していくきっかけとなったのはセイバン監督が2014年度シーズンに招聘したレーン・キフィン(Lane Kiffin、現ミシシッピ大監督)氏の存在でした。

それまでのランヘビーオフェンスからパスを多用していくオフェンスへの移行は周囲を驚かせましたが、オフェンスの天才とも言えるキフィン氏の手腕によりアラバマ大のオフェンスは見事に時代に合わせてトランスフォームしていくことになります。

そして2019年度からはキフィン氏の親友でもあるスティーヴ・サーキジアン(Steve Sarkisian)氏がオフェンシブコーディネーター(OC)を務めることになります。2019年度はタガヴァイロアを中心に優れたWR陣を擁して全米を代表するハイスコアオフェンスを育て上げました。

そして今年はそのタガヴァイロアが抜けてしまいましたが、その後釜となったジョーンズがタガヴァイロアを凌駕する活躍を続けハイズマントロフィーファイナリストにまで評価されるようになりました。またそのトロフィーを受賞したWRスミスやジェイレン・ワドル(Jaylen Waddle)といった秀逸レシーバー陣やナジー・ハリス(Najee Harris)といった稀代のRBを擁して現在までアンストッパブルなオフェンスを演出してきています。

ディフェンスを読んでミスマッチを探すのに長けた頭脳はピカイチ。当然それを体現するのは選手ら本人ですが、サーキジアン氏の手腕がなければアラバマ大オフェンスはここまで突き抜けることはなかったでしょう。今回のオハイオ州立大戦でもどんなプレーコーリングをしてくるか楽しみです。

ちなみにサーキジアン氏は年間最優秀アシスタント賞を今年度受賞しましたが、彼はすでに来季からテキサス大の監督に就任することが決まっています。現在はアラバマ大のOCと兼任していますが、本人はアラバマ大を優勝させることにすべてを注ぐと行っていますが、テキサス大の新監督に就任したことが邪念となっていなければいいのですが。


オハイオ州立大

ライアン・デイ監督


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オハイオ州立大といえばカレッジフットボール界を代表する名門中の名門チーム。さかのぼれば1950年代から1970年代にかけてダイナスティーを作り上げたウディー・ヘイズ(Woody Hayes)氏、彼の後継者であるアール・ブルース(Earle Bruce)氏、ジョン・クーパー(John Cooper)氏、そして2000年代にはジム・トレッセル(Jim Tressel)氏がヘイズ氏以来(1970年)となる全米制覇を成し遂げ(2002年)、オハイオ州立大ブランドは脈々と受け継がれてきました。

そのトレッセル氏は2005年からBig Tenタイトル6連覇を成し遂げるも選手の金銭スキャンダルの余波で監督の座を辞任。2011年度には現シンシナティ大監督のルーク・フィッケル(Luke Fickell)氏が臨時監督としてシーズンを乗り切りますが、その後正式に元フロリダ大監督のアーバン・マイヤー(Urban Meyer)氏を招聘。その3年後となる2014年度にはCFP初代チャンピオンに輝き、以後も常に二桁勝利を記録する成功を収め続けました。

しかしマイヤー氏は自身の健康上の理由でコーチとしてはこれからという絶頂期に惜しまれつつ引退(一部では来季NFLデビューするなんて噂もありますが)。それを受けてマイヤー氏が直々に後継者に指名したのが当時彼のオフェンシブコーディネーターを務めていたライアン・デイ(Ryan Day)でした。

デイ監督はマイヤー氏がフロリダ大監督に就任した2005年度に学生コーチとして彼に師事。その後はテンプル大ボストンカレッジなどを転々としてコーチとしての腕を磨き、さらにはNFLサンフランシスコ49ersやフィラデルフィアイーグルスでもQBコーチを務め2017年にかつての恩師であるマイヤー監督が指揮をとっていたオハイオ州立大にOCとして声がかかります。

以来2年間OCとしてチームのカンファレンスタイトル2連覇に貢献。そしてそれまで監督の経験が皆無であったのにも関わらずマイヤー氏は監督のバトンをデイ氏に手渡したのです。チームにはケヴィン・ウィルソン(Kevin Wilson)氏やグレッグ・シアーノ(Greg Schiano)氏など過去に監督経験があるベテランコーチがいたにも関わらずあえてHC未経験のデイ氏にチームを任したところにマイヤー監督のデイ氏に対する信頼度が伺えます。

