2024年度シーズンも残すところCFP(カレッジフットボールプレーオフ)準決勝戦の2試合とそれらの試合での勝者がぶつかり合うナショナルチャンピオンシップゲームを残すのみとなりました。
今年から新たに導入された12チーム制度のプレーオフ。ここまで勝ち残ったのはファーストラウンドから上り詰めたチームばかり。今回の記事では準決勝戦第1試合のオレンジボウルの見どころをお届けします。
#6 ペンシルバニア州立大 vs #7 ノートルダム大
🏟️ハードロックスタジアム(フロリダ州マイアミ)
準決勝戦の1つであるオレンジボウルのマッチアップは第6シードのペンシルバニア州立大と第7シードのノートルダム大の対決となりました。
ペンシルバニア州立大は今年のCFPが初のプレーオフ出場。最後にナショナルタイトルを取ったのが1986年なので38年ぶりの栄冠を目指します。オレンジボウルに出場するのはこれで6度目で、これまでのオレンジボウルでの勝敗数は4勝1敗。最後にこのボウルゲームに出場したのは2006年(2005年度シーズン)となります。
ノートルダム大にとってCFP出場は3度目。前回2度とも(2018年と2020年)準決勝で敗れているため、CFPタイトルゲームに出場したことはまだありませんが、CFPの前身システムであるBCS(ボウルチャンピオンシップシリーズ)では2012年にタイトルゲームに進んだことがあります。彼らが最後に全米王者になったのは1988年のため、36年ぶりの優勝を狙うことになります。また、彼らがオレンジボウルに出場するのはこれでペンステートと同じく6度目ですが、彼らの戦績は2勝3敗となっています。
両チームはこれまで19回の対戦経験があり、勝敗数は9勝9敗1分けと五分。最後に戦ったのは2007年でこの時はホームだったペンステートが31対10で勝っています。
両チームのこれまでの歩みは準々決勝戦のプレビュー記事をご参考ください。
参考記事2024年度CFP準々決勝プレビュー【フィエスタボウル】
参考記事2024年度CFP準々決勝プレビュー【シュガーボウル】
マッチアップ
ペンシルバニア州立大 | ノートルダム大 | |
#16 | SOS | #14 |
33.7 (2) | 平均得点数 | 37.7 (3) |
436.3 (19) | 平均トータルオフェンス | 406.8 (43) |
234.1 (53) | 平均パスオフェンス | 189.1 (105) |
202.2 (16) | 平均ランオフェンス | 217.6 (12) |
15.8 (5) | 平均失点数 | 21.8 (24) |
288.9 (5) | 平均トータルディフェンス | 295.4 (6) |
187.9 (21) | 平均パスディフェンス | 167.4 (4) |
101.0 (8) | 平均ランディフェンス | 127.9 (32) |
今季初めてCFP出場を果たしたペンステートはファーストラウンドからの登場となりましたが、他のチームと比べると若干楽なブラケットに組み込まれたと言われています。初戦のサザンメソディスト大戦では38対10と快勝し、準々決勝戦ではボイジー州立大に31対14で勝利してこの舞台に辿り着きました。
ペンステートのディフェンスはプレーオフ戦ですでに6つのパスINTを記録しており、そのうちSMU戦での2つのINTをTDに結びつける、いわゆる「ピックシックス」を成し遂げました。またフィエスタボウルではボイジー州立大のエースRBアシュトン・ジーンティ(Ashton Jeanty)を1キャリー平均3.5ヤード(シーズン中は7ヤード)に抑えてほぼ無力化することに成功。このチームはディフェンス力の上に成り立っていると言っても過言ではありません。
