テキサス州、オクラホマ州、カンザス州、アイオワ州といったアメリカ中南部を主戦場とするのがBig 12カンファレンス。テキサス大、オクラホマ大、オクラホマ州立大、アイオワ州立大といった面々が所属するこのカンファレンスは先に紹介したアトランティックコーストカンファレンス(ACC)や後にご紹介するサウスイースタンカンファレンス(SEC)と並び「パワー5」カンファレンス群を構成するカンファレンスの一つです。
このカンファレンスからはオクラホマ大が過去5年間に行われたカレッジフットボールプレーオフ(CFP)に4度も出場を果たしており、彼らが名実ともにBig 12カンファレンスの盟主といえますが果たして今年は彼らに待ったをかける事ができるチームが現れるでしょうか?
目次
ストーリーライン
誰がオクラホマ大に立ちはだかるのか?
Big 12カンファレンスに所属するチーム数は「パワー5」内では最も少ない10チームです。かつてはテキサスA&M大(現SEC)やネブラスカ大(現Big Ten)、コロラド大(現Pac-12)らが所属していましたが、それぞれBig 12を去ってしまい2011年からは一地区制度となっています。
そんなBig 12カンファレンスをここ最近牛耳っているのはオクラホマ大。現在までリーグ5連覇を果たしている彼らはこの間のリーグ戦績が実に41勝3敗と圧倒的。2017年度シーズン前に前監督であるボブ・ストゥープス(Bob Stoops)氏が突如引退を表明し若いリンカーン・ライリー(Lincoln Riley)氏があとを引き継いだ時、誰しもがオクラホマ大の弱体化を予想しましたが、ご存知の通りライリー体制でもその勢いはとどまることを知りません。
彼らの最大のライバルであるテキサス大は近年復活の兆しを見せますが、それでも直接対決を見ると過去10年間で7勝3敗とオクラホマ大に軍配が上がっています。オクラホマ州立大は常に上位争いに絡んできますが、オクラホマ大には過去20年間で4勝16敗と手も足も出ず。一時期ここに割って入ったテキサスキリスチャン大やベイラー大も近年はオクラホマ大の牙城を崩せずじまい。
果たして今年もオクラホマ大の一辺倒となるか、はたまた彼らをBig 12の盟主の椅子から引きずり下ろすことができるチームが現れるのか、が注目ポイントです。
ハーマン監督勝負のシーズン
名門テキサス大の再建を任され3季目となるのがトム・ハーマン(Tom Herman)監督。現在45歳とコーチ界ではまだまだ若手の部類に入るハーマン監督はオハイオ州立大でアーバン・マイヤー(Urban Meyer)前監督の元でオフェンシブコーディネーターとしてならし、その手腕を買われて2014年にヒューストン大の監督に就任。初年度となった2015年にはいきなり13勝1敗で全米8位にまで上昇すると彼のコーチとしての株は一気に急騰し、遂に2017年にはカレッジフットボール界を代表するテキサス大の監督に任命されたのです。
アメリカンフットボール界においてテキサス州はメッカとも言える場所ですが、その旗艦大学としてテキサス大フットボール部にかけられる期待度は桁違いです。常に優勝を狙うことを義務付けられていることを考えればハーマン監督は類を見ないほどの重圧を背負ってこのチームを率いていることでしょう。
しかし短気でも知られるテキサス大ファンにとっていかに若手のホープとは言えハーマン監督にはそろそろ目に見える結果を出してほしいと思うのは自然なことでしょう。2年前に10勝4敗と2009年以来の二桁勝利数を挙げたことでファンの期待度はマックスとなりましたが、その翌年となった昨シーズンは8勝5敗と鳴かず飛ばず。
