近年、NCAAは独占禁止法（Anti-Trust Law）違反の疑いで3つの裁判を元学生アスリート等に起こされてきました。主な告訴内容は、NILが解禁された2021年以前の大学アスリートにも補償をしろ、という訴えでした。そして5月末にNCAA及びパワー5カンファレンスは告訴側と和解することで歩み寄る動きを見せたのです。
この和解案の中の1つに「スポーツ奨学金（スカラシップ）枠の上限を撤廃する」というものが盛り込まれていました。
これまでFBS（フットボールボウルサブディビジョン、NCAA1部でも上位のサブディビジョン）のチームは最大85人分のスカラシップを授与することが出来ました。コーチたちはこの85人の枠の中でリクルートを確保する活動を続けてきました。これがどうやら今回撤廃される動きのようです。
現在FBSではシーズンが開幕するまでのロースターの上限を110人としています。シーズンが開幕したあと（もしくは授業が始まったあと）に110人以外のウォークオンを追加することが出来ます。
どちらにしても85人のスカラシップを授与された選手以外はスカラシップなしのウォークオン選手という風に区分けされます。そしてその殆どの選手はリクルーティングされたスカラシップ選手、いわゆるプリファード・ウォークオン（Preferred Walk-on=PWO）選手たちです。
PWO選手は85人のスカラシップ枠には入れてあげられないけれども、自力で入学してくれれば入部を約束された選手たち。こういった選手たちがいるからこそ各チームのロースターは成り立っているわけです。
そして今回の和解案でこのスカラシップ上限数が撤廃されることで、仕組み上はすべての選手にスカラシップを授与することが出来ます。となると、スカラシップ組ほどのレベルではなくても、ボーダーラインの能力を持っていた選手たちが、これまでならPWOとしてトップレベルのチームに入部できていたものの、スカラシップを無限に授与できるリソースを持っている大学がすべての選手をリクルート選手で固めることにより、PWO選手にはそういったチームでプレーする夢が潰えるということになります。
こうなればよりリソースを持っている強豪校ばかりに有能リクルートが集まっていくという状況に陥りかねず、FBSさらにはパワー4カンファレンス群の間でも力の差がどんどん広まっていきそうですが・・・。
ただ、カレッジフットボールの歴史上、PWO選手たちが残してきた功績は計りしれず、またトップレベルの選手だけに開かれた世界ではない、という証としてPWO制度は長い間生き続けてきました。
もともとPWO選手として入部するも、後に活躍した選手の中には、J.J.ワット（J.J. Watt、元ウィスコンシン大）、クレイ・マシュー（Clay Matthew、元サザンカリフォルニア大）、ベイカー・メイフィールド（Baker Mayfield、元オクラホマ大）、アントニオ・ブラウン（Antonio Brown、元セントラルミシガン大）、ステソン・ベネット（Stetson Bennett、元ジョージア大）など、カレッジでナショナルタイトルを獲ることになったり、プロでプロボウルに選出されるようになる選手がいます。
そういった、「アメリカンドリーム」の可能性を、スカラシップの上限廃止で無下にしてしまうのはいかがなものか・・・といった声は多く上がっていましたが、そういったことを出来てしまうであろう、サウスイースタンカンファレンス（SEC）の多くの監督たちが、ウォークオンがなくなってしまうのは良くないと声を上げています。
高校生の夢を奪うようなことはカレッジフットボールの本来の姿を壊滅させると危惧するコーチたちが結構おり、それが本心なのか偽善なのかはわかりませんが、少なくともそういう可能性があり、それは良くないと当事者たちが声を上げているのは少し安心しました。
一部ではいっそのことロースターの上限自体を85人にしてしまおうという意見もあるようですが、スカウトチームとか怪我が起きた際のことを考えれば100人以上は確保しておきたいというのが本音でしょう。
ただ大学側にとっては学費は資金源ですから、大学の資金事情によっては100人以上に授業料免除という特例を与えることは得策ではないかもしれません。そうなれば先にも述べた通り、資金力のある大学とそうでない大学で不平等が起きかねません。
スカラシップ枠が本当に撤廃されるのか、そしてロースターの上限が新たに設定されるのか・・・。今後の展開に注目です。
