新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受けまくった今季のカレッジフットボール。あるチームは開幕が遅れ、あるチームは試合が延期になり、またあるチームはスター選手がウイルスに感染したり・・・。紆余曲折を経ながらも先週レギュラーシーズンが何とか無事に終了し各カンファレンスの優勝チームが決定しました。そしてその先にあるナショナルチャンピオンへの道に続くCFP(カレッジフットボールプレーオフ)に出場する4チームが遂に明らかに。その選ばれしチームの顔ぶれを見ていきます。
出場4チーム
第1シード:アラバマ大
戦績
11勝0敗
所属カンファレンス
サウスイーストカンファレンス(西地区)
主な勝利ゲーム
テキサスA&M大(当時13位、52対24)
ジョージア大(当時3位、41対24)
アーバン大(当時22位、42対13)
フロリダ大(当時7位、52対46)*SECタイトルゲーム
SECタイトルゲームではフロリダ大とのシュートアウトに勝ち2年ぶりのカンファレンスタイトルを獲得。開幕以来無敗を守って文句なく第1位シードに落ち着きました。
ハイズマントロフィー最有力候補とされるQBマック・ジョーンズ(Mac Jones)、同じくトロフィーレースの一員であるWRデヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)、更には先日のフロリダ大戦で5TDに絡む大活躍を見せたRBナジー・ハリス(Najee Harris)らを擁するオフェンスは全米随一。彼らを止められるディフェンスはそう存在するものではありません。2017年度以来のナショナルタイトル獲りに準備は万端です。
第2シード:クレムソン大
戦績
10勝1敗
所属カンファレンス
アトランティックコーストカンファレンス
主な勝利ゲーム
マイアミ大(当時7位、42対17)
ノートルダム大(当時2位、34対10)*ACCタイトルゲーム
開幕時に全米1位発進するも途中ノートルダム大に敗れてランクを落としましたが、先日のACCタイトルゲームでノートルダム大と再び対戦してリベンジを果たしACC王者として6年連続のCFP進出を果たしました。
ハイズマントロフィー候補で来年のNFLドラフトでは総合ドライチの呼び声高いQBトレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)は機動力もある正確なパサー。同じくNFLスカウトから熱視線を受けるRBトラヴィス・エティエン(Travis Etienne)は走るだけでなくレシーバーとしても秀逸なスキルを持っており、割と若手の多いWR陣に厚みをもたせます。ディフェンスではフロントセブンが鉄壁。ノートルダム大に44ヤードしか走らせず、またQBサックも6つ計上。相手オフェンスの脅威となります。
第3シード:オハイオ州立大
戦績
6勝0敗
所属カンファレンス
Big Tenカンファレンス(東地区)
主な勝利ゲーム
ペンシルバニア州立大(当時18位、38対25)
インディアナ大(当時9位、42対35)
ノースウエスタン大(当時14位、22対10)*Big Tenタイトルゲーム
今季8週遅れで開幕したBig Tenカンファレンス所属のオハイオ州立大は新型コロナの影響で予定されていた8試合中3試合がキャンセルとなる不運に見舞われました。しかしながら出場したカンファレンス優勝決定戦ではノースウエスタン大の強固なディフェンスをこじ開けて勝利し2年連続4度目のCFPへ駒を進めました。
チームのオフェンスはこれまた超カレッジ級のQBで昨年のハイズマントロフィーファイナリストでもあるジャスティン・フィールズ(Justin Fields)が率います。QBレーティングは現在全米4位で今季を代表するQBであることは確か。またマスター・ティーグ(Master Teague)とトレイ・サーモン(Trey Sermon)という破壊力抜群のRBを擁し、特にサーモンはノースウエスタン大戦で脅威の331ヤードを足だけで稼ぎました。他のポジションにも軒並み秀逸選手が揃っており、たとえ6試合しかこなしていなくても彼らがプレーオフ出場の勝ちを持っているチームであることは明らかです。
第4シード:ノートルダム大
戦績
10勝1敗
所属カンファレンス
アトランティックコーストカンファレンス (今季のみ)
主な勝利ゲーム
