昨シーズンまで4年間チームを率いてきたQBトレース・マクソーリー(Trace McSorley、現ボルティモアレイヴンズ)がいよいよ卒業し、ペンシルバニア州立大ではオフェンス面の一新が余儀なくされています。一昨年までチームにいたRBセイクワン・バークリー(Saquon Barkley、現ニューヨークジャイアンツ)が去り、残されたチームを昨年文字通り一人で引っ張ってきたマクソーリーが去ったことはファンにとっては不安材料の何物でもありません。RBマイルズ・サンダース(Miles Sanders、現フィラデルフィアイーグルス)が早期ドラフト入りしてしまったのもそれに輪をかけてファンたちを疑心暗鬼にさせていることでしょう。
マクソーリーの後釜と考えられていた最右翼はトミー・スティーヴンス(Tommy Stevens)でした。4つ星QBとしてペンステートに入学したスティーヴンスですが前述のマクソーリーのバックアップを過去3年間務めてきた苦労人です。おそらく素質的には中堅大学なら先発QBとして十分プレーできるものを持っているのでしょうが、そこはペンステートへの忠義心でバックアップに徹してきたわけです。
今季ペンステートの先発QBを任されると思われていたスティーヴンスですが・・・
いとも簡単に転校してしまう選手が増える昨今、この忠義心は非常に気持ちのいいものでした。スティーヴンス自身もこの流れに乗ってトランスファーポータルにその名を連ねないのかと尋ねられたことがありましたが、その時はそのアイデアを一蹴していました。
昨年4年生だったマクソーリーの時代が終わるのは確定事項だったわけで、辛抱に辛抱を重ねたスティーヴンスの時代が遂にやってくると思われましたが、昨シーズン足に負った古傷に悩まされます。そしてオフシーズンにはその足の怪我の手術に踏み切りましたが、それは2019年度シーズン開幕に間に合うようにという計画だったと思われていました。
しかし誤算だったのは、彼の傷がまだ癒えぬ春季トレーニング中、そのチャンスを活かして2年生のショーン・クリフォード(Sean Clifford )が予想以上の成長を収め、にわかにスティーヴンスが自動的に次季シーズンの先発になるという出来レースに暗雲が立ち込めたのです。
するとこれまで3年間出番を待っていたスティーヴンスはあっさりと自らをトランスファーポータルに登録し、ペンステートを去る決意をしてしまったのです。
「あっさりと」なんて書きはしましたが、おそらく彼自身にとってはそんなに簡単な決断ではなかったことでしょう。何しろ3年待ったのですから。それに10万人以上のファンが詰めかけるペンステートのスタジアム「ビーバースタジアム」で先発QBを任されるということがどれだけ意味のあることなのかは、マクソーリーのバックアップとして間近で見てきたスティーヴンスにとっては身に染みて分かっているはずです。
しかし一方で3年間出番を待ったのにも関わらず、最後の最後で再び下級生のバックアップでカレッジキャリアを終えるというのも受け入れがたい現実です。彼がNFL級の選手かどうかは分かりませんが、仮にそれを最終的な目標に掲げているならば、いくら潜在能力が高かったとしても4年間誰かのバックアップを務めた選手がプロに行けるとは思えません。
唯一思いつくのは、サザンカリフォルニア大で後にハイズマントロフィー受賞QBとなったカーソン・パルマー(Carson Palmer)氏とマット・ライナート(Matt Leinart)氏のバックアップQBとして終えるもプロ入りしてニューイングランドペイトリオッツに入団したマット・キャッセル(Matt Cassel)。2008年、チームの絶対的QBトム・ブレディ(Tom Brady、元ミシガン大)が膝の前十字靭帯(ACL)を断裂してシーズン絶望となった時に彼のバックアップを務めていたキャッセルが登場。プレーオフ出場は逃しましたが、このシーズンの活躍が認められて彼はカンザスシティチーフスへ移籍していきました。
[quads id=4]話を戻して、ペンステートから転校することに決めたスティーヴンスですが、彼の新天地はサウスイースタンカンファレンス(SEC)のミシシッピ州立大となりました。
なぜミシシッピ州立大かと言えば、ここの監督であるジョー・モアヘッド(Joe Moorhead)監督は2年前までペンステートのオフェンシブコーディネーター兼QBコーチだったから。つまりスティーヴンスとモアヘッド監督は師弟関係にあったと言えます。モアヘッド監督のオフェンス哲学をスティーヴンスは理解しているでしょうし、モアヘッド監督にしても自分のプレーブックをある程度理解しているスティーブンスならばトランスファーもスムースに行くと考えているでしょう。3年待ったにも関わらずペンステートを出ていってしまったスティーヴンスには少なからず驚きを隠せませんが、一方で転校先がモアヘッド監督率いるミシシッピ州立大であったことには一応の理解を示すことが出来そうです。
2016年度シーズンのミシガン州立大戦にて戯れるモアヘッド氏とスティーヴンス
スティーヴンスはすでにペンステートで学位を取得しているため2019年度シーズンから即試合出場が可能です。そしてミシシッピ州立大からは昨年まで先発QBを務めていたニック・フィッツジェラルド(Nick Fitzgerald、現タンパベイバッカニアーズ)が卒業したため確固たる先発QBは不在。移籍後すぐにでもスティーヴンスがオフェンスの中心人物になる可能性は大いにあります。
その身体能力の高さからペンステートではWRも務めたことのあるスティーヴンスは昨年バックアップとして合計118ヤードに2TDを足で稼ぎました。フィッツジェラルドが機動力系のQBだったことを考えるとさらにモアヘッド監督のオフェンスにスティーヴンスはマッチしそうです。
ただ、ミシシッピ州立大にも当然フィッツジェラルドのバックアップを務めていたQBが居たわけで、スティーヴンスの最大のライバルとなりそうなのはキータオン・トンプソン(Keytaon Thompson)。フィッツジェラルドが足首をおる大怪我を犯した2年前から合計16試合に出場経験のあるトンプソンはおそらく経験値だけで言えばスティーヴンスよりも若干上かと思われます。果たしてスティーヴンスは新天地で夢にまで見た先発QBの座を射止めることが出来るでしょうか?