カレッジフットボール界において最も偉大なる個人賞と言われるのがハイズマントロフィーです。このトロフィーを手にした選手は未来永劫カレッジフットボールの歴史にその名を刻むことになり、選ばれし人物しか触れることができないという超貴重なアワードです。
目次
栄光の証、ハイズマントロフィー
ハイズマントロフィーを獲得する選手が必ずしもNFLドラフトで総合ドライチになる選手とも限りませんし、ましてやプロの世界で活躍するという確証もありません。しかしたとえプロの世界で失敗したとしてもその選手は永久にハイズマントロフィー受賞者として世に知れ渡るわけで、そういった意味ではプロ選手になるよりもこの賞を獲得するほうが価値は高いのです。
大学で活躍することがプロで活躍することに直結するわけではありませんが、一方でカレッジだからこそ花開くという選手も大勢います。過去の受賞者を見ても下馬評通りNFLでも名を挙げた受賞選手もいればそうでない選手も少なくありません。
ちなみに過去10年間の受賞者を見てみると・・・
2020年:デヴォンテ・スミス(アラバマ大WR)
2019年:ジョー・バロウ(ルイジアナ州立大QB)
2018年:カイラー・マレー(オクラホマ大QB)
2017年:ベーカー・メイフィールド(オクラホマ大QB)
2016年:ラマー・ジャクソン(ルイビル大QB)
2015年:デリック・ヘンリー(アラバマ大RB)
2014年:マーカス・マリオタ(オレゴン大QB)
2013年:ジェーミス・ウィンストン(フロリダ州立大QB)
2012年:ジョニー・マンゼル(テキサスA&M大QB)
ご覧の通り現在も最前線で活躍する選手が結構いますね。
今年のファイナリストたち
今年ファイナリストとして授賞式に「招待」されたのは4人。その4人の顔ぶれを紹介したいと思います。
ケイレブ・ウィリアムス(サザンカリフォルニア大QB)
【2022年度記録】
パス成功数/回数:296/448
パス成功率:66.1%(全米24位タイ)
パスヤード:4075YD(全米4位)
パスTD:37(全米1位タイ)
パスINT:4(全米12位タイ)
パスエフィシェンシー:167.9(全米5位)
ラッシュヤード:372YD
ラッシュTD:10
昨年までオクラホマ大に所属。当時は先輩QBスペンサー・ラトラー(Spencer Rattler、現サウスカロライナ大)のバックアップを務めるも、ラトラーがスランプに陥ったことでウィリアムスに出番が回ってきます。そこで1年生とは思えない活躍で名を馳せますが、当時のHCだったリンカーン・ライリー(Lincoln Riley)監督がサザンカリフォルニア大に去ったことでウィリアムスも彼を追うようにサザンカリフォルニア大へ転校(トランスファー)。
新天地での初シーズンとなった今年、序盤から数字を伸ばしチームの6連勝に貢献。レギュラーシーズン途中ユタ大に敗れるもその後連勝を重ね、またパスとランでTDを量産し続けたウィリアムスはシーズン終盤にハイズマントロフィーレースの最有力候補に躍り出ます。
残念なことに出場したPac-12カンファレンス優勝決定戦でのユタ大との再戦で太ももを負傷して本領発揮とはいかずにチームは逆転負けを喫してCFP(カレッジフットボールプレーオフ)進出およびカンファレンスタイトル獲得に失敗。それでもこの試合ではトータルヤードで約363パスヤードに3TDと気を吐いていました。
彼の魅力は抜群の運動神経から織りなされるポケット内外でのディフェンダーからの回避能力、そしてスクランブルからでも正確にパスを投げれる力、さらには既存のプレースタイルにとらわれない、まるでカンザスシティチーフスのパトリック・マホームズ(Patrick Mahomes、元テキサス工科大)を彷彿とさせるようなプレーメーキング。
まだNFLドラフトまで後1年カレッジでプレーしなければなりませんが、2024年のドラフトでは目玉選手となっている可能性が高い将来有望な選手。最終戦のユタ大戦での敗戦が脳裏に焼き付いてしまっていますが、それまでの活躍ぶりを見ればトロフィー受賞の最有力候補と言われても不思議ではありません。
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マックス・ドゥガン(テキサスクリスチャン大QB)
【2022年度記録】
パス成功数/回数:239/368
パス成功率:64.9%(全米32位)
