2月9日、いよいよNFLの頂上決戦、スーパーボウルが行われます。今年のマッチアップはNFC覇者のフィラデルフィアイーグルスとAFC覇者のカンザスシティチーフスとなりました。イーグルスは2017年度シーズン以来のスーパーボウル制覇(リーグ合併前を含めると5つ目)を目指し、チーフスとしては2022年度シーズンおよび2023年度シーズンに成し遂げたスーパーボウル二連覇に続きスーパーボウルが導入された1966年以来で史上初の三連覇(リーグ合併前を含めると8つ目)を狙います。
(スーパーボウルが導入される以前ではグリーンベイパッカーズが1929年から1931年までと1965年から1967年に2度達成しています)
このマッチアップは2022年度のスーパーボウルと同じマッチアップ。この時はチーフスが38対35でイーグルスを破っており、イーグルスにしてみればリベンジマッチとなります。また現チーフスのHCアンディ・リード(Andy Reid)監督がかつてイーグルスのHCを務めていたという因縁も相まって話題性の高いマッチアップです。
当サイトはカレッジフットボールサイトですので、NFLを中心とした情報を提供されているサイトには到底情報の質が劣りますが、今回はこのスーパーボウルをカレッジフットボールファンの目線から見ていきたいと思います。
目次
イーグルスロースター(出身校付き)
フィラデルフィアイーグルス
14勝3敗(5勝1敗 NFC東地区)
オフェンス
QB
ジェイレン・ハーツ
Jalen Hurts
オクラホマ大
2020年ドラフト第2巡目

RB
セイクワン・バークレー
Saquon Barkley
ペンシルバニア州立大
2018年ドラフト第1巡目

WR
AJ・ブラウン
AJ Brown
ミシシッピ大
2019年ドラフト第2巡目

WR
デヴォンテ・スミス
DeVonta Smith
アラバマ大
2021年ドラフト第1巡目

WR
ジャハン・ドットソン
Jahan Dotson
ペンシルバニア州立大
2022年ドラフト第1巡目

TE
ダラス・ゴーダート
Dallas Goedert
サウスダコタ州立大
2018年ドラフト第2巡目

LT
ジョーダン・マイラタ
Jordan Mailata
なし(オーストラリア出身)
2018年ドラフト7巡目
LG
ランドン・ディッカーソン
Landon Dickerson
アラバマ大
2021年ドラフト第2巡目

