直接的にカレッジフットボールとは関係ありませんが、これまで当サイトでも取り上げてきたことを考えるとやはりこのニュースは皆さんにご紹介しておきたいと思います。
かつて弱小だったベイラー大を戦える集団にリフォームしたアート・ブライルス(Art Briles)氏。自身の監督としての株も急上昇していましたが、ベイラー大フットボール部選手が起こした不祥事の責任を負う形で2016年に同校から解雇されると、しばらくはフットボール界から干される状況が続いていました。しかし誰もが腫れ物に触るように距離を置かれていたブライルス氏を監督に起用しようというチームが現れたのです。
それはテキサス州にあるマウントヴァーノン高校です。
「なんだ、高校か」と思われる方もいるかもしれませんが、これまでの状況からするとブライルス氏にオファーをするということ事態が非常にギャンブル的なものとされてきました。それはやはりベイラー大でのスキャンダルの社会的影響が大きかったからです。
2003年からヒューストン大を率いたブライルス氏は4年目の2006年に10勝4敗でカンファレンスUSAチャンピオンに輝き、その手腕を買われて2008年にベイラー大監督に就任。当時のベイラー大は1996年以来一度も勝ち越しがない弱小チームでしたが、2010年に7勝6敗で14年ぶりにチームに勝ち越しシーズンをもたらすと、その後は負け越しシーズンは一度もなく、2013年と2014年はBig 12カンファレンスタイトルを2連覇。また2011年度には自身の先発QBロバート・グリフィン・三世(Robert Griffin III)がハイズマントロフィーを獲得するなど、ベイラー大は一気に全米の強豪校の仲間り入りを果たしてたいのです。
ベイラー大時代のブライルス氏
しかしこの急激なチーム力アップの屋台骨となったリクルーティングの副産物として、多くの「悪ガキ」たちがチームを形成するようになり、その一部が起こした学内での婦女暴行事件が明るみになり、しかもそれに対してブライルス氏らコーチ陣並びに大学側がアクションを起こさなかったことで非難が集中。その結果2016年5月にブライルス氏は解雇処分となったのです。
このスキャンダルはブライルス氏の解雇だけで沈静化することはなく、2017年に公開された発表で2011年から2015年の間に31人のフットボール部員が52件ものレイプ事件を起こしていたという目を覆いたくなる事実が明らかになり、ブライルス氏がこの横行を止められなかっただけでなく隠蔽しようとしていたのではないかという疑惑まで沸き起こって、ブライルス氏およびベイラー大のネームバリューはガタ落ちとなったのです。
ベイラー大で起きたスキャンダルはどこまでいってもブライルス氏およびベイラー大に長きに渡りつきまとう消せない過去です。そしてそんなブライルス氏と関わるものは全てその業を背負っていかなければならないということでもあります。だからそんなリスクを背負う大学チームなど現れませんでした。
そんな中、2018年の夏にイタリアのアメフトリーグ所属であるグエルフィフィレンツェ(Guelfi Firenze)からヘッドコーチのオファーが届き、これを受理したブライルス氏は3年ぶりに海外ながら現場復帰。2018年度シーズンのフィレンツェは6勝2敗と好成績を残しました。
そしてそのブライルス氏に今年触手を伸ばしたのが前出のマウントバーノン高校だったわけです。
ブライルス氏は1979年から1999年まで一貫してテキサス州の高校レベルでコーチングを行ってきました。テキサス州の高校フットボールと言えば、その本気さとレベルの高さで有名。元々テキサス州はアメフトが宗教のような扱いを受けており、いかに高校フットボールと言えども1万人以上を観客動員するのもザラです。ブライルス氏は長年その土壌でコーチングを行ってきており、マウントバーノン高校が彼に白羽の矢を立てるのもわからない話ではありません。
当然高校レベルでの再就職でもブライルス氏を起用することに関しては内外から批判の声が上がりましたが、マウントヴァーノン高校は慎重な審議を重ねてこの大博打に打って出ました。しかしその審議のプロセスにはベイラー大選手に暴行された被害者やNCAAの関係者らは蚊帳の外・・・。果たしてこの決断が正しかったのかどうか・・・。
コーチとしてのブライルス氏の腕は確かなわけですから、高校レベルでリハビリしていつの日か大学レベルに帰ってくる日が果たしておとずれるでしょうか・・・。ただやはり過去のスキャンダルの質を考えるとカレッジフットボールに帰ってくるのはまだまだ先のような気がします。現在63歳のブライルス氏にそのチャンスがあるのかは定かではありません。