ワシントン州立大のフラッグ
日本からアメリカのカレッジフットボールを追っている方だとちょっと分からないかもしれませんが、現地でカレッジフットボールと言ったら語らないわけにはいかないのは米スポーツ専門局「ESPN」が長年放映しているプリゲームショーの「カレッジゲームデー(College Gameday=CGD)」です。
カレッジゲームの大半が土曜日の正午以降に行われるのですが、それに先立ち朝9時から3時間に渡って放送されるのがこのCGD。その週末のゲームの分析、それぞれのチームにまつわる裏話や泣ける話、そして最後は出演者が試合の予想をし合うというこのスタイルは長年変わらず全米の視聴者に届けられており、この番組を見ていよいよ土曜日のカレッジフットボールマラソンが始まるのです。カレッジフットボールづくしの土曜日に欠かせないCGDはそのまたとない「前菜」なわけです。
カレッジフットボールファンから愛されるCGD
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現在CGDはその週の最も注目される試合会場で行われることになっています。スタジアムの外とかキャンパスの中央部に大々的に舞台が設置され、それを取り囲むように多くのファンが集まり、その賑わいといったらちょっとしたコンサートのようなものになります。最近ではテレビに映ることを予測してちょっとユニークなメッセージや対戦相手を揶揄するようなチクリとするメッセージを掲げるファンも増えました。それを見るのも結構楽しいのですが、実はこの群衆の中に非常に興味深い「伝統」があるのです。
それはちょうど2003年の10月4日に行われたカンザス州立大vsテキサス大の試合にCGDが乗り込んだときのこと。いつものように番組出演者のテーブルのバックグラウンドには集まったファンで溢れていたのですが、そのずっと奥の方に何故かワシントン州立大の旗がはためいていたのです。テキサス州からかなり離れた場所にあるワシントン州立大の旗が映り込んでいたのは非常に奇妙な光景でした。
しかしそこから毎週末のように遠くの方に柄の長いポールの先にはためくワシントン州立大の旗がテレビに映りそれはCGDが何処で放映されていたとしても必ず登場していたのです。流石に番組スタッフもその存在に気づき、旗を持つファンに問いただしたところ、この旗は卒業生が組織的にCGDが赴く場所を事前に調べてその場所に一番近い卒業生に旗を送ってCGDに登場するように計画してきたことなのだとか。
2017年にNYCのタイムズスクエアでCGDが放映されたときもWSUのフラッグが!
それはもちろん全米で放映されるこの番組で母校を応援したいからにほかありませんが、一方でいつかCGDがワシントン州立大があるプルマン市に来てほしいと願っていたからでもあります。
ワシントン州立大は一般的にPac-12カンファレンスでは中堅チームとされてきましたが、現監督のマイク・リーチ(Mike Leach)監督がチームに来てからは徐々に力を付け始め、昨年は最高で8位にまでランキングに登場したこともあります。そして今週25位にランクインした彼らは地元で全米12位のオレゴン大を迎え撃つのですが、ESPNはとうとうこの大一番にCGDをプルマン市に送り込むことを決定したのです。
自分のキャンパスにCGDが来るということは、予想以上に大きな出来事なのですが、プルマン市はワシントン州立大以外に目立ったものは存在しない典型的なカレッジタウン。そこにCGDがやってくるということで、なんとプルマン市は今週「非常事態宣言」を発令したほどなのです。押し寄せると予想される多くのファンたちに対応すべく交通機関や宿泊施設などを確保するために市全体でCGDを迎えようとしているわけですね。
試合自体はダイナミックオフェンスを擁するオレゴン大にリーチ監督得意の超パスオフェンスを操るワシントン州立大が点取合戦で競り勝てるかに注目が集まりますが、一人のファンが始めた草の根活動が15年の時を経てESPNを動かし、CGDを呼び寄せることに成功したのですから、今週末のCGDは盛り上がること必然ですね。これを見届けられない日本在住のファンの方にとっては残念な話ですが・・・。