C
キャム・ジャーゲンズ
Cam Jurgens
ネブラスカ大
2022年ドラフト第2巡目

RG
メカイ・ベクトン
Mekhi Becton
ルイビル大
2020年ドラフト第1巡目

RT
レーン・ジョンソン
Lane Johnson
オクラホマ大
2013年ドラフト第1巡目

ディフェンス (3-4)
DE
ミルトン・ウィリアムス
Milton Williams
ルイジアナ工科大
2021年ドラフト第3巡目

NT
ジョーダン・デーヴィス
Jordan Davis
ジョージア大
2022年ドラフト第1巡目

DE
ジェイレン・カーター
Jalen Carter
ジョージア大
2023年ドラフト第1巡目

LB
ノーラン・スミス・Jr
Nolan Smith Jr.
ジョージア大
2023年ドラフト第1巡目

LB
ザック・バーン
Zack Baun
ウィスコンシン大
2020年ドラフト第3巡目

LB
オーレン・バークス
Oren Burks
ヴァンダービルト大
2018年ドラフト第3巡目

LB
ジョシュ・スウェット
Josh Sweat
フロリダ州立大
2018年ドラフト第4巡目

CB
クウィンヨン・ミッチェル
Quinyon Mitchell
トレド大
2024年ドラフト第1巡目

S
C.J.ガードナー・ジョンソン
C.J. Gardner-Johnson
フロリダ大
2019年ドラフト第4巡目

S
リード・ブランケンシップ
Reed Blankenship
ミドルテネシー州立大
2022年ドラフト外FA

CB
ダリウス・スレイ
Darius Slay
ミシシッピ州立大
2013年ドラフト第2巡目

NB
クーパー・デジーン
Cooper DeJean
アイオワ大
2024年ドラフト第2巡目

スペシャルチーム
PK
ジェイク・エリオット
Jake Elliott
メンフィス大
2017年ドラフト第5巡目

P
ブランドン・マン
Brandon Mann
テキサスA&M大
2020年ドラフト第6巡目

LS
リック・ロヴァト
Rick Lovato
オールドドミニオン大
2015年ドラフト外FA

PK
クーパー・デジャン
Cooper DeJean
アイオワ大
2024年ドラフト第2巡目

KR
アイゼア・ロジャース
Isaiah Rodgers
マサチューセッツ大
2020年ドラフト第6巡目

チーフスロースター(出身校付き)
カンザスシティチーフス
15勝2敗(5勝1敗 AFC西地区)
オフェンス
QB
パトリック・マホームズ
Patrick Mahomes
テキサス工科大
2017年ドラフト第1巡目

