2024年度シーズンもとうとうCFP全米王座決定戦を残すのみとなりました。8月末からここまで約5ヶ月弱。今年度からプレーオフが12チーム制度になったため日程が伸び、ナショナルチャンピオンシップが開催されるのが1月20日と昨年よりも10日遅い千秋楽を迎えることになります。
現在FBS(フットボールボウルサブディビジョン)に加盟しているのは134チーム。その頂を目指し最後まで勝ち残ったのが第7シードのノートルダム大と第8シードのオハイオ州立大。今回はこの頂上決戦の見どころをご紹介します。
目次
概要
🏟️メルセデスベンツスタジアム(ジョージア州アトランタ)
今年度の開催日はアメリカの祝日であるマーチン・ルーサー・キング・Jr・デー。会場はアトランタファルコンズの本拠地であるメルセデスベンツスタジアムです。ノートルダム大、オハイオ州立大とも北のチームですので、ロケーション的にはそこまでどちらかに有利というような条件ではないと思われます。
ノートルダム大は今回で3度目のCFP出場ですが、過去2回(2018年と2020年)はそれぞれ準決勝戦で敗れていますので、CFP全米王座決定戦出場はこれが初めてとなります。ナショナルタイトルゲーム進出という括りでいえば、CFPの前身であるBCS(ボウルチャンピオンシップシリーズ)時代の2012年度大会(開催されたのは2013年1月)で出場したのが最後。この時はアラバマ大に42対14で敗れています。
また、過去11回のナショナルタイトル獲得を誇るノートルダム大ですが、最後にこの栄冠を手に入れたのが1988年とかなり時間が空いており、今回勝てば36年ぶりのナショナルタイトル獲得となります。
一方オハイオ州立大にとってCFP出場は6度目。これはアラバマ大(8回)、クレムソン大(7回)に続き3番目に多い出場回数です。2014年度に行われた第1回目のCFPで見事初代チャンピオンになりますが、それ以来CFP全米王座から遠ざかっています。最後にCFPのタイトルゲームに進出したのは2020年度。この時は前述のノートルダム大の時と同じくアラバマ大に52対24で敗れました。
彼らのこれまでの全米制覇回数は8度。今回目指すは史上9度目のナショナルタイトルとなります。
これまでの歩み
ノートルダム大(14勝1敗)
ノートルダム大は開幕時全米7位発進(APランキング)。開幕戦でテキサスA&M大に勝利して良いスタートを切りますが、2戦目に格下のノーザンイリノイ大に16対14で大番狂せを喰らいランクを一気に18位まで落としてしまいます。
しかしそこから破竹の10連勝で11勝1敗でレギュラーシーズンを終了。どのカンファレンスにも属さない独立校である彼らはこの戦績のままCFPランキングで5位につけますが、12チーム制となったプレーオフのシードルールにより(4つの上位カンファレンス優勝チームがトップ4シードを自動的に授与される)第7シードチームとしてプレーオフ進出を果たします。
ファーストラウンドはホームのノートルダムスタジアムに第10シードのインディアナ大を迎えて行われました。雪がちらつく極寒の中での対決となりましたが、ノートルダム大が27対17でこれを撃破。準々決勝戦に駒を進めます。
準決勝戦となったシュガーボウルでは第2シードのジョージア大と対戦。2021年と2022年にタイトルを連覇している強豪との対戦となりましたが、手負いのジョージア大のオフェンスを10点に抑え、強力なディフェンスをバックボーンに23対10でまたも勝利。準決勝進出を果たします。
参考記事シュガーボウルレビュー【2023年度CFP準決勝第2試合】
そして準決勝戦となったオレンジボウルでは第6シードのペンシルバニア州立大(ペンステート)と激突。どちらもディフェンス力を主軸にランで押すチーム同士の対決となりましたが、ペンステートのわずかなミスを見逃さなかったノートルダム大が試合終了ギリギリでFGを決めて27対24で辛勝。見事今回の大舞台への切符を手に入れたのでした。
参考記事2024年度CFP準決勝戦レビュー【オレンジボウル】
オハイオ州立大(13勝2敗)
プレシーズンランキングで2位と期待度の高かったオハイオ州立大は開幕後5連勝と波に乗り、そのままオレゴン大(当時3位)との大一番を迎えます。が、この試合を32対31と僅差で落とし6戦目にして初黒星を喫してします。
が、その後は立ち直り途中当時3位だったペンステート、5位だったインディアナ大を蹴散らして10勝1敗でレギュラーシーズンフィナーレにて永遠のライバル、ミシガン大と激突。過去3連敗しており今年こそはリベンジを・・・と臨んだのですが、なんと大方の予想に反しミシガン大が13対10でオハイオ州立大を破るアップセットが起きてしまいました。
