1月の話になりますが、5つ星リクルートのQBジェイデン・ラシャーダ(Jaden Rashada)君は以前からマイアミ大へ進学すると口約束していたものの、12月のアーリーサイニングピリオドで進学先を公にする際にマイアミ大ではなくフロリダ大にすることを決定しました。
マイアミ大からフロリダ大に心変わりした理由・・・。それはNIL(Name/Image/Likeness)を経由した巨額のディールが絡んでいたのです。
NILとは2021年から許可された大学生アスリートによるお金稼ぎのこと。
これまでNCAA(全米大学体育協会)は大学生アスリートのアマチュアリズムを守るために、いかなるお金儲けや利益を得ることを禁止していました。
しかし彼らも時代の波には逆らえず、ついに肖像権など(=NIL)を元手にお金稼ぎをしてもいいという動きに方向転換。以来選手たちはCMに出演したり、サイン会を開いたりしてお金を稼げるようになったのです。
(プレーする対価としてお金を受け取ることは許されない)
ただ、このNIL制度を悪用する輩も予想通りに登場。巨額のNILマネーをちらつかせて意中のリクルートを青田買いしようとする各大学のブースター(後援者)が暗躍し、結果有能リクルートならびに転校生(トランスファー選手)を実質お金で買うという事態が発生したのです。
そしてこのラシャーダ君がフロリダ大と関係のあるコレクティブ(ブローカーのようなもの)に提示されたNILマネーの総額がなんと1300万ドル(1ドル百円計算なら13億円、現在のレートである1ドル130円なら約16億9000万円)!!!
一体何をどうすればこんなお金を稼ぐのに見合う仕事をすることができるのか理解にくりしみますし、いかに有望株とはいえ一介の高校生にこれほどまでの巨額のお金を用意するというのもすごいことなのですが・・・。
仕事の内容などは後付けで何とでもできるのです。というのもNILのルールをしっかりとNCAAが定めないでこの新制度を解禁してしまったからです。
しかしこのフロリダ大に通じるコレクティブが1300万ドルのNILディールをラシャーダ君に用意できなってしまい事態が一変。
高校生は進学先を公にする時、NLI(National Letter of Intent)という公書にサインをして、その大学に進学することを決定し、それにより大学からスポーツ奨学金(スカラシップ)を受け取ることができるようになります。
しかしNLIは一度サインすると契約とみなされそう簡単にそれを無かったことにはできません。ラシャーダ君の場合も同じで、サインをしてしまったためにフロリダ大に進学を無しとすることはそう簡単にはできないわけです。
ラシャーダ君はこの巨額のディールが受け取れなくなったことを知るとフロリダ大入学を無かったことにするように働きかけます。ラシャーダ君側にすればようするに「話が違うじゃないか」というわけです。彼らにしてみれば、フロリダ大に入部を決めたのはこの巨額のNILディールがあったこそだったわけで、それがなくなった今フロリダ大にいる価値はなくなったということです。
ラシャーダ君サイドはフロリダ大側に事態の修復を要求するも結局これがうまくいきません。何しろ大学はNILの仲介をすることを許されておらず、表向きはこのディールの提携も大学とは無関係でコレクティブが勝手にやったこと、ということだったからです。
ただ事態の鎮火を図るため、結局フロリダ大側はラシャーダ君の入学の契約を無条件で無効化することに同意。ラシャーダ君は結局アリゾナ州立大へと進学先を変更しました。
今回の騒動はまさにNILが生み出したカレッジフットボール界の新たな闇だと言えるでしょう。
前述の通り、フロリダ大は直接NILに関連できないはずで、NCAAもNILをリクルートの材料に使ってはいけないと言ってはいるのですが、実際のところこれは法律ではないため強制化できなのです。
なぜ強制化できないかと言うと、強制化すると逆にコレクティブ側に訴えられるのではないかと恐れているためだと言われています。
ここ最近学生アスリートの権利を巡る訴訟においてNCAAは敗訴し続けています。負ければ賠償金を支払わなければならず、そのため彼らは訴訟を起こされること自体を恐れているわけです。
こんなことになってしまったのも、元を正せばNCAAがちゃんとNIL周辺を整備しないでOKしてしまったことから始まっています。
学生の権利の向上を訴える声は年々高まっていましたが、それを封じ込めてきたNCAA。しかし未来を先読みできずに怠け続けていたNCAAがNILの取り扱いを見誤ったのは明らか。学生がNILを元手に利益を得ることができたのはある意味素晴らしいことですが、それに関してルールを設定せずに連邦政府やカンファレンス、大学自体に丸投げしてしまったせいでこのようなカオスが現在起きているわけです。