今年から開催されている12チーム制度のCFP(カレッジフットボールプレーオフ)。12月20日と21日にファーストラウンドの4試合が行われ、それぞれの勝者がファーストラウンドを免除されたシードチーム4チームと激突するのが今週末の準々決勝戦4試合です。
ファーストラウンドはCFP史上初の試みとなったキャンパス開催でしたが、準々決勝からはメジャーボウルゲーム「ニューイヤーズ6ボウル」のうちの4つのボウルゲームで開催されます。今回はその中から1月1日に行われるピーチボウルの見どころをお届けします。
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#5 テキサス大 vs #4 アリゾナ州立大
🇺🇸1月1日(水)東部時間午後1時 | 🇯🇵1月2日(木)午前3時
準々決勝の二発目はアメリカで元旦正午過ぎに行われる第4シードのアリゾナ州立大と第5シードのテキサス大で行われるピーチボウル。会場はNFLアトランタファルコンズの本拠地であるメルセデスベンツスタジアム(収容観客数7万5000人)となります。
両校は2007年のホリデーボウルで唯一対戦がありこれが史上2度目の顔合わせ。そのホリデーボウルではQBコルト・マッコイ(Colt McCoy)氏率いるテキサス大が52対34でデニス・エリクソン(Dennis Erickson)監督率いるアリゾナ州立大を破っています。
アリゾナ州立大のここまでの歩み
アリゾナ州立大といえば、1960年代から1970年代にかけてその強さを世に知らしめていたチームでしたが、1978年にPac-10(のちのPac-12)カンファレンスに移籍して以来、徐々にその力を失っていったチーム。何年に一回か周囲を驚かすシーズンはあったものの、そのチーム力を維持することができない中堅チームという印象が強いチームでした。
そんなチームに2022年度シーズン後にやってきたのが、アーバン大、フロリダ州立大、オレゴン大でオフェンシブコーディネーターを歴任していたケニー・ディリンガム(Kenny Dillingham)氏。高校時代までフットボールをプレーしていましたが、膝の前十字靭帯(ACL)を断裂して選手生命を失うと、母校の高校でコーチングを始めその傍らアリゾナ州立大に通って学位を取得します。
そのつながりで当時アリゾナ州立大でOCを務めていたマイク・ノーヴェル(Mike Norvell、現フロリダ州立大監督)氏に従事して2014年からアリゾナ州立大のスタッフに加わりカレッジでのコーチ業を開始。以来トントン拍子に出世を重ね32歳という若さでアリゾナ州立大の再建を任されるに至りました。
アリゾナ州立大のケニー・ディリンガム監督
初年度の2023年度は3勝9敗と撃沈。所属カンファレンスをPac-12からBig 12カンファレンスに移した2024年度シーズンは、2023年度の戦績を鑑みてプレシーズンのカンファレンスランキングで最下位の16位。そして開幕後は開幕後3連勝を果たすも4戦目にテキサス工科大に、さらに7戦目にシンシナティ大に敗れこの時点で5勝2敗。すでに前年度の勝数は越えているものの、当時は2敗を喫した中堅チームという感じで誰も彼らのことを話題に持ち出すことはありませんでした。
しかしそこからアリゾナ州立大は尻上がりに調子を挙げてきます。10戦目の当時全米16位だったカンザス州立大戦では、アウェーながら24対14で勝利すると2021年度以来となるランクイン(21位)を成し遂げ、続く14位のブリガムヤング大戦でも勝利を掴み16位に上昇。そしてレギュラーシーズン最終節のライバル・アリゾナ大には49対7と圧勝して混戦だったBig 12カンファレンスの優勝決定戦出場レースを勝ち抜いてカンファレンス優勝決定戦進出を見事に果たします。
そしてここで対戦した16位のアイオワ州立大戦でもその勢いは止まらず45対19で相手を下し、移籍初年度ながらカンファレンスタイトルを獲得するという偉業を成し遂げたのでした。彼らが最後に所属カンファレンスのタイトルを取得したのは2007年のこと。奇しくもこの年は前述の通りに彼らが最後にテキサス大と対戦した年なのです。
