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第57回スーパーボウル!【後編】

第57回スーパーボウル!【後編】

*前編はこちら

ハーツ vs マホームズ

試合を行う際に同じポジション選手同士を比べ合うのはナンセンスなような気もしますが、とかく試合の行方を語る上で外せないのは互いの先発QBのことになりますよね。

ジェイレン・ハーツ(フィラデルフィアQB)

ジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts)はテキサス州出身の元4つ星QB。モバイルQBとして2016年にアラバマ大に入学。開幕時にはバックアップQBでしたが、先発QB(ブレイク・バーネット)が不調だったため彼に代わって1年生ながら途中出場。サザンカリフォルニア大相手に投げて走って相手を撹乱し52対6で大勝。以来1年生ながら名門アラバマ大で先発QBを任されます。

(ちなみにアラバマ大で1年生が先発QBとなるのは32年ぶりのこと)

その年は全勝でナショナルタイトルゲームに進出するも、デショーン・ワトソン(Deshaun Watson、現クリーブランドブラウンズ)を擁するクレムソン大に敗れ全米制覇をあと少しのところで逃します。

2年生となった2017年度シーズンもシーズンを先発QBとして駆け抜けますが、この年は幾分パサーとしての能力に疑問符が投げかけられたシーズン。それでも再びナショナルタイトルゲームに出場したアラバマ大はジョージア大と対決。前半ハーツのパスが機能せず攻めあぐみリードを奪われて後半に突入するとアラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督はここにきて先発QBだったハーツをベンチに下げ、パス能力で勝る1年生のトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)を投入すると言う類を見ない采配を振います。

結局オーバータームでタガヴァイロアから1年生だったWRデヴォンテ・スミス(DeVonta Smith)への逆転サヨナラTDパスが決まってアラバマ大が優勝。しかしこの展開から翌年のアラバマ大でのQB事情がどうなるかに注目が集まることになります。

参考記事ナショナルチャンピオンシップゲームレビュー【2018年度】

そして2018年度シーズン。開幕時に先発QBを言い渡されたのはハーツではなく後輩のタガヴァイロアでした。過去2年間先発を務め2年連続チームを全米王座決定戦に導いたハーツとしてはそのプライドを引き裂かれた思いだったでしょう。そんな彼なら出場機会を求めてアラバマ大を出ていくこともできたたため、ハーツがアラバマ大に残るのかどうかは開幕後も注目されていました。

特にこの年から4試合までなら試合に出てもレッドシャツ制度を用いてプレー資格を温存できると言う新ルールが発動しており、ハーツも4試合目までは試合の最後のモップアップ係としてプレーしていましたが、もしプレー資格を温存して新天地に転校したいのであれば5試合目のルイジアナ大(ラフィエット校)戦までにその進退を決断しなければなりませんでした。

が、その5戦目のルイジアナ大戦にハーツはチームと共に帯同。そして後半彼に出番が回ってくるとその時点で彼のプレー資格が使用済みということになってしまったのです。自分のプレー資格云々よりも大学に残留してバックアップに徹するという決断をしたハーツに対し、この日スタジアムに訪れていた多くのアラバマ大ファンからスタンディングオベーションを受けていたのは今も記憶に新しいです。

そうしてタガヴァイロアのバックアップとして過ごすことになったハーツですが、SEC優勝決定戦でジョージア大と対戦したアラバマ大はこの試合中にタガヴァイロアが足首の怪我で途中退場。この時アラバマ大はジョージア大を追いかける展開であり、負ければプレーオフ進出の夢が消えるという非常に切羽詰まった状況でした。

そしてここで登場したハーツは見事に同点さらに逆転のTDを演出。自分のことだけ考えて転校もできたところバックアップ役に徹してチームのために残留し、そしてアラバマ大の窮地を救ったヒーローになったのでした。

参考記事アラバマ大35、ジョージア大28【SEC優勝決定戦】

そしてこのシーズンが終わりアラバマ大での学士号を取得すると大学院生の転校生(グラデュエイトトランスファー)として大学最後のシーズンをオクラホマ大で過ごすことを決意します。