そして迎えるのが4年目となる2020年度シーズンです。前任のチャーリー・ストロング(Charlie Strong)氏はたったの3年で首を切られてしまいましたが、ここまで25勝15敗というハーマン監督にとって今年もカンファレンスゲームで5勝4敗などという並の数字に落ち着いてしまうことでもあれば、そろそろハーマン監督不要論が沸き起こりかねません。
ハーマン監督としては勝負の年となりそうです。
試されるガンディ監督の指導力
今オフオクラホマ州立大のマイク・ガンディ(Mike Gundy)監督はフィールド外で一騒動起こしていました。
それはミネソタ州で起きた白人警官による黒人市民への暴行致死事件が引き起こした「Black Lives Matter(黒人の命も大事だ)」運動真っ只中に、この運動を批判し続ける極右TVメディア「One America Network」のロゴ入りシャツをガンディ監督が笑顔で纏っていた写真が出回ったことです。
これに反旗を翻したのがチームのスターRBであるチュバ・ハバード(Chubba Habbard)。彼は自分の監督の軽率な行動に反対するために全てのチーム活動をボイコットするという行動に出たのです。
結局ガンディ監督が謝罪し事なきを得たようにも見えましたが、チーム内の雰囲気だったり論調だったりというものは我々には中々見えてきません。果たしてガンディ監督は選手、特に黒人選手たちの信頼を勝ち得てチームを一つにまとめることができるでしょうか?
マイルズ監督が奇跡を起こすか?
Big 12カンファレンスにおいてほぼお荷物的扱いを受け続けているのがカンザス大。2007年に一度12勝1敗という奇跡的なシーズンを送ったことはありますが、それ以外は常に最下位を争うような弱小チームとして知られています。
そんなカンザス大に再建を託されて昨年やって来たのが元ルイジアナ州立大のレス・マイルズ(Les Miles)監督です。
マイルズ監督は2005年から12年間ルイジアナ州立大で指揮を執り2007年には全米チャンプに、そして2011年には所属するSECを制し全米タイトルゲームに進出。惜しくもアラバマ大に敗れはしましたが、ルイジアナ州立大にマイルズ監督ありといわれるほどのカリスマ性をひめた人物でした。
しかし前述のテキサス大のように毎年最低10勝挙げなければ叩かれるようなルイジアナ州立大で結果が残せなくなり、2016年度のシーズン途中で解雇されてしまいました。
確かにマイルズ監督のオフェンスが時代に乗り遅れていた感は否めません。しかしリーダーというものは戦略だけでなくチームをまとめ上げる力だとか人望だとかそういったものを持ち合わせている人のことだと思います。マイルズ監督のルイジアナ州立大での晩期は結果こそ満足いかなかったものかもしれませんが、コーチとしての力量はまだまだあったと思えるのです。
参考記事元ルイジアナ州立大監督マイルズ氏を想う①参考記事元ルイジアナ州立大監督マイルズ氏を想う②
そんなマイルズ監督は数年度のチームからも声がかかりませんでしたが、遂に昨年カンザス大が新監督の座をオファー。当初マイルズ監督は有書を狙えるチームで再びチームを作りたいといっていましたが、カンザス大からのオファーを受けることを決意し3年ぶりに現場に帰ってきました。
昨年は3勝9敗と撃沈。しかし期待のハードルが低いカンザス大ですから今すぐマイルズ監督が結果を出さなければならないというわけではありません。しかしマイルズ監督ならこのカンザス大をオーバーホールすることができるのではないかと個人的には甘い夢を見てしまいます。
これまでのカンザス大を考えると勝ち越しさえすればそれは大成功のシーズンとなります。そしてそれは雲を掴むような話というわけではないはずです。果たしてマイルズ監督がどのような2年目をカンザス大で過ごすことになるでしょうか?
