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嗚呼、ペンステート

嗚呼、ペンステート

今季第8週目から参戦したのがBig Tenカンファレンスですが、ここまで5試合を終えてカンファレンスの勢力図を見ると明暗がはっきりと別れています。

オハイオ州立大がかっ飛ばしている現状は想像出来ましたが、ノースウエスタン大が5勝無敗で西地区で首位を走ったり、オハイオ州立大を相手に善戦したインディアナ大らの活躍は予想外の出来事と言えます。

ミシガン大不調の陰で・・・

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一方で開幕から話題をさらっていたのはミシガン大。開幕戦でミネソタ大に大勝して今年こそいよいよ何かどでかいことをしでかすかと思われていましたがそこからまさかの3連敗。名門ミシガン大にて5シーズン目となるジム・ハーボー(Jim Harbaugh)監督は就任直後からSNSで大風呂敷を叩いたり、SECに物申したりするなど世間を騒がせていましたが、フィールド上での結果が付いてこずいよいよメッキが剥がれてきたかという声が増えてきました。

そんな中迎えた先週のラトガース大戦。昨年の同一カードではミシガン大が52対0と完全勝利を収めましたが、それ以前にもミシガン大はラトガース大を寄せ付けずに勝ち続け格の違いを見せつけてきましたが、今季苦戦が続くミシガン大はやはりこのラトガース大戦でも苦戦。しかし最後はオーバータイムを経て何とか白星を飾り名門としての威厳を守ったのです。

ミシガン大がラトガース大に辛勝というこのフレーズからも彼らの今季の調子の悪さが伺えますがこれで今季の戦績は2勝3敗。残り3試合を全て勝利できれば勝ち越しはまだ手の届くところにあることを考えると満足行く結果とは言えないにしろ最悪ではない結末はまだ期待できます。

開幕から苦戦を続けたこと、ジム・ハーボー監督という存在、そしてミシガン大というブランド力から彼らの動向ばかりが取りだたされる時間が長く続く中、その影に隠れて更にひどいシーズンを送っているチームがあります。それがペンシルバニア州立大(ペンステート)です。

ペンステートは開幕戦でインディアナ大相手に際どい判定の後にショッキングな形で黒星を喫し、2戦目ではオハイオ州立大と対戦して撃沈。ここまでで0勝2敗となっていましたが、パンデミックという特異なシーズンのこともあり、「まあこんなシーズンもあるよね」という見方が強かったのですが・・・。

第3戦目のメリーランド大戦をホームで35対19で落とすと「あれ?」という雰囲気になり、第4戦目のネブラスカ大との全敗同士の対決でも覇気なく敗れて4連敗となるといよいよ全米中の目がペンステートの不調に向き始めます。そして極めつけが先週のアイオワ大戦での41対21での敗戦。彼らはこれで0勝5敗となってしまったのです。

開幕時には全米8位にランクされていたペンステートですが、彼らのようにトップ10発進したチームが開幕後5連敗を記録したことは長いカレッジフットボールの歴史の中でも過去に例がありません。また創部以来133年目を迎えるペンステートとしても開幕5連敗は自身初となる汚点となってしまいました。


ペンステートと言えば・・・

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ペンステートと言えばやはり語らずにはいられないのがジョー・パターノ(Joe Paterno)元監督の存在です。

ペンシルバニア州の片田舎にあるペンステートは1887年に初めてチームを世に送り出して以来何処にも属さない無所属の「独立校」としてカレッジフットボールに参戦してきました。彼らが確実にこの業界に名を刻むことになるのはパターノ氏が1966年に監督に就任してからのことです。

3年目の1968年度にチーム初の11勝(0敗)を挙げてオレンジボウルに出場すると翌年も同じく11勝0敗でオレンジボウルに招待されます。ランキングもチーム史上最高となる2位を記録するとその後も二桁勝利シーズンを量産し、そしてついに1982年に悲願のナショナルチャンピオンに。1986年にも再び全米制覇を成し遂げると1993年には独立校からBig Tenカンファレンス所属に鞍替え。2000年代初頭には負け越しシーズンがかさみいよいよパターノ時代の凋落を迎えたかと思われましたが2005年度にBig Tenタイトルを獲得して復活すると2008年にもこのカンファレンスを制し「生き仏」としてその名を知らしめました。

しかし2011年に発覚した「サンダスキー事件」の余波を受けてペンステートはシーズン途中にレジェンドであるパターノ氏と袂を分かち、それからたった3ヶ月で彼は肺がんのために他界されました。享年85歳でした。