テキサス大のここまでの歩み
テキサス大といえばカレッジフットボール界を代表する名門チーム。全米タイトルを4度獲得したことのある強豪チームですが、最後にその栄冠を手に入れたのは2005年のこと。以来その頂に立つことはなく、長い迷走の期間に入ります。
そんな中2021年度シーズンに再建を託されてやってきたのが現在のスティーヴ・サーキジアン(Steve Sarkisian)監督。ワシントン大、サザンカリフォルニア大で監督を努めたこともある指導者ですが、2015年度にプライベートの問題でサザンカリフォルニア大を解雇されるとアトランタファルコンズ、アラバマ大でオフェンシブコーディネーターを務めるなどし、与えられたセカンドチャンスを大事に育んできました。
テキサス大のスティーヴ・サーキジアン監督
そして2020年度、ここ数年でも類を見ないオフェンス力を擁し無敗で全米制覇を成し遂げたアラバマ大でのOCの腕を買われて、そのシーズン後にテキサス大の新監督に就任することになります。そして就任から3年目の2023年には悲願だったチーム初となるCFPに選出され、惜しくもワシントン大との準決勝戦には敗れましたが、強いテキサス大の完全復活を世に知らしめたのです。
さらに長年Big 12カンファレンスの盟主として君臨し続けてきたテキサス大は、今年から彼らのライバルチームであるオクラホマ大と共にSEC(サウスイースタンカンファレンス)に移籍。強豪ひしめくSECで彼らがどう戦っていくかに注目が集まりましたが、レギュラーシーズン中は第7戦目のジョージア大とのビッグゲームに競り負けたのみで1敗を死守。全米2位チームとしてSEC優勝決定戦に進出し、ここで再びジョージア大と再戦。試合はオーバータイムにもつれ込む接戦となりましたが、ジョージア大に22対19で惜敗。リベンジはなりませんでした。
ただその試合には負けたもののこれまでの戦績が評価されて2年連続となるプレーオフ出場を達成。第5シードチームとしてファーストラウンドにクレムソン大と対決。この試合では追いすがるクレムソン大を38対24で下してこの準々決勝戦に駒を進めたのでした。
見どころ
アリゾナ州立大 | テキサス大 | |
#39 | SOS | #3 |
33.1 (25) | 平均得点数 | 33.9 (17) |
21.3 (21) | 平均失点数 | 13.3 (2) |
423.2 (31) | 平均トータルオフェンス | 449.0 (11) |
224.4 (63) | 平均パスオフェンス | 265.4 (14) |
198.8 (18) | 平均ランオフェンス | 173.5 (46) |
336.9 (28) | 平均トータルディフェンス | 261.4 (2) |
219.2 (57) | 平均パスディフェンス | 156.9 (2) |
117.8 (23) | 平均ランディフェンス | 104.5 (9) |
テキサス大は今季全米でも屈指のQBルームを擁するチーム。先発QBで元5つ星のクウィン・ユワーズ(Quinn Ewers)はここまで2863パスヤードに26TD、10INT、パス成功率は66.4%という数字を残してきました。総合的に見ると昨年度よりも若干プロダクションが落ちてはいますが、一方でサーキジアン監督のプレーコールがアグレッシブでないという点も彼のこのスタッツに多少は反映しているのかもしれません。
テキサス大QBクウィン・ユワーズ
そして同じく元5つ星のQBであるアーチ・マニング(Arch Manning)がバックアップというのも強み。言わずとしれたペイトン・マニング(Payton Manning)とイーライ・マニング(Eli Manning)の甥っ子として知られるサラブレッドは今季ユワーズが怪我で欠場した2試合に先発で出場して見事ユワーズ不在のチームを守りました。ユワーズと違って機動力があるマニングはペースを変える場面での起用が何度も見られました。