RB
カリーム・ハント
Kareem Hunt
トレド大
2017年ドラフト第3巡目

WR
ゼヴィアー・ウォーシー
Xavier Worthy
テキサス大
2024年ドラフト第1巡目

WR
デアンドレ・ホプキンス
DeAndre Hopkins
クレムソン大
2013年ドラフト第1巡目

WR
ハリウッド・ブラウン
Hollywood Brown
オクラホマ大
2019年ドラフト第1巡目

WR
デマーカス・ロビンソン
Demarcus Robinson
フロリダ大
2016年ドラフト第4巡目

TE
トラヴィス・ケルシー
Travis Kelce
シンシナティ大
2013年ドラフト第3巡目

LT
ジョー・サニー
Joe Thuney
ノースカロライナ州立大
2016年ドラフト第3巡目

LT
マイク・カリエンド
Mike Caliendo
ウエスタンミシガン大
2022年ドラフト外FA

C
クリード・ハンフリー
Creed Humphrey
オクラホマ大
2021年ドラフト第2巡目

RG
トレイ・スミス
Trey Smith
テネシー大
2021年ドラフト第6巡目

RT
ジャワン・テイラー
Jawaan Taylor
フロリダ大
2019年ドラフト第2巡目

ディフェンス(4-3)
DE
ジョージ・カーラフティス
George Karlaftis
パデュー大
2022年ドラフト第1巡目

DE
マイケル・ダナ
Michael Danna
ミシガン大
2020年ドラフト第5巡目

DT
クリス・ジョーンズ
Chris Jones
ミシシッピ州立大
2016年ドラフト第2巡目

DT
ターション・ワートン
Tershawn Wharton
ミズーリS&T大
2020年ドラフト外FA

LB
ドゥルー・トランクイル
Drue Tranquill
ノートルダム大
2019年ドラフト第4巡目

LB
ニック・ボルトン
Nick Bolton
ミズーリ大
2021年ドラフト第2巡目

LB
リオ・シェナル
Leo Chenal
ウィスコンシン大
2022年ドラフト第3巡目

CB
ジェイレン・ワトソン
Jaylen Watson
ワシントン州立大
2022年ドラフト第7巡目

S
ジャスティン・リード
Justin Reid
スタンフォード大
2018年ドラフト第3巡目

S
ブライアン・クック
Bryan Cook
シンシナティ大
2022年ドラフト第2巡目

CB
トレント・マクダフィー
Trent McDuffie
ワシントン大
2022年ドラフト第1巡目

NB
チャマリ・コナー
Chamarri Conner
バージニア工科大
2023年ドラフト第4巡目

スペシャルチーム
PK
ハリソン・バッカー
Harrison Butker
ジョージア工科大
2017年ドラフト第7巡目

P
マット・アライザ
Matt Araiza
サンディエゴ州立大
2022年ドラフト第6巡目

LS
ジェームス・ウィンチェスター
James Winchester
オクラホマ大
2013年ドラフト外FA

PR
ニコ・レミジオ
Nikko Remigio
フレズノ州立大
2023年ドラフト外FA

KR
ニコ・レミジオ
Nikko Remigio
フレズノ州立大
2023年ドラフト外FA

出身チーム&カンファレンス
今回のスーパーボウルに出場する両チームの先発選手の中でどの出身大学が一番多くの選手をこの大舞台に送り出しているかというと・・・。
💪 @OU_Football leads the way with the most former players in Super Bowl LIX 📈
— FOX College Football (@CFBONFOX) January 30, 2025
Does your school have multiple players? pic.twitter.com/r6CgVVQCI4
2024年シーズン開幕時現、現役選手としてNFLに在籍する選手の出身大学のトップ5はアラバマ大(77)、オハイオ州立大(66)、ルイジアナ州立大(65)、ミシガン大(63)、ジョージア大(62)となっていますが、今回出場する2チームの先発選手だけでみるとオクラホマ大出身選手が最多となっています(全体でいうと9位で46人)。
オクラホマ大に続いて2番目に多いのがジョージア大ですが、イーグルスのディフェンス選手であるジョーダン・デーヴィス(Jordan Davis)、ジェイレン・カーター(Jalen Carter)、ノーラン・スミス・Jr(Nolan Smith Jr.)は、ジョージア大が優勝した2021年度にチームメイトだった3人。その彼らがイーグルスの先発フロントセブンの一角を背負っているというのは興味深いです。しかもそのほかにもSルイス・シーン(Lewis Cine)、CBキーリー・リンゴ(Kelee Ringo)もこの時のメンバーですから、2021年から2022年のジョージア大ディフェンスの凄さを改めて思い知らされます。
今度は先発選手の出身カンファレンスを見てみたいと思います。
![]() | サウスイースタンカンファレンス | 33人 |
![]() | Big Tenカンファレンス | 22人 |
![]() | アトランティックコーストカンファレンス | 17人 |
![]() | Big 12カンファレンス | 6人 |
![]() | ミッドアメリカンカンファレンス | 4人 |
