2017年度シーズンには周囲の予想を裏切って大活躍した、いわゆる「シンデレラチーム」が何チームか存在しました。その最たるチームは文句なく全勝して全米6位にまで上り詰めたセントラフロリダ大でしょう。しかしやはり見逃せないのはフロリダアトランティック大の躍進です。
フロリダアトランティック大と言えば2001年にフットボール部が創部し2004年にFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)からFBS(フットボールボウルサブディビジョン)に昇格した非常に若いチームです。2007年に8勝5敗で当時所属していたサンベルトカンファレンスチャンピオンになりましたが、それ以外は鳴かず飛ばず。特に2014年から3年間連続で3勝9敗と上向きになる気配が無いとわかると大学側はチャーリー・パートリッジ(Charlie Partridge)監督を解雇。そしてその後継者に選んだのはカレッジフットボール界の異端児であり、アラバマ大のオフェンシブコーディネーターを務めていたレーン・キフィン(Lane Kiffin)氏でした。
FAUでの初年度を大成功で終えたレーン・キフィン監督
NFLのオークランドレイダースの監督から始まり、テネシー大、サザンカリフォルニア大を渡り歩いてきたキフィン氏。アラバマ大では2014年から3年間OCとしてチームを率い、2015年度のナショナルタイトル獲得に大きく貢献しました。そんなキフィン氏がアラバマ大という名門を出て、監督職だとしてもフロリダアトランティック大という中堅チームへ移っていったのには非常に驚かされたものでした。
キフィン監督デビューの年となった2017年度は海軍士官学校とウィスコンシン大に相次いで敗れ、4戦目のバッファロー大戦も落とし開幕後1勝3敗と嫌な立ち上がりとなりましたがなんとそこから破竹の連勝街道まっしぐら。カンファレンス戦では無傷の8勝無敗でカンファレンスUSAのタイトルを獲得。そしてボカレートンボウルでもアクロン大相手に50対3と全く寄せ付けずに勝利しなんとキフィン監督就任初年度で11勝3敗という大変なターンアラウンドを見せつけてくれたのでした。
今後も非常に楽しみなフロリダアトランティック大ですが、一方でチームにとっては残念なニュースもあります。
というのも昨シーズンの快進撃を支えたQBジェイソン・ドリスケル(Jason Driskel)がシーズンが終わってから1ヶ月近く経った1月中旬に現役から引退することを表明したのです。
FAUのジェイソン・ドルスケル
オフェンスの天才と謳われるキフィン監督の作戦を見事に現実のものとしたドリスケル。チームが1勝2敗となった時点でキフィン監督は開幕時からの先発であったダニエル・パー(Daniel Parr)に代えてドリスケルを投入することを決定。そしてこれが功を奏してチームは快進撃を始めるわけですが、この間ドリスケルは2247パスヤードに5TD、また脚でも427ヤードに8TDという数字を残し、何よりもFBSレベルではチーム初の11勝(FCS時代の2003年に11勝を一度経験しています)を挙げたチームの先発QBとしてその名を轟かせたのですが・・・。
ドリスケルは自身の進退をツイッターで報告したのですが、辞める理由は自分が本当に進みたい土木工学(Civil Engineering)の道に専念するためだそうで、夢だったディビジョン1部でのプレーを果たすことができ、チームメートとの時間は名残惜しいがこの決断に後悔はない、として残されたプレー資格あと1年を使用することなくスパイクを脱ぐことにしたのです。
現場にいるとわかるのですが、カレッジフットボールでプレーする選手たちの中にはたとえプロの道に進める確率がないに等しくても、それを把握できずに勘違いしている大学生が結構います。プロへ進めるのはほんのわずかな選ばれた選手だけであり、カレッジフットボールをプレーするその大多数が大学卒業後には現役を退いて普通の人生を歩んでいくことになります。
そんな彼らの人生はフットボール選手としてよりもその後の人生の方がはるかに長いわけです。それでもわずかな夢にかけどんなに無茶でも一途に向かっていく選手が結構いるのですが(もちろんそれを否定するわけではありませんが)、そんな中でまだプレーのチャンスがあるにもかかわらず選手としてはやり尽くしたとして後は別の人生を歩むことにしたドリスケルの決断には清々しさを覚えます。
キフィン監督は来シーズンに向かって新たなQBを育てなければならなくなりましたが、ドリスケルにしてみれば2017年度シーズンは今後一生忘れられないシーズンとなったことでしょう。今後は別の道で大成することを祈るばかりです。