クレムソン大(当時1位、47対40)
ノースカロライナ大(当時19位、31対17)
開幕してから全勝街道まっしぐらだったノートルダム大は途中当時全米1位のクレムソン大をオーバータイムの末倒す大勝利を挙げ全米2位にまで上り詰めましたが、先週のACCタイトルゲームでのクレムソン大とのリマッチで惨敗。しかし最終ランキングでは上位4チームの一角に留まり2年ぶりのCFP出場を果たしました。
ベテランQBイアン・ブック(Ian Book)と頼れるRBカイレン・ウィリアムス(Kyren Williams)を擁するオフェンスは派手さはないものの相手を突き放すのに十分な攻撃力を持っています。特にブックの成長は著しくポケット内の冷静さには目を見張るものがあります。そして彼らの強みとも言えるディフェンス陣は全米トップ20に入る堅実さを見せており、特に3rdダウンディフェンスは全米6位とここぞという場面で威力を発揮するユニット。名門ながら1988年以来ナショナルタイトルから遠ざかっており32年ぶりの全米王座獲得に燃えます。
マッチアップ
CFP準決勝第1試合
ローズボウル
アラバマ大(1位)vsノートルダム大(4位)
伝統のローズボウルはカリフォルニア州パサデナ市で行われてきましたが、現在新型コロナウイルスの影響でカリフォルニア州ではスポーツイベントは無観客試合が義務付けられています。先にノートルダム大のブライアン・ケリー(Brian Kelly)監督はもしノートルダム大がローズボウルに出場することになり選手の家族が観戦できないようならば出場辞退も考えるとCFP選考委員会にプレッシャーをかけていましたが、その甲斐あってか今回に限りローズボウルをテキサス州にあるAT&Tスタジアム(ダラスカウボーイズのホームスタジアム)で開催することになりました。
アラバマ大とノートルダム大が対戦するのは2012年度のBCSナショナルタイトルゲーム以来7年ぶり。この時はノートルダム大が1位、アラバマ大が2位でしたが結果はアラバマ大が42対14と圧勝。激戦を期待した多くのファンが肩透かしを喰らいましたが、果たして今回の大戦の結果はいかに・・・。
CFP準決勝第2試合
シュガーボウル
オハイオ州立大(3位)vs クレムソン大(2位)
シュガーボウルのマッチアップは昨年の準決勝戦(フィエスタボウル)と同一カード。この時は29対23と予想外のロースコアの激戦の末クレムソン大が勝ってタイトルゲームに駒を進めました。今年のチームと去年のチームは当然別物ではありますが、一方でクレムソン大にはQBローレンス、オハイオ州立大にはQBフィールズが今年も健在。ともなれば昨年苦汁をなめさせられたフィールズ率いるオハイオ州立大はリベンジに燃えるに違いありません。
CFPが導入された2014年度以来今年でプレーオフは7度目を迎えますが、クレムソン大は2015年度以来6年連続でこの大舞台に出場しており今では年末年始に彼らをTVで見ることは風物詩となっています。そのうち2度(2016年度と2018年度)にナショナルタイトルを獲得しており、2年毎にその栄冠を手に入れるパターンをなぞると今年は・・・。
ところで・・・
ご覧の通り出場を決めた4チームはCFPランキングが最初にリリースされた第1回目のランキングの面子と全く一緒。いわゆる「ナショナルパワー」と呼ばれる名門ばかりが名を連ねました。
しかし先週末のACCタイトルマッチではノートルダム大がクレムソン大にまったく刃が立たず惨敗。ここまで全勝だったとはいえこの負け方は5位以下のチームにとっては朗報だと思われたのですが、結局ノートルダム大は上位4つの椅子にしがみつくことができたわけです。
こうなると4位のノートルダム大とそれ以下のチームを比べた時何が違ったのか、どうして5位以下のチームがノートルダム大を上回れなかったのか、という疑問が湧いてきます。
5位以下で最後の椅子に滑り込む可能性があったと言われているのはテキサスA&M大、シンシナティ大、オクラホマ大です。
テキサスA&M大(8勝1敗)の唯一の敗戦はアラバマ大との試合。この時は52対24と惨敗しましたがそれ以降は破竹の7連勝。その間当時5位のフロリダ大を倒す大金星も挙げています。一方で同じSEC西地区所属のアラバマ大に敗れたため彼らはSECタイトルゲームに出場は叶いませんでした。