![]() | カンファレンスUSA | 4人 |
![]() | アメリカンアスレティックカンファレンス | 3人 |
![]() | マウンテンウエストカンファレンス | 2人 |
![]() | Pac-12カンファレンス | 2人 |
![]() | サンベルトカンファレンス | 1人 |
![]() | FCS | 5人 |
![]() | ディビジョン2部 | 3人 |
サウスイースタンカンファレンス(SEC)がダントツで、それをBig Tenカンファレンス、アトランティックコーストカンファレンス(ACC)所属チーム出身選手が追随します。
昨今カレッジフットボール界ではカンファレンスのリアライメント(再編成)が盛んですが、特に昨年はSECにテキサス大とオクラホマ大、Big Tenにオレゴン大、ワシントン大、USC、UCLA、Big 12にユタ大、アリゾナ大、アリゾナ州立大、コロラド大、ACCにサザンメソディスト大、スタンフォード大、カリフォルニア大がそれぞれ移籍し、その余波でPac-12カンファレンスにはワシントン州立大とオレゴン州立大のみが残され、事実上解体されてしまったということが起きました。
そのせいで今回のカンファレンス別の勢力図に変化が見られますが、特にテキサス大とオクラホマ大を失ったBig 12カンファレンス出身選手の数の減少が顕著です(昨年17人→今年6人)。
ただ俗に言う「パワー4」カンファレンス出身選手が多くを占めており(合計78人)、それはカレッジフットボールでの勢力図をそのまま反映しているとも言えます。
また、ドラフトされた順番を見てみるのも一興です。
とかくドライチ選手が注目されるのが世の定めですが、そうでないアンダードッグたちがスターダムにのし上がるのを観るのはいつの時代も爽快なものです。
たとえば先発選手でいうと、イーグルスには2人(トータルで9人)、チーフスには4人(トータルで11人)のドラフト外FA選手、つまりドラフトでどのチームからも声をかけてもらえなかった選手がいます。そんな選手でもスーパーボウル出場チームで先発を張れるわけです。
またドラフトの6巡目7巡目に指名を受けた選手も全部で6人いますし、そういった「掘り出し物」をドラフトで引き当てられるかどうかも重要なのかもしれません。
とは言うものの、やはり第1巡目で引っ張ってきた選手が重要なのも事実。というよりは、第1巡目で選んだ選手がその期待どおりの活躍をしたかどうか、そしてそのような選手を選ぶだけの眼力がスカウト陣やコーチ陣、さらにはGMにあったのかどうかということが反映されていることが見て取れます。
先発ロースターだけで見れば、イーグルスには9人のファーストラウンダー、チーフスには6人のファーストラウンダーが今もチームに残っています。ファーストラウンダーという期待を背負ってドラフトされた選手がその期待に応えているという見方もできますし、またセイクワン・バークレー(Saquon Barkley、元ペンステート)やデアンドレ・ホプキンス(DeAndre Hopkins、元クレムソン大)といった移籍組でも「流石元ファーストラウンダー」という見方もできるでしょう。
そのバークレーとホプキンスですが、バークレーは2018年のドラフト1巡目でニューヨークジャイアンツ入りし、ジャイアンツで6年間プレーしたあと2024年度シーズンからイーグルス入りし、個人的にも大活躍して自身初のスーバーボウル出場。またホプキンスは2013年のドラフトで1巡目でヒューストンテキサンズ入りし、その後アリゾナカーディナルズ、テネシータイタンズを経て今季途中からチーフス入りし、プロ入り12年目にして悲願のスーバーボウル進出を決めました。その喜びは一入でしょう。
ただどちらのチームもその先発選手の顔ぶれを見るとここ5年間のうちにドラフトされた選手たちが多いことがわかります。そのことからも双方が比較的若い選手が多いチーム、つまり代謝が進んでいるチーム同士の戦いと言えるのかもしれません。
第57回にスーバーボウルに出場した時のイーグルスの先発ロースターと比べると、オフェンスでは7人が当時と同じ面子であるのに対し、ディフェンスではSのC.J.ガードナー・ジョンソン(C.J. Gardner-Johnson、元フロリダ大)とCBダリウス・スレイ(Darius Slay)以外はメンバーが一掃されています。
一方のチーフスは同じ第57回スーバーボウル出場時の先発メンバーと比べるとオフェンス・ディフェンスでそれぞれ5人が当時と同じメンバー。ただDB4人は全く異なった選手が先発を張っているという点は面白いですね。
元5つ星リクルート
高校生が大学チームからリクルートを受ける際何かと会話に出てくるのは、彼らを評価する星の数です。5段階で5つ星が最高峰の評価を受けるリクルートと言うことになりますが、そのように高校時代から将来有望という評価を受けた選手たちが果たしてプロでもやっていけるのかと言うのはよく言われることです。
あるデータ(少し古いですが)によると、かつて5つ星を受け取った選手たちがNFLでも活躍する可能性は高めだと言う数字が出ています。また元5つ星選手で第1巡目ないし2巡目で指名を受けた選手たちはしっかりとプロでも成果を出してリーグに残る率が高いと言うデータも出ているようです。