*サンダスキー事件とは、パターノ氏の右腕として長きに渡りディフェンシブコーディネーターを務めたジェリー・サンダスキー(Jerry Sandusky)氏が陰で複数の男児に性的虐待を行っていたことが明らかになったカレッジスポーツ界最大級のスキャンダル。パターノ氏はサンダスキー氏の悪行を知りながら適切な機関に報告しなかったせいでその責任を問われ2011年度シーズン半ばに解雇に。サンダスキー氏の公判は現在も続いていますが、30年から60年の禁固刑に処されています。

参考タグサンダスキー事件

サンダスキー事件はパターノ氏の責任だけでなく、体育局長、大学長のクビが飛ぶまでに至り、大学側も6000万ドル(1ドル100円計算で約60億円)の罰金、4年間のボウルゲーム出場禁止、スカラシップ(スポーツ奨学金)の削減、そしてパターノ氏がこの事実を知りながら指揮し続けた間に得た勝利数112勝の抹消(後に復活)とかなり厳しい処罰が下されたのです。

その後ある意味「死に体」となったペンステートのHC職をあえて引き受けたのがビル・オブライエン(Bill O’Brien)氏。NFLニューイングランドペイトリオッツのOCを務めていたオブライエン監督はスキャンダルの余波で厳しい状況ながら予想外となる8勝4敗という好成績を収め最優秀監督賞である「ポール・ベアー・ブライアント賞」を獲得。翌年7勝5敗という戦績を収めると彼はNFLヒューストンテキサンズの新監督に就任するためにチームを去りました。

そしてその後釜に白羽の矢が立ったが現HCのジェームス・フランクリン(James Franklin)監督です。

ペンステートの復活

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フランクリン監督はSEC(サウスイースタンカンファレンス)でも万年ビリで知られていたヴァンダービルト大を2011年から2013年までの3年間指揮し、2012年と2013年は9勝を挙げる快挙を達成しその手腕を見込まれてペンステートにやってきました。フランクリン監督はペンステート史上初の黒人監督。まだまだサンダスキー事件の尾を引く状況の中草の根のチーム再建に着手。2016年度にはRBセイクワン・バークリー(Saquon Barkley、現ニューヨークジャイアンツ)らを擁して大外からBig Tenカンファレンスタイトルを奪取。その後も好成績を連発して合計3つの11勝シーズンを記録するなどしBig Ten東地区で優位を誇っていたオハイオ州立大に太刀打ちできるほどのチームを世に送り出すことに成功したのです。

フランクリン監督の最大の強みはリクルーティング力と選手と理解し合える能力の高さにあります。カレッジフットボールチームの育成に置いてリクルーティングは重要です。どんなに腕の立つコーチでもポテンシャルの低い選手をスーパースターに仕立て上げることは簡単なことではありません。ですから高校で活躍する能力の高い選手、いわゆる「ブルーチップ」選手をいかに多く囲えるかによって将来のチーム力に大きく影響が出るのです。

ペンステートといえば過去40年以上に渡りパターノ氏が指揮を執ってきたチームであり、ペンステート=ジョー・パターノという式図が出来上がっているほどの存在でした。質実剛健を謳い、学業を最優先とする彼の姿勢は昔気質そのもの。そういった「パターノカラー」が色濃く残っていたチームを装い新たに改革していくのは簡単なことではありませんし、そういったカルチャーを良しとしてきたファン層にそう簡単に受け入れられるものでもありませでした。

しかしそれをフランクリン監督はフィールドでの結果によって変革しチームが勝ち続けることによって新たなカルチャーを構築していったわけです。ファンたちもカレッジフットボールの現状で強豪チームとして生まれ変わったフランクリン体制のペンステートを受け入れ、チームはサンダスキー事件という暗い過去から見事に立ち直ったのでした。

新たなハードル

しかしファンや後援者たちは一度甘い蜜を吸ってしまえばもっと甘いものを欲しがるもの。全米ランキングでもトップ10を毎年狙えるとなれば次なる目標は当然CFP(カレッジフットボールプレーオフ)進出、そしてその先にあるナショナルタイトル獲得となるわけです。

それを成し遂げるためには最低でも東地区を制してカンファレンス優勝を果たさなければならないわけですが、そのためにはやはり同じ地区に所属するオハイオ州立大を超えていかなければなりません。しかし前出の2016年度シーズンに勝ったのを含めて過去10年間の戦績は8勝2敗と完全に手玉に取られており、しかも2016年にBig Tenタイトルを取得したときでさえCFPに選ばれたのはオハイオ州立大でしたし、昨年のCFPランキングでは初回に4位にランクされるもその翌週にミネソタ大にまさかの敗戦を喫してこのチャンスを自ら潰しました。