気になるのは彼らのスターDEアブドゥル・カーター(Abdul Carter)の怪我の具合です。彼はボイジー州立大戦で早々に負傷退場。腕の怪我のようですが、ジェームス・フランクリン(James Franklin)監督は試合直前にならないとカーターがプレーできるかどうかはわからないと話しています。
ボイジー州立大RBジーンティを封じ込めたペンステートディフェンス
ペンステートのQBドリュー・アラー(Drew Allar)はここまで周囲をざわつかせるほどのパフォーマンスを見せてきてはいませんが、直近2試合での彼のスタッツは55%のパス成功率で298ヤードに3TD(TDは全てボイジー州立大戦)と、チームの勝利に貢献するのには十分なプレーを見せ続けています。
ペンステートのオフェンスの肝はランアタック。それを担うのがRBニック・シングルトン(Nick Singleton)とケイトロン・アレン(Kaytron Allen)です。Big Tenカンファレンス優勝決定戦だったオレゴン大戦以来目に見えてランが出ているのはこの二人と強力なOL陣のランブロックのおかげです。また年間最優秀TE賞「マッキー賞」をペンステート出身選手として初めて受賞したタイラー・ワレン(Tyler Warren)はここまで10回のキャッチで99ヤード、特にボイジー州立大戦では2つのTDキャッチを記録しています。
ペンステートTEワレン
ノートルダム大はファーストラウンドをホームで開催。ここで同じインディアナ州にキャンパスを置くインディアナ大と対戦して27対17で勝利。続くシュガーボウルでは強敵ジョージア大と対戦しますが、ディフェンス陣が大奮闘しジョージア大のランオフェンスを完封。相手を何度も4thダウンに追い込み、また相手オフェンスからターンオーバーを好機に引き出すなど、このチームもペンステートと同じく全米トップクラスのディフェンスを擁しています。
ただ大打撃だったのはファーストラウンドのインディアナ大戦でチームのサックリーダーだったライリー・ミルズ(Rylie Mills)が怪我で戦線離脱してしまったことです。
オフェンス面では相変わらずパスでの脅威はないものの攻撃陣を効率よく回すライリー・レナード(Riley Leonard)が先発QBを担います。ジョージア大戦ではパスで88ヤードしか投げなかったものの、ランで65ヤードを稼ぎ重要な場面で1stダウンを獲得するなど強力なジョージア大ディフェンスに対して勝利するのに十分なプレーを見せ続けていました。
ノートルダム大QBレナード
このスタイルのオフェンスが機能しているのも強力なランオフェンスがあるからこそ。それを担うのがRBジェレマイア・ラヴ(Jeremiyah Love)です。シュガーボウルでは怪我の影響でフル参加できなかったようですが、シーズン中は1076ヤードに16TDを足で稼いできた逸材。当然ペンステートディフェンス相手に彼の存在は不可欠です。
さらにノートルダム大のキッキングゲームは今季のFBS(フットボールボウルサブディビジョン)内では下から数えた方が早いほど苦戦しています。FG成功率が55%にも満たない(全米131位)ということで僅差のスコアになった場合には不安材料になりかねません。
注目の選手たち:ペンステート
タイラー・ワレン(TE)
ここ最近ペンステートは優秀なTEをNFLに送り込んでいますが、このワレンも先人たちに続くプロ級のTEで次期NFLでは1巡目クラスなんて言われています。今季のベストTE賞であるマッキー賞も獲得していますが、それはTEながらチームハイとなる1158ヤード(8TD)という数字にも裏打ちされています。
その汎用性から様々なシーンで重用されてきたワレン。ペンステートのパスオフェンスで重要な選手となりますから、当然ノートルダム大ディフェンスとしてはいかに彼を攻略できるかが鍵となってきますが、なんでもできてしまうワレンはこのオレンジボウルでも観客を魅力してくれることでしょう。
デナイ・デニス・サットン(DE)