オクラホマ大ではかつてベーカー・メイフィールド(Baker Mayfield、現LAラムズ)やカイラー・マレー(Kyler Murray、現アリゾナカーディナルズ)といったハイズマントロフィー受賞QBおよびNFLドラフトで総合ドライチQBを育てたリンカーン・ライリー(Lincoln Riley、現サザンカリフォルニア大)監督の下でパサーとしての腕を磨き、それまで彼はパスが投げられないQBというレッテルを貼られていたところこれを彼の努力で克服。チームはプレーオフに進出し彼自身もハイズマントロフィーのファイナリストに選ばれるなど素晴らしいシーズンを送りました。

大学卒業後は同じ卒業クラスのジョー・バロウ(Joe Burrow、元ルイジアナ州立大)などと比べるとやはりプロでやれるだけのパス能力を持っているかどうかに不安を抱えていましたが、ドラフトされたイーグルスでは当時の先発QBだったカーソン・ウェンツ(Carson Wentz、元ノースダコタ州立大)のケガおよび不調の際に出場のチャンスを手に入れると首脳陣から一定の評価を得たこととで先発QBの座を射止めます。

それでも走るだけのQBと言われ続けましたが、今季はついにその才能が開花しチームのリーダーとして今回SBに出場するまでに至ったのです。

アラバマ大から頻繁に寄せられていた批判の声にも屈することなく、自分の力でその声を糧にして覆すということを何度もやってのけてきたハーツ。その彼がNFLの最高の舞台に立とうとしているのはそれまでの彼の道のりを知っているものとして胸熱の流れといえます。

パトリック・マホームズ(カンザスシティQB)

一方のパトリック・マホームズ(Patrick Mahomes)はテキサス工科大出身で前アリゾナカーディナルズのHCであるクリフ・キングスバリー(Kliff Kingsbury)監督に大学時代3年間従事。キングスバリー監督の超パス重視オフェンス「エアーレイドオフェンス」のおかげもあってたったの3年間で11252パスヤードに93TDというとんでもない数字を残しました。また2016年度のオクラホマ大戦で彼が残した1試合のパスヤード(734ヤード)およびトータルヤード(819ヤード)は未だ破られていないNCAA記録です。

そんなマホームズですが、高校生リクルート時は3つ星評価(5段階中)の選手としてそこまで高い評価を受けていた選手というわけではありませんでした。

テキサス州出身のマホームズ、父親は1997年と1998年に横浜ベイスターズで投手として来日したこともある選手。その影響もあって小さな頃から熱心で才能のある野球少年として育ちました。打撃で非凡な才能を見せ、またピッチャーとしてもはたまた野手としても才能を発揮。

またバスケットボールでも活躍したマルチアスリートだったようで地元では有名なアスリートだったとのこと。親戚に言わせれば何をやっても大人を負かしてしまうほどの運動能力を持っていたらしく、それはゴルフや高跳び、果ては卓球まで多岐に渡っていたということです。

そんな彼がフットボールに目覚めたのはミドルスクール(日本の中学校相当)からだったらしいのですが、当初は主にセーフティーとしてプレーし、QBとして本格的に先発出場し出したのは高校2年生からだったのだそうです。

このシーズン、マホームズは3839パスヤードに46TDと素晴らしい成績を残し、地元テキサス周辺である程度の注目を集めることになります。そこに目をつけたのがテキサス工科大のキングスバリー監督とそのスタッフ。高校2年のシーズンが終わった後にテキサス工科大がマホームズにスカラシップ(スポーツ奨学金)をオファーし、本人もこれを受諾したそうです。

ただ今となっては驚くことに彼をリクルートしていたのは他にオクラホマ州立大ライス大くらいだったとか。しかもオクラホマ州立大は結局マホームズにスカラシップをオファーすらしなかったということで、今の彼のポジションからすると彼が高校生の時に大学から引く手数多とならなかったのかというのは、ちょっとしたミステリーになっています。

では何故高校生だったマホームズに多くのチームが手を出さなかったのか・・・。

まず一つ目に言われているのは、すでにご紹介した通りマホームズの父がプロ野球の選手であり、彼自身も高校で野球(バスケも)をプレーし続けていたことで、将来的にはアメフトではなく野球の道に進むのではないかと言われていたからです。オファーしても入部しないのであれば別のリクルートを勧誘することに注力した方がいいと感じた大学がいくつもあったのかもしれません。