オクラホマ大(8勝2敗)は開幕後3試合中2試合を落として早々にランキングから姿を消しましたが、そこから見事に立て直って7連勝を飾りBig 12カンファレンス6連覇を果たしました。シーズン後半にかけてぐぐっとギアを上げてきたオクラホマ大の現時点での強さは4強に肉薄するものですが、やはり序盤に喫した2敗が足を引きずりました。
そして「グループオフ5」の期待の星であるシンシナティ大は9勝0敗でアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)タイトルをゲット。見事に無敗を守って「グループオブ5」勢として初のCFP進出を狙いましたが、どれだけ厳しいシーズンを勝ち抜いてきたかを示す「ストレングス・オブ・スケジュール」で66位という点、そして最大のポイントである「グループオブ5出身チームである」ということでCFP選考委員会には遂に評価されませんでした。
これまで2敗チームがプレーオフに進出したことがなかったことを考えると2敗のオクラホマ大が4つの椅子に座るのはかなり低い確率だったことが分かりますから、現実的に見るとノートルダム大、テキサスA&M大、シンシナティ大の3チームに絞らたことになります。
CFP選考委員長でアイオワ大の体育局長(AD)であるゲリー・バータ氏はファイナルランキングがリリースされた直後のインタビューで4つ目の椅子を巡るチームの比較過程を尋ねられましたが、ノートルダム大がその椅子に座ることができたのは彼らのこれまでの戦いぶりが総合的に評価されたからだと話していました。
おそらく実際この3チームのどのチームが4つ目のチームとして選ばれたとしても賛成意見と反対意見が出てくるのは避けられないでしょう。現時点での強さだけを見れば2敗のオクラホマ大が4強の一角をなしたとしても不思議ではありません。
現時点での強さを評価するのか、もしくはそこに至るまでのプロセスを評価するのか。当然13人の選考委員という人間が判断するわけですから主観的な意見が出てしまうのは致し方ありません。しかし例えば無敗のシンシナティ大が最終ランキングで8位に甘んじているという事実は考えさせられます。彼らより上には3敗のフロリダ大、2敗のオクラホマ大、1敗のテキサスA&M大というチームが並んでおり、特にアラバマ大と接戦を演じたとしても3敗しているフロリダ大が未だシンシナティ大よりも上位であること、そしてBig 12チャンプになったとはいえ先週10だったオクラホマ大がシンシナティ大を飛び越えていったことも解せません。
実際APランキングを見ると5位テキサスA&M大、6位シンシナティ大、7位インディアナ大、8位オクラホマ大、9位コースタルカロライナ大、10位フロリダ大という順位になっており、記者らの投票結果は各チームのここまでのプロセスが重視されているものになっています。
こんなコンスピラシーセオリーもあります。CFPはドル箱イベントとなるためなるべく有名校を出場させたほうがTV放映料は広告料が跳ね上がるため、その様なチームを出場させるような便宜が図られている、というもの。そうなれば「グループオブ5」勢のシンシナティ大のようなチームはどんなに頑張っても名門校らに太刀打ちできません。CFPランキングがリリースされてから一貫して彼らに評価が与えられないのにも納得がいきます。
AACのコミッショナーであるマイケル・アレスコ氏はAAC所属であるシンシナティ大が過小評価され続けることに遺憾の意を示し、現在のCFPシステムが機能していないことを指摘。いっそのこと前システムであるBCSの方がシンシナティ大を評価してくれただろうと話したほどです。今回のようなことが続けば確かに筆者もBCSのほうがある意味公平だったのではないかと思ってしまいます。
そして必然的に湧いてくるのはプレーオフの拡張というオプションです。現在4チーム制で7年目を迎えますが、最低でも8チームのプレーオフに広げれば毎年同じチームばかりのプレーオフというジレンマを解消できることでしょう。そうなればシンシナティ大のようなチームにも自分たちが強豪と言われるチームとも渡り合えることを証明するチャンスを得ることができます。
ただそれにはレギュラーシーズンの総数を調整しなければならず、それには利権の問題が大いに絡んでくるため一筋縄ではいかないことは重々承知です。しかしカレッジフットボール界がもっと風通しの良いスポーツとなるためにも常勝チームだけでなくシンシナティ大やコースタルカロライナ大のように中堅とされるチームでも全勝したチームにチャンスを与えてあげられるシステムの構築を強く望みます。