かつてテキサス工科大でQBおよびヘッドコーチを務め、昨年までNFLのアリゾナカーディナルズで監督を務めるもシーズン後に解雇されてしまったクリフ・キングスバリー(Kliff Kingsburry)氏。彼の去就に注目が集まっていましたが、今オフにPac-12カンファレンスの盟主であるサザンカリフォルニア大にオフェンシブアナリストとして加入しました。
大学時代はテキサス工科大で1999年から2002年までスターQBとしてプレー。当時監督だった、超パス重視オフェンス「エアーレイドオフェンス」を操るマイク・リーチ(Mike Leach、故人)の寵児として数々のNCAAレコードを樹立。
またコーチングの道を歩み出してからは2010年に攻撃コーディネーター(OC)を務めたヒューストン大でケイス・キーナム(Case Keenum)を指導しトータルオフェンス、パスオフェンス、スコアリングオフェンスの3つのカテゴリーで全米トップのスタッツを叩き出しその名を世に知らしめます。
また2012年にOCを務めていたテキサスA&M大では、後にカレッジフットボール界の最高峰のアワードであるハイズマントロフィーを獲得することになるジョニー・マンゼル(Johnny Manziel)を指導。ハイズマントロフィー史上初となる、1年生で受賞したマンゼルの大成に大きく寄与しました。
そして2013年からは母校のテキサス工科大に凱旋。恩師でもあったリーチ監督直伝の「エアーレイドオフェンス」をここでも駆使してパスを投げまくるハイスコアリングオフェンスを操りました。その間キングスバリー氏は現在カンザスシティチーフスで大活躍しているQBパトリック・マホームズ(Patrick Mahomes)を指導もしています。
テキサス工科大時代のキングスバリー氏(右)とパトリック・マホームズ(左)
ただテキサス工科大ではスタッツは伸びても戦績が伸びず、2018年度シーズ後に母校から引導を渡されてしまいます。
テキサス工科大を離れたあと、キングスバリー氏はサザンカリフォルニア大のOCに就任しますが、程なくしてアリゾナカーディナルズが彼に新コーチの白羽を立て、サザンカリフォルニア大を直ぐ後にしてプロリーグでのコーチング、しかもいきなりヘッドコーチを任されることになります。
アリゾナ時代のキングスバリー氏
就任初年度のNFLドラフトではオクラホマ大出身QBでハイズマントロフィーを獲得したQBカイラー・マレー(Kyler Murray)を総合1位で選択。このマレーが大学時代指導を受けていたのが現在サザンカリフォルニア大の監督であるリンカーン・ライリー(Lincoln Riley)監督。しかもライリー監督もキングスバリー氏と同じくテキサス工科大出身でマイク・リーチ監督の弟子という間柄でした。
アリゾナでは初年度こそ負け越しますが、2年目の2020年に勝率を5割に戻し、そして3年目の2021年は開幕後破竹の7連勝を見せるなどして開花。結局プレーオフで敗れましたが、キングスバリー監督のチーム育成が上向きになっているかと思われました。
しかしその翌年となる2022年は4勝13敗と惨敗。その責任をとってキングスバリー氏は監督の職を解かれてしまいました。
ただ、2021年度はNFL内でもスコアリングオフェンスとトータルオフェンスでトップ10入りを果たしていたこと、そしてマレーが怪我で6試合出場できなかったことを考えれば、オフェンスコーラーとしての腕が必ずしもダメだったというわけではないと思います。
カレッジコーチがNFLでやれるはずはない、というレッテルを常に貼られながら過ごしたキングスバリー氏には少々の同情もしてしまいますが、プロは結果が全てということに尽きますね。
そんなキングスバリー氏にアプローチしてきたのが前述のテキサス工科大の後輩でもあるサザンカリフォルニア大のライリー監督。リーチ監督の影響を強く受けた2人の秀才オフェンシブコーラーがタッグを組むことになったというわけです。
ライリー監督はオクラホマ大時代に前述のマレーに加え、ベーカー・メイフィールド(Baker Mayfield、現タンパベイバッカニアーズ)やジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts、現フィラデルフィアイーグルス)を育て、さらに昨年はオクラホマ大から一緒についてきたQBケイレブ・ウィリアムス(Caleb Williams)をハイズマントロフィー受賞者に育て上げるなど、名QB伯楽として知られています。
そのウィリアムスは今年も健在。ライリー監督の頭脳とキングスバリー氏の頭脳がかけ合わさって今年のサザンカリフォルニア大のオフェンスがどうなるのか、興味は尽きませんね。