この試合はオハイオ州立大のホームで行われましたが、アウェーのミシガン大が自分たちのフラッグをオハイオ州立大のフィールド中央に施されたロゴに突き刺すという挑発行為を行い、乱闘騒ぎになりました。ライバルチームに受けた侮辱行為、そしてそのライバルチームに4連敗したということで選手並びに監督であるライアン・デイ(Ryan Day)監督への風当たりは強くなりますが、逆にそれは選手たちの闘争心を激増させる結果になります。
10勝2敗という戦績ながらプレーオフ進出を果たしたオハイオ州立大は第8シードチームとして第9シードのテネシー大とファーストラウンドで対決。テネシー大ファンが予想以上にオハイオスタジアムに詰めかけるという異様な雰囲気となりましたが、これまでにない攻守にキレキレだったオハイオ州立大はテネシー大を42対17で一蹴。準々決勝戦へ進出を決めます。
準々決勝戦のローズボウルではレギュラーシーズン中に一度負けている、第1シードで無敗だったオレゴン大との対戦。事実上のナショナルタイトルゲームなどと言われましたが、試合が始まってみるとオハイオ州立大がオレゴン大を圧倒。41対21で勝利してリベンジを果たし、準決勝戦に駒を進めます。
そして迎えた準決勝戦のコットボウル。対戦相手は第5シードの名門テキサス大。流石にここまでくるとオハイオ州立大も前半から飛ばして大差で勝つという展開に持ち込むことはできませんでしたが、元オハイオ州立大のQBクウィン・ユワーズ(Quinn Ewers)を彼の元ルームメートだったDLジャック・ソイヤー(Jack Sawyer)がサック→ファンブルリカバー→スクープ&スコアするという劇的なプレーを経てオハイオ州立大が28対14で勝利。悲願のタイトルゲーム出場を決めたのでした。
参考記事2024年度CFP準決勝戦レビュー【コットンボウル】
スタッツ比較
#7 | SOS | #2 |
37.0 (3) | 平均得点数 | 35.8 (8) |
405.2 (43) | 平均トータルオフェンス | 428.4 (25) |
194.3 (100) | 平均パスオフェンス | 265.1 (23) |
210.9 (12) | 平均ランオフェンス | 163.3 (59) |
14.3 (2) | 平均失点数 | 12.2 (1) |
298.7 (7) | 平均トータルディフェンス | 251.4 (1) |
165.3 (3) | 平均パスディフェンス | 161.1 (1) |
133.4 (35) | 平均ランディフェンス | 90.3 (3) |
ベーシックなスタッツだけ見ると攻守ともにオハイオ州立大の方が上回っていることがお分かりいただけると思います。ノートルダム大がオハイオ州立大よりも優れているのは平均得点数とランオフェンス。特にランオフェンスに関しては彼らのこれまでの戦いっぷりを見ても納得できる数字です。
ノートルダム大のディフェンスも全米屈指のユニットであることが伺えますが、オハイオ州立大のディフェンスと比べると特にランディフェンスにめっぽう強いことが分かります。ノートルダム大の強みであるランオフェンスとオハイオ州立大の強みであるランディフェンスのガチンコ勝負という構図が見え隠れしますね。
注目のマッチアップ
ノートルダム大ランアタックvsオハイオ州立大ランディフェンス
ノートルダム大のランアタックはジェレマイア・ラヴ(Jeremiyah Love)と彼のバックアップであるジャダリアン・プライス(Jadarian Price)、そしてQBライリー・レナード(Riley Leonard)が主軸。
ノートルダム大QBレナードとRBラヴ
ラヴはここまで1121ヤードに17TDを獲得したワークホース。インディアナ大戦で足を負傷してしまいましたが、先日のオレンジボウルでの対ペンステート戦には出場を果たして45ヤードに1TDという数字を残しました。プライスは今季733ヤードに7TDを記録。ラヴへの負担を減らすためにも彼の活躍は必要となってきます。
そしてチーム2番目のラッシュヤードを誇るのがQBレナード。ここまで866ヤードに16TDを足で稼いでおり、むしろパスよりもランの方が貢献度が高いと言える、典型的なカレッジQB。この3人合わせて約2700ヤードに40TDを誇るランオフェンスがノートルダム大の強み。
それに対するオハイオ州立大ディフェンスは超強力。フロントセブンには前述のソイヤー、DE J.T.トゥイモロアウ(J.T. Tuimoloau)、DT タイ・ハミルトン(Ty Hamilton)、DT タイリーク・ウィリアムス(Tyleik Williams)、LBコディ・サイモン(Cody Simon)といった、NFLで将来活躍するであろう逸材揃い。さらに2列目から溢れたところに突っ込んでくるSケイレブ・ダウンズ(Caleb Downs)やソニー・スタイルズ(Sonny Styles)、レイサン・ランサム(Lathan Ransom)も強力。このメンツを見れば一体誰がランでヤードを稼げるのか、と思ってしまうでしょう。