パスヤード:3321YD(全米16位)
パスTD:30(全米12位)
パスINT:4(全米12位タイ)
パスエフィシェンシー:165.4(全米9位)
ラッシュヤード:404YD
ラッシュTD:6
Big 12カンファレンス優勝決定戦での観ているものを奮い立たせてくれるパフォーマンスで記憶に新しいテキサスクリスチャン大QBマックス・ドゥガン(Max Duggan)。しかし彼のここまでの道のりは決して簡単なものではありませんでした。
新型コロナウィルスで揺れた2020年度シーズン。この時はウィルス感染を拡大させないために非常に厳しいプロトコルが敷かれていました。その中にはキャンプイン前にEKG(心電図)テストでスクリーニングをしなければならなかったのですが、ドゥガンの医師はこのテストで彼が非常に稀な心臓の症状を持っており、これをどうにかしなければフットボールを続けることはできないと診断したのです。
自身のフットボールキャリアが危ぶまれ本人としては気が気ではなかったでしょうが、数々の追加のテストを行った結果、結局ドゥガンは医師らからゴーサインを得て開幕戦に間に合い、2020年度は全試合で先発出場することができました。
しかし翌シーズンの2021年、先発を続けるも8戦目でベンチに下げられてしまい、おまけに当時のHCであるゲリー・パターソン(Gary Patterson)監督がシーズン途中で解雇されるという激震を味わうことになります。そしてその後はオクラホマ大からの転校生であるチャンドラー・モリス(Chandler Morris)に先発の座を奪われてしまいます。
現在のブームに乗っかるのであれば、ドゥガンはトランスファーポータル入りして転校し新天地を探してもよかったのでしょうが、ドゥガンはあえてTCUに残留。今シーズンの開幕時に先発QBを任されたのはモリスだったのですが、開幕戦のコロラド大戦で膝を負傷。以来ドゥガンが先発を任されることになります。
決して華麗なプレーでファンを魅了するような選手ではありませんが、チームの勝利のためなら死力を尽くしてプレーするのが身上のドゥガン。それが最も表れていたのが上に挙げたBig 12カンファレンス戦。カンザス州立大との激闘となったこの試合、追う展開のTCUはドゥガンの決死のランで同点に追いつきオーバータイムへ突入。結果的にチームは負けてしまいますが、この日のドゥガンの持てるものを全て出し尽くして勝利にこだわった姿に心奪われた人は多かったはず。
What an effort from Max Duggan today 👏
— ESPN College Football (@ESPNCFB) December 3, 2022
He couldn’t be stopped on the final drive of regulation 😤 pic.twitter.com/kVCXm9dnaL
確かに持っている能力だけ見たら彼よりも秀でている選手はいると思いますが、ハイズマントロフィーは必ずしもスタッツで優れている選手が受け取る賞という訳ではありません。ドゥガンのように紆余曲折を経て先発を勝ち取り、そしてチームをプレーオフ進出にまで牽引した彼のパフォーマンスは評価に値すると考えます。
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C.J. ストラウド(オハイオ州立大QB)
【2022年度記録】
パス成功数/回数:235/355
パス成功率:66.2%(全米22位)
パスヤード:3340YD(全米15位)
パスTD:37(全米1位タイ)
パスINT:6(全米37位タイ)
パスエフィシェンシー:176.2(全米1位)
ラッシュヤード:74YD
ラッシュTD:0
昨年のハイズマントロフィー授賞式にもファイナリストとして出席したC.J.ストラウド(C.J. Stroud)。これで2年連続のニューヨーク行きのチケット獲得となりました。
そのことから開幕時からトロフィーレース最有力候補として挙げられ、「ストラウドが獲るか、それとも彼以外が獲るか」という評価をされ続けていました。チームは開幕から連勝続き。開幕8連勝を記録した際にはそれまで毎試合でTDを獲得し、さらには4つ上のTDを奪ったのがシーズン通して6試合もあり、まさにここまでは無双状態でした。