またスキルポジションの選手で5つ星の評価を得た選手がプロでもやっていける確率もある程度ポジティブな数字が残っています。一方でライン選手がプロでも力を発揮できる確率がそこまで高くないようですが、それは高校で高評価を受けた選手の伸び代がそこまでないと言えるのかもしれませんし、逆を言えばこれらのポジション選手は大学に入ってからプロ入りするまでに化けやすいとも言えるのかもしれません。
今回のSBに出場する両チームには以下のような元5つ星選手が出場するようです。
Which active Super Bowl LIX roster has a more impressive list of former 5-star recruits? ⭐️👀 pic.twitter.com/gf2YRLFIZQ
— FOX College Football (@CFBONFOX) January 28, 2025
先発選手でもそうでない選手もいますが、この人数が多いと見るかどうか・・・。
ハーツ vs マホームズ
試合を行う際に同じポジション選手同士を比べ合うのはナンセンスなような気もしますが、とかく試合の行方を語る上で外せないのは互いの先発QBのことになりますよね。
Here’s how Jalen Hurts and Patrick Mahomes stacked up in their recruiting rankings and NFL Draft picks 📊
— FOX College Football (@CFBONFOX) February 4, 2023
Which one has come the furthest in their career? 🤔 pic.twitter.com/jDoOZzYyyk
ジェイレン・ハーツ(フィラデルフィアQB)
ジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts)はテキサス州出身の元4つ星QB。モバイルQBとして2016年にアラバマ大に入学。開幕時にはバックアップQBでしたが、先発QB(ブレイク・バーネット)が不調だったため彼に代わって1年生ながら途中出場。サザンカリフォルニア大相手に投げて走って相手を撹乱し52対6で大勝。以来1年生ながら名門アラバマ大で先発QBを任されます。
(ちなみにアラバマ大で1年生が先発QBとなるのは32年ぶりのこと)
その年は全勝でナショナルタイトルゲームに進出するも、デショーン・ワトソン(Deshaun Watson、現クリーブランドブラウンズ)を擁するクレムソン大に敗れ全米制覇をあと少しのところで逃します。
2年生となった2017年度シーズンもシーズンを先発QBとして駆け抜けますが、この年は幾分パサーとしての能力に疑問符が投げかけられたシーズン。それでも再びナショナルタイトルゲームに出場したアラバマ大はジョージア大と対決。前半ハーツのパスが機能せず攻めあぐみリードを奪われて後半に突入するとアラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督はここにきて先発QBだったハーツをベンチに下げ、パス能力で勝る1年生のトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)を投入すると言う類を見ない采配を振います。
結局オーバータームでタガヴァイロアから1年生だったWRデヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)への逆転サヨナラTDパスが決まってアラバマ大が優勝。しかしこの展開から翌年のアラバマ大でのQB事情がどうなるかに注目が集まることになります。
参考記事ナショナルチャンピオンシップゲームレビュー【2018年度】
そして2018年度シーズン。開幕時に先発QBを言い渡されたのはハーツではなく後輩のタガヴァイロアでした。過去2年間先発を務め2年連続チームを全米王座決定戦に導いたハーツとしてはそのプライドを引き裂かれた思いだったでしょう。そんな彼なら出場機会を求めてアラバマ大を出ていくこともできたたため、ハーツがアラバマ大に残るのかどうかは開幕後も注目されていました。
特にこの年から4試合までなら試合に出てもレッドシャツ制度を用いてプレー資格を温存できると言う新ルールが発動しており、ハーツも4試合目までは試合の最後のモップアップ係としてプレーしていましたが、もしプレー資格を温存して新天地に転校したいのであれば5試合目のルイジアナ大(ラフィエット校)戦までにその進退を決断しなければなりませんでした。
が、その5戦目のルイジアナ大戦にハーツはチームと共に帯同。そして後半彼に出番が回ってくるとその時点で彼のプレー資格が使用済みということになってしまったのです。自分のプレー資格云々よりも大学に残留してバックアップに徹するという決断をしたハーツに対し、この日スタジアムに訪れていた多くのアラバマ大ファンからスタンディングオベーションを受けていたのは今も記憶に新しいです。
そうしてタガヴァイロアのバックアップとして過ごすことになったハーツですが、SEC優勝決定戦でジョージア大と対戦したアラバマ大はこの試合中にタガヴァイロアが足首の怪我で途中退場。この時アラバマ大はジョージア大を追いかける展開であり、負ければプレーオフ進出の夢が消えるという非常に切羽詰まった状況でした。
そしてここで登場したハーツは見事に同点さらに逆転のTDを演出。自分のことだけ考えて転校もできたところバックアップ役に徹してチームのために残留し、そしてアラバマ大の窮地を救ったヒーローになったのでした。