そして1年目からその期待を裏切らない結果をデイ新監督は残していきます。マイヤー監督の息がまだかかったチームだとは言え、初年度からデイ新体制は連勝を重ねて無敗でCFPに進出。ここでクレムソン大に惜しくも破れはしましたが、Big Tenタイトルも獲得して13勝1敗というデビューは出来すぎとも言える結果です。

そして今年もBig Tenカンファレンスが遅れて開幕するという壁にぶちあたるも、見事に今季も無敗街道をひた走りレギュラーシーズンを5試合しか行えないも東地区代表としてBig Tenタイトルゲームへ出場。ここで先発選手が新型コロナウイルスの影響で欠場する厳しい状況の中何とか勝ってリーグ4連覇を達成。そして先日のシュガーボウルではクレムソン大を圧倒して前年度の雪辱を果たし就任2年目にしてCFPタイトルゲームに出場を果たしたのです。

セイバン監督のところでも紹介しましたが、カレッジフットボールはよりオフェンスに重きを置く流れができています。それは「優れたオフェンスは優れたディフェンスを凌駕する」というアメフトの進化の形を映し出していますが、そういった意味ではマイヤー監督がオフェンス畑を歩いてきたデイ氏を後継者に指名した理由もうなずけます。

しかしカレッジフットボール、特にオハイオ州立大やその他のエリートレベルにある大学が常勝チームであるために絶対的に必要なのは「XO」の知識と同じようにリクルーティングで手腕を発揮できるかどうかにかかっているとも言えます。おそらくこの点においてもデイ監督はマイヤー監督の信頼を勝ち取ったのでしょう。

実際2020年度クラスでは全米5位、2021年度クラスでは全米2位とその成果を発揮しており、ポスト・マイヤー体制でもしっかりとリクルートとのパイプを太いものに維持できています。(ちなみに2021年度クラスの全米1位はアラバマ大)。

監督となってからもプレーコーリングに大きく関わり続けるデイ監督。もしこのタイトルゲームに勝ってナショナルタイトルを獲得すれば当然自身にとって初タイトルとなりますが、監督デビューから2年目でのこの偉業は2000年度シーズンに同じく2年目で全米制覇(BCS/ボウルチャンピオンシップシリーズ)を成し遂げたオクラホマ大ボブ・ストゥープス(Bob Stoops)氏以来のことになります。

ケリー・クームス(DC)


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今年からオハイオ州立大のディフェンシブコーディネーターを務めるのはケリー・クームス(Kerry Coombs)氏。昨年までのDCであるグレッグ・マティソン(Greg Mattison)氏と兼任ということですが、実際サイドラインで指揮をとっているのはクームス氏です。

クームス氏は2007年から10年間オハイオ州立大のアシスタントコーチを務めた後に2018年と2019年の2年間をNFLテネシータイタンズのDBコーチとして過ごしました。

タイタンズでは2018年にパスディフェンスが全体で6位、相手のパサーレーティングで8位といきなり結果を残し、DB陣だけで10個のパスINTにリーグトップとなる9個のQBサックを記録しました。

2019年もクームス氏の指導するDB陣はその存在感を表しパスディフェンス並びにINTでトップ10を誇る安定したユニットの構成に貢献。チームもAFCチャンピオンシップに出場するなどスーパーボウルまであと一歩のところまで迫ったのです。

そして今年からオハイオ州立大に復帰したクームス氏は新型コロナのパンデミックという厳しい状況でディフェンス陣、特にバックフィールドで苦戦するも守備陣をまとめて無敗シーズンを続けています。そしてクレムソン大とのシュガーボウルでは相手を28点に抑え、特にRBトラヴィス・エティエン(Travis Etienne)をたったの32ヤードに攻略したのは圧巻。

サイドラインで選手を鼓舞し続けるその存在感は抜群で選手からの信頼は厚いクームス氏。果たしてマイティーオフェンスを擁するアラバマ大を止めるという一世一代の大仕事を完遂することが出来るでしょうか?

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