もう一つ言われていたのが、フットボールの他にバスケと野球もこなすマルチアスリートだったため、フットボールのオフシーズンにはすでに別のスポーツに本格的に取り組んでおり、フットボールに費やす時間が少なすぎると危惧されていたことも挙げられているようです。

特に当時から彼の投球フォームは独特でしたが、それをオフシーズンに矯正するようなチャンスもなかったことを心配した大学コーチが居たとか居ないとか・・・。

ただテキサス工科大および現在のKCでの活躍からも分かる通り、真ホームズがマルチアスリートを貫いたことは決してマイナスにはならなかったといえるのではないでしょうか?むしろ彼のクリエイティブでどことなくトリッキーなプレースタイルは野球やバスケを通して身についたものであると考えることができるため、マルチにスポーツをやっていたことが今のマホームズの基礎を形成していたとも言うことができると思います。

アメリカで複数のスポーツを若い頃からプレーすることは不思議なことではありませんし、むしろ一つのスポーツだけをプレーしている生徒を探す方が難しいかもしれません。複数のスポーツに勤しんだ方が子供たちの総合的なヘルスに有効だという研究もなされているほどです。

日本のユーススポーツはとかく生徒に一つの競技しかプレーさせられない環境にあると思います。それはそれぞれのスポーツにシーズンという明確な区切りがなく、1年中スポーツ活動しているからにほかありませんが、複数のスポーツをすることでマホームズのような逸材が生まれるとすれば、どのスポーツにせよ若いうちにいろいろやらせてあげられるといいですよね。

ちなみに、両チームを率いるアンディ・リード(Andy Reid、カンザスシティー)とニック・シリアニ(Nick Sirianni)監督も当然カレッジフットボールプレーヤーだったわけですが・・・。

リード監督はブリガムヤング大に1978年から1980年まで所属。OLとして同校のレジェンドでもあるQBジム・マクマホン(Jim McMahon)とともにプレーした後にコーチングの道へ足を踏み入れ、9年間カレッジで修行したのちに1992年からグリーンベイパッカーズに合流してNFLに活躍の舞台を移し1999年にはフィラデルフィアイーグルスのHCに就任。ここで13年指揮を取ったのちに2013年から現在までカンザスシティチーフスで監督を務めているというベテランコーチです。

一方シリアニ監督は大学時代NCAA3部の強豪・マウントユニオンカレッジでWRとしてプレー。ここでは2000年、2001年、2002年とNCAA3部でのナショナルタイトルを3連覇。インドアリーグで1年プレーしたのちに本格的にコーチングの道へ。2009年からはカンザスシティチーフスで下積みの時間を過ごし2013年に上記のリード監督がチーフスにやってくるまでここでアシスタントコーチのアシスタントを務めます。そしてサンディエゴ(現LA)チャージャーズ、インディアナポリスコルツを経て昨年度(2021年度)からイーグルスの指揮を取っているという、41歳の若手コーチです。

リード監督もシリアニ監督もかつてお互い今回の対戦相手のチームについていたことがあるという奇遇な巡り合わせ。お互いの心中はいかに・・・?


どちらが勝つのか?

常勝チームとも言えるチーフスと今季目覚ましい強さを見せるイーグルスの戦い・・・。

チームの代謝が進む中でどちらのチームもロースターに名を連ねる選手がここ数年にプロ入りしたという選手の数が多めです。そう言った意味では「あの時あの大学でプレーしていたあの選手が・・・」という見方もできてカレッジファンとしてはなんとも言えない気持ちになります。

大学時代すごい数字を残したマホームズと紆余曲折を経て周囲の予想を裏切りスーパーボウルの大舞台に立つハーツ。彼らがこの試合でどんなプレーを見せるのかも楽しみですし、またマホームズとTEトラヴィス・ケルシー(Travis Kelce、元シンシナティ大)、また大学時代のチームメイトでもあったハーツとWRデヴォンテ・スミスのホットラインも見もの。

とはいえ、カレッジフットボールを専門に扱っている筆者にとってどちらが勝つかなんてことはわかりません(笑)。そういうのはNFLを専門に扱ってらっしゃるファンの方に任せて、こちらは当日のワクワク感を噛み締めながらぶっつけ本番で雰囲気含めて楽しもうと思います。いい試合になるといいなー。

【おまけ】

今回の記事を元にしたポッドキャストのエピソードがすでに配信されています。まだ聞かれていない方は是非!

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