注目のチーム
オクラホマ大
ここまで読んでいただければ分かる通り今年のBig 12カンファレンスも再びオクラホマ大が手綱を握ることになるでしょう。
ライリー監督の下リクルーティングはますます順調ですし、彼の得意なテンポの早いスプレッドオフェンスによりオクラホマ大の攻撃陣は全米でもトップクラスの爆発力を持っています。
昨年のチームからはQBジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts、現フィラデルフィアイーグルス)、シーディー・ラム(CeeDee Lamb、現ダラスカウボーイズ)という攻撃の軸が抜けてしまいました。ライリー監督はつい先日1年生(レッドシャツ)のスペンサー・ラトラー(Spencer Rattler)を先発QBに指名。これでライリー監督下で初めて転校生ではない先発QBが生まれることになります。(2017年のベーカー・メイフィールドは元テキサス工科大、2018年のカイラー・マレーは元テキサスA&M大、2019年のハーツは元アラバマ大)。
気になるのはRBポジション。先発RBが予想されていたケネディー・ブルックス(Kennedy Brooks)が今季オプトアウト。トレイ・サーモン(Trey Sermon)は既にオフシーズンにオハイオ州立大へ転校してしまいましたからこのポジションは手薄だと言わざるを得ません。
ディフェンスからも昨年の守備の要であるLBケネス・マレー(Kenneth Murray、現ロサンゼルスチャージャーズ)とCBパーネル・モトレー(Parnell Motley、現タンパベイバッカニアーズ)がチームを去ってしまったことも気にはなります。
とはいえコーチ力と選手層を合わせて考えるとやはりオクラホマ大が頭半分ほど抜きん出ている印象が強いです。ただ無敵と言ったらそうでもなく、他チームに付け入る好きが無いわけでもなさそうです。
テキサス大
2年前に出場したシュガーボウルでジョージア大を撃破し、QBサム・エリンガー(Sam Ehlinger)が「俺達は戻ってきたぞ!!!!」と名門復活の雄叫びをあげたのは記憶に新しいですが、その翌年となった昨年は8勝5敗と鳴かず飛ばず。そのエリンガーも今年4年生となりいよいよライバル・オクラホマ大の牙城を崩したいところです。
その経験豊富なエリンガー擁するオフェンスはWRが若手とはいえ得点力を見込めるユニットですが、彼らが今年羽ばたけるかどうかはディフェンス陣の出来にかかっていると言えそうです。
ハーマン監督政権下において彼らは多くの4つ星5つ星評価を受けたディフェンダーとリクルートしてきました。彼らが花を咲かせることができればテキサス大にとって悲願となる2005年以来のリーグタイトルを獲得できるかもしれません。
オクラホマ州立大
コロナウイルスが全米を覆いかぶさる前からオクラホマ州立大の前評判は非常に高くカレッジフットボールプレーオフ進出も夢ではないとまで言われていました。
オフェンスではQBスペンサー・サンダース(Spencer Sanders)が昨シーズンからさらにレベルアップしていることが見込まれますし、WRタイラン・ワレス(Tylan Wallace)は昨年負った怪我から復活してくることが予想されます。そして何よりも全米ナンバーワンRBの呼び声高いチュバ・ハバードが健在です。ディフェンスにおいては昨年のメンバー11人のうち実に10人が今年も顔を連ねることになり安定感は十分です。
例年常に10勝は挙げるオクラホマ州立大ですが、昨年はらしくない8勝5敗に甘んじました。しかし今年は昨年を上回る結果を残すと期待されていますし、ひょっとしたらBig 12の天下を取ることも夢ではないかもしれません。
ベイラー大
昨年マット・ルール(Matt Rhule)監督3年目にして11勝3敗という劇的な進化を遂げたベイラー大。しかしそのルール監督は今オフにその手腕を買われてNFLカロライナパンサーズのHCに抜擢されました。