いいところまで行くも大舞台で勝てない・・・。そのような嫌なパターンがここ最近では続いていたようにも思えます。確かに彼らが所属する東地区にはオハイオ州立大のほかにもミシガン大、ミシガン州立大といった伝統的に強豪とされるチームがせめぎ合っています。この混戦から頭一つ分抜きん出るためにはオハイオ州立大レベルのリクルーティング力が更に必要となりますが、それと同時にゲーム内でのコーチ陣の采配も当然試合の流れを左右してきます。フランクリン監督はそういったシーンでファンが首を傾げるような判断を下すケースが目立ちました。

そこに来て今季の地獄の5連敗となったわけです。

さらなる疑惑

確かに今季は新型コロナウイルスの影響を大いに受け春季トレーニングは開催出来ませんでしたし、夏の自主練も満足に行えず、シーズン開幕も8週遅れとなればチームが万全にならないのは分かる話です。ですから今年のシーズンはフランクリン監督にとって見ればゴルフで言う「マリガン」(失敗したティーショットをなかったことにすること)として見てあげることが望まれるのかもしれません。まさかこの結果でペンステートがフランクリン監督を解雇することはありえないでしょうし、解雇するにしてもその時生まれる莫大なバイアウト費(違約金)を支払うことは既にパンデミックで赤字な大学にとっては得策ではありません。

しかしながら例えば同じカンファレンスでもノースウエスタン大やインディアナ大、さらにはメリーランド大などペンステートよりも格下とされるようなチームがパンデミックのハンデを超えて素晴らしい戦績を残しているところを見るとやはりペンステートは何をやっていたんだ、と言われても仕方がないようにも思えます。

確かに今季最高のLBと評価されていたマイカ・パーソンズ(Micha Parsons)が開幕前にオプトアウトしたり、リーディングラッシャーだったRBジャーニー・ブラウン(Journey Brown)が心臓疾患のせいで現役引退を余儀なくされたなど不可測な事態も起きてしまいました。ただそれが5連敗の理由とするにはお粗末すぎます。

さらに今週追い打ちをかけるような疑惑が沸き起こりました。

それは元部員のDBアイゼア・ハンフリーズ(Isaiah Humphries、現カリフォルニア大)がかつて既出のパーソンズと起こした喧嘩沙汰を警察にチクるなとフランクリン監督から口止めされていたと暴露したのです。

それは2018年のこと。ハンフリーズとパーソンズが一悶着を起こしたそうで、文書によるとパーソンズがハンフリーズの首を絞めたため彼は威嚇のためにナイフをちらつかせたというもの。そして後日ハンフリーズはフランクリン監督に呼び止められこう言われたというのです。

「マイカは将来プロで活躍する未来が待っているのだから今回のことを警察に報告するな。もしマイカにトラブルが起きたらお前が飛ばされることになるのだから。」

またハンフリーズはパーソンズ、さらにはイトー・グロス・マトス(Yetur Gross-Matos、現カロライナパンサーズ)らからセクハラを受けたとも訴えています。その際言われたことは上に紹介したサンダスキー事件を文字って「お前を『サンダスキー』してやる」というとんでもないセリフを放ったのだとか。当然当人らは否認していますが、まだサンダスキー事件が完全に過去のものになっていないのにも関わらず(というかこの事件は永遠にペンステートにつきまとうことになるでしょうが)このようなニュースが出てくることに嫌悪感を感じます。しかもチームの状態が最悪の時のニュースとしてはタイミングも悪過ぎです。

パンデミックのせいで成績がガタ落ちなのは「マリガン」が効くことでしょう。しかしもしいま挙げたような疑惑が本当のことであったとしたら、彼らがサンダスキー事件を経てイメージ改善のための多大なる努力を溝に捨てるようなものです。場合によっては何らかの制裁が加わってもおかしくはありません。

火のないところに煙は立たないという言葉もあります。本当に怒ったことなのかどうかは今後明らかになっていくとでしょうが、この話自体が世間に広まってしまっただけで世間の目は冷たくなるものです。

===

現在のチームの士気はかなり低くなっていると想像できます。選手たちはパンデミックの不安や恐怖、さらには日々のウイルス検査などを掻い潜って開幕を迎えたのにも関わらず、蓋を開けてみればチーム史上最悪の記録を更新し続ける事態に陥っているわけですから。

フランクリン監督が今後チームを鼓舞し士気を挙げるような手立てを加えなければ彼らの連敗記録はさらにドツボにハマっていくかもしれません。さらに新たな疑惑に関する真実次第ではフランクリン体制は急速に危機的状況へ陥ってしまう可能性すら秘めているのです。

かつてのクリーンなイメージはどこへやら・・・。

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