参考記事アラバマ大35、ジョージア大28【SEC優勝決定戦】
そしてこのシーズンが終わりアラバマ大での学士号を取得すると大学院生の転校生(グラデュエイトトランスファー)として大学最後のシーズンをオクラホマ大で過ごすことを決意します。
オクラホマ大ではかつてベーカー・メイフィールド(Baker Mayfield、現LAラムズ)やカイラー・マレー(Kyler Murray、現アリゾナカーディナルズ)といったハイズマントロフィー受賞QBおよびNFLドラフトで総合ドライチQBを育てたリンカーン・ライリー(Lincoln Riley、現サザンカリフォルニア大)監督の下でパサーとしての腕を磨き、それまで彼はパスが投げられないQBというレッテルを貼られていたところこれを彼の努力で克服。チームはプレーオフに進出し彼自身もハイズマントロフィーのファイナリストに選ばれるなど素晴らしいシーズンを送りました。
大学卒業後は同じ卒業クラスのジョー・バロウ(Joe Burrow、元ルイジアナ州立大)などと比べるとやはりプロでやれるだけのパス能力を持っているかどうかに不安を抱えていましたが、ドラフトされたイーグルスでは当時の先発QBだったカーソン・ウェンツ(Carson Wentz、元ノースダコタ州立大)のケガおよび不調の際に出場のチャンスを手に入れると首脳陣から一定の評価を得たこととで先発QBの座を射止めます。
以来不動のQB1のポジションをキープし続け、今回で2年ぶり2度目のスーパーボウル出場を果たしたのです。
アラバマ大から頻繁に寄せられていた批判の声にも屈することなく、自分の力でその声を糧にして覆すということを何度もやってのけてきたハーツ。その彼がNFLの最高の舞台に立とうとしているのはそれまでの彼の道のりを知っているものとして胸熱の流れといえます。
パトリック・マホームズ(カンザスシティQB)
一方のパトリック・マホームズ(Patrick Mahomes)はテキサス工科大出身で元アリゾナカーディナルズのHCであり現ワシントンコマンダーズのオフェンシブコーディネーターであるクリフ・キングスバリー(Kliff Kingsbury)監督に大学時代3年間従事。キングスバリー監督の超パス重視オフェンス「エアーレイドオフェンス」のおかげもあってたったの3年間で11252パスヤードに93TDというとんでもない数字を残しました。また2016年度のオクラホマ大戦で彼が残した1試合のパスヤード(734ヤード)およびトータルヤード(819ヤード)は未だ破られていないNCAA記録です。
そんなマホームズですが、高校生リクルート時は3つ星評価(5段階中)の選手としてそこまで高い評価を受けていた選手というわけではありませんでした。
テキサス州出身のマホームズ、父親は1997年と1998年に横浜ベイスターズで投手として来日したこともある選手。その影響もあって小さな頃から熱心で才能のある野球少年として育ちました。打撃で非凡な才能を見せ、またピッチャーとしてもはたまた野手としても才能を発揮。
またバスケットボールでも活躍したマルチアスリートだったようで地元では有名なアスリートだったとのこと。親戚に言わせれば何をやっても大人を負かしてしまうほどの運動能力を持っていたらしく、それはゴルフや高跳び、果ては卓球まで多岐に渡っていたということです。
そんな彼がフットボールに目覚めたのはミドルスクール(日本の中学校相当)からだったらしいのですが、当初は主にセーフティーとしてプレーし、QBとして本格的に先発出場し出したのは高校2年生からだったのだそうです。
このシーズン、マホームズは3839パスヤードに46TDと素晴らしい成績を残し、地元テキサス周辺である程度の注目を集めることになります。そこに目をつけたのがテキサス工科大のキングスバリー監督とそのスタッフ。高校2年のシーズンが終わった後にテキサス工科大がマホームズにスカラシップ(スポーツ奨学金)をオファーし、本人もこれを受諾したそうです。
ただ今となっては驚くことに彼をリクルートしていたのは他にオクラホマ州立大とライス大くらいだったとか。しかもオクラホマ州立大は結局マホームズにスカラシップをオファーすらしなかったということで、今の彼のポジションからすると彼が高校生の時に大学から引く手数多とならなかったのかというのは、ちょっとしたミステリーになっています。
では何故高校生だったマホームズに多くのチームが手を出さなかったのか・・・。
まず一つ目に言われているのは、すでにご紹介した通りマホームズの父がプロ野球の選手であり、彼自身も高校で野球(バスケも)をプレーし続けていたことで、将来的にはアメフトではなく野球の道に進むのではないかと言われていたからです。オファーしても入部しないのであれば別のリクルートを勧誘することに注力した方がいいと感じた大学がいくつもあったのかもしれません。
もう一つ言われていたのが、フットボールの他にバスケと野球もこなすマルチアスリートだったため、フットボールのオフシーズンにはすでに別のスポーツに本格的に取り組んでおり、フットボールに費やす時間が少なすぎると危惧されていたことも挙げられているようです。
特に当時から彼の投球フォームは独特でしたが、それをオフシーズンに矯正するようなチャンスもなかったことを心配した大学コーチが居たとか居ないとか・・・。
