昨年の今頃になりますが、NCAA3部の強豪・セントトーマス大があまりに強すぎて所属するMIAC(Minnesota Intercollegiate Athletic Conference)内のパワーバランスが崩壊し続けるため、なんとカンファレンスが彼らを追い出すという「事件」が起きました。
強すぎて痛い目を見るという珍しいケースですが、その後このセントトーマス大がNCAA3部から2部をすっとばして1部に昇格するという前代未聞の計画があることが明らかにになりました。
とはいえ、通常NCAAは今回のような「飛び級」を容認してきませんでしたし、3部から2部を経由して1部に上がるにもルール上最低12年かかるとされていました。
しかしミネソタ州で最大の私立大学であるセントトーマス大はMIACで過去9年間のうち6度のカンファレンスを手に入れてきたという実績があり、彼らとしては力試しとして、そしてより収入が見込める1部昇格はだめもとでも挑戦する価値はあったのです。
そこで大学はNCAAに3部から1部への昇格を可能とする特例を認めてもらうように働きかけていました。本当ならばその決断が今年の4月に下りる予定でしたが、御存知の通り世界中に広まったコロナウイルスのパンデミックのせいで決断が6月に先送りになっていました。
6月が過ぎてもNCAAからの返答はありませんでしたが、7月に入りついにNCAAからの回答が。それはセントトーマス大の1部昇格を容認するという歴史的な決断だったのです。
セントトーマス大にとってMIAC参戦は今年が最後となっており、1部(FCS)への格上げは2021年度シーズンからとなりますが、フットボール部はパイオニアフットボールリーグに編入、そしてその他のスポーツはサミットリーグに編入されることになります。なぜフットボール部だけ違うリーグなのかというと、サッミットリーグにフットボール部を持つ大学が存在しないからです。
1部と3部ではスタジアムの観客動員数の数や細かな部分での決まりごとが異なっており、セントトーマス大は今後5年間かけてそれらの必須項目をクリアしていく予定。上手く行けば2026年度シーズンには晴れて完全なるFCSチームに姿を変えているはずです。
彼らが1部に昇格する上で一番のネックになったと思われるのは金銭面での負担です。これまで主にミネソタ州を中心に試合をこなしてきたセントトーマス大は今後はパイオニアリーグに所属する数々のチームと対戦することになりますが、遠いところではカリフォルニア州サンディエゴ市(サンディエゴ大)まで遠征することになり、これらの移動費などをコンスタントに捻出できるのかが鍵でした。
大学および体育局長はこれらを後援者からの寄付金や大学内の基金などで補うことでハードルをクリア。ここまでして1部に上がろうとするのも、今支出があっても後のキックバックに期待が出来るからです。例えばこのサイトでもよくお話する「カップケーキ」チームとしてFBSチームと対戦することになればまとまった大金ががっつり手に入りますし、TV放映権からの収入も生まれるからです。
フットボール部の編入先にはパイオニアリーグの他にミズーリバレーフットボールカンファレンスも挙げられていましたが、このカンファレンスに所属するチームは皆スポーツ奨学金(スカラシップ)を授与しているチームであり、これまでスカラシップを扱ってこなかったセントトーマス大にすればそのようなチームと対戦するには彼らもスカラシップ大学にならなければ太刀打ちできません。それには莫大な費用が必要になります。
2018年度のセントトーマス大体育局の運営資金総額は540万ドル(1ドル100円計算で約5億4000万円)でしたが、フットボール部以外が参戦するサミットリーグに現在所属する大学の平均運営資金が2000万ドル(約20億円)であることを考えると、セントトーマス大の台所事情はかなりキツキツであることは明らかですから、なおさらスカラシップ大学になどなれるはずもないのです。
一方パイオニアリーグはスカラシップカンファレンスではなかったため、セントトーマス大としては利害が一致したという側面がありました。それが彼らがこのカンファレンスへ参入することの大きな理由だったことでしょう。
彼らの昇格は2021年度からですが、ミネソタ州出身の小さな強豪校が上位レベルでどれだけやれるのか今から楽しみです。
ちなみにMIACはコロナのパンデミックを受けて2020年度のスケジュールをカンファレンス戦のみに絞ることを決定。これはBig TenカンファレンスやPac-12カンファレンスの決断と同じものです。しかしながらFCSのアイビーリーグやペイトリオットリーグのようにシーズン全体を中止とする結果になっても不思議ではありません。