ペンステートのエッジ、アブドゥル・カーターはこの試合に出場する全選手の中で最も注目される選手です。次期NFLでは上位10人目以内に指名を受けることが予想されている彼は今季ここまdで11個のサックにファンブルフォースを2つ奪っています。一人で試合の流れを変えてしまうディフェンダーというのはそう多くいませんが、カーターはそれが出来てしまう稀有な選手です。
ただ前述の通り彼はフィエスタボウルで負傷退場しており、ノートルダム大戦でどの程度の回復を果たせるかまだ分かっていません。そこで注目なのがDEデナイ・デニス・サットン(Dani Dennis-Sutton)です。ボイジー州立大戦では6つのタックル(ソロ3つ)に1サックとスクリメジラインで存在感を発揮。アンスポの反則を2つほど喰らっていましたが、彼のラッシュ力は脅威です。
ケイトロン・アレン&ニック・シングルトン(RB)
TEワレンの秀逸さは既述の通りですが、一方で彼以外でパスのターゲットとなり得るインパクト選手がいないのはペンステートにとって不安材料であることは事実。しかしそれでも今季ここまでチームが勝ち進めたのはアレンとシングルトンの存在があったからこそ。
全米でも屈指のタンデムを組むこの二人がペンステートオフェンスの要。彼らのランが効果的に決まればボディブローのようにじわじわとノートルダム大ディフェンスを消耗させるだけでなく、彼らのオフェンスをベンチに止まらせ続けることもできます。特にノートルダム大のパスディフェンスは全米4位の力を持っていますから、ランで効果的にアタックしていきたいところ。
注目の選手たち:ノートルダム大
ゼヴィアー・ワッツ(S)
今季ノートルダム大で総合的にナンバーワン守備選手といえばCBベン・モリソン(Ben Morrision)でしたが、彼は10月の時点でシーズンエンドの怪我を負ってしまい戦線を離脱してしまいました。そのモリソンがいなくなった後のノートルダム大のバックフィールドを束ねてきたのがSゼヴィアー・ワッツ(Xavier Watts)。彼は今季ここまで42タックル(ソロ)、8パスブロッック、6パスINTを記録してきた逸材。
ワッツのタスクはペンステートのTEワレンをいかに前に置くことができるか、そしてビッグプレーを阻止することができるかに掛かっています。さらに彼がターンオーバーを引き出すことができれば流れはノートルダム大に傾く、なんてこともあるかもしれません。過去2年間で13個のパスINTを記録したワッツならそれが大いに期待できます。
ライリー・レナード(QB)
デューク大から転校してきたレナードはQBに確固たる選手がいなかったノートルダム大ですぐさま主戦力としてオフェンスを率いてきました。前述の通りパスをバンバン通すようなQBではなく、今季のパスヤードは831ヤードにとどまっていることからもそれは明らかです。ただパスTDは15個記録しており、決してパスが全くダメというわけでもありません。NFLで活躍できるかと言われれば疑問ですが、ノートルダム大をここまで導いたことからもカレッジ界では能力を如何なく発揮できる選手です。
彼の特徴はやはり機動力であり、チーム自体がラン重視のオフェンスに傾倒していることからも現在のロースターにハマっているスタイルということが言えそうです。ただ、ペンステートとの試合で相手にリードを奪われるような状態になれば、自ずとパスプレーに頼らざるを得なくなります。その時レナードがペンステートディフェンス相手にどれだけパスを決めることできるか・・・スキームとともに注目が集まります。
ジェレマイア・ラヴ(RB)
今季のノートルダム大の地上戦で力を発揮してきたジェレマイア・ラヴはファーストラウンドのインディアナ大戦で見せた98ヤードのロングTDランが記憶に新しい選手です。
JERMIYAH LOVE 98 YARD TOUCHDOWN RUN. BOOM.
