カレッジフットボール界の異端児と言えば現フロリダアトランティック大HCのレーン・キフィン(Lane Kiffin)監督です。オフェンスコーチとしての腕は確かですが、その行動や言動が先歩きしてしまうこともしばしば。
NFLで長年コーチを務めてきたモンテ・キフィン(Monte Kiffin)氏を父に持つレーン氏ですが、もとを辿れば2007年、31歳という若さでNFLオークランドレイダースの監督に抜擢されたことからその名を全米に広めました。レイダースでは2年と持ちませんでしたが、解雇された2008年に引退(辞めさせられたともいえましたが)したテネシー大のレジェンド、フィリップ・フルマー(Phillip Fulmer)氏の後釜としてテネシー大監督に就任しました。
しかし2009年度シーズンが終わると古巣でもあったサザンカリフォルニア大の新監督に就任するためにテネシー大をたった1年で去ることになり、このことからテネシー大ファンからはあまりよく思われていません。
どれだけよく思われていないか・・・。それは2009年時に彼がテネシー大を去るという情報が流出した際に怒ったファンたちがフットボール部施設に押し寄せて怒号を浴びせたことからもよくわかります。
そして先日あるインタビューでキフィン氏が過去を振り返った際、その狂人化したファンたちから身を守るために周囲が講じようとした対策について語っていました。
テネシー大を去りサザンカリフォルニア大へ監督として出戻ったものの、3シーズン半で解雇されてしまったキフィン氏は、2014年度シーズンからアラバマ大のオフェンシブコーディネーターとしてテネシー大と同じサウスイースタンカンファンレンスに凱旋してきました。アラバマ大とテネシー大はライバル関係にあり、所属する地区は違えど毎年対戦することは決まっていましたので、キフィン氏が古巣と相まみえることは逃れられない現実でした。
キフィン氏のアラバマ大初年度であった2014年度はテネシー大でのアウェー戦。キフィン氏がテネシー大を去ってから5年経っていたとは言え、彼がテネシー大キャンパスに再び足を踏み入れることは当時非常に注目されていたことでした。南部でも有名なライバル関係であるこのマッチアップ。テネシー大ファンにとっては憎きアラバマ大にあの裏切り者のキフィン氏が就いているということに加え、2007年以来彼らはアラバマ大に手も足も出ない状態でしたから、この年のアラバマ大戦は異様な盛り上がりを見せていたのです。
そんな中、アラバマ大側もキフィン氏がテネシー大に足を踏み入れることの重大さは熟知していたようで、暴徒化したファンから何をされるかわからないということで、様々な対策を練っていました。そしてチームバスがスタジアムに着いてからフィールドに入るまで、そして試合後スタジアムを去る時も常に警備員がそばに付き添うような様子が映し出されていました。
テネシー大戦後ネイランドスタジアムを去るキフィン氏
しかし先日のインタビューで実はキフィン氏の身を守るためにさらに突っ込んだ案も提示されていたと言うのです。
「あのときは本当に凄かった。実際私は防弾チョッキを着るように言われたくらいです。流石にそんなことはしないと断りましたが、たしかにスタジアムではそれは酷い言葉をテネシー大ファンから浴びせられました。昔フィリップ・フルマー監督が『テネシー大ファンは全国一情熱的なファンだ』と私に言っていましたが、まさにそれを証明するようなシーンでした。」
1998年にナショナルタイトルを獲得して以来その栄光から遠ざかっているテネシー大。そのタイトルを獲得したフルマー氏を追いやってからというもの、キフィン氏、デレック・ドゥーリー(Derek Dooley)氏、ブッチ・ジョーンズ(Butch Jones)氏とテネシー大は監督選びに失敗し続けてきています。キフィン氏の裏切り行為に腹を立てるファンの気持もわかりますが、ここまで来るとその怒りはフルマー氏に見切りをつけた大学側に向けられるべきとも考えられます。
ジョーンズ氏の後釜としてテネシー大は元アラバマ大ディフェンシブコーディネーターのジェレミー・プルイット(Jeremy Pruitt)氏を招聘。そしてフルマー氏が体育局長に就任しましたが、この新体制が果たして好結果をもたらしてくれるでしょうか。
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一方のキフィン氏は昨年からフロリダアトランティック大の監督に就任。昨年は11勝3敗でいきなり所属するカンファレンスUSAのタイトルを獲得し出だしは順調です。そして少なくとも今後テネシー大との接点がなくなったキフィン氏は未だに恨みを持つ彼らのファンからの怒号を心配す必要はなくなりそうです。