HUMAN GAME
カレッジフットボールをプレーする選手やコーチにとって当然狙うはカンファレンスタイトルやナショナルタイトルです。しかしスポーツに携わることは必ずしも勝敗だけにこだわることだけが目的ではありません。その殆どのものは思わぬ副産物だったりするのですが、2020年度シーズンは特に通常とは全く異なるシーズンとして扱われる中、勝敗に関係ない重要な出来事も起きこのスポーツが勝ち負けを超えて「人と人とが作り上げるドラマ」なんだと教えてくれました。
BLM
今季開幕前から新型コロナウイルスで揺れたカレッジフットボール界。その最中に起きたのが「Black Lives Matter」運動です。
ことの発端は5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで起きた黒人市民に対する白人警官の暴行致死事件。無抵抗の男性に警官が容赦ない暴力を働き、その様子が動画にて拡散されて人種差別撲滅運動に発展。黒人の命も同じように大事だ、というメッセージを込めた「Black Lives Matter(BLM)」を合言葉にこの運動は全米各地に広がり、さらには世界中にもその影響は及んでいきました。
カレッジフットボール界にもこのムーブメントは押し寄せ、学生アスリートたちは各々が持つSNSのプラットフォームで行動を起こしました。その矢面に立ったのはクレムソン大のQBトレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)でした。彼はただでさえ世間がコロナ禍で不安な日々を過ごす中、黒人も白人も関係ない、変化を求めるならば今しかない、沈黙を守ることは許されないと地元の集会で声高らかに訴えました。
BLMの集会でスピーチするローレンス(左)
また全米各地でも今こそ変革の時だと訴える動きが続発。アラバマ大ではニック・セイバン(Nick Saban)監督が選手とともにマーチングを行ったり、ミシシッピ大のレーン・キフィン(Lane Kiffin)監督とミシシッピ州立大のマイク・リーチ(Mike Leach)監督は宿敵関係ながらタッグを組んでミシシッピ州の州都に出向いたりと様々な活動が見られました。
Nick Saban and #Alabama athletes marching toward Foster Auditorium. pic.twitter.com/EPJwSpSQ40
— Charlie Potter (@Charlie_Potter) August 31, 2020
What a picture. All of the college coaches at the State Capitol today. pic.twitter.com/pGfspLUrTx
— Nick Niehaus (@nickniehausWAPT) June 25, 2020
人種差別や黒人への社会的不公平という問題は根が深くそう簡単には解決するものでもありませんが、今回のBLM運動はこれまでに無く大きなうねりを見せましたし、またそれを風化させないためにも今後も継続して行かなければいけない啓蒙運動です。
女性初のパワー5ゲーム出場選手
またこのシーズンを象徴するような出来事として起きたのがヴァンダービルト大の女性キッカー、サラ・フラー(Sarah Fuller)の偉業。彼女は女性として初めて「パワー5」カンファレンスの試合に出場ならびにスコアを決めた選手となったのです。
これまでに女性としてカレッジフットボールの試合に出場した選手は何人かいましたが、カレッジフットボール界でも上位カンファレンス群と言われる「パワー5」の試合に出場したということに意義があったと言われています。当然フラー以前の女性選手たちも彼女と同じくらい特筆されるべきことであり、また2020年度にまったく勝ち星に恵まれなかったヴァンダービルト大にとっては注目を集めるためのスタントプレーだなんて揶揄する声も聞かれましたが、どんな形にせよ女性という枠を飛び越えてこの歴史的な瞬間を実現できたことは称賛に値することだと思います。
これは女性も男性に混じってフットボールができるのだ、というのが論点ではなく、何事もやってやれないことはないということをこれからの若い人々、特に女の子たちにフラーは訴えたのです。