アメリカのピザ屋さんで日本で知られているピザ屋さんといえば「ドミノピザ」とか「ピザハット」なのかもしれませんが、アメリアには「パパ・ジョンズ」というピザ屋さんのチェーン店があることは日本でどれだけ知られているのでしょうか?
創業約30年と比較的新しい「パパ・ジョンズ」は現在アメリカで3番目に大きいピザチェーン店にまで成長しました。私が渡米したばかりだった頃はまだ開店して10年も経っていない新進のピザ屋さんでしたが、今ではNFLのスポンサーになるまでに成長を遂げたのです。
この「パパ・ジョンズ」の成長には創業者であるジョン・シュナッター(John Schnatter)氏のメディア戦略がありました。自身の名を冠したピザ屋を興隆させるためにTVのコマーシャルに自ら出演。「Better ingredients. Better pizza. Papa Jone’s(いい素材。いいピザ。それがパパ・ジョンズ)」という決まり文句を武器にその温厚そうなキャラクターで年を追うごとに「パパ・ジョンズ」のブランド力は上がっていき、今では知る人ぞ知るピザチェーン店になったのです。
また最近では大物をTVのコマーシャルにブッキングすることにも成功し、2年前に引退したNFL殿堂入りQBペイトン・マニング(Payton Manning、元テネシー大)氏を起用。この縁もあってか彼が2015年度シーズンのスーパーボウルにてデンバーブロンコスの一員としてカロライナパンサーズを倒して優勝した際、試合終了直後にマニング氏とフィールド上で握手を交わしいるシュナッター氏が全米のTV画面に映し出されたのには驚かされたものです。「そんなに仲が良かったのか?!」と(笑)。
そのようにして全米のどこに行っても町に一つは存在するというピザ屋さんに成長を遂げた「パパ・ジョンズ」。しかし今彼らは世間を少々騒がせております。というのも創業者であるシュナッター氏が去る5月に報道機関との電話会議で人種差別用語を使用したことが暴露されたからです。
これまで大きな問題もなく会社が大きくなっていった「パパ・ジョンズ」でしたが、実は今回の問題の前にも一悶着起こしていました。
遡ること2016年。NFLではサンフランシスコ49ersのQBコリン・キャパニック(Colin Kaepernick、元ネバダ大)が黒人が警官に射殺される事件が増えたことに抗議する意味で、試合前の国歌斉唱時に起立せずに膝をつくというプロテスト(抗議行動)を行っていました。しかし各チームのオーナーたちは白人主義や極端な愛国主義の資金援助者の影響を恐れてこの抗議行動を拒絶。2016年度シーズン後に49ersから解雇されたキャパニックはどのチームからも契約の声がかからず、才能があるのに未だNFLでプータロー状態です。
さらにドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領がこのプロテストを一刀両断したことで全米はこの行動に関して真っ二つに割れることにもなったのです。
そんな折、2017年度のNFLシーズンは視聴者離れが叫ばれましたが、NFLのスポンサーも務めていた「パパ・ジョンズ」のシュナッター氏はその原因が上に挙げた膝をつくプロテスト行動にあると公言。そしてそのせいで彼の会社も打撃を受け、なんの解決策も講じなかったNFLを批判したのです。この言動が多くの批判を呼び、結果彼は最高経営責任者(CEO)の座を辞するまでに至りました。
このせいでシュナッター氏が一時TVコマーシャルから姿を消しましたが、彼の傷ついた体面を回復しようという市場仲介者のお膳立てで今年の5月にメディアとの電話会議の場が設けられたのですが、既述の通り彼はここで人種差別ワード(俗に言うNワード)を使用してしまったのです。
このことがつい先日に報道されると同社の株価は大暴落。シュナッター氏は全面的にこの事を謝罪し会長職を辞任。一方会社側は創業者の起こした問題の尻拭いに追われているところです。
NFLだけでなく様々なスポーツシーンでもパパ・ジョンズがスポンサーを務めていますが、実はカレッジフットボール界にはこの会社の名を冠したホームスタジアムを持つチームがあります。ルイビル大です。
その名も「パパ・ジョンズ・カーディナルスタジアム」と呼ばれたルイビル大のホームグラウンドですが、1990年代後半にパパ・ジョンズ社が600万ドル(1ドル100円計算で6億円)をスタジアム改築費として寄付する代わりに彼らがスタジアムの命名権を獲得。以来この名前でルイビル大のスタジアムは知られていくことになりますが、更にシュナッター氏はポケットマネーで1400万ドル(14億円)を寄付し、この命名権が2040年まで延長していました。
ルイビル大の本拠地「パパ・ジョンズ・カーディナルススタジアム」
そんな折例の「人種差別用語問題」が湧き出たわけですが、黙っていなかったのはルイビル大フットボール部でした。ご存知かと思いますが、現在どこのFBS所属アメフト部を見ても半数以上が黒人選手であるというこの状況で、彼らを卑下する言葉を用いた人物の名のついたスタジアムで試合をしたいという黒人選手がいるはずがありません。すぐにスタジアムの名前を改名しろという声が湧き上がったのです。
ここで迅速に動いたのがルイビル大の大学長であるニーリ・ベンダプディ(Neeli Bendapudi)女史。彼女は即刻スタジアムの名前からパパ・ジョンズを排除し、以前の「カーディナルスタジアム」に差し戻したのです。決断を遅らせて余計な批判が大学側に集まる前にこの決断を下した彼女の英断だったといえます。
これから大変なのはパパ・ジョンズです。いかにこの発言が一人の人物のものであり、会社全体の意志ではないと行ったとしても、それを民衆が許すはずはありません。すでに6つのメジャーリーグチーム、そしてルイビル大のライバルでもあるケンタッキー大がパパ・ジョンズと袂を分かちましたが、今後同様のことが増えていくでしょう。会社のトップの人間の失言が会社自体の存続に関わる事態に陥りかねないのです。