昨年9月より約4ヶ月に渡り激闘が続いた2020年度のカレッジフットボール。その中でもNCAA1部のフットボールボウルサブディビジョン(FBS)に所属する130チームの頂点に立ったのはサウスイースタンカンファレンス(SEC)のアラバマ大でした。
もちろん各チームともカンファレンスタイトルやナショナルタイトルを目指してこの4ヶ月汗を流してきたわけですが、これだけの期間があればシーズン中に様々なドラマが起きるもの。そこで2020年度シーズンを締めくくるにあたりその4ヶ月(そしてそこに至るまでのドラマも)を振り返ってみたいと思います。
【目次】
新型コロナウイルスの襲来
2020年度シーズンは新型コロナウイルスで始まり新型コロナウイルスで終わったようなシーズンでした。
アメリカでコロナウイルスが本格的に猛威をふるいだしたのが3月に入ってから。ちょうどこの頃はアメリカ各地で春季トレーニングが始まるかどうかという時期でした。この時はアメリカ国民の殆どの人々が対岸の火事を見るようにこのウイルスの感染を遠巻きで見ていたことでしょう。
ただ筆者が住むアメリカ東海岸ではこのウイルスによる猛威は顕著であり、感染者数が毎日うなぎのぼりに増えていく中で街や学校がシャットダウンされたりと生活に著しい影響を与えていました。
大学スポーツ界では男女バスケットボールが各地のカンファレンストーナメントを行い全国大会である「マーチマッドネス」を控えている頃でしたが、アイビーリーグが全スポーツの開催を取りやめると程なくしてすべてのカンファレンスにそれが飛び火し、結局NCAAが冬並びに春のスポーツ開催を見合わせるという前代未聞の事態に陥ったのです。
そしてカレッジフットボール界にもその影響の波は訪れ、春季トレーニングならびにその大締めとして行われるスプリングゲーム(紅白戦)も軒並みキャンセルに。大学のキャンパスからアスリートが居なくなるという過去に例のないシーンを見ることになります。
誰もが経験したことのない世界的パンデミックに世の中は混沌としますが、カレッジフットボール界においてもそれは例外ではなく選手たちのトレーニングの機会は奪われ来るシーズンが開幕されるのかもわからないという暗いトンネルを行くことになります。
特にコロナウイルスの事に関する情報がまだこの時は乏しく、決定的な治療法もなく感染後の長期的なリスクも分からなかったため、対処法は定められておらず最大の防御方法は自主隔離をし無駄な接触を避けて感染数を抑えるという予防行為しかありませんでした。
そんな中多くの生徒が集まる大学キャンパスで秋学期が実現するのかどうかも未知の世界であり、もし学生たちがキャンパスに足を踏み入れることが出来ないのならばフットボールを含めたすべてのNCAAスポーツの秋開催は難しいことになるという論調が増えていきます。
ただ6月に入ると感染者のトレンドが落ち着き一筋の光が。このトレンドを受けてNCAAは夏に行われる自主トレーニングをキャンパスで行っても良いという通達を出します。しかしこれには各地の自治団体の許可が必要であり、また感染を防ぐためにPCR検査を頻繁に行うことのできる環境が必要となったため、夏にトレーニングを行えるチームとそうでないチームが出てくることになりました。
一方当初アメリカ西海岸や東海岸の大都市部で猛威を奮っていた新型コロナウイルスは初夏になると南部へと広がりやがてすべての州で感染者を出すほどに全土を覆っていました。また夏季の自主トレーニングを行っていたカレッジフットボール界でも感染者を出して部活動が一時休止になったり施設が一時閉鎖になったりと確実にコロナの驚異は大学界にも広がっていきます。
そんな中先にも登場したアイビーリーグがフットボールを含むすべての秋スポーツの開催を断念することを7月初旬に発表。FCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)の彼らのこの決断が上位カンファレンス群であるFBS(フットボールボウルサブディビジョン)にどの様な影響を及ぼすのか注目されました。
それから1ヶ月後。カレッジフットボール界に激震が走ります。というのもFBS内でも特に名門で強豪チームがひしめくBig Tenカンファレンスが8月11日にフットボールならびにすべての秋季スポーツの開催を見合わせるという決断を下したのです。Big Tenカンファレンスにはオハイオ州立大、ミシガン大、ペンシルバニア州立大、ウィスコンシン大といった大御所が所属しており彼らが2020年度シーズンに参加しなくなるという自体に陥ったのです。
それに同調するように西海岸のPac-12カンファレンスとマウンテンウエストカンファレンス、中東部のミッドアメリカンカンファレンスもシーズン開幕断念を決意。いよいよ2020年度のカレッジフットボールシーズンが中止となることが現実味を帯びてきたのでした。
しかし春にすべてのスポーツ活動が休止状態に陥ったときとは今回は少し事情が異なりました。春に男子バスケットの「マーチマッドネス」が開催中止になった際、大学・カンファレンス・NCAAは収益の面で莫大な損失を被りました。それはこのイベントが興行的に超重要なものだったからであり、チケット、マーチャンダイズ、テレビ放映権、広告費などから巨額の利益を得ることができる資金源だったからです。
「マーチマッドネス」を開催できなかったことで大学やカンファレンスは大幅な減収となったため、秋のフットボールも不開催となればそれは破産に近い大ダメージとなる可能性があり、それを防ぐために何が何でも開幕まで持ち込みたいという目論見があったのです。ただ所属する大学の大学長14人のうち医学出身の学長が2人いたBig Tenはこの流れに反してあくまでも当時突きつけられたデータを元に科学的・医学的根拠からこの大胆な決断を下すに至ったわけです。
そしておそらく彼らは他のFBSカンファレンスもこの決断に追随するものだろうと思ったことでしょう。しかし現実はというと10有るうちの6カンファレンスは開幕へと爆進。開幕組と見送り組とで袂が分かれたのでした。
世界的なパンデミック下でカレッジフットボール開幕に向けて奔走すること、あるいは未知なる脅威を相手に選手らの安全面を考えて開幕を取りやめたこと、どちらが正しいかったのかは最後まで判明することはありませんでしたが、どちらの思惑の真意によらず時は流れ9月の開幕が刻一刻と近づいてきたのです。