カレッジフットボールがプロ顔負けのビジネスモデルになり得ることは、ここでも紹介しているような例、例えばリクルーティングのためにゴージャスな施設を建設したり、チームまるごと海外へ連れて行ったり、大手スポーツブランドと法外な契約を結んだり、メディアネットワークの収入で懐が温まったり・・・するような記事からもお分かりいただけると思います。その規模は日本のプロスポーツを凌駕していると言っても過言ではありません。
ただそれが全米各地、全チームで行われているのかと言えばそれはまた別の話です。そういった恩恵を受けているのはの、「パワー5カンファレンス」所属で、しかも強豪・名門と言われるチームのみです。FBS(フットボールボウルサブディビジョン)には現在130チーム所属していますが、その中でも極貧のチームもまた別に存在するのです。
ニューメキシコ州立大の場合
そのいい例がニューメキシコ州立大です。多くのFBSチームにとってフットボール、並びに男子バスケットボールはチケットの売上やTV放映権などで収益を見込めるスポーツですが、強くなければ誰も関心を持ちませんから、ニューメキシコ州立大や同じ州内のニューメキシコ大など結果を残せないチームにはそのような収入を期待できないのです。
それだけでなくフットボール部を維持すること事態にお金がかかるわけで、例えば100人以上を超える選手たちの様々な管理費、コーチたちへのサラリー、施設の維持費、遠征の移動費や宿泊費など、支出は膨らむばかり。ですから資金・収入が少ないチームにとって結果を残せないことは負のサイクルから抜け出せないことを意味します。そんな部を存続すること事態に疑問をもつ人々も増えるわけで、特にフットボール部が有名でない大学はそれこそ「廃部にしろ!」と声を上げることだってあるのです。
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そしてニューメキシコ州立大ではこの度大学上層部の投票により、経費削減のため男子サッカー部、男女スキー部、女子ビーチバレーボール部の4チームが今年を最後に廃部とするという決定が下されたのです。
ニューメキシコ州立大は現在マウンテンウエストカンファレンスに所属していますが、このカンファレンスに居続ける最低限の条件としてフットボール部の有無が明記されていますから、フットボール部が廃部になることはそう簡単に現実のものにならないでしょう。しかし廃部は間逃れたものの、経費削減の波は当然フットボール部にも押し寄せることになります。
例えば今後フットボール部はホームゲームの前日にホテルに泊まることを禁止する(多くのチームはたとえホームゲームでも試合の準備に集中させるためにチームを地元のホテルに宿泊させます)、コーチのリクルーティング時の経費を削減する、選手に与える食事を減らす、などの規制を発動させるということです。
ただ、ニューメキシコ州立大でもフットボール部の維持費に1年間で800万ドル(1ドル100円計算で8億円)かかるということですから、先に上げた4チームを廃部にして100万ドルを浮かせたとしてもたかが知れているようにも思えます。しかもフットボール部のホームゲームの動員数は毎年下がる一方。昨年のセントラルフロリダ大のようなシンデレラストーリーでも起きない限り、彼らのフットボール部が注目されることは無いでしょう。しかももしそのようなシーズンを送れたとしたら、それを可能にした監督はその手腕を買われてどこか別のチームに引き抜かれてしまうでしょうから、長期的な戦略を見てみてもニューメキシコ州立大のようなチームがフットボール部で黒字に転ずるということはなかなか考えられないのです。
それでもフットボール部を維持することに固執するのは、部の歴史とか、卒業生からのプレッシャーとか、大学内外の政治的な駆け引きとか、色々あるわけですが、実際に授業料を払って大学に学びに来ている一般の学生からしてみれば、その授業料の一部が勝てもしないフットボール部に流れているとなれば、そんなところにお金を使うなら図書館を増築しろだとか、教室を増やせだとか、そういう声が挙がったとしても何ら不思議ではありません。今年はじめにチームの監督であるボブ・デイビー(Bob Davie)氏が大学の規則違反を犯したとして30日間分のサラリーを取り上げるという処分を下しましたが、その分のお金が浮いたとしてもそれは焼け石に水なのです。
生き残るには
フットボール部並びに男子バスケットボール部は誰も手を付けることが出来ない「聖域」とみなされている大学が多いですが、一方でフットボール部員だからと言ってキャンパスを肩で風切りながら歩くことが出来ないチームもあるのが現実です。もしフットボール部を存続させたいのならば、より少ないバジェットでも運営できるような、FBSの下部リーグであるFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン)に乗り換えるというのも手です。すでにアイダホ大がそれを実行したことからも可能な選択肢だといえます。
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どちらにしても華やかさばかりが取り挙げられがちなカレッジフットボール界で、それとは真逆にいる台所事情のチームも存在するのです。そういったチームは負けると分かっていても強いチームから「カモ」としてお金を受け取って遠征に行くのが最近では普通になってきました。強豪チームがいわゆる「カップケーキ」ゲームとして弱小チームと試合を組むことに批判が集まることも多々ありますが、一方で呼ばれる「カップケーキ」チームとしてはそれで恩恵を得ているという不思議な図式も存在します。
おそらくカレッジフットボールの規模は今後も留まることを知らずに大きくなっていくことでしょう。ただ、それで甘い蜜を吸えるのは強いチームだけであり、逆にニューメキシコ州立大のような中堅以下のチームは強豪校との差を開けられ、良いリクルートも呼ぶことが出来ず、チームは強くならないために集客力も下がる一方・・・という負のサイクルから抜け出せなくなるのです。
光あるところに陰あり・・・。こんなところにもカレッジフットボールの厳しい現実を垣間見ることが出来ます。