近年よく耳にするワードとしてNILがあります。NILとはName/Image/Likenessの頭文字をとった単語で、学生アスリートが自分の肖像権などを利用してお金儲けをできるようになり、今までのカレッジアスリートのあり方を大きく覆したシステムといえます。
このNILが導入されるまでNCAA(全米大学体育協会)は頑なにアマチュアアスリートである大学生アスリートたちがいかなる方法でも金銭を取得することを禁じてきました。その堅物NCAAの牙城を崩したのがカリフォルニア州の州知事、ギャヴィン・ニューサム(Gavin Newsome)氏でした。
彼は2019年の夏に学生アスリートでもNILを元に収入を得ることを可能にする「Fair Pay to Play Act(SB206)」という新しい州法に署名。当時は2023年からの導入を目指す新法として大きな話題を振りまきました。
ただNCAAも黙ってはおらず、そんなことをするならばカリフォルニア州にある大学は全てNCAAから排除するという強気の姿勢を見せました。しかし、カリフォルニア州以外にもこの動きに賛同する州が続々と現れ、NCAAは逆に劣勢に立たされてしまいます。
そしてNCAAはNILによる学生の金銭取得を許可する方向に大きく転換。しかしながらその際に細かいルール制定を怠り、現在は何でもありの無法地帯に陥っているというのが実情です。
良くも悪くもカレッジスポーツ界を大きく変えたと言われるNIL。これがカリフォルニア州から動き出した大きなうねりだったわけですが、今回再びカリフォルニア州からカレッジスポーツ界にこれまた大きな改革を呼び起こすかもしれない新法が議題に挙げられました。
それがカレッジ・アスリート・プロテクション・アクト(College Athlete Protection ACT、大学生アスリート保護法)です。
今年1月下旬、カリフォルニア州の議員であるクリス・ホールデン(Chris Holden)氏が提議した新案で、簡単にいうと大学がスポーツを通じて手に入れた利益を学生アスリートに還元するというものです。
(ちなみにこのホールデン氏は元サンディエゴ州立大のバスケ選手。元大学生アスリートです)
これには、大学側が学生アスリートの活動を元手に利益を得ているならば学生たちにも金銭的なキックバックがあるべきだ、という背景があるといわれています。基本的にはNILと同じモチベーションがあるわけです。
提案された内容としては、大学のスポーツイベントによる収益の半分の額から大学が学生アスリートたちに提供している奨学金をのぞいた額を学生アスリートに平等に分配するというものです。
ただ受け取れるのはRevenue Sports(収益が見込めるスポーツ)であるフットボール、男子・女子バスケットボール選手のみとなっており、アスリートが学位を獲得した時点で受け取ることができるということになっています。
これまでのNILだと一部の著名とされる学生アスリートだけが莫大なお金を手に入れるというシステムになっており、チームの中にはスターQBが億単位の収入があるのにそのほかの選手には一銭も入ってこないという状況が続いていました。
それを解決するにはこの新法は画期といえます。まだ審議にかけられる段階ですから、今後これが現実のものとなるかはわかりませんが、カレッジスポーツを新たな変革へと導く法案だと言えるのは確かです。
ただ、現在のNCAAの規則によるとこのような形で学生アスリートが金銭を受け取ることは許可されていません。仮にこの法律が通れば当然NCAAはそれに立ち向かうような形になりますが、ことを誤ればNILの時と同じようにこのカリフォルニア州の州法に追随する州がいくつも現れる可能性は大いにあります。そうなればNCAAとしては再び厳しい決断を強いられることになります。
新案ではこのお金は現役後の学生アスリートたちの教育やヘルスのためのファンドという肩書きを持っていますが、実際にこのカリフォルニア州法が通るかどうか、そしてNCAAがどう反応するかには大きな注目が集まりそうです。