そのことでベイラー大は戦力を大きく損なうと思うのが極めて普通なことだとは思いますが、チームにはまだまだポテンシャルの高い選手が健在です。昨年のNFLドラフトで総合11番目に選ばれたWRデンゼル・マイムス(Denzel Mimes、現ニューヨークジェッツ)を失ったのは痛手ですが、これまでトータル69TDを叩き出したQBチャーリー・ブリューワー(Charlie Brewer)が今年も戻ってくるのは強み。
ただディフェンス陣を見ると昨年の9人の先発メンバーがチームを去り大幅なオーバーホールが必須。しかし今年から新監督を担うデイヴ・アランダ(Dave Aranda)氏はディフェンス畑出身。昨年はルイジアナ州立大でディフェンシブコーディネーターを務めナショナルタイトルにも輝きました。初年度で結果を残せというのは酷かもしれませんが、ひょっとしたら・・・があるかもしれません。
注目の選手
チュバ・ハバート(Chuba Hubbard)
オクラホマ州立大RB
既に紹介したとおりハバートは今季のカレッジ界で最も優れたRBと下馬評の高い選手。昨年は2000ヤード超え(2094ヤード)に21TDを荒稼ぎ。今年春のNFLドラフト入りを果たしていれば確実に第1巡目にピックされていたと目されていので、彼が今季もオクラホマ州立大に戻ってくると決断したのはいささか驚かされました。
2015年にハイズマントロフィーを獲得した元アラバマ大のデリック・ヘンリー(Derrick Henry、現テネシータイタンズ)以来のRBとしてのトロフィー受賞に期待がかかります。
スペンサー・ラトラー(Spencer Rattler)
オクラホマ大QB
オクラホマ大は3年前にベーカー・メイフィールド(Baker Mayfield、現クリーブランドブラウンズ)、2年前にカイラー・マレー(Kyler Murray、アリゾナカーディナルス)と2年連続でハイズマントロフィー受賞QBを輩出。昨年も受賞まではいかなかったもののジェイレン・ハーツは最終候補にも残りました。
ということでライリー監督の下から数々の名QBが生まれていますが、彼らはもともと転校生。そして今年先発に指名されたのがこのラトラーですが、彼はライリー監督から直々にリクルートされてきた生え抜きの選手。果たして4年連続オクラホマ大QBがハイズマントロフィー授賞式に出席することができるでしょうか?
サム・エリンガー(Sam Ehlinger)
テキサス大QB
アメフトのメッカとも言えるテキサス州の旗艦大学であるテキサス大の先発QBを担うというのはとてつもない誇りでもあり重圧でもあります。そんなポジションを過去2年間担ってきたエリンガーも今年で4年生。昨年はハイズマントロフィー候補にも名を挙げましたがチームが敗戦を重ねるごとに彼も候補者から脱落していきました。
コロナ禍という特異なシーズンに敢えて戻ってきたエリンガーはテキサス大で名を刻むため、そして来るNFLドラフトで株を上げるために相当な活躍が期待されます。
注目の試合
オクラホマ大vsテキサス大@コットンボウル(10月10日)
毎年おなじみのライバリーゲーム「レッドリーバーの戦い」。過去10年間の直接対決戦績は7勝3敗でオクラホマ大に軍配が上がっています。テキサス大がBig 12タイトルを獲得する上で避けて通れない大舞台です。
オクラホマ州立大@オクラホマ大(11月21日)
こちらも同じくライバリーゲームで通称「ベッドラムシリーズ」と呼ばれるオクラホマ州内対決。ライバリーとはいえ過去20年間をみるとオクラホマ大16勝にオクラホマ州立大4勝とオクラホマ大が圧倒。今年はオクラホマ大のホームゲームとなりますが、下馬評ではオクラホマ州立大にも十分にチャンスがあると言われています。
テキサス大@オクラホマ州立大(10月31日)
仮に今シーズンも再びオクラホマ大が主導権を握ることになるならば、彼らとカンファレンスタイトル戦で相まみえることになりそうなのはこの2チームのどちらか。となればどちらにとっても負けられない試合となります。
AGS予想
本命:オクラホマ大
対抗:オクラホマ州立大
単穴:テキサス大
連下:ベイラー大
大穴:アイオワ州立大