— College Football Alerts (@CFBAlerts_) December 21, 2024
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1000ヤード級ラッシャーのラヴは今季シュガーボウルまでの直近4試合連続で99ヤード以上のランを獲得しましたが、前試合のジョージア大戦では19ヤードにとどまりました。これは彼の膝の怪我の影響が大きかったようですが、ペンステート戦で彼のランが出なければレナード頼りの一辺倒なオフェンスになりかねず、それはペンステートのような強力ディフェンス相手には危険な展開となります。ラヴの怪我の具合、そして出場した場合にどれだけ足でヤードを伸ばせるかに注目です。
展望
ペンステートはファーストラウンドと準々決勝戦合わせて69対24と相手をアウトスコアしてきましたが、にもかかわらずこのチームが残りの2試合を全て勝ち抜くことができるのか分からないという未知数を抱えているようです。それはやはりその2試合が割と楽な対戦相手だったからと言えると思いますし、傾向からするとフランクリン監督体制でのペンステートは勝つべき試合には勝てるものの、手強い相手にしてやられてきたという歴史があるからです。
ただBig Ten優勝決定戦でのオレゴン大との対戦では、負けてしまったものの大舞台で力を出せないというこれまでのペンステートとは違った戦いっぷりを見せてくれました。確かにパスオフェンスはそこまでダイナミックではなかったものの、ラインプレーで引けを取らず、ランアタックでオレゴン大が200ヤード以上を奪ったのは圧巻。それ以来彼らは何かを悟ったかのように硬さが抜けたプレーを披露し続けています。
絶対に負けられない試合というシーズンが掛かった場面で勝てるかどうか・・・。フランクリン監督に貼られたビッグゲームで勝てないというレッテルを剥がすためにもこの試合には是非とも勝ちたいところ。ノートルダム大に勝ってそのスティグマを拭い去ることができればその勢いで全米制覇するのも夢ではないかもしれません。
あと注目すべきはペンステートはここまですでに15試合を消化しているということ。これはチーム史上最多の試合数であり、当然全米制覇するにはこのオレンジボウルを含めてあと2試合も残されています。試合数が増えれば怪我人の数も増える可能性が高く、実際に前述の通りDEカーターの出場見込みはまだ分かっていませんので、その点で言うとロースターの層の厚さが試されることにもなります。
そう言った面ではノートルダム大はさらに深刻です。カンファレンスには属さない独立校なため試合数は14試合と1つペンステートよりも少ないですが、怪我人の数は多く、しかも前戦のシュガーボウルがテロ事件のために1日分延期になったため、中日(なかび)が1日減ってしまいました。さらに言えばペンステートは12月31日に準々決勝戦があったため、ノートルダム大は彼らよりも2日も休養日数が少ないのです。
そのノートルダム大の怪我人を見ると先にあげたDEミルズはすでに戦線離脱済みですし、RBラヴの膝の怪我もおそらく100%回復しているとは考えづらいです。RTロコ・スピンドラー(Rocco Spindler)も足首に怪我を負っていますし、怪我から復帰してきたDTハワード・クロス(Howard Cross)はジョージア大戦でその怪我(足首)を悪化させているようでした。
ただそんな満身創痍なノートルダム大でしたが、それでもあのジョージア大にフィジカル面で引けを取らなかったのは凄かったです。それはディフェンス畑を歩んできたフリーマン監督の意思を注入されたアグレッシブなディフェンススタイルやフェイクプレーを起用する大胆なコーリングも手伝っていたに違いありません。
カレッジフットボール界でも随一の名門校同士の対戦となったこのオレンジボウルは、両チームとも全米王座から40年近く離れていることからも、それぞれがかつての栄光を再び手に入れるために避けては通れない舞台です。これまでプレーオフに参加できるチームが4チームしかありませんでしたが、12チームに枠が増加したことで特にペンステートにとってはその恩恵を直に受けた形になっています。
ペンステートのフランクリン監督にしてもノートルダム大のマーカス・フリーマン(Marcus Freeman)監督にしても、長きにわたり全米の頂から遠ざかっているチームに再びそのスポットライトを向けさせなければならないという責務を負っているコーチたちです。またどちらも黒人監督であり、長いFBSの歴史においていまだに黒人監督が全米制覇を成し遂げていないという歴史的観点から見ても興味深いマッチアップです。