一方のアリゾナ州立大のQBはミシガン州立大からの転校生、サム・レヴィット(Sam Leavitt)。まだ1年生(レッドシャツ)ながら今季指折りのアンダークラスマンQBとして台頭し、ここまで2663パスヤードに24TD、5INT、パス成功率63.2%とまずまずの数字を残しています。経験値が高くないもののプレッシャー下でのパフォーマンスは全米でも5つの指に入ると言われるスタッツもありますし、ポケットの外でもプレーを繰り出せる機動力も持ち合わせています。それは383ランヤードに5TDという数字からも明らかです。
テキサス大はRBにクイントレヴィオン・ワイズナー(Quintrevion Wisner)とジェイドン・ブルー(Jaydon Blue)が健在。先に行われたクレムソン大でもこの二人は合わせて4つのTDランを記録していますが、サーキジアン監督は彼らをレシーバーとしても重用しており、実に全パスの22%がRBへのパスだったというスタッツもあります。特にワイズナーは今季実に46回ものパスを受け取っており、これはSEC内のRBとしては2位の数字です。
またパスを受け取ったあとの獲得ヤードであるヤード・アフター・キャッチ(YAC)の数字がテキサスは平均12.6ヤードでこれは全FBSチームの中でも上位30位の数字。このことからもどちらかというとテキサス大はビッグゲインよりもショートからミドルレンジのパスで攻め込む傾向があるとも言えそうです。
対するアリゾナ州立大は今季全パスプレーの約15%が20ヤード以上となっており、これはFBSで10位の記録ということからも、比較的アグレッシブなプレーをコールしてくるオフェンスという印象です。そしてここまで彼らが5つ以上のロングゲインプレーを成功させた場合の勝率が100%(7勝0敗)ということからも、ビッグプレーに頼る傾向があるとも言えそうです。
ただこの背景には彼らのオフェンスの中心がRBキャメロン・スカテブ(Cameron Skattebo)にあることも起因しているのかもしれません。
アリゾナ州立大RBキャメロン・スカテブ
今季スカテブはRB界隈でも指折りの選手に台頭。出場した12試合で263キャリーで1568ヤードを足で稼ぎ19TDを量産。1試合平均ヤードは130.6ヤードで1キャリーの平均が5.9ヤードという数字を残してきました。さらにスカテブはアリゾナ州立大のレシーブ要員としても重宝され、チームで2番目となる506ヤードに3TDを計上してきました。
特筆すべきは彼のランスタイル。身長5フィート11インチ、体重215パウンドというフレームから繰り出されるのは並み居る相手のタックルをものともしないフィジカルな走り。相手のコンタクトを受けたあとでもヤードを稼げる、ヤード・アフター・コンタクト(YAC)が1000ヤードを超えることからも、打たれ強いハードラッシャーであることが伺えます。
アリゾナ州立大はリーディングレシーバーであるジョーディン・タイソン(Jordyn Tyson)が欠場することが予想されており、オフェンス的には更にスカテブに頼らざるを得なくなります。テキサス大としては兎にも角にもスカテブをいかにして止めるかが最大の焦点となるはずです。
テキサス大のランディフェンスは全米9位となる1試合平均104.5ヤード。1キャリーで許してきた平均ヤードも3.1ヤードということで、ランに対する耐久力は十分にありますから、スカテブとテキサス大ランディフェンスのガチンコ勝負は非常に見ものです。
ただ、アリゾナ州立大オフェンスはレギュラーシーズン中にテキサス大ほどの超強力なディフェンスを相手にしたことがありません。スカテブはテキサス大選手もその能力を認めるほどの選手ですが、彼のためにOL陣がテキサス大のフロントセブンを相手にアサインメントを完璧にこなすことが出来るのか・・・。
アリゾナ州立大のパスオフェンスはお世辞にもトップレベルとは言えず、さらに対するテキサス大のパスディフェンスが今季最高レベルのユニットであることから、このマッチアップはアリゾナ州立大にとって分が悪すぎます。ですから、もしスカテブの地上アタックがテキサス大によって完封させられると、アリゾナ州立大が打つ手はほぼ壊滅状態に陥ると見て間違いありません。
準々決勝戦で一方的なワンサイドゲームを観たくはないですが、果たして・・・。