SEC(サウスイースタンカンファレンス)所属の名門、テキサスA&M大は昨年2022年度のリクルーティングで大成功しランキングではアラバマ大やジョージア大を差し置いて1位を獲得するなど、ロースター固めは着々と進んでいるように見えました。
しかし昨年のフィールド上での戦績は5勝7敗と負け越し。いかにいい人材を集めても試合に勝てなければ意味がないわけです。おまけにそれを受けて今年のリクルーティングランキングではあっという間にトップ10から転落もしてしまいました。
その要因ともなるのが、ここ2年間のテキサスA&M大のオフェンス力。HCのジンボ・フィッシャー(Jimbo Fisher)監督がオフェンス畑を歩いてきたベテランコーチであり、フロリダ州立大ではナショナルタイトルもとったことのある人物でありながら、テキサスA&M大の昨年のスコアリングオフェンスは131チーム中101位(1試合平均22.8点)と散々な結果となっています。
そこで今オフにフィッシャー監督は新たなオフェンシブコーディネーターとして、かつてルイビル大、アーカンソー大、さらにはアトランタファルコンズでも指揮を取ったことのあるボビー・ペトリノ(Bobby Petrino)氏を招聘しました。
昨年まではFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)に所属していたミズーリ州立大で監督をしていたペトリノ氏ですが、実はちょっとした曰く付きの人物。
ルイビル大で監督として名を馳せたペトリノ氏は2007年に半ば電撃的にアトランタファルコンズの新監督に抜擢されます。が、ファルコンズでは散々で3勝10敗となったシーズン終盤に3試合を残してアーカンソー大の監督に就任するために辞任したのです。
この時彼はオーナーであるアーサー・バンクス(Arthur Blank)氏にアトランタに残留することを話していましたが、その24時間後にはファルコンズを辞任。さらにこのことを選手たちには面と向かって伝えず、たった4行のメモ用紙に辞任の旨を伝えるという方法でアトランタを出て行ったのでした。このことは当然悪評としてその後も語り草となっています。
またアーカンソー大ではスタッフの女性と不倫めいた関係に陥り、バイクで旅行中に転倒事故を起こしたことでそれが発覚し解雇。バレる前に行った記者会見では顔面傷だらけで首にコルセットを巻いた状態で現れて同情を誘いましたが、まさかそれがスキャンダルの引き金になるとは其の当時は誰も予想していませんでした。
Never forget Bobby Petrino, a coach of student athletes for an institution of higher learning, showed up to a press conference like this after crashing a bike with his coed mistress on the back. pic.twitter.com/pYmtbWfR5z
— Catch from Corporate (@CatchBoyardee) April 19, 2018
そのスキャンダルを受けて2011年にアーカンソー大から解雇されてしまったペトリノ氏は「禊」を済ませて2013年にウエスタンケンタッキー大で監督に復帰。そしてこの年8勝4敗で勝ち越しレコードを残すと翌年に以前指揮したことがあったルイビル大に呼び戻されて2度目の政権を打ち立てます。
2度目となるルイビル大では5年間で77勝35敗と軒並み良い数字を残します。その原動力となったのがのちにハイズマントロフィーも獲得した、現ボルティモアレイヴンズのQBラマー・ジャクソン(Lamar Jackson)ですが、彼がいなくなった2018年度シーズンには2勝8敗と大転落。シーズン終了を待たずして解雇されてしまいました。
最近ではFCSのミズーリ州立大に監督として就任(2020年)。ここでは18勝15敗と鳴かず飛ばずな戦績しか残せていませんでしたが、2022年度シーズン後にはネバダ大ラスベガス校(UNLV)の新オフェンシブコーディネーター(OC)に引き抜かれます。が、ここで1ヶ月も経たずに今回テキサスA&M大の新OCとしてヘッドハントを受けたわけです。
これまでの監督としての遍歴を見ると、必ずしもリーダーとして一流なのかどうかはわからないというのが正直なところですが、プレーコーラーとしては一流と言われています。その彼がテキサスA&M大のオフェンスをどう立て直すのかに注目が集まります。
しかしこれに伴い周囲を驚かせたのは、これまで監督ながら一貫してオフェンスのプレーコーリングを行ってきたフィッシャー監督が遂にこの業務をOCであるペトリノ氏に一任する決断をしたということです。
これまでシンシナティ大、ルイジアナ州立大、フロリダ州立大でOCを務めてきたフィッシャー監督はその当時から敏腕コーディネーターとして世間に知られており、フロリダ州立大時代には当時のHCであったボビー・バウデン(Bobby Bowden)監督引退後の次期監督にOCの時から指名を受けていたというほどの人物でした。
そんなフィッシャー監督は頑固にもこれまでプレーコーリング役を続けてきましたが、鳴物入りでテキサスA&M大入りしてからも大した結果を残せておらず、ひょっとしたら大学側もしくはドナーからの指南があって今回のこの決断に至ったのかもしれません。
ペトリノ氏にプレーコーリングを任せることで、フィッシャー監督は監督としての業務に集中することができるでしょうから、これはこれでいい決断だというのが一般的な論調です。
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ただ不安点がないわけでもありません。
現在フィッシャー監督は57歳、ペトリノ氏は61歳ということで二人ともHCの経験があるベテランコーチ。そういったベテランコーチ同士が共存できるのかが気になるところです。
またペトリノ氏は先にも背負い迂回した通り12月中旬にUNLVのOCに就任したばかりで直ぐにに鞍替えをしています。当然UNLVとテキサスA&M大のOCを比べればどちらの方が魅力的なポジションかは一目瞭然ですが、一方でもしもっと他に良いディールのチャンスがペトリノ氏に舞い降りれば、テキサスA&M大からでも突如として出て行ってしまうのではないかという不安もないことはありません。
ちなみにテキサスA&M大のDCであるD.J.ダーキン(D.J. Darkin)氏はメリーランド大でHCを務めていた時にパワハラめいたことでチーム内の風紀が荒れ、さらにある選手が厳しすぎるワークアウトの途中で倒れてなくなってしまったこともあり、メリーランドから解雇されたという人物。
そういった人物と、かつて不倫関係で解雇されたペトリノ氏らをコーディネーターに添えるというのは、危なっかしいといえば危なっかしい人事かもしれませんし、チームがうまく回らなければそういったところをメディアがつついてくる可能性もないとは言えなそうです。
テキサスA&M大は今オフに20人以上の選手が転校してチームを去ってしまいました。チーム内の士気を考えても来る2023年にチームが上向きにならなければ、例えかつて「優勝請負人」とまで言われたフィッシャー監督でもテキサスA&M大での批判の矢からはのがらられそうにありません。
いよいよフィッシャー監督にとって勝負の年となりそうです。