しかし9戦目のノースウエスタン大戦では悪天候のため遂にこの連続TD記録がストップ。翌週のインディアナ大戦では再び5TDを奪う活躍を見せましたが、11戦目のメリーランド大戦で苦戦、さらにシーズンフィナーレのミシガン大戦では349ヤードに2TDを奪いましたが、チームを勝利に導くことに失敗。この頃にはすでにトロフィーレースのオッズはUSCのウィリアムスに流れていってしまいました。
とはいえ数字的にはトップレベルに入るカテゴリーもあり、次期NFLドラフトでは指折りのQB候補として期待されている将来有望な選手(ドラフト入りするかはまだ公表されていませんが)。パサーとしての能力はピカイチですが、ただハイズマントロフィーレース的にはシーズン中盤までのモメンタムは無くなってしまいました。
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ステソン・ベネット(ジョージア大QB)
【2022年度記録】
パス成功数/回数:269/395
パス成功率:68.1%(全米13位)
パスヤード:3425YD(全米11位)
パスTD:20(全米42位タイ)
パスINT:6(全米37位タイ)
パスエフィシェンシー:154.6(全米23位)
ラッシュヤード:184YD
ラッシュTD:7
ジョージア大のステソン・ベネット(Stetson Bennett)のここまでの道は決して順調と言えるものではありませんでした。
スポーツ奨学金を貰えないウォークオン選手として2017年にジョージア大に入部。しかし2018年からはプレー機会を求めてジョージア大から短大へ転校。2019年に再びジョージア大に出戻るも大した出場機会はありませんでした。
第4番手のQBとして迎えた2020年度シーズン。先発候補が新型コロナの影響を考えて参戦を見送り、2番手の選手が怪我で出遅れ、そして3番手のQBがスランプに陥ったことでこの年ベネットは一時先発QBを任され、のちにこの年全米制覇するアラバマ大などと対決。それなりの数字を残しはしますが、怪我で出遅れていたJ.T.ダニエルズ(J.T.ダニエルズ、前ウエストバージニア大)が復帰したことで先発の座を明け渡します。
そして2021年度。開幕時はダニエルズが先発でしたが初戦で彼が再び負傷。そこで登場したのがベネットでしたが、繋ぎ役に徹したベネットは強力なランアタックと全米屈指のディフェンス陣の力を借りて次々と試合に勝ち続けます。そして全米王者決定戦まで駒を進めたジョージア大はアラバマ大と対戦。過去2度対戦し2敗した相手をベネット率いるジョージア大は遂に下してナショナルタイトルをゲットしたのでした。
そこでベネットのシンデレラストーリーが終わってもよかったのですが、試合出場資格がまだ残っていた彼は自身大学キャリア6年目を行使するためにジョージア大に残留。チームはここまで無敗で全米タイトル二連覇を目指しますが、その巨艦の司令塔をこのベネットが務めているという訳です。
決して大柄という訳ではありませんが、想像以上に脚力があり今季はランで7つのTDを獲得。またパス能力も悪くなく、プロでは活躍できなくてもカレッジでヒーローになれる典型的なタイプのQBといえます。
他にもテネシー大のQBヘンドン・フッカー(Hendon Hooker)やミシガン大RBブレイク・カーラム(Blake Corum)といった世間を沸かせた選手がいたのですが、彼らはシーズン終盤に怪我で戦線を離脱する不運に見舞われ、それの恩恵を受けてベネットがファイナリスト入りした感も否めません。ただ、ウォークオン出身の苦労人の締めくくりがハイズマントロフィーファイナリスト入り、そしてチームの2年連続全米制覇となれば、ベネットが今後どのような人生を歩むことになろうとも、ジョージア大ファンの間でベネットのレガシーは永遠に語り継がれていくことでしょうね。
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授賞式
この栄えあるトロフィーの授賞式は12月10日東部時間で午後8時から(日本時間では12月11日午前10時)ニューヨーク市マンハッタンにあるリンカーンセンターで行われます。
この投票を行えるのは870名のスポーツ記者、まだ存命の58人の過去のトロフィー受賞者、そしてファン投票(最多得票選手に1票入る)による合計929人相当の投票によって決められます。
果たして87代目のトロフィー受賞者となるのはこの4人のうちのどの選手となるか?