DEソイヤー(#33)を筆頭とする強力なオハイオ州立大ディフェンス
事実過去2試合の対戦相手のランヤードはオレゴン大がマイナス23ヤード、テキサス大が58ヤードで合計35ヤードしか走られていないわけです。このディフェンスにノートルダム大のランオフェンスがどこまで通用するのか・・・。
ただ、オハイオ州立大が今季敗れた2試合を見ると、初戦のオレゴン大戦では155ヤード、ミシガン大戦で172ヤード走られました。これは今季オハイオ州立大ディフェンスが許したランヤードでトップ2の数字。つまり、ノートルダム大のランが出れば勝機が訪れるという見方もできるかもしれません。
オハイオ州立大パスオフェンスvsノートルダム大パスディフェンス
オハイオ州立大のオフェンスはチップ・ケリー(Chip Kelly)オフェンシブコーディネーターによって操られる、ダイナミックなオフェンス。RPO(ランパスオプション)を軸にバーティカルに攻めていけるパスオフェンスを持っていますが、この主軸となってきたのがスーパールーキーWRジェレマイア・スミス(Jeremiah Smith)。
既にチームハイとなる1227ヤードに14TDを記録している末恐ろしい1年生は準々決勝戦のオレゴン大戦ではなんと前半だけで162ヤードに2TDというとんでもない数字を残したモンスター。この逸材があと2年もオハイオ州立大でプレーするのですから、対戦相手としては恐ろしい限りです。
当然ノートルダム大もスミスを抑えることを考慮してくると思われますが、オハイオ州立大が準決勝戦で対戦したテキサス大は試合中ダブルでスミスをカバーし、結果スミスはたったの1レシーブに3ヤードと完全に無力化されました。ノートルダム大のディフェンスは当然このフィルムを分析していることでしょうから、ここにスミス攻略のヒントがあるはずです。
ただオハイオ州立大にはスミスの他にもいぶし銀のエメカ・イブカ(Emeka Egbuka)やカーネル・テイト(Carnell Tate)といった武器も揃っており、スミスだけ抑えればいいというわけではありません。またRBトレヴィヨン・ヘンダーソン(TreVeyon Henderson)やクウィンション・ジュドキンス(Quinshon Judkins)もハワードのターゲットとして重要な働きをしてきました。特にテキサス大戦でのハワードからヘンダーソンへの75ヤードのスクリーンパスからのTDは圧巻でした。
75ヤードを激走するオハイオ州立大RBヘンダーソン
そのパスオフェンスをノートルダム大ディフェンスがどう抑え込むか・・・。答えば彼らのマン・ツー・マンディフェンスにありそうです。
ノートルダム大は今季最もカバー1を使用するチームであるというスタッツが出ています。つまり彼らのディフェンスは全米でも随一のマンカベレージディフェンスであると言えます。この状況下でノートルダム大ディフェンスは今シーズン14つのINTを奪い、38回のパス不成功を記録しています。どちらの数字もマンカベレージ下のディフェンスとしては全米1位の数字です。
これはそれだけアスレティックなディフェンダーがノートルダム大の2列目以降に揃っているということであり、それが怪我で戦線離脱しているスターCBベンジャミン・モリソン(Benjamin Morrison)不在であるにも関わらずということですから、如何に彼らのパスディフェンスが緻密に練られコーチされているかが分かります。
1年生ながら先発を任されているレナード・モアー(Leonard Moore)然り、クリスチャン・グレイ(Christian Gray)、ジョーダン・クラーク(Joardan Clark、ライアン・クラークの息子)、ロッド・ハード・II(Rod Heard II)然り、ノートルダム大のバックフィールドを守るタレントの質は高いですが、それをまとめ上げるのがオールアメリカンのSゼヴィアー・ワッツ(Xavier Watts)さらにアドン・シュラー(Adon Shuler)ですから、もしオハイオ州立大のパスオフェンスを止めることができるのであればそれはこのノートルダム大のパスディフェンスなのかもしれません。
ノートルダム大Sワッツ
ただ、マンカベレージは諸刃の剣となりかねず、一瞬の隙を見せれば命取りとなってしまいます。オハイオ州立大がこれまで対戦してきたチームのディフェンスはそういった面からもマンカベレージをあまり敷いてきませんでしたが、限られた状況でのマンカベレージに対してQBハワードは3本の指に入るエフィシエンシーを誇っています。
ケリーOC並びにハワードがノートルダム大のマンツーマンディフェンスを攻略できるのか、そしてノートルダム大ディフェンスはこのディフェンススキームを元にターンオーバーを引き出すことができるのか・・・。非常に注目したいマッチアップです。
展望
ノートルダム大とオハイオ州立大はカレッジフットボール界を代表する名門チーム。オハイオ州とインディアナ州と地理的には割と近隣同士のチームながら実はこれまで合計8回しか対戦がありません。その通算戦績はオハイオ州立大の6勝2敗。しかしノートルダム大の2勝は1935年と1936年と90年以上前の話であり、直近6試合ではオハイオ州立大の6連勝中。最後に対戦したのは2023年度シーズン。この時は17対14でオハイオ州立大が勝ちました。
この時実はちょっとした一悶着がありました。この対戦を前に、ノートルダム大で最後にナショナルタイトルを取った時の監督である、ルー・ホルツ(Lou Holtz)氏が当然古巣のノートルダム大が勝つことを予想したのですが、その理由を「オハイオ州立大はノートルダム大ほどタフじゃない」と言ってのけた事にデイ監督が激怒。
それを「ブルテンボードマテリアル」(相手を倒すためのモチベーションになり得るネタ)として掲げ見事オハイオ州立大はノートルダム大を倒したわけですが、試合後のデイ監督はフィールドでのインタビューでそのホルツ氏への怒りを爆発させたのです。
Here’s Ryan Day’s postgame interview calling out Lou Holtz for his comments.
— Tom VanHaaren (@TomVH) September 24, 2023
Among other things, Holtz said Ohio State better pack a lunch because it’s going to be a whole damn day of work against Notre Dame. pic.twitter.com/1URgfSurFR
当時86歳だったホルツ氏のコメントにここまで苛立つかと思ってもしまいますが(笑)、なんにせよ当時はこのマッチアップは大きな話題を生みました。そのリマッチが全米王座決定戦というこれ以上ない舞台で整ったのですから、何か運命めいたものを感じてしまいます。
スポーツ専門メディア「ESPN」が提供する、勝敗予想(Matchup Predictor)によるとオハイオ州立大が有利となっていますし、多くのベッティングサイトでも同様の傾向が見られます。
これは攻守でのバランスにおいてオハイオ州立大の方が優れていることに起因していると思われます。やはりどうしてもノートルダム大オフェンスがランアタックに傾倒すれば点を離された場合にパスに頼らざるを得なくなった時に、レナードがパスでチームを牽引できるのかが疑問視されるからです。ノートルダム大のパスオフェンスヤードが1試合平均で全米100位であることからもそれは明らかです。
ノートルダム大はオフェンス力で勝るオハイオ州立大に対してポゼッションゲームに持ち込むことが重要になるのではないかと思います。そのためにもランオフェンスを構築しなければならなくなりますが、それを活かすためにもパスである程度活路を開く必要があります。
ノートルダム大は前戦でLTアンソニー・ナップ(Anthonie Knapp)が負傷退場。マーカス・フリーマン(Marcus Freeman)監督は既にナップがこの頂上決戦に出場できないと公表しました。ペンステート戦ではナップ不在でもなんとか勝利することができましたが、確かにペンステートにはアブドゥル・カーター(Abdul Carter)という凄腕エッジラッシャーがいましたが、オハイオ州立大のラッシャーはユニット全体で考えればペンステートを上回ると言っていいと思います。
ノートルダム大は毎年優秀なOL陣を輩出していますが、今季彼らが対戦してきたどの相手よりも強敵と言えるオハイオ州立大のフロントセブンを相手にどこまで持ち堪えることができるか?ジョージア大戦で足を負傷するもペンステート戦ではなんとか間に合ったRBラヴの怪我の具合、その他諸々ノートルダム大が超えなければならない山は険しいと言わざるを得ません。
ノートルダム大が長いドライブを継続することができ、尚且つ彼らの伝家の宝刀であるマンカベレージディフェンスがオハイオ州立大に機能すれば1988年以来の全米制覇も夢ではありません。でなければミシガン大戦での敗戦をきっかけに一皮剥けてノリに乗っているオハイオ州立大を止めるのは大いなる試練となります。
5ヶ月弱にわたり繰り広げられてきた激戦の末、勝利の女神が微笑むのはどちらのチームか・・・。