元サザンカリフォルニア大のQBで、プロ入り後はニューヨークジェッツ、フィラデルフィアイーグルスなどでプレーしたマーク・サンチェス(Mark Sanchez)氏が10年間のプロ生活にこの度終止符を打つことになり、引退後初の仕事としてカレッジフットボール界に帰ってくることが分かりました。
2005年度から2008年度までUSCでプレーしたサンチェス氏は、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった同チームを率いていたピート・キャロル(Pete Carroll、現シアトルシーホークス)監督の下スタープレーヤーとして活躍。カーソン・パルマー(Carson Palmer)氏、マット・ライナート(Matt Leinart)氏ら名QBの後継者として名を馳せ、2009年のローズボウルではペンシルバニア州立大を倒してMVPにも輝きました(筆者はこの試合を現地観戦しました)。
2009年のローズボウルでMVPを獲得したサンチェス氏
その後彼は卒業を待たずしてNFL早期ドラフト入りを宣言しますが、当時キャロル監督は「彼はまだ早すぎる。もう1年大学に残ったほうが良かった」と話していました。しかし2009年度のルーキーシーズン、ドラフト総合5位で彼を指名したニューヨークジェッツはサンチェス氏を先発QBに指名。華々しくプロの道を歩み始めました。
ルーキーながら2009年と2010年にチームをプレーオフ出場に導いたサンチェス氏は低迷していたジェッツにとっては朗報であり、自身のジェッツでの最高のシーズンとなった2011年度シーズンと合わせれば、プロ選手としては決して悪い出だしではありませんでした。しかし一方でパスの精度はイマイチで、パスINTの数も多かったりしたため、冴えるQBという印象は個人的にはありませんでした。
そして2012年11月22日、アメリカではサンクスギビング(感謝祭)の祝日に行われたニューイングランドペイトリオッツとの試合に、サンチェス氏に未来永劫つきまとうこととなる「バットファンブル」を披露してしまいます。
この試合の第2Q、RBにボールをハンドオフしそこねたサンチェス氏はスクランブルして前進を試みますが、チームメートだったOLブランドン・モアー(Brandon Moore、元イリノイ大)のお尻に顔から突っ込んでしまい、倒れ際にボールをファンブル。それを敵選手に奪われてリターンTDを許すという失態を犯してしまったのです。
実際この第2Qにはたった53秒の間にこのファンブルを含めて3つのファンブルをジェッツは犯し(しかも全て相手にTDを許す)、そのせいもあり試合は49対19という大敗を喫するのですが、満員のホームスタジアムでしかもプライムタイムで全米にTV放映されていた試合でこのような可笑しなプレーをしてしまったサンチェス氏は、最初の3シーズンの活躍よりもこの「バットファンブル」を犯した張本人としてジェッツファンの記憶に刻まれることになってしまったのです。
のちに移籍先であるフィラデルフィアイーグルスで怪我を負ったニック・フォールス(Nick Foles、元アリゾナ大)の代わりに出場して数試合の白星を飾るなどしましたが、正QBの座を射止めるまでにはいかず、結局引退するまでバックアップQBとして起用されるに留まっていました。
彼のプロ生活は成功だったのか、失敗だったのか・・・。プロ入り当時「まだ早い」と言っていたキャロル監督の言葉が思い出されます。
そんなサンチェス氏ですが、プロの世界から足を洗うことを決めるとすぐに第2の人生を歩み出します。アメリカ三大TV局の一つであるABC、並びに彼らの参加でもあるESPNのカレッジフットボール番組の解説者及びパネリストとしてメディアの世界へ足を踏み入れることになったそうです。
ちなみに前述のライナート氏、及びレジー・ブッシュ(Reggie Bush)氏という、サンチェス氏と同じサザンカリフォルニア大OBの二人はFOXスポーツのカレッジフットボール番組を今年からホストすることになりました。この番組には元オハイオ州立大監督のアーバン・マイヤー(Urban Meyer)氏も参戦することになっていますが、かつてのUSCのスター選手たちがこぞってカレッジフットボール番組に出演することになるとは、これも時代ということなのでしょうか。