ただテキサス工科大および現在のKCでの活躍からも分かる通り、マホームズがマルチアスリートを貫いたことは決してマイナスにはならなかったといえるのではないでしょうか?むしろ彼のクリエイティブでどことなくトリッキーなプレースタイルは野球やバスケを通して身についたものであると考えることができるため、マルチにスポーツをやっていたことが今のマホームズの基礎を形成していたとも言うことができると思います。
アメリカで複数のスポーツを若い頃からプレーすることは不思議なことではありませんし、むしろ一つのスポーツだけをプレーしている生徒を探す方が難しいかもしれません。複数のスポーツに勤しんだ方が子供たちの総合的なヘルスに有効だという研究もなされているほどです。
日本のユーススポーツはとかく生徒に一つの競技しかプレーさせられない環境にあると思います。それはそれぞれのスポーツにシーズンという明確な区切りがなく、1年中スポーツ活動しているからにほかありませんが、複数のスポーツをすることでマホームズのような逸材が生まれるとすれば、どのスポーツにせよ若いうちにいろいろやらせてあげられるといいですよね。
ちなみに、両チームを率いるアンディ・リード(Andy Reid、カンザスシティー) 監督とニック・シリアニ(Nick Sirianni)監督も当然カレッジフットボールプレーヤーだったわけですが・・・。
リード監督はブリガムヤング大に1978年から1980年まで所属。OLとして同校のレジェンドでもあるQBジム・マクマホン(Jim McMahon)とともにプレーした後にコーチングの道へ足を踏み入れ、9年間カレッジで修行したのちに1992年からグリーンベイパッカーズに合流してNFLに活躍の舞台を移し1999年にはフィラデルフィアイーグルスのHCに就任。ここで13年指揮を取ったのちに2013年から現在までカンザスシティチーフスで監督を務めているというベテランコーチです。
一方シリアニ監督は大学時代NCAA3部の強豪・マウントユニオンカレッジでWRとしてプレー。ここでは2000年、2001年、2002年とNCAA3部でのナショナルタイトルを3連覇。インドアリーグで1年プレーしたのちに本格的にコーチングの道へ。2009年からはカンザスシティチーフスで下積みの時間を過ごし2013年に上記のリード監督がチーフスにやってくるまでここでアシスタントコーチのアシスタントを務めます。そしてサンディエゴ(現LA)チャージャーズ、インディアナポリスコルツを経て昨年度(2021年度)からイーグルスの指揮を取っているという、41歳の若手コーチです。
リード監督もシリアニ監督もかつてお互い今回の対戦相手のチームについていたことがあるという奇遇な巡り合わせ。お互いの心中はいかに・・・?
三冠王なるか?
カレッジフットボール界でチームとしての最高峰の名誉はナショナルチャンピオンですが、個人賞でいえばハイズマントロフィーがそれに当たると思います。これを現役時代に両方手に入れることができる選手はなかなかいませんが、さらにそれにスーパーボウル勝者を加えるとそれを達成したことがある選手はたったの4人に絞られてしまいます。
トニー・ドーセット(Tony Dorsett、元ピッツバーグ大)
ハイズマントロフィー:1976年
ナショナルチャンピオン:1976年
スーパーボウル:1978年(第12回、ダラスカウボーイズ)
マーカス・アレン(Marcus Allen、元サザンカリフォルニア大)
ハイズマントロフィー:1981年
ナショナルチャンピオン:1978年
スーパーボウル:1984年(第18回、LAレイダース)
チャールズ・ウッドソン(Charles Woodson、元ミシガン大)
ハイズマントロフィー:1997年
ナショナルチャンピオン:1997年
スーパーボウル:2011年(第45回、グリーンベイパッカーズ)
レジー・ブッシュ(Reggie Bush、元サザンカリフォルニア大)
ハイズマントロフィー:2005年
ナショナルチャンピオン:2003年&2004年
スーパーボウル:2010年(第44回、ニューオーリンズセインツ)
そして今回この「三冠王」たちの仲間入りを果たせるかもしれない選手がいます。それがイーグルスのWRデヴォンテ・スミスです。
スミスは2020年度シーズンのハイズマントロフィー受賞者。WRとしての受賞は史上4人目。そしてナショナルチャンピオンは2017年度と2020年度に2度獲得しています。1年生だった2017年度のタイトルゲームでは、先発QBが上でご紹介したジェイレン・ハーツ。しかしハーツが不調で対戦相手のジョージア大にリードを奪われ、後半から後輩のトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa、現マイアミドルフィンズ)が投入されます。そしてOTではそのタガヴァイロアからのパスをこのスミスがキャッチしてサヨナラTDを決めて逆転優勝。その時のプレーは未だ瞼の裏に焼きついています。
WHAT. A. GAME.
— SEC Network (@SECNetwork) January 9, 2018
Tua Tagovailoa to DeVonta Smith … BALLGAME!!!@AlabamaFTBL WINS THE NATIONAL CHAMPIONSHIP!!!! pic.twitter.com/WxmHdRazCQ
今回イーグルスが勝てばスミスも3つのタイトルを手に入れることになります。果たしてこの「限定クラブ」にスミスも